良ければ、先にこちらをどうぞ。
【目次】 『或るアプレ記者の回想(仮)』シリーズ 【作品紹介】
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-314.html
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『 …うちは苦労はなれとります。うちはあの人が、元気出してくれはって、世の中を明るう思わはる日ィまで、つきおうていたげよ思うてますだけどす。あの人にはこの世の中に友だちは一人もおへん。あの人に相談してあげる人はどこにもおへん。ほんまに孤独なひとどっせ。……あの人は時間花とらはっても、あたいとげんつけはったことおへんえ。あの人は、うちのおふとんの中で、何にもせんと、ただ寝ていかはるだけどすえ 』

    *

昭和二五年、七月二日午後。

鹿苑寺(ろくおんじ/通称・金閣寺)は衣笠山(きぬがさやま)と左大文字山に囲まれている。ワカギ警部見習いの話によると、金閣寺を放火した疑いのある若い修行僧は山に逃げた可能性が高いとのことだった。

「放火犯は現場から簡単に離れられないといわれています。自分の起こした火事の大きさ、騒ぎを楽しむ傾向がある。だからと言って、今回の場合は野次馬に紛れているとも考えにくい。坊主頭はやはり目立ちますよ」

ワカギ警部見習いの言葉を、凄腕女性記者のスエツグさんが引き継いだ。

「もし変装するようなやつなら、現場に自分の身元を明かすものを残さないでしょうね。この放火犯は世間に自分が火を放ったことを知ってもらいたいんだと思うわ。ワカギさんの言うとおり、金閣寺をよく見渡せる山の中に隠れてそうね」
「だから、これから山狩りなんですね!」

と私は納得した。生意気にも私は学生の分際で、ある人の手を借り、新聞記者に扮し、現場(金閣寺)に忍び込んでいた。

「でもワカギ警部見習い、山狩りは急いだ方がいいと思いますよ」

と、誰かが口を挟んだ。私に手を貸してくれた知り合いの新聞記者フクダさんである。

「僕の勘ですが、修行僧は自分の身のまわりの物をかたして犯行に及んだと思われます。寝具を燃やして火をつけたこともそう。たぶん修行僧は金閣寺炎上を見届けた後…」

ワカギ警部見習いはフクダさんにその先を言わせなかった。

「……まさか自殺する気か!?」

そのことに気づくと、彼は走り出していた。

「…はやっ!背中がもうあんなに小さい…」

彼の素早さに私が驚いていると、スエツグさんが笑った。

「ワカギさん、いいでしょう?まだ警部見習いだけど、真っ直ぐで、熱くて、お人よしなのよ。これで頂いた情報のお礼はできたかしら?出世してもらわないとね~」
「最後、僕に言わすまでもなかったんじゃないですか。スエツグさんなら、わかっていたでしょう?」

フクダさんが苦笑すると、スエツグさんは可愛らしく舌を出した。

「ごめんなさい。でも一番いいところは男性に譲らないと。まだまだ女の立場って弱いですから」
「ちゃんと恩をきせるあたりがうまいなあ」

フクダさんは愉快そうに笑った。それを見て、スエツグさんも満足げだ。新聞社や性別が違っても、ふたりのあいだには同志という強い絆があるのかもしれない。

「あら、やだ。こんな時間!号外を出すか確認しないと。私、ちょっと社に連絡してきますね」

自分の腕時計に目をやると、スエツグさんも急いでどこかに行ってしまった。

「慌ただしい人たちだなあ」

私がそう呟くと、フクダさんは言った。

「彼女は優秀ですよ。処世術をみにつけているし、適度にしたたかだ。記者には必要なものです」
「俺と彼女は全然違うタイプじゃないですか?なのに、フクダさんは、俺も記者に向いてると思うんですか?」

いつものえくぼを忘れず、フクダさんは笑った。

「ヨシダくんはそうですねえ。君は誰に対しても、それがどんな相手でも、たとえ目上の者でも、自分の思ったことをはっきり言うでしょう?」
「……はあ」
「そこがいいんですよ」

さっぱり意味がわからない。

「物怖じしないのは大きな強みですよ。先輩記者に言われたことですが、記者はどこか勝負師でなければいけないそうです。君は今まさにそうですね。本当は学生なのに、私をうまく使い、記者に扮してここ(金閣寺)に忍び込んだ」
「うまく使いってそんな…。人聞きの悪い」

フクダさんはふっと笑った。

「一見、失礼な言動でもなぜかそれを面白いと思わせる不思議な人間がいます」
「……それが俺だと?」
「さあ、どうでしょうか?ヨシダ君の言ってた通り、僕も見定めようと思いますよ」

― フクダさん、俺に言いましたよね?アプレ記者の資質があるって。なら、見定めて下さいよ。俺が本当にそうなのかどうか ―

「さて、スエツグさんとはここでお別れです。僕たちは僕たちで動きますよ。ようやく迎えも来てくれましたしね」
「え?」

フクダさんの視線をたどり、私は目をみはった。

「お待ちしていました」

そこには若い修行僧が一人、不敵な笑みを浮かべて立っていた。


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引用文献(冒頭)
・水上勉『五番町夕霧楼』 
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ああ、やっぱり長くなった…。上中下で終わらなそうなので、シリーズ化し、数字表記に変えました。すみません。物語はもう少し続きます。

内容のネタバレの可能性があるかもしれないので影響を受けた作品の詳しい紹介はラストに。同じ理由から、コメント欄も閉じさせて頂きました。申し訳ありません。1話で全ておさえたかったんですけど、やっぱり長くなりそうなので。さあ、頑張って続きを書かねば!あ、これくらいは紹介できるかな。

★ サカナクション『ミュージック』
https://www.youtube.com/watch?v=iVstp5Ozw2o
聞いてた音楽です。サカナクションを聞いてれば、『或るアプレ~』シリーズはなんとかなるなる。

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