桃だ。きっとすべては桃から始まったんだ…。

淑玲(すうりん)は何度もこの先考えることを、初めてこの時考えていた。

きっかけなんて、いつも些細なこと。それがやがて大きな渦となって人々を巻き込んでいく…。

車(くるま/馬車)に揺られながら、淑玲は頭を抱えていた。

でも、巻き込まれに行くことを望んだのは私なんだ。そのことを忘れてはいけないんだわ。

…淑玲、この時まだ十五歳。人生の大きな転機が訪れようとしていた。

    *

事の起こりは…宮廷に桃を届けに行ったこと、だった。

    *

蹊国(けいこく)の首都・成安(せいあん)はこの日、大いに賑わっていた。宮廷で王主催の夏の宴が盛大に行われるからである。城下のありとあらゆる商家がてんてこ舞いだった。こういう時が、稼ぎ時。みんなわかっているのだ。八百屋の我が家も例外ではなく、宮廷の御膳房(ごぜんぼう/台所)から料理の食材になる野菜や果物の注文が多く来ていた。

「なんで私が宮廷まで桃を届けに行かなきゃ行けないのー?」

私は父様に不満をもらした。

「しょうがないだろう?淑河(しゅくが)が持っていくのを忘れたんだよ」

淑河とは私の双子の兄のことだ。顔はよく似ていても性格は正反対。私はどちらかというとまめな方だけど、兄様は大ざっぱ。しかも彼は度が過ぎるほどのうっかり者ときている。もう、だからあれほど届けに行く前に確認しろって言ったのに…。人の話を全然きいてないんだから。

「まあ、そういうわけだ。頼むよ、淑玲」
「私、これから行くところがあったのにー」
「どこだい?」
「え?…それは、ちょっと色々よ」

父様はじっと私を見たが、すぐ手を合わせた。

「まあ、桃を届けるだけだからさー。うちの桃は公子(こうし/王子)様の好物なんだと。これはもうなくちゃ困るだろう?」
「えー、公子様って全員分の?そんな重いのやだ」

確か王の息子たちである公子様って、十人近くいるんじゃなかった?

「それがな、お前の大好きな第一公子様だぞ」
「え、本当??それを早く言ってよー」

とても優秀な公子様と評判だ。もちろん人望もある。次期王候補。でも、私がひいきにしている理由はそれだけじゃない。

「わかった。行ってくる」
「おう、頼んだ。俺は店があるから悪いな」
「いいって、いいって」

私は父様から桃の入った包みを受け取ると、「いってきまーす」と笑顔で手を振った。

「ま、本当はどの公子様か知らんがんね」

と、父様がぼそっと呟いたような気がしたけど、それはきこえなかったことにしよう…。

「御膳房(ごぜんぼう/宮廷の台所)に近い門ってどれ…?」

宮廷の城門まできて、私は途方に暮れてしまっていた。父様に大事なことを聞き忘れていたのだ。てっきり来れば、どうにかなると思っていたのに。門番に聞いて、案内してもらえるものと。でも、今日は宴だ。出入りが激しく、門番も慌てふためいている。声、かけづらいなあ…。

その時だった。

「お前、こんなところで何してるんだ?」

見たことない男の子が声をかけてきた。年は私と同じくらいだろうか。格好からしてどうやら宮廷で働いている子らしい。

「八百屋ですが、果物を届けに来ました。御膳房まで案内して頂けますか?」

私が頼むと男の子が思い切り顔をしかめた。

「急いでるんだ」

じゃー、声をかけなきゃよかったじゃない!と思ったけど、それは寸前で飲み込んだ。商人は笑顔が基本よ。いつ誰が次のお客様になるかわかりませんからね。

「そこをなんとか。公子様のとてもお好きな桃なんです」

それを聞くと、男の子は真剣な面持ちで私に近づいてくる。え、何?

「これがそうか」

どうやら私にではなく、桃が気になるらしい。宮廷では今、桃が人気なのだろうか?

「案内してくれたら、今度あなたに桃を持ってくるわよ」

私がそう持ちかけると、男の子は私を見て笑い出した。涼しげな目元が少し冷たい印象を与えていたけど、笑顔になると、とたんに変わる。明るく溌剌としていて、人好きするものになった。

「お前は取引上手だな。いいだろう。でも、桃が必要なのは御膳房じゃないぞ。私が今から行くところだ。だから、ついでに案内を頼もう」
「え、どこまで行くの?」
「俊楽堂(しゅんらくどう)まで」

私は内心喜んだ。そこは私が今日行きたいと思っていたところだ。

「いいわよ。案内する。私は淑玲。あなたは?」
「私?私は……その…戴青(たいせい)だ」
「ふうん、戴青ね」

私は彼をちらりと見やってから微笑んだ。

「ねえ、戴青。道中せっかくだから、宮廷事情を詳しく教えてくれない?私まだ中に入ったことがないのよ」

俊楽堂は街はずれの静かなところにある。第一公子様の発案で、使われなくなった小さなお堂を国が維持し、無料開放しているのだ。そこをひと月くらい前からある青年がやってきて、街の者に学問を教えていた。

「そうか、お前は第一公子様が好きなんだな」

戴青は私にそう問いかけた。彼は私の桃の包みをかわりに持ってくれている。実は優しいのか、桃が相当好きなのか…。たぶん後者な気がするけど。

「そうよ。だって優秀な方じゃない?まだ公子様なのに政(まつりごと)にも積極的に参加されて」
「例えば?」
「例えば…そうねえ。使わなくなったお堂は…今から行く俊楽堂もそうだけど、建物を再利用して、国に生かす使い方をしたり」

戴青は不思議そうにたずねた。

「古い建物なら壊して、田畑を作ったっていいじゃないか?」

私はため息をついた。

「田畑になる土なんて時間をかけてできるものなのよ。それに時間や労力かけるより、他のことに使った方が効率いいわ。科挙が始まって、貴族以外の民も官吏(役人)試験を受けられるようになったけど、まだその民の教育は行き届いていないし。そういう者が学べる場所が必要だったのよ」
「…ふうん」
「それに街はずれにあるあそこは、戦でせめられた時の外壁がわりにもなる。あそこなくしたら一帯が丸見えなのも困るし」
「なるほどな」
「無駄をただ省くんじゃなくて、うまく生かすのがいいのよ」
「お前は、中々ものをわかっているな」

私は微笑んだ。

「それはね、今から行くところの先生のおかげよ。このご時世、本当は男の子だけしか、学問はできないでしょう?でも私ね、こっそり盗み聞こうとしたの。そしたら、見つかっちゃってね。でも、追い出さず、混ぜてくれたわ」
「暉仁(きじん)様は、そういうお方だ」
「暉仁様って…え?もしかして、あなた暉仁さんのお知り合い…?」

戴青が頷いた。

「そうなのね。私ね、たぶん第一公子様って暉仁さんに似た人格者だと思っているの。絶対そうに違いないわ」

調子に乗って話しすぎたことに私は気づかなかった。この時、戴青は私に鋭い視線を向けていたに違いない。

「あれ、淑玲?」
「暉仁さん、こんにちは」

俊楽堂に着いた私たちは、ここでひと月前から住んでいる青年、暉仁さんを見つけた。彼はお堂の掃除をしていたらしい。肌は学問人に相応しく、少し青白い。でも、すらりと伸びた背は高く、きちんと筋肉もついていた。整った顔は少し柔和で優しく、人を和ませてくれる。年は十九といっていただろうか。彼はしっかり絞った雑巾をおけにかけ、額の汗をぬぐっていた。

「こんにちは。おや、そちらにいるのは?」

戴青は年長者に向け、礼をとった。

「お久しぶりです」
「…ああ、戴青か。君が来てくれたんですね」
「さすがに今日、お迎えに来ないとまずいでしょう?」
「そうですね」

暉仁さんは少し淋しそうだった。私は嫌な予感がした。

「暉仁さん、どこかに行かれるんですか?ここからいなくなるの?」

暉仁さんは私を見て、困ったように微笑んだ。

「実は家に帰らねば行けなくなってね」
「…そんな」

今度、困ったように微笑んだのは戴青の方だった。

「そんなってお前、何を今さら…」
「え?」
「誰のための桃だよ」

私は戴青の言葉に理解できずにいると、戴青は暉仁さんに向き直り、桃の包みを開いた。暉仁さんは嬉しそうに笑った。

「おお、これは私たちの好きな桃ですね」

今、何て言った?私はまだ暉仁さんに、うちの桃を渡したことは……いや、なかったはずだ。ということは……?でも、そうだ。戴青は言っていたのだ。桃が必要なのは宮廷の御膳房ではなく、俊楽堂だと。

「この方が、お前の好きな第一公子様だよ」

夏の暑さにやられてしまったのだろうか?私は一瞬気が遠くなってしまったのかもしれない。

「戴青は相変わらずですねー。淑玲が驚いてるじゃないですか?」
「だって、こいつ道中、もう当ててましたよ?第一公子様はきっと暉仁さんみたいな人だって。なのに、なんでそんなに今驚いているんだ?」
「……それとこれとは…話が……違うわよ」

私はやっとの思いで言った。

「あれはただの私の願望で、別に推理してたわけじゃないわ」
「え、そうだったのか?しまった。言っちゃまずかったか…」
「戴青、それはもう後の祭りってやつですよ」

そうは言いつつも、暉仁さんはおかしそうに笑っている。

「知られてしまった以上、きちんと話しますね。とりあえず、まずは淑玲。桃をむいてきてもらえますか?一緒に食べましょう」

暉仁さんはいつもと変わらない笑顔でそう言った。私はなんとか立ち上がり、桃をむきに行った。もしかしたら、暉仁さんは私を短時間で落ち着かせる方法を知っていたのかもしれない。私は料理をするために、包丁を持つときがなぜか一番冷静になれるのだ。包みには桃が三個入っていて、それをゆっくり丁寧に切った。それから深呼吸を何度も繰り返して、私は桃を二人の前に持って行ったのだった。

「今から聞くことは内密に」

暉仁さんの言葉に、私は重々しく頷いた。

「正確には、私はまだ第二公子。これから第一公子になる者です」
「…どういうことですか?」
「兄である、第一公子はこの世にはもういません。ひと月前に亡くなりました」

私は口元を手で覆った。

「私たちは八人兄弟です。皆、それぞれに事情があり、玉座を狙っていておかしくありません。第一公子は世間の評判通り、優秀な方でした。まるで王になるべくして生まれてきたかのような方だった。腹違いの兄でしたが、私との兄弟仲はとても良かったのです。私は兄が王になった時、彼を補佐し、支えられるような者になりたかった。それが私の夢でした」

しかし、ひと月前、寝所で杯をもったまま倒れている第一公子が発見された。毒殺だった。近い関係者のみ伝えられ、次の立太子は第二公子になることが極秘にすすめられた。そこで父である現王は第二公子である暉仁さんが次に狙われることを恐れ、ある提案をした。第一公子は病に伏してはいるが、まだ生きている。ひと月なら彼の死をそう隠し通せる。その間、安全な場所で暉仁を守ろうと。

「お言葉に甘え、私はひと月ほど、雲隠れさせてもらうことにしたのです。たぶん父王は私に最後の時間を与えてくれたのだと思います。立太子したら、もう逃げられませんから。命を狙われ、闘う覚悟を決めろと」

どこか淋しげにいう暉仁さんを私はただ見つめることしかできなかった。

「がっかりしたでしょう?」

暉仁さんは申し訳なさそうに微笑んだ。私は首を横に振った。

「でも、これまでの第一公子が行ってる政策のほとんどは、本当はこの方の案だ」

ずっと静かに聞いていた戴青が口を開けた。

「だから、お前の憧れる第一公子様はこの方だよ」
「戴青…」
「だってそうじゃないか!亡くなった第一公子は人をひきつけられるお方だったが、少し危ういところがあった。言ってしまえば、慎重さに欠けるところがあったんだ。あんなに注意しろといったのに…」

暉仁さんは戴青を宥めるように頭を撫でた。私は全てを理解した。

「事情はよくわかりました。とりあえず、せっかくですし、桃を食べませんか?」

彼らは私の言葉に、慌てて頷いた。

「そうですね」
「そうだな。すまない」

私はふたりをまっすぐ見て言った。

「この桃はあなた方、公子様たちの思い出がつまっているんですね?」

戴青の視線が鋭くなった。

「…お前」

私は動じず、笑顔で続けた。

「戴青、あなたも公子様のお一人なんでしょう?」

固くなった空気をまず壊したのは暉仁さんだった。

「さすが淑玲ですね。いつわかりました?」
「ちょっとおかしいなって思ったのは最初にあった時。公子様の好きな桃をもってここまで案内することになって関係者じゃないかと思いました。今、思えばこの時に暉仁さんの正体に気づくべきだったんですよね。でも、そこまで頭がまわらなかった。で、戴青のことを察したのは桃をむいていた時です。桃の数でわかりました。三個あったから。一人で三個食べるのはさすがに多いし。ここには今、暉仁さんしかいない。それに暉仁さんが『私たちの好きな桃』って言っていたのを思い出したんです。あと、今のやりとりを見てれば…」
「なるほど」
「ちょっと待て。桃はわかったが、なんで最初あった時におかしいって思ったんだ?」

戴青が噛みついてきたので、私は苦笑した。

「名前、言うときに時間がかかってたでしょう?自分の名前、すぐ答えられないのは充分あやしいわ」

戴青は恥ずかしそうに、鼻の頭をかいた。そういう仕草はまだまだ子供だ。

「お前、女にしておくのはもったいないな」

私は笑った。

「よく言われる。性別を間違えて生まれてきたって」

それは私が一番思っているもの。

「でも、淑玲は女性特有の細やかな気遣いや気配りもある。それに料理の腕もいいんですよ。私はあなたの作ってくれたご飯のおかげで何度飢え死にしないですんだか」

暉仁さんは笑顔で今度は私の頭を撫でてくれた。このお堂に通うようになってから、私はどれだけ彼にそうしてもらってきたかを思い出す。最初は『女が?』と、みんなに思われていた学問だけど、認められるように厚い本をいっぱい読んだ。でも、その本も全部暉仁さんが貸してくれたもの…。

「淑玲の言うとおり、この桃は第一公子と私たちの大切な思い出がつまっています。もう三人で食べることはできませんが、今日新たな三人で一緒に食べられて嬉しかった。ありがとう、淑玲。ここの生活はあなたのおかげでとても楽しかったですよ」

私は泣きたくなるのを必死にこらえ、桃を一緒に食べた。今日の桃の味を絶対に忘れないだろうと思った。そんな私を戴青が盗み見ていた。そんなことには全然気付かなかった。

「お前さー」

暉仁さんは帰り支度をするため、自分の部屋に戻っていくと、見計らったように戴青が声をかけてきた。

「なんですか、公子様?」
「別に今は戴青でいいよ。外にいるし、誰かに聞かれたらまずい」
「はいはい。じゃあ、何よ、戴青」

戴青は吹き出した。

「お前、面白いな」
「は?」
「ふつうはさ、それでも敬意を払うんだ。でも、お前は…」
「私、自分が尊敬してない人に敬意なんてあまり払いたくないわ」
「なるほどね。王族でもってことか。お前、殺されるぞ」
「脅し?」
「いや、試してる」
「でしょうね。そんな気がした」

ここまでの道中もそんな感じの会話だったしね。

「兄上の言ってた通りだったな」
「え?」
「面白い女の子がいると。機転もきいて、人をひきつける才もある。でも、それをより生かせる場所がまわりにないと」

私は俯いた。

「なあ。お前、兄上が好きだろう?」
「え?」
「見てればわかる。恋だろう?しかも兄上はそのあたりは相当鈍いからな」
「そうよ。大好きよ。それが悪い?」
「…素直に認めるのがまた面白いな。恐れ多いとか、そんなことないとかふつう言うぞ」
「だって、どういったところで、もう自分の気持ちは決まってるもの」

本当はいなくなってしまうから、投げやりになっているだけかもしれない。

「兄上は立太子されたら、たくさんの妃ができる」
「…そうね」
「それでもそばで見守ることはできるか?お前にその強さや覚悟はあるか?」

私は戴青を見つめた。彼はいったい何を言っているのだろう?

「私は王宮で兄を守るための仲間を集めている。お前さえその気があれば、後宮の女官として働けるよう手配しよう」
「え?」
「決めるのはお前だ。相当きついと思う。実家にも帰れず、一人後宮暮らしだ。でも、私はお前の機転とやらをみてみたくなったよ」

その夜、家に戻った私は両親と兄に後宮で働くことを告げた。家族は驚いていたけど、反対はしなかった。

「その方が淑玲のためになるのかもしれないな」
「この家は僕がしっかり守るから安心して」
「でも、明日からなんて急ね。知っていたら、今日は淑玲の好きなものを作ったのに」
「母様、そんないいのよ。いつもどおりが一番よ」
「何があっても、お前の家はここですよ」

私は家族に感謝して床についた。今頃、宮廷では宴が始まり、暉仁さんや戴青がすでに動いているのだろうか。

「淑玲!淑玲!」

翌朝、戴青の使いの者が迎えに来る前に準備をしていると、いきなり父様が外から大きな声で私を呼んだ。

「どうしたの、父様?」
「淑玲、お前の迎えはあんな大行列で来るのか…?」
「は?何言ってるの?せいぜい多くて二人がいいところよ」
「じゃあ、あれは何だ??」

私は急いで外に出た。そして、慌てる父様の視線の先を見やった。………え?何あれ??とんでもない大行列なんですけど…。しかも大きな車まであるじゃない。

「もしかして第二公子様が立太子されたお祝いの行列とかじゃないの?」
「何を言ってるんだ、お前は!あ、誰かこっちに来る」

私はこの時の自分の勘の良さを後で褒め称えてあげたい。嫌な予感がして、見えないようにとっさに家の門の陰に隠れたのだ。

「淑玲様のお父様ですね」

父様は緊張して固まっている。「はあ…」とやっと出た声は、裏返っていた。

「私は第八公子様の使いの者。この度は第八公子様と淑玲様のご婚礼おめでとうございます。淑玲様をお迎えに上がりました」

今、何て言った…?

「ご婚礼??…え?誰と誰がですか?」
「第八公子様と淑玲様ですが…」

第八公子様の使者は怪訝な顔をする。父様は私に目配せを送ったけど、私は頭をぶんぶんと振った。何も知らないし、聞いてない。…っていうか、第八公子様ってだれ?あいつ、戴青のこと??

「あ、そうでした。先にこの文(ふみ/手紙)を渡すようにとのことでした」

そういうと彼は立派な文箱を父様に渡した。

「む、むむ、娘に渡してきます」

父様はどもりながらお使者に礼をすると、息もたえたえ、家の中に入っていった。私もこっそりそれに続く。

「あれ、ふたりとも慌ててどうしたの?」
「何かあったんですか?」

兄と母はのんびりお茶を啜っていた。私と父様はお互い気持ちを落ち着かせようと必死だというのに…。

「淑玲、これはどういうことだ??」
「私がききたいわよ。とりあえず、ちょっと文を見せて」

私は箱にも負けず劣らずの立派な文をひらく。そこにはこう記されていた。

『昨日、私がこっそり出歩いたことが父王にばれて、女官の件は難しくなった。すまない。でも、待っているだろうし、一応迎えにきた』

は?意味わかんないんですけどっ!『女官の件は難しくなった』というのは、まあわかる。事情があるのだろう。でも、問題は次だ。『一応迎えに来た』っていうのが、どうしてご婚礼になってしまうわけ!?大事なことが抜けてるじゃない!とにかく私は続く文字に目を走らせた。

『私は末弟だから、妃(妻)といってもそこまで苦労をかけることはないし、お前の身分でも妃にすることができる。気にするだろうから先に言っておくが、まだ他に妃はいないぞ。悪い話ではないと思う。お前が後宮に出入りするためにはもうこれしかなかった。後はお前の機転にまかせる』

―― 私はお前の機転とやらをみてみたくなったよ ――

何、あの公子!まだ私のことを試してたの?っていうか、私を、女を、ばかにしてない??この時の私の怒りは誰にも説明できないだろう。ぷつっと自分の中にある血管みたいなものが切れた気がした。気づいた時には、声を上げていた。

「父様、時間を稼いで」
「え?」
「母様、家にあるお香(こう/ 焚くことで香りを出す材質)を全部焚いて。外のお使者に煙がみえるように」
「どうしたの?」
「兄様、ちょっと手伝って」
「淑玲?」

私は家族に指示をだし、協力を願った。みんなぽかんとしている。

「私の一生の頼みよ!お願いっ!!」

父様が外に出ると、もう行列はうちの前に止まっていた。

「お父上様、何かあったのですか?なにやらすごい煙がおうちから出ておりますが…」
「…それが娘がですな、奇病にかかりまして」
「な、なんと??ご婚礼の日に??」

父様は汗をふきふき、お使者に頭を下げる。

「いったいどんな奇病ですかな?宮廷にはお医師もおりますぞ」
「それがなんとも奇妙なもので。口に出すのも…」

そう言って自分の服の袖を引き寄せ、涙をぬぐう真似をする。何気に演技派だったらしい。

「とにかく、娘は絶対安静。その奇病にきくという香をたいておるのです」
「香りもきつく…これ以上は近づけませんな。どうしたものか…。公子様に私はなんと伝えればよいのか…」
「その心配にはおよびません」

私はお使者の前にさっと現れると、きれいに礼をした。

「そなたは…?」
「淑玲の兄、淑河にございます。私から、直々に公子様にお話しいたしましょう。妹からの伝言も預かっておりますので。どうかお取次ぎを」

お腹に力を入れ、めいいっぱい低い声を出す。兄様に服を借りて、髪も結った。女と見破られたらそれまでだ。一世一代の大芝居。そんなことは初めてだった。女の姿のまま、この車に乗りたくなかった。乗ったら二度と何かから引き返せないような気がしたのだ。あの公子様はどういうつもりか知らないけど…。私は自分の心臓がこんなに大きな音をたてるのを生まれて初めてきいた。お使者は私をみとめると、ほっとしたようだった。

「そうして頂けますか?公子様はお会いできるのをとても楽しみにしておりましたので。それでは兄上様、車にどうぞ」
「はい。それでは父様。みんなによろしくお伝え下さい」

私は車に乗り込んだ。家族は(兄様はこっそり遠くから)心配そうに私を見つめている。私はなんとか笑顔を作った。そして、初めて入る宮廷を前に事の発端を振り返り、私は一つ大きなため息をついた。



=====================================

=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ YUKI「プレゼント」× 中華風作品たち ★

一度は書きたいと思っていた中華風モノ。それ系の好きな作品の詰め合わせになってました。書き終えて大ショック。本当は後宮のお話を書いてみたかったのに。その前で終わっちゃうし…。他にも色々反省が多いです。 ちなみにタイトルの「蹊を成す」は私の好きな言葉で、「桃李物言わざれども下自ら蹊を成す」というもの。魅力的な人には自然と周りに人が集まるみたいな意味だったかと。でも、字をそのまま生かして、桃の実がきっかけになった物語もありかなと思いました。

① YUKI「プレゼント」
http://www.youtube.com/watch?v=y00shgjLD24
かわいい女子も好きですが、男前女子もカッコ良くて好きです。YUKIの曲は全ての女子たちに向けた素敵な音楽って気がします。年齢を重ねるごとに、どんどんパワフルになっていく彼女。ずっと輝いてて最強だなあと思います。 こんな大人女子になりたいなあ。

② 中華風作品たち
中華風作品好きです。ヒロインがカッコいいのが多いから。「人形劇三国志」(←淑玲の名前はコレから)・「雲のように風のように」・井上祐美子「桃花源奇譚」(←漢字が違うかもですが、戴青と暉仁の名前はコレから)・雪乃紗衣「彩雲国物語」・小野不由美「十二国記」…など。設定も似たり寄ったりで反省。中華風モノは自分で書くより、読む方がいいなって思いました。難しいんだなあ。 中華風ではないですが、以下の作品も影響を受けてたのかも。 氷室冴子「ざ・ちぇんじ!」・池上永一「テンペスト」など。
=====================================
次回【第114夜】 女は氏無くて玉の輿に乗る(淑玲『宮廷浪漫』シリーズ2) 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-125.html
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コメント
こんばんは
これは、どうでる…と最後ニヤリとしたら、さすがでした。
機転がきくというか、もう頭がキレッキレですね!女の子なのにとても格好よかったです。


あと、どこで尋ねたらいいか分からなくて、コメント欄でそのまま書かせて頂きます。
1001夜ショートショートのリンクを私のブログに貼らせてもらっても良いでしょうか…!
もうすっかりトリコです~!

またお邪魔します!
Nicola│URL│07/17 22:07│編集
リンクの件
>Nicolaさん

いつも本当にありがとうございます!

ご質問のリンクの件なのですが、私ので良かったどうぞ~。
…というか、私もNicolaさんの「KNOW ME」のリンクを貼らせてもらってもいいですか??
まだリンクの貼り方がわからなくて、時間がかかってしまうかもですが、良かったら私も貼らせて下さい^^
素敵な小説ブログなので、私のところでもご紹介できたら嬉しいです。
難しかったら全然気にせず言ってくださいね!
rurubu1001│URL│07/18 06:52│編集

このお話はとても引きこまれた。
私好みの題材といえるでしょう(´・ω・`)
k│URL│07/18 09:27│編集

はじめまして。
桃、ですね。

兄の格好をした淑玲を目にする戴青がどんな顔をし、二人がどんな会話をするのか気になりますね。

話を聞いた舜仁がどんなコメントをするのかも。

カッコ良いお話でした。

スーパームーンと星の瞬くテンプレも素敵です。

ついでに、333踏みました^^

また来まーす^^
けい│URL│07/18 21:12│編集
リンクの件
こんばんは!レス失礼します。

あわわ!ありがとうございます!!
リンク早速貼らせてもらいました☆

私のブログのリンクも貼って頂けるんですか!!
嬉しすぎて鼻血出ます(落ち着け
もしよければ、是非お願いします。

これからも宜しくお願いします。
Nicola│URL│07/18 22:14│編集
みなさま、ありがとうございます!
>kさん
はじめまして。
コメントなどありがとうございます!
お好みにあっているとのことで嬉しいです。
またそんな物語ができるといいなあ^^


>けいさん
はじめまして。
コメント・テンプレなどありがとうございます!(333番目とのことで、おめでとうございます!笑)
なんか続きがありそうな感じになってしまい、申し訳ないです。でも、そう言って頂けると嬉しいです。
準備ができたら、彼らの続きを書いてみようかなって少しなりました^^
いい時にいつでもまたいらして下さいね。


> Nicolaさん
ありがとうございます!そんなそんな私の方が鼻血ですから(笑)。まだブログ慣れしてなくて、時間がかかるかもですが、ぜひ貼らせて頂きますね^^
rurubu1001│URL│07/19 00:06│編集

初めてコメントさせていただきます。

中華風ファンタジー、いいですね。
主人公が頭が良くて、少女らしい可愛さもあり、とってもいいです。
続きが気になりますので、これからもちょこちょこお邪魔させてください。
椿│URL│10/01 12:02│編集
椿さんへ
初めまして。コメントありがとうございます!

> 中華風ファンタジー、いいですね。 主人公が頭が良くて、少女らしい可愛さもあり、とってもいいです。 続きが気になりますので、これからもちょこちょこお邪魔させてください。

そんな風に言って頂けて恐縮&光栄です。ありがとうございます!><淑玲のことを気に入って頂けてとても嬉しいです!こちらの短編からスタートした物語でこれから続編となっていくわけですが、意外な展開にできたらと考えています。良ければ、続きを楽しんで下さいね。いい時にでいつでもお越しくださいね^^
rurubu1001│URL│10/02 02:35│編集
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