中三の一学期の終業式を終え、通知表をもらって家に帰ると、兄が帰省していた。

「おかえりー、弟よ。今回も5段階評価オール4のつまらん通知表だったかい?」

兄のトウジはこの春に名の知れた東京の国立大に合格し、大学近くのアパートで一人暮らしを始めた。海だけしかないこの田舎町より、兄には断然東京の方があっているという気がする。生き方のペースがなじむのだろう。移り気で流行に敏感。口のうまさや弁のたつさまは人をひきつけた。

「兄ちゃん、ミゾグチさんから連絡があったよ。新作の目途はついたかって」

居間のソファーで寝転んでいた兄は、読んでいた新聞に目を戻した。

「弟よ、うまく言っといてくれたんだろう?」
「まあ、適当に…」

兄は新聞越しに、ちらっと僕を見てほくそ笑む。僕は肩を落とした。

「兄ちゃん、いい加減にさー」
「ん?」
「ミゾグチさん、かわいそうじゃん。永遠と待ってるんだよ?」
「何が?」
「何がって…誰かさんの新作だよ」
「誰かさんの新作…ね」

意味ありげに兄は笑うと、新聞を綴じ、すっと腰を上げた。冷蔵庫に向かい、何かを取り出す。

「まあ、食おうぜ」

帰省土産は東京の新宿にある某有名デパートで買ったフルーツゼリーらしい。

「腹が減っては、新作ができぬでござる」
「それを聞いたら武士が泣くわ!」

兄はにやりとした。

「泣いてるのは、ミゾグチさん。だろ?」

兄はずるい。昔からそうだ。何をするにも共犯めかして人を巻き込む。ついでだから、言ってやった。

「それと、ミカさんからも連絡があったよ」
「弟よ、君には一番人気のゼリーをあげよう」
「はいはい、どうも」

ミカさんは兄の高校時代の彼女だ。もしかしたらもう元彼女…かもしれないけど。

「まあ、立派に生きろとは言わないけどさ。せめて人にはもっと誠意をもって…」
「今の言い方、母さんにそっくり!」
「兄ちゃん!」
「こら、トウジ!」

大きな声が重なった。驚いて振り向くと、腰に手をあてた母親が居間の入り口に立っていた。

「あんた、帰ってきたんならまず挨拶でしょう?母さん、店にいるの知ってて、どうしてここで優雅にくつろいでんの?」
「お帰りなさいませ、お母様」
「何が、お帰りなさいませ、お母様よ!しかも言う挨拶が逆でしょう!本当にあんたはー」

母にガミガミ言われながらも、兄は楽しそうだった。母もたぶんそうなのだろう。数か月ぶりの変わらない家族のやりとり。うちはいつもそうだった。何かと派手な兄に僕と母は振り回される。感動の再会とはいえなくとも、これが我が家の団らん風景にはなるのだろうか。

「お母様、すみません。僕、お腹が減りました」

僕は二人に申し訳ないと思いつつ、小さく片手をあげ、自分の意見を述べた。生理現象には勝てないし、ゼリーだけじゃ身がもたん。

「あ、カレー作っといたわ。残ったら、小分けして冷凍保存しておいて。ヒロ、あんたも私を素通りしてるんじゃないわよ。きちんと通知表を見せなさいね!」
「…はい」
「それと、トウジ。ミゾグチさんから何度も連絡があったわよ。あんた、いい加減に腹を決めなさい。高校生の新人作家なんて華々しくデビューしといて、その後、何も書く気なしって何様よ!どっちつかずで迷惑をかけるのが一番よくないわ。いい?よく考えなさいよ!」

母は言うだけいうと、店に戻っていった。僕はちらりと兄を見た。

「だってさ」
「…って俺に言われてもなあ。薬局屋ってのも忙しくて大変そうだねえ」

やれやれと兄はつぶやいた。僕は台所に立って、カレーをあたためる。

「母さんが薬剤師のおかげで、僕も兄ちゃんも、こうして平和にカレーが食えるんじゃん」
「女手一つでよくぞここまでってね。本当に感謝してるよ。大学も行けたしな」
「薬学部じゃないけどね」
「絡むなー、今日のヒロは」
「だって、家を継ぐ気なんて全然ないだろう?兄ちゃんは」
「まあね。だって俺に向いてると思うか?」
「う~ん、そこそこ?」
「うわ、微妙!しかも疑問形だし」
「口はうまいから客商売はそこそこいけそうな気はするけど、信用がないからなあ」
「お前は本当によく人を見てるよ!皮肉かつ的確にな」

してやったり。

「はいはいはいはい。ヒロはいい子だな。鼻につくぐらい」
「おかげさまで」

兄の分のカレーをよそってテーブルに置くと僕は言った。

「薬学部には僕が行くよ。理数系科目、嫌いじゃないし」

兄は二人分のスプーンを用意して、鼻歌を歌いながら、指揮者のようにきれいにそれを振った。

「お前はそれを本気で良しとしてるのがなー。いい子すぎて、俺は時々お前が嫌になるよ。まあ、自分に対してもだけどさ」
「何それ?」

いきなり兄はスプーンを、僕の目の前にふりかざした。反射的に目をつむる。

「お前は、ダメなくらい欲がなさすぎ!」
「え?」
「それでいいかもしれんが、面白味にかけるっていうか…つまらん!」

僕はため息をついた。

「兄ちゃんはいつもそれだ。つまらん!つまらん!ばっか。僕からしてみれば、つまらないって、言ってるやつが一番つまらないね」

兄は吹き出した。にやにやしながら、持っていたスプーンで僕の顎を持ち上げた。

「きっと、それはお前のせいだな」
「へ?」

兄はじっと僕を見つめた。

「なんで、お前が自己満足で書いてた小説を、俺がこっそり持ち出して自分の名前で新人賞に応募したと思う?」

僕もまた兄をじっと見つめた。それは僕もずっと聞きたかった。

「お前の怒る顔が見たかったからだよ」

本気とも冗談ともつかない口調と同じに、兄の目もまた多くを語ろうとはしない。すると、いきなり兄は表情を変えた。人を食ったようないつもの笑顔になる。

「なーんてな。さあ、カレーを食おうぜ。弟よ」

何も言い返せないでいる僕を無視して、兄は楽しそうにカレーを食べ始めた。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ BEAT CRUSADERS 「希望の轍cover」× 未完成のSF小説 ★

書き途中の長編SFより抜き出しました。登場人物名など少し変更してUP。(以前UPした物語の登場人物や設定とかぶってしまうので…)

① BEAT CRUSADERS 「希望の轍cover」
http://www.nicozon.net/watch/sm1071862
原曲はSouthern All Star。そのカバー。友人が海に向かう途中に聞いていたもの。それから夏になると聞きたくなる曲に。出てくるお兄ちゃんが、海のある故郷に向かうとき、聞くならどんな曲だろう?と思ってたら、これが浮かびました。実は原曲を聞いたことがないんですが。

② 未完成のSF小説
前にUPした【第35夜】「SF小説を書こう!」もそうですが、書き途中の長編SFより。抜き出せそうなのは、また近々また使わせてもらおうと思います。1001までまだまだあるので。

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コメント
おお!
なんというか、すごく良いです♪
この家族、素直に共感…いや、共感というより、我が世界を観ているみたいな安堵をいだきました。
冒頭の兄が弟を迎えるセリフにまず感動!
オール4とは!
オール5ではないところで、だけど頭が良いんだぞっていう期待感。
トップを張る人間はそれなりの図太さとしなやかさがないと単なるイヤなやつになってしまうが、それよりは一歩下がった立場だと人は好いし、頭も良いしって相場が成り立つ。

そして、このお母様、良いですねぇ♪
えへへヾ(´▽`)
最新作を一作しかまだ拝読させていただいていないので、期待大! でまたお邪魔させていただきます(^^)
朱鷺(shuro)│URL│08/18 14:08│編集

弟よ・・・兄は策士だねえ。
誰かさんの新作って、読み終えてからぷぷぷってなりますね。兄さすが。

誰かさんの怒る顔を見たいから、なんて。
この兄についていけば、そこそこ? いや、かなり? 良いのでは?
一番人気のゼリーにありつける。いや、そこじゃなくて。

兄、次なる策は?
けい│URL│08/18 16:47│編集
Re: おお!
> 朱鷺さん

初めまして。コメントありがとうございます!

気に入って頂けて、とても嬉しいです!
カテゴリの『目次』に拍手の多かったものをランキングにしてありますので、
もし読むものに悩んだらそちらを参考にして頂ければ。

私も朱鷺さんのブログにぜひぜひお邪魔させて下さい^^
rurubu1001│URL│08/18 20:02│編集
Re: タイトルなし
>けいさん

いつもほんとうにありがとうございます!

私、自分がさっぱり頭がよくないので、こういう策士な人にたぶん憧れがあるんですよね!
そういう人ちょくちょく書いている気がするので。ちょっとこのお兄ちゃんはひねくれてますけど…><

けいさんの小説も頭のいい人が、いっぱい出てくるからわくわくです^^
rurubu1001│URL│08/18 20:08│編集

楽しいですね~。
この短い文章で、この家族ひとりひとりの性格や、今までの生活が浮き上がってくるようで。
この兄、只者ではなさそうですが、そんな大作を、こっそり書いて隠している弟も、ただものではない。
素敵なSSでした。
lime│URL│08/19 07:23│編集
Re: タイトルなし
>limeさん

コメントありがとうございます!

ヘンテコな兄弟ですが、気に入って頂けてとても嬉しいです!

私はまだミステリやサスペンスには挑戦してないので、
limeさんのブログでぜひぜひ学ばせて頂きたいです^^
rurubu1001│URL│08/19 21:36│編集

面白い
│URL│08/23 01:22│編集
Re: タイトルなし
はじめまして。

コメントありがとうございます。
また面白いと思ってもらえるような物語が書けるように頑張ります^^
rurubu1001│URL│08/23 01:49│編集

おはようございます。
ネリムです。

読んでてほのぼのとした
気持ちになりました。

兄弟の話良いですね。
ネリム│URL│08/27 09:01│編集
Re: タイトルなし
> ネリムです。

コメントありがとうございます!

> 読んでてほのぼのとした気持ちになりました。兄弟の話良いです。

ありがとうございます!ほのぼの要素もあるとはまた発見です^^
rurubu1001│URL│08/27 20:17│編集
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