=お知らせ=
★2015/6/16
物語ブログ『1001夜ショートショート』開設・祝2周年となりました。これも応援して下さったみなさまのおかげです。本当にありがとうございます。マイペース更新ですが、これからも『1001夜ショートショート』をよろしくお願いいたします^^

最終更新(2015/06/22)
予約投稿の関係でアルファポリス様の方が若干更新が早くなっています(一日ほど)。お急ぎの方はアルファポリス様をチェックしてみて下さいね。申し訳ありません。
※パスワード入力が必要と表示されるものはアルファポリス様限定公開作品ですので、ここでは閲覧できません。お手数ですが、アルファポリス様(無料)をご利用ください。予約投稿中の作品もあり。詳細は下記。
【アルファポリス様限定公開】  長編作品紹介
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-256.html
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【第245夜】 亡き王女のためのパヴァーヌ  ジャンル:友情/ショートショート 
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― ねえ、私の“美しい”はあなたにどう響く? ―

   *

放課後、誰もいない音楽室でピアノを弾いていると、一人の少女が私に声をかけてきた。

「あなた、絵のモデルになってくれない?」

確か隣のクラスの子だ…。顔は覚えているのに、名前が思い出せなかった。

「…私のこと、知らない?カセイよ。カセイジュンコ。美術部なの」

眉の上で切りそろえた前髪が似合う整った顔立ち。自らがモデルと名乗ってもいいような美少女。それがカセイジュンコだった。

「どうして私なんかをモデルに…?」

そんな彼女に比べ、私は麗しい美貌には程遠い。戸惑う私を見て、目の前の美少女はおかしそうに笑った。

「あなた、とても素敵よ」

そんなことを言われたのは初めてだった。つい顔が赤くなる。

「あなたのピアノ、素敵だったわ」
「…なんだ、ピアノか…」

勘違いした自分が恥ずかしくて、赤くなった頬を両手で隠そうとすると、彼女のひんやりした手がそれをとめた。

「そう。あなたのピアノが素敵。…こう言えば安心する?」

人を試すような表情。聡明さを感じさせる瞳。先に美しさにとらわれたのはどっちだったのだろう…?

「今度コンクールで弾く曲なの。ありがとう、誉めてくれて。えーっと、カセイ…さんだっけ?」
「ジュンコでいいわ、ミナガワさん。私もヒデコって呼ばせてもらうから」
「…どうして、私の名前を知っているの…?」

私の指に彼女は自分の指をからめた。

「あなた、自分の魅力に全然気づいてないのね」
「え?」

そして、静かに微笑んだ。パッと、からめた指を離す。

「じゃあ、明日またここで会いましょう」

少し強引で神秘的な少女。彼女はまだ自分に自信のなかった私を見つけてくれた。

「よろしくね、モデルさん」

   *

カセイ ジュンコ。

その名を学校で知らない者はいなかった。

翌日、同じクラスの美術部の子に彼女のことをたずねると、唾を飛ばすような勢いで彼女のことを力説された。史上最年少で美術展に入選した少女画家だということ。彼女の絵は人物や風景を描きながらも現実を越えた表現力があること。凄味のある色彩感覚に圧倒されること。高校の美術部に籍を置いてはいるが、自分の作品作りのため、ほとんど参加することはできず、幽霊部員に近いこと。でも、顧問も部員も彼女をとがめることはないこと。それはみんな彼女の才能にほれているからだということ…。

北国で花開いた孤高の芸術家。時の人。天才画家という名の美少女。結局、放課後の音楽室で私が彼女のモデルを引き受けることにしたのは、そんな彼女が自分に興味を持った理由を知りたかったからかもしれない。

「ジュンコって凄い人だったのね…」

私が呟くと、カセイジュンコは笑った。

「でも、そんな私をヒデコはよく知らなかったじゃない?」
「…ごめんなさい」
「いいのよ、知らなくて。名声なんてうっとうしいだけよ」

ジュンコはどこか客観的で冷めたところがあった。

「そういうものなの?」
「そういうものよ。私は絵を自由に描ければいいの。こんなふうに、誰かさんをモデルにしたりしてね」

いったい私の何が彼女をひきつけたのだろうか…?照れくさくなって、私はジュンコに話題を戻した。

「学校に飾ってあるジュンコの絵を見たの。とても感動したわ」
「そう?ありがとう」
「あれって自画像なの?」
「そうよ、私なの」
「目が離せなくて…なんて言えばいいのかしら?…ただもう、美しかった」

その感想にジュンコは笑った。私は恥ずかしくなった。

「…いやね。“美しい”なんて感想。私が使うと、その言葉はなんとも陳腐な響きになってしまうわ」
「ヒデコ?」
「きっと、私自身が陳腐なせいね。ごめんなさい」

自分で言ってて情けなくなる。それを聞いたジュンコはデッサンする手をとめた。スケッチブックを閉じ、私に優しく訴えた。

「ねえ、ヒデコ。私、音楽なんてこれまで全然興味がなかったの。特にクラシック。古くさくて、かたっくるしくてね。でも、ヒデコのピアノをきいて好きになったわ」
「え?」
「ヒデコのおかげで気づいたの。クラシックは演奏する人を選ぶのね。人によって音の響きが全然違う。生み出す世界が違うのよ。私はあなたのピアノ演奏をとても美しいと思った。そんなヒデコは陳腐なのかしら?ねえ、私の“美しい”はあなたにどう響く?」

人を試すような表情。聡明さを感じさせる瞳。先に美しさにとらわれたのはどっちだったのだろう…?

「…こう言えば安心する?」

私だったのだろうか?ジュンコだったのだろうか?

「あなたのピアノをきかせて、ヒデコ。私たちが初めて出会った時に弾いていた曲がいいな」

放課後の音楽室に西日がさしこんでいた。その光りが眩しくて、瞬きを繰り返す。

「もしかして、ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ 』?」
「うん。それ!」
「しょうがないなあ。じゃあ、私の王女様のために一曲、弾きましょうか!」
「…ちょっと、私は死んでないわよ!」

ふたりで笑った。あふれる涙を振り払うように、私は彼女に語り出した。

「ラヴェルはね。晩年、記憶障害になってしまうの。かつて自分で作曲した『亡き王女のためのパヴァーヌ 』を聞いて、こう言ったらしいわ。『とても美しい曲ですね。どなたが作ったんですか?』って。彼は自分が作曲したことを忘れてしまったけど、美しいと感じたことは忘れなかったのよ」

自分のピアノ演奏にのせて、好きなラヴェルのエピソードを語る。それが彼女のくれた言葉に対する返事になればいいと思った。感謝の言葉になってくれるといい、と。彼女はそれをどう受けとめてくれたのだろうか?

― ねえ、私の“美しい”はあなたにどう響く? ―

「もしかしたらこの世で一番美しいのは、誰かの記憶に“美しい”と残せることかもしれないわね」

そう言ったジュンコが忘れられなかった。

   *

カセイジュンコが湖畔のホテルで消息を絶ち、阿寒で凍死体となって発見されたのは、それからしばらくたってからだ。

自殺の可能性が高いと聞き、私はショックからかピアノが弾けなくなってしまった。あの音楽室に近づくこともできなくなった。彼女の死は謎に包まれたまま月日は流れ、ようやく忘れかけた頃、彼女のお姉さんが私の元に訪れた。実家を整理していたら、ジュンコの描いた一枚の絵が見つかったという。それをわざわざ持ってきてくれたのだ。

「妹はあなたをモデルに絵を描いてたみたいなんですよ」

スケッチブックにデッサンをしていたことは覚えている。でも、きちんと絵に仕上げていたとは知らなかった。お姉さんが見せてくれたジュンコの絵に私は息をのんだ。そこには、ピアノ演奏をするあの頃の私の姿が描かれていた。

― あなたのピアノをきかせて ―

音楽室にさしこむ西日が眩しい。

自分に自信のなかった私をジュンコはみつけてくれた。優しくしてくれた。彼女と過ごした時間はとても短かったが、輝かしいものだった。…ねえ、ジュンコ。あなたもそう思ってくれていたの…?

「ヒデコさん?」

お姉さんが心配そうに私を見つめていた。

「すみません。いろいろ思い出してしまって…」

あふれる涙を振り払うように、私はお姉さんに語り出した。

「ジュンコさん、私のピアノをとても気に入ってくれてたんですよ。良ければお姉さん、私のピアノを聞いてくれませんか?あの頃みたいに弾けるかわかりませんが…」

お姉さんは静かに微笑んだ。それに勇気づけられるように、私はずっと弾いていなかったピアノの前に座った。調律は大丈夫のようだ。

― こう言えば安心する? ―

人を試すような表情。聡明さを感じさせる瞳。私の弾くラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ 』が好きだと言ってくれた。記憶の中の美しい王女様に私は語りかける。

― ねえ、私の“美しい”はあなたにどう響く? ―


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ドキュメンタリー『もう一つの阿寒に果つ』×ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』★

ちょっと前に女優の宝生舞さんの行方がわからないと言ったニュースが流れていて、それで思い出したのが昔見た加清純子(画家)のドキュメンタリー。阿寒で謎の死を遂げた少女画家を宝生舞さんが演じていました。その動画を発見。もう一度見たいと思ってたから嬉しかったな。私が実在の人物を描く場合は(歴史モノも含め)勝手な虚飾がいっぱい。半分フィクション感覚でお読み下さると嬉しいです。(というわけで作中の登場人物名は片仮名表記。主人公はドキュメンタリーに出ていたご友人ふたりの名前から)

① ドキュメンタリー『もう一つの阿寒に果つ』
宝生舞さんが加清純子を演じ、雪の中を歩く姿がとても印象的でした。企画考えた人、ナイスキャスティング!
前編http://www.nicozon.net/watch/sm11818123
後編http://www.nicozon.net/watch/sm11818227

② ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』
クラシックは私の中でラヴェルかな。
ピアノ版http://nicotter.net/watch/sm3792526
管弦楽版https://www.youtube.com/watch?v=IcVTq4FnSVc

良ければ、こちらもどうぞ。ラヴェルは『水の戯れ』が一番好き。
辻井伸行/水の戯れ(ラヴェル)
http://nicotter.net/watch/nm8385632

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コメント

天才美少女・・・薄命なのね・・・
短い間に生ききってしまったのでしょうか。
人生幸せであったでしょうか。
作品が残ったことが人生の証拠を残しているようで・・・

宝生舞さんも美しいですね。
久々のショートショート、”美しい”かったです^^
けい│URL│06/29 12:19│編集
けいさんへ
いつも本当にありがとうございます!

> 天才美少女・・・薄命なのね・・・短い間に生ききってしまったのでしょうか。人生幸せであったでしょうか。作品が残ったことが人生の証拠を残しているようで・・・宝生舞さんも美しいですね。久々のショートショート、”美しい”かったです^^

久々のショートショートでした。そう言って頂けてとても嬉しいです^^最近色々な長編ばかり書いていたので息抜きををしたくなったのかも。気分転換というか…。これを書いてておもったのですが、長編より短編の方が私には性にあっているような気がしました。気力的にも技量的にも。(しばらくショートショートを書くことになるかも)長編は色々と難しいですよね。(だから、けいさんは凄いと思う!)

美人薄命ってよくいったもので…。まだ10代の若さで亡くなられた画家さんで。でも、みんなの記憶にはまざまざと残っていて…。かなしいはずなのに美しいなあとドキュメンタリー見た時に思ったのかもしれません。だから、こんな物語になったのかな。見た当時書けば、また少し違うものになっていたかも。
rurubu1001│URL│06/30 08:39│編集

こんにちは。
時々こそこそと拝読しながら、でも、コメントを残せないままですみません! 遅ればせながら、2周年、おめでとうございます!!
たった2年間とは思えないくらいの充実した内容のブログで、本当に全く追いつけないのですけれど、時々ちらちらと楽しませていただくだけでもrurubu1001さんの引き出しのものすごさを感じます。これからも沢山の「素敵」を描いていってくださいね!

さて、こちらの物語にはしっかり反応しちゃいました!
いや~、昭和の香りですね。会話、雰囲気、そこに重なるクラシックの調べ。「私の美しいはあなたにどう響く?」……何だか『四月は君の嘘』のかをちゃんが問いかけているみたいな気がしました。
うん、「美しい」って陳腐になりやすい言葉だと言われるけれど、そんなことないですよね。私は村下孝蔵さんが故郷を歌った『夕焼けの町』で「すべて貧しいけれども、美しい」という部分を聞いた時、鳥肌が立ちました。この単語を中身のない形骸にしてしまっているのは私たちだ、と。

実はですね、『阿寒に果つ』はタイトルだけでものすごくインパクトがあって、読んでもいないのにバイブルにしていたのですが(内容は古い映画で知っていたのですが)、ある時しみじみと読んで、そのイメージが鮮烈で、真シリーズのまだブログでは公開していない長編3作目『雪原の星月夜』を書いたのです。だから、ちょっとどきっとしました。
そのイメージを追いかけて真冬の阿寒に一人で行ったのですが、しみじみする予定だったのに、阿寒湖上をスノーモービルでかっ飛ばしていた私……^^; でも丹頂は美しかった……

こちらからも、ブロ友申請させていただきました。よろしくお願いします!!
大海彩洋│URL│07/01 23:29│編集
大海さんへ
コメント&ブロとも承認して頂き、本当にありがとうございます!

> こんにちは。時々こそこそと拝読しながら、でも、コメントを残せないままですみません! 遅ればせながら、2周年、おめでとうございます!!たった2年間とは思えないくらいの充実した内容のブログで、本当に全く追いつけないのですけれど、時々ちらちらと楽しませていただくだけでもrurubu1001さんの引き出しのものすごさを感じます。これからも沢山の「素敵」を描いていってくださいね!

そんなそんな。私のような物語ブログに、お越し頂けるだけで光栄&恐縮です><ありがとうございます!そうなんです。2年たったところで、とりあえずここまで続けられたことで3日坊主からは卒業できたなあと思います(苦笑)。全然気にせずですよ~。大海さんのご都合のいいときにお越しくださいね^^

> さて、こちらの物語にはしっかり反応しちゃいました!いや~、昭和の香りですね。会話、雰囲気、そこに重なるクラシックの調べ。「私の美しいはあなたにどう響く?」……何だか『四月は君の嘘』のかをちゃんが問いかけているみたいな気がしました。
> うん、「美しい」って陳腐になりやすい言葉だと言われるけれど、そんなことないですよね。私は村下孝蔵さんが故郷を歌った『夕焼けの町』で「すべて貧しいけれども、美しい」という部分を聞いた時、鳥肌が立ちました。この単語を中身のない形骸にしてしまっているのは私たちだ、と。

そうなんです。昭和の話なんです。最近、昭和のこのくらいの年代が好きなんですよね。今まで明治・大正・昭和の中では大正時代が好きだったんですけど(はいからさんや朝ドラの影響)、今は昭和が気になります!確かに『四月は君の嘘』のヒロインっぽいかも!誰かに似てるなあって読み直して思っていたので、スッキリです!『四月は君の嘘』も素敵な作品ですよね。

村下孝蔵さんの「すべて貧しいけれども、美しい」って素敵ですね。それをまたそう感じられた大海さんの歓声も「美しい」ですね。それにしても村下孝蔵さん、チェックせねば!

> 実はですね、『阿寒に果つ』はタイトルだけでものすごくインパクトがあって、読んでもいないのにバイブルにしていたのですが(内容は古い映画で知っていたのですが)、ある時しみじみと読んで、そのイメージが鮮烈で、真シリーズのまだブログでは公開していない長編3作目『雪原の星月夜』を書いたのです。だから、ちょっとどきっとしました。

おおー、「阿寒に果つ」ご存知なんですね。実は私も読んでないのですが(影響を受けたドキュメンタリーで知りました!)やはり読んだ作品の影響力って大きいのですね。それが読者の引き出しに入って、しっかりと力になって、書いている人は物語として新しい何かを生んでいって…。そういうふうに繋いで行くものなのかもしれませんね。

> そのイメージを追いかけて真冬の阿寒に一人で行ったのですが、しみじみする予定だったのに、阿寒湖上をスノーモービルでかっ飛ばしていた私……^^; でも丹頂は美しかった……

おおー、カッコいい!一人旅もそうですが(私一人旅ってまだしたことがなくて、憧れです)、阿寒湖上をスノーモービルでかっ飛ばしていたというその光景こそ、美しそうです!^^そういう思い出って忘れませんよね!


> こちらからも、ブロ友申請させていただきました。よろしくお願いします!!

ブロとも承認して頂き、本当にありがとうございます!こちらこそ、これからよろしくお願いいたします!^^
rurubu1001│URL│07/02 02:51│編集
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