今までこの地には、誰一人として訪れたことなどなかった。
ここはあらゆる生命を枯らせた大地だったから…。死の大地、砂漠。

ここに存在するのは情け容赦ない灼熱の太陽と生気を失わせる乾ききった風、見渡す限りに広がる砂の平原だけだ。

一体この地で昔、何が起こったのだろうか?

それすらも知る者も今となってはいない。もうそのことについて砂漠自身も忘れかけてしまっていた。

そこに、一人の老女が現れた。

体にはしっかりと日を避けるように布を巻いている。そして、古びた小さい壺をかかえていた。

砂漠はまるで夢でも見ているのかと思った。老女はここに何しに来たのだろうか?

突然、老女は抱えていた壺を振り回した。すると、そこから透明な液体が飛び散った。

それは水だった。

砂漠は驚き、その水の甘さに心を打たれた。しかし、それは簡単に太陽の熱に蒸発してしまう。それでも老女はその行為を繰り返した。

不思議なことに、その壺から何度も何度も水があふれた。

砂漠は戸惑いながらも、甘い水を欲した。そして、重要な何かを思い出しかけていた。

老女は精根尽きるまで水をかけ続けると、ついに倒れてしまった。砂漠は悲しみにくれたが、老女は二度と起き上がらなかった。

砂漠は泣いた。悲しくて悲しくて、いっぱい泣いた。

すると、今まで存在すらしなかった砂漠自身の水が生まれ、老女をすっぽりとその水の中におさめた。

それは命の水だった。すべての希望を秘め、愛に満ちた尊い水。

やがて、老女はその水の中で息を吹き返した。

砂漠は思い出していた。

かつて自分は大都市までもつくりあげた豊かな大地だったことを。生命に満ち溢れ、終わりなど考えすらしなかったあの頃のことを…。

「あやまりたくて…」

老女の言葉にやっと砂漠は全てを理解した。

人間はやがてこの地が使いものにならなくなると、早々にこの地から去ってしまったことを。取り残された砂漠はどうすることもできず、全てを、自分をも、枯らせてしまったのだ。そして、眠りにつこうとしていた。

「…本当にごめんなさい…」

老女の瞳から涙がこぼれ落ちる。甘い水が砂の大地に届けられた。

砂漠はもう一度信じてみようと思った。この老女を。この世のすべての生命を。

砂漠は激しく呼吸をはじめ、すべての生命を蘇らせた。いくつもの泉が生まれ、力強い木々が育ち、美しい花々が大地に咲き乱れた。それは再生だった。この地の、この世界の―。

老女は美しい少女の姿になっていた。
それは砂漠からのささやかな感謝の気持ちだった。

少女は濡れる瞳で大地に微笑みかけると、目の前に咲き誇る美しい一輪の花に口付けした。

それは誓いの口付けだった。

この地で一生ともに暮らすという、永遠の約束だった。



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コメント

何も残っていないところから、何か信じられることが見つかると、どこにこれが、と思うほどに湧き上がるのもが出てくるのですよね。何となく納得。

自然は全てを与えてくれますから、それを享受するからには大切にしないとね。なんちて。
けい│URL│08/07 18:02│編集
Re: タイトルなし
>けいさん

いつも本当にありがとうございます!

けいさんの方が私の物語より断然いいことをいってくれてる気が^^
書いた時のことを全然覚えてないんですけど、ラストの行動とか思い切り「夢十夜」第一夜かも。
rurubu1001│URL│08/07 22:15│編集
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