いつのまにか夜中の十二時になっていた。

深夜零時。明日が今日になる瞬間。外でしとしと降り続けていた雨も昨日のものから今日のものへと様変わり。きっと私たちの目には見えない微妙な変化があって、雨に付きまとう匂いや気配も、そっと別の姿に変わってるんだろう…。

窓に近づいて、雨とついでに隣家の様子もうかがった。馴染み深い二階の部屋の明かりはまだ灯っている。

 …あいつ、まだ眠れないのかな?

 こんな風に夜中にあいつの部屋を気にするようになって、どれぐらいが経つんだろう。特にこの梅雨時期が一番ひどい。部屋の明かりが消えることの方が少ないと思う。ずーっと見ているわけではないから、はっきりとは言えないけど、たぶんそうだ。一体何をしてるんだろう?

 私はまた、ため息をついた。

私のため息もひどくなる、多くなる一方だ。しかも雨ってどうしてこんなにため息と似合っちゃうのかな?憂鬱とかもそう。気だるい感じ。じめじめした空気がまとわりつく感じ。これじゃ、あいつも簡単に陰鬱なものにのまれてしまう。

 私は考えを振り払うように軽く頭を振って、意識をキッチンのオーブンに戻した。うっとりするような甘い匂いに包まれ、心と体がふと楽になる。ほぐれていく。つい顔がほころんでしまった。今はため息つくようなことを考える時間ではなかったはずだ。オーブンの中には、今日の主役である、あいつにプレゼントするための、とっておきのお菓子があるんだから。

「チョコが一番好きな食べ物なんて。お子様よね、サトシも」

 お父さんもお母さんも寝室でぐっすりと眠っているから、誰もいないことをいいことに、一人呟いた。サトシ本人が聞いたら、機嫌をそこねるセリフだろう。オーブンの中には、こっそり自分で考えたレシピのケーキが焼かれていた。スポンジがふっくらと型の中から顔を出している。そろそろ焼きあがりそうだ。

 時間になって、中から取り出し、スポンジの中央を軽く押してみた。弾力がある。一応、竹串でさして焼けているかを確認。…よし、大丈夫そうだ。ケーキクーラーにのせて冷まさないと。ここまでは順調、順調。後はスポンジを3段に切って、ラム酒をきかせたチョコレートクリームをハケでそれぞれ塗って重ねればいい。そして、表面の飾り付けをして完成だ。

 お菓子作りをしていると、なぜか小さい頃に覚えたマザーグースのうたを思い出す。

――女の子は砂糖とスパイスで、できているの――

 なんだか身をもって証明しているような気がする。全然そんな意味のうたじゃなかったと思うんだけど…。ただ、なんとなく、そんな感じ。しかも大事なのは、男の子に作っている。そこが肝心!

 幼馴染のサトシとは家族ぐるみの付き合いで仲が良い。気づけば、私たちは誕生日が来るとお互いプレゼントを用意するようになっていた。ちなみに去年、私が彼からもらったプレゼントは、かわいい空色の傘だった。

『似合うよな、トウコは』

軽く眉を下げ、優しい瞳をして笑う男の子。

『その空色の傘、買って正解。雨が降ってても、トウコだけはいつも晴れてる感じがするもんな。お似合いだよ』
『何それ、ノーテンキってこと?』
『ちげーよ。ほめてんの』

あの時、言ってくれた言葉。憎まれ口をたたきながらも、私はちょっと嬉しかった。うっかり指についてしまったチョコレートクリームをペロっと舐める。サトシは覚えているだろうか?

「…いや、きっと忘れてるな。そういうやつだもの」

 甘いはずのチョコレートクリームの味があっさり変わってしまった。些細なできごとを大好きな物語のように、繰り返し、繰り返し夢を見る。それは女の子の苦い特権のような気がした。

「…う~ん、なんか悔しい。クリームに、からしでも混ぜとこうかなあ?」

夜中のラブレターは危険って聞いたことがあるけど、夜中のお菓子作りもある意味、負けてないかもしれない。

――女の子は砂糖とスパイスで、できているの――

………からし、いっとくべき?


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※ トウコが主人公である『空色の傘』シリーズは、元々こちらのスピンオフでした。

サトシが主人公である『雨と誕生日(バースデイ)』シリーズ
(私が中学生の時に初めて書いた長編小説で、それを短編用に少し手直し&分割してUPしています)

気になる方は、カテゴリ『サトシ(雨と誕生日)』をどうぞ。
以下に、第1回のアドだけ貼っておきますね。参考までに。
第1回【第40夜】  雨と誕生日(バースデー) (雨と誕生日1)
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-42.html

※ 他のスピンオフもお楽しみください。
(物語の時系列的に、マコト→トウコ→サトシの順ですが、順番通りでなくても特に問題ないかと)
友人のマコトが主人公の『虹の消えた後』シリーズ
http://short2story.blog.fc2.com/blog-category-19.html


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コメント

からしではなく、ラム酒を増量で。って、ちがーう。すみません。

今日が昨日、明日が今日・・・
あ、もう今日だけどさ、っていう時間帯、好きですねぇ。

良いなあ、プレゼント交換。お前ら、付き合っちゃえよっ。
幼馴染の距離感って、微妙なんですよね。
けい│URL│07/29 20:14│編集
Re: タイトルなし
>けいさん

いつもありがとうございます!

>お前ら、付き合っちゃえよっ。

に、笑っちゃいました、確かに。
私、たぶん好きなんですよね。こういう微妙な距離感。何かよく出てくるっぽいので。
rurubu1001│URL│07/29 21:06│編集

いいですよねえ。こういう窓to窓な関係。
後、幼馴染って響きも好きです。
これはもう願望ですね。

実際に幼馴染がくっつく確率ってどのくらいあるんでしょうね。

今度生まれ変わったら、カワイイ幼馴染に恵まれたいです。
ヒロハル│URL│01/10 23:10│編集
ヒロハルさんへ
コメントありがとうございます!

いいですよね。幼馴染って。私も憧れがあります。だから、生まれた物語だったのかな。

> 実際に幼馴染がくっつく確率ってどのくらいあるんでしょうね。今度生まれ変わったら、カワイイ幼馴染に恵まれたいです。

確かに!実際のところ、その確率ってどうなんでしょうか。私もぜひ知りたいです!私のまわりにはいない感じなので、憧れがよりましているのかもしれません^^
rurubu1001│URL│01/11 03:56│編集
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