【目次】 真夜中の逃避行(淑玲『宮廷浪漫』シリーズ特別番外編①/中華風ファンタジー) 【作品紹介】 
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     逃げてばっかの次男曰く① (真夜中の逃避行2)
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あの頃の私は今思うと、毎日ふてくれされていたのでしょう。

家でも外でも問題が山積みでしたから。それが嫌で私は部屋にこもり、本ばかり読んでいました。本は現実逃避の道具とはよく言ったもので、それを読むことで、なんとか自分を保っていたのだと思います。

― お前、変なやつだな ―

ようやく影達がいなくなり、「これでゆっくり本が読めるな」と喜んでいると、今度は私の兄が部屋にやって来ました。「勘弁してくれよ」とはこのことでした。

「なあなあ、梅恭。金、貸してくれよ~?」

私は「またか…」と、ため息をつきました。我が家は花街で金貸し業を営んでいます。兄の竹恭(ちっきょう)はこの家の長男、跡取り息子です。

「もう兄様に貸せる金なんてありませんよ」

…ですが、竹恭はうちの大事な金を裏で自分のモノのように使い放題、実に跡取りにふさわしくない行動ばかりしていました。

「あなたは我が家を潰す気ですか?兄様がこの家を継ぐ頃には借金しかありませんよ。金貸し業が金貸し業から金を借りるハメになっている…」

それを聞き、竹恭は笑いました。

「それいいな。金貸し業が金貸し業に潰される!うけるな、それ!面白いじゃないか。いいよいいよ~、俺はそれで。長男だからって、この家なんか継ぎたくねえもん。なあ、梅恭。お前は、一生花街で終わりたいの?この街で生きている限り、世間ってやつは俺らのことをゴミみたいに見下し続けるんだぜ?」

当時の花街は、とにかく治安が悪かった。

ガラの悪い奴やならず者、暗殺者の無法地帯に近かった。それでも花街の組合の長である影達(りゅうだ)の父親はよく頑張っていたと思います。けれど、まだまだ治安は悪かった。蹊国(けいこく)の首都・成安(せいあん)の影の部分を一手に引き受けていたからでしょう。平気で人身売買をしていたし、賭博や博打は日常茶飯事。依頼があれば、金のために簡単に人を殺した。そういうやつらであふれていました。

― お前は、一生花街で終わりたいの?この街で生きている限り、世間ってやつは俺らのことをゴミみたいに見下し続けるんだぜ? ―

私の兄・竹恭(ちっきょう)は決してバカではありませんでした。(ちなみに、私は影達のことも別にバカだとは思っていません。彼はバカではなく、おバカなのだとは思いますけど…。または阿呆といいますか)私の兄はむしろ聡かったのかもしれません。花街の現状や自分の生まれなども含め、絶望するくらいに考える頭があったのですから。

人間は生まれですべてが決まってしまう。そう、この世ではすでに決まっているのです。

王族に生まれたものは天下を握れるし、庶民は国を支えるため、必死で地に這いつくばるしかなかった。貴族はその間でおいしい蜜を吸うばかり…。でも、花街の住民である私たちは、どこにも組み込まれることはなかったのです。金を手にしても、どこにも組み込まれることはない。

この国は王族、貴族、庶民…という3つの階層に分かれていたわけではなかった。『花街』という見えない最下層を作り上げてしまっていたのです。

「金、貸してくんないならいいや」
「え?」
「梅恭、ちょっと付き合えよ」

兄の竹恭(ちっきょう)は、金を出し渋る私を見て、気が変わったようでした。

「は?行くってどこにですか?」
「そんなの、いいところに決まってんじゃん!」
「『いいところ』なんて…」

そんなの私たちにはこの世のどこにもないでしょう?

それは、兄もわかっていたはずでした。でも、彼はそう言っていないと、やってられなかった。自分を保つことができなかったのだと思います。私が本に逃げるのと同じように、彼は一時的な享楽にふけることでしか現実とうまく折り合いをつけられなかったのでしょう。

私がずっと金遣いの荒い彼をとめることができなかったのも、結局のところ、彼に自分をみていたからかもしれません。やり方は違えど、私たちは同じことをしていた。兄も私を見てそう感じていたのでしょう。だから、やたらと私にかまっていました。

「お前は内に楽しさを見出すんじゃなくて、俺みたいに、外に見出せよ!」

…外に見出す?

彼はニヤリと笑い、私の腕をつかんで、強引に外に連れ出しました。私は兄の腕を振り払えなかった。着いた先は当時、花街で一番大きくて有名な妓楼でした。

「…え?外に見出せってこれですか…」

私はほとほと呆れましたよ。少し期待してしまった自分にも、とてもがっかりしました。


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