彼女は夜一人で眠れなくなると、僕の部屋にやってくる。

 そして、またごめんね。お願いします。と、実に照れくさそうに切実そうにお願いをして、僕のベッドの中にもぐり込んでくるのだ。もちろん僕はベッドの中にいる。これは他でもない僕のベッドなので。

 言っとくが彼女と僕は、みんなが想像するようなことは何もしない。彼女の言葉を借りれば、彼女はここに『鑑賞』しに来ているのだ。

 大の字に寝そべっている僕の体に、彼女はしっかりとしがみつく。

 彼女の頬の濡れた冷たい感触や火照った体に僕は一瞬慌ててしまうが、それからつい笑ってしまう。
彼女はまるで子供みたいだ。そう僕が呟くと彼女は尽かさず、まるでパパみたいと、からかってくる。どっちもどっちだ。

 彼女は僕の胸に自分の顔を埋め、耳を澄ました。『鑑賞』がはじまる。それは僕の確かな胸の鼓動を訊くことだ。彼女は一つ大きく息をついてから、ゆっくり僕のそれと自分の呼吸を合わせていく。

 彼女の心に重くのしかかっていたものが、徐々にうすれていくのがわかる。彼女につきまとう大きくて黒い厄介なもの…。

――神様って、いつもこうやって眠ると思う。

彼女は、いつもある不思議な話を僕に訊かせてくれた。

――神様はみんなの幸せを本当はうまく創りたくてたまらないのに、上手にできなくてね、悩んでぐったりしていると思うの。でも、休もうにも、一人じゃうまく眠れなくて…。だから、私たちの魂を招いてしまうんだわ。だって私は、この世で他にこんなに心が休まるものを知らないから。『鑑賞』することで、やっと神様は眠りにつくことができるのです。めでたし。めでたし。

 僕はいつも返事の変わりに、彼女の頭を撫でてやる。

 考えてみれば、どこが『めでたし。めでたし』なんだ?と思わなくもない。でも、僕は別に嫌いじゃなかった。彼女が語るせいか、その話はどこか心温まるものだったから。それに僕らが奴にしてやっている設定もそんなに悪くない。

 やがて、この不思議な話は、彼女の穏やかな寝息とともに、静かに幕を閉じる。
そして、僕は彼女を起こさないように、うまく体を動かして、彼女の顔を覗き見るのだ。彼女が知らない話の続きを僕は知っていた。

 そこには彼女自身が語っていた微笑ましい神様の寝顔がある。


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コメント

やや。これはなんとも不思議なねんねのお話ですね。

最初、彼女は猫? と思い、爬虫類? とも思い、自分の想像力の貧しさにがっかりしてから、天使? てか、女神? となりました。

心臓の音は、生きている音。
強くて、優しくて、安心する。
めでたし、めでたし^^
けい│URL│08/03 22:25│編集
Re: タイトルなし
>けいさん

いつも本当にありがとございます。

たくさん想像して下さってありがとうございます。
なるほど!そういう方が面白かったのかも!と思いました。
けいさんの方が、断然想像力がありますよー><
私、そこまで全然考えてなかったような…(苦笑)
rurubu1001│URL│08/04 11:45│編集
はじめまして
いくつか読ませていただきましたが、どれも、とても想像力を掻き立てる、美しいショートショートですね。
私はSSを書く事ができないので、この短い文字数で物語を完結出来てしまう才能を羨ましく思います。
SSって、どこから読んでもいいという、安心感がありますよね。
この第9夜、優しさと可愛らしさと、ちょっぴりの謎が、いい感じです。
私は単純思考なので、難しい哲学的意味合いが織り込まれていたりするものは、正確に読み取ることができないのですが、この物語は「感じれば」いいのかな?と、そう思いました。
また、お邪魔しますね。
lime│URL│08/04 12:39│編集
Re: はじめまして
>limeさん

はじめまして。コメントありがとうございます!
(私もlimeさんのブログお邪魔させてもらっています^^)

そんな才能なんて全然です><
あまり深く考えずに書いているので、感じてもらえるだけで充分すぎます。
拙いものですが、良ければいつでもいい時にいらして下さいね。
rurubu1001│URL│08/04 18:58│編集

私だったら緊張して、胸の高鳴りを彼女に悟られてしまって、恥ずかしいことになりそうです。笑。
子供のような、まさに神様というより天使のようにカワイらしい女性ですね。

掌編は長編より難しいです。
短い文章の中で、それこそ感じてもらったり、伝えたりしないといけないですから。
私もついつい長くしてしまいがちなので、短編はまだしも掌編は苦手です。

これだけの数を書き続けているrurubu1001さんはスゴイですよ。
ヒロハル│URL│01/21 12:13│編集
ヒロハルさんへ
コメントありがとうございます!

> 私だったら緊張して、胸の高鳴りを彼女に悟られてしまって、恥ずかしいことになりそうです。笑。

(笑)。ですよね。そうだ、考えて見たら、ドキドキしますよね^^

> 掌編は長編より難しいです。短い文章の中で、それこそ感じてもらったり、伝えたりしないといけないですから。私もついつい長くしてしまいがちなので、短編はまだしも掌編は苦手です。これだけの数を書き続けているrurubu1001さんはスゴイですよ。

そんなそんな!ヒロハルさんにそのような言葉を頂けて、ただただ恐縮&光栄です><私も本当は長編書きで、この短編&ショートショートブログは挑戦的なものなのですが、やってみて良かったなと思いました。ありがとうございます!^^
rurubu1001│URL│01/21 23:10│編集
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