きれいな弧を描いた。

それは僕が唯一、誰よりも高く、大きく、空に手を伸ばせる瞬間だった。
 
            *

「ムカイくーん!」

コンビニのレジ袋を下げたタナベが僕を呼んだ。

「また来たの、お前?」

軽く汗ばんでいた僕は、シャツの襟元のボタンを一つ外した。短い梅雨がさっさと明けて、七月に入り、気温も少しずつ上昇中らしい。

「来ちゃ悪いー?いいじゃん、どうせ『ひとりバスケ』でしょー?」
「何、その淋しいひとり遊びみたいな呼び名…?」
「だって、そうじゃーん」
「ちげー」

放課後、高校の近くにある公園のバスケットコートで、僕は一人でシュート練習をしていた。ある日、そこをたまたま下校中に通りかかったクラスメートのタナベに見つかってしまった。

「あれー、ムカイ君じゃん。何してんのー?」
「え?」

高校に入学して、ふた月くらい経った頃で、僕はまだクラスメートの顔を全然覚えていなかった。だから…、

「ごめん、誰だっけ?」
「超失礼ー!」

と、かなりひどい挨拶を交わした。でも、タナベは笑って、

「まあ、私たちの席、遠く離れてるしね。それにムカイ君、いつも速攻帰宅モードだったし、しょうがないかー」

と、フォローしてくれた。見た目が派手なのと不躾な口調でまわりに勘違いされそうだけど(お互い様か)、どうやら根はいいやつらしい。それから、彼女は何が面白いのか、ちょくちょくのぞきにくるようになったのだ。

「はい、ガリガリ君」

僕らはコート脇のベンチに座った。初めて公園で会った時と同じように、タナベは定番のアイスを僕に渡してくれた。

「またこれか?」
「いいじゃん。好きなんだもーん、ガリガリ君」

彼女はべりっとその袋を破くと、青いソーダ味のアイスを取り出した。そして、いただきますのかわりに、

「ガリガリ君、考えた人、天才ー!」

と、お菓子会社に謎の敬意をしめし、美味しそうに食べ始めるのだ。変な子…いや、面白い子だった。

僕も食べる。アイスの爽やかな味が舌によく馴染んでうまかった。

「ムカイ君、どうしてバスケ部、入んないの?」

いきなりタナベが聞いてきた。

「何度も言ってんじゃん。タイミングを逃しただけだよ」
「ふうん。うまいのに、勿体なーい」
「うまいって…、お前、バスケよく知らないだろう?」
「知らないけど、見てればわかるよー」

彼女はゴールポスト指さした。

「あそこにボールが入れば、いいんでしょー?」
「まあ、そうだけど」
「ムカイ君、バンバン決めてんじゃん」

でも、それじゃダメなんだ。

「しかも、かなり遠くからボール投げてさー、スパッと決めるよね」
「スリーポイントな」
「いいよねー、あれ。決めた時、超気持ち良さそうー」

試合中に決めたら、もっと気持ちいいんだぜ。

「入んなよ、バスケ部。中学でもやってたんでしょー?」
「まあね」
「じゃあ、入ればいいのに。勿体ないなー」

色々事情があるんですよ…。

「あ!」
「え、何?」

タナベが急に大声を出した。隣りをみると、彼女はニンマリして、

「また、当たりだ!」

と、きれいに完食したガリガリ君の棒を僕の顔に近づけた。ふたりでこうして並んで食べるようになってから彼女は連勝中なのだ。

「お前にはきっと、ガリガリ君の神が降臨してるな」
「それ、いいねー。神、降臨!ムカイくんは、またはずれー?ざんねーん!」

きっと、あれから運とツキに見放されてるんだと思う。

「また、次があるよー」

と、タナベ。
俺ら、一体どんだけガリガリ君、食うの?とは、喜んでいる彼女にさすがに言えなかった。


 怪我をしたのは中三の冬だった。

受験の息抜きにと部活のメンツと久しぶりに集まってやったお遊びのバスケ試合。そこで膝をやった。ゴールにうまく収まらなかったボールを拾おうと飛んだら、何人かと重なった。そこで下敷きになった。一番下に押しつぶされたっていうね。…何やってんの、俺。

致命傷ではなかったけど、リハビリは必要で病院通いが始まった。親は受験があったから、手じゃなくて良かったとこぼしていた。別にスポーツ推薦をもらうほど優秀じゃなかったけど、俺の中でバスケはかなりでかかったから、なんだかカチンときた。…本当何やってんの、俺。

高校には無事受かった。親も納得するような進学校でバスケもそこそこ強いところに。自分で選んだ場所だ。入学してからも放課後はしばらく通院が続き、ようやくリハビリが終わったころ、部活に入部するシーズンはとうに過ぎていた。

仮入部だけでもできたはずなのに、どうしてだろう。僕はそれをしなかった。自分でもよくわからなかった。

「はい、ガリガリ君」

タナベは懲りずに何度もやってきた。

「ムカイ君、どうしてバスケ部に入んないの?」

そのセリフも繰り返し、繰り返し、続けてくれた。

「あ!また、当たった!」

神すぎる発言も何度も。何度も。

「ムカイ君、ざんねーん!」

なんかそこまで当たりすぎると、もう陰謀めいてねえ?

「なんかすごーい。ここまで当たりすぎると逆にこわいよねー」

…ですよね。そうですよね。そう思いますよね。

「今日は神様からムカイ君にプレゼントしてあげるねー」

そういうとタナベは僕に自分のガリガリ君の当たった棒を渡した。僕はそれを受け取り、ため息をついた。

『当たり』

何がだよ…。俺の何が『当たり』なの?さっぱりわかんないんだけど…!

「タナベはさー、よくここに来るじゃん?どうして?」

口から転げ出た言葉は、どうしようもなく尖っていた。

「『ひとりバスケ』してる俺が、かわいそうだった?」

最悪だ。でも、止まらない。

「もう俺に構わないでくれよ、頼むから」

僕は俯いた。タナベがサッと立ち上がる気配がした。そのまま帰るかと思った。でも、違った。

「ムカイ君、見てて!」

彼女はバスケットボールを拾い、スリーポイントラインに立つ。そして…

「アチョーーーーーーーーーッ!」

変な奇声を発し、ボールを投げた。前にバスケ初心者のタナベに漫画を貸したことがある。あれはその某バスケ漫画のヒーローがシュートを決める時の雄叫びじゃ…??

なんだかメチャクチャなフォームだった。あんなんで入るわけがないだろうと思った。案の定、やっぱりボールはゴールリングに当たって豪快に外れた。わかっていただろうに、タナベは深くうなだれた。

「やっぱりダメだー。ひどいよー、ガリガリ君のせいだよー」

彼女の呟きに僕は首を捻った。

「私の運を根こそぎ持ってっちゃってさ…」

……運の問題…?

タナベは顔を上げると、キッと僕を睨んだ。

「私ねー、前から知ってたんだ、本当は。ムカイ君のこと。高校に入る前から」
「え?」

いきなり話題がかわり、僕は戸惑った。何の話をしてるんだ、この子は。

「リハビリに来てたでしょう、病院に?」
「どうしてそれを…」
「私もあの病院にいたの。気づかなかったと思うけど」

タナベの目は真剣だった。僕はただ驚いていた。

「私もちょっとリハビリが必要な怪我しててさー。陸上やってたんだけどね。私の場合、致命傷でさ。スポーツ推薦はなくなるし、かなりショックだった…。そんな時にね、見つけたんだよね。いつもリハビリ開始時間より早くきてるのに、土壇場で逃げ腰な男の子をさー」

げっ。

「確かにリハビリってきついし、逃げ出したい気持ちはよくわかるのー。でも、それだけじゃない気がして。なんでだろう?って、ずっと気になってたー。その子と同じ高校だって知って、ますます知りたくなったんだー」

タナベは困ったように笑って言った。

「で、『ひとりバスケ』してるのを見て、ようやくわかった」

次に、困ったように笑うのは僕の番だった。だから、彼女に言わせず、僕は自ら告白した。

「…みんなと、やるのがこわくなったんだ」

怪我をしたとき、膝をやられた。それだけじゃなかった。心もやられていた。みんなに押しつぶされたことから、恐怖心が芽生えたのだ。

「もうバスケできるのに何やってんだろう。俺、カッコ悪いよな?」

タナベは一瞬考えてから言った。

「う~ん、わかんなーい」

僕は苦笑した。タナベは続けた。

「そう言ってるのは確かにカッコ悪いかもしれない。でもムカイ君は、まだ何もしてないじゃない?」

僕はタナベを見た。タナベはニンマリ笑った。

「やれること、全部やりに行こうよー」
 

            *



 夏休み。

バスケ部で練習に励む僕がいた。体育館で筋トレをする。なまってた体が少しずつ昔のリズムを取り戻していく。ふと笛が鳴った。

「はーい、集まって下さーい」

マネージャーが集合をかける。

「差し入れでーす」

大きなレジ袋の中身は、大量のガリガリ君だ。部員全員で不満をもらす。

「またかよー」
「せめて味、変えてー。全部ソーダじゃん」
「どんだけ好きなの、マネージャー」

それらを、あの笑顔でみんなにこたえるタナベがいた。なんだかんだと、彼女はそこそこかわいいから、みんな結局許しちゃうっていうね。

僕らはみんなでガリガリ君を食べた。なんだか夏の風物詩になる勢いだな。

「ムカイ君、またはずれー?」

タナベが僕の隣に座る。場所が変わって体育館の床の上でも、僕らは並んで座っていた。

「うん、はずれだね。タナベは?」
「ジャーン!私もはずれでーす」

でも、タナベは喜んでいた。

「なんかあれ以来、不発でさー。神様もどっかにいっちゃたのかなー?」

彼女もあの日、何かが変わるきっかけを得たのかもしれない。

「ガリガリ君の陰謀だよ、きっと」
「それ、いいねー!ガリガリ君の陰謀かー。そのせいでムカイ君は永久にでないんだね、当たりー」

そんなことないぞ。お前は、知らないだけさ。

僕は立ち上がり、スリーポイントラインに立った。

「タナベ、見てて!」

深呼吸して、シュートを打つ。ついでにあの奇声も真似してやった。

僕はタナベに言ってなかった。

本当はタナベに初めて会った日、彼女が僕にくれたガリガリ君は『当たり』だったのだ。

「ちょっとー、まねしないでよー!」

きれいな弧を描いた。

それは僕が唯一、誰よりも高く、大きく、空に手を伸ばせる瞬間だった。



=====================================


=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 浅田弘幸「I'll~アイル~」 × GOING UNDER GROUND「Kodama」 ★

そろそろスポーツものとかどうかな?と思い、UPする3・4時間くらい前に音楽を聞きながら書いてみました。まだ高校生の青春モノ書けるかな?と内心びくびくでした。

① 浅田弘幸 「I'll~アイル~」
http://www.amazon.co.jp/Ill%E3%80%9C%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%80%9C-1-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%81%82-61-6/dp/4086192616/ref=sr_1_8?s=books&ie=UTF8&qid=1373294629&sr=1-8&keywords=%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%80%80%E6%96%87%E5%BA%AB
主人公が彼女に貸した漫画がコレ。バスケ漫画と言えば某漫画が有名ですが、私はこれ派。同時収録されている「-#(マイナスナンバー)」というのがまたいいんですよ。 「I'll~アイル~」登場人物たちの過去が知れるスピンオフシリーズ。短編の描き方を学んだような気がする。中でも「桜の色」は何度も読み返しました!

②  GOING UNDER GROUND「Kodama」
http://www.youtube.com/watch?v=XKSmDtTyZnQ
「I’ll」のイメージアルバムで知ったGOING UNDER GROUND。今回は「Kodama」を聞いてましたが、「サンセット」も好き。
GOING UNDER GROUND「サンセット」
http://nicogame.info/watch/sm2489917

③ 赤城乳業株式会社「ガリガリ君」
http://www.garigarikun.jp/
私も彼女じゃないですけど、ソーダが一番!彼女のモデルは高校時代の親友みたいですね、どうやら。

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コメント
はじめまして
こんばんは。
Nicolaといいます。はじめまして!

時々チラッと来て、読まさせてもらってました!
いつも素敵なお話だなーと思っていましたが、今回のがとても自分的に気に入ってしまい…
つい衝動的にコメント欄に来ちゃいました☆

またきますね!
これからも楽しみにしています!

おじゃましました~!
Nicola│URL│07/02 20:29│編集
Re: はじめまして
>Nicolaさん

こんばんは。はじめまして。
rurubu1001です。

コメント・ご訪問など、いつもありがとうございます!

(まだブログに慣れてなくて、コメントの返信の書き込みがうまくできていなかったらすみません!)

とても嬉しいです。なんか照れちゃいます。
…でも、なんかふざけた物語のタイトルですみません(苦笑)。

毎日の更新は難しいかもですが、
良ければ、いいときにいつでもいらして下さいね。

私もNicolaさんのブログ、良ければお邪魔させて下さい。
(たくさん足跡残していたらすみません)

これからもよろしくお願いします!
rurubu1001│URL│07/02 22:06│編集

ガリガリ君はマネージャーのトレードマークになったのですかね。
冬も出していたら筋金入り?

大好きなスポーツが怪我でできなくなるのってホント辛いですよね。
高校に入って新入の時期になんて痛い。
でも、ガリガリ君の陰謀おかげ(?)で無事に夏休みを迎えられて良かった。

エースになれるよう、応援していますね。
あと、二人の関係もうまくいきますように^^
けい│URL│09/02 19:59│編集
Re: タイトルなし
けいさん

いつも本当にありがとうございます!

> ガリガリ君はマネージャーのトレードマークになったのですかね。冬も出していたら筋金入り?

彼女なら冬も出しそうですね!^^

>大好きなスポーツが怪我でできなくなるのってホント辛いですよね

私の友人とかそういう経験をしてる人が割と多くて><でも、みんな強いなあと思います。

> エースになれるよう、応援していますね。あと、二人の関係もうまくいきますように^^

エース、なれるといいですよね!あとふたり、上手くいくといいなあ。
rurubu1001│URL│09/02 23:08│編集

最初の2文から綺麗ですねー!
すみません、1日1話じゃ物足りなくて
ストーカー気味の私です(笑)

rurubu1001様の「俺様路線テスト」のコメントから
こちらに来ました!
拍手を押したので、ランキング順位が変わるかもしれません(笑)

そうそう、こういうちょっとお互い意識してるけど
恋愛にまではまだ発展しない
微妙な距離感、大好きです。
でも、ムカイくんといつもその隣に座るタナベさんは
きっとその内、いつの間にかなんとなく(←ポイント)
付き合っているような気がします(笑)

単にスポーツでくじけた者同士というだけじゃなく、
「ガリガリ君」をキーアイテムにしたのは
すごくいいアイディアだと思いました。

rurubu1001様の作品、まだ数える程しか読んでいませんが、
全部「当たり」です。ハズレなし!
文章も構成も内容も上手いなあと思います。
1001作目を書かれる頃には、
第2の星新一さんとして有名になられているかもしれませんね。
Sha-La│URL│09/18 01:55│編集
Re: タイトルなし
>Sha-Laさん

いつもありがとうございます!

> すみません、1日1話じゃ物足りなくてストーカー気味の私です(笑)

むしろ逆に感謝&感激ですよ~!一日の拍手の数をみると、一気に10作品くらいまとめて読む方もいるようですので、全然大丈夫ですよ^^みなさんが無理せず、楽しんで頂くことが一番ですから。Sha-Laさんのペースでぜひ。(ただ私が早め&頻繁にコメント返信ができず、申し訳ないです!遅いかもですが、きちんと後で返信させて頂きますので><)

> 拍手を押したので、ランキング順位が変わるかもしれません(笑)

おお!本当だ。ここまで順位を上げてくるとは、ガリガリ君恐るべし。というよりも、皆様の拍手のおかげです!ありがとうございます!

> でも、ムカイくんといつもその隣に座るタナベさんはきっとその内、いつの間にかなんとなく(←ポイント)付き合っているような気がします(笑)

そのポイントわかります(笑)!そうなることを私も期待!

> rurubu1001様の作品、まだ数える程しか読んでいませんが、全部「当たり」です。ハズレなし!文章も構成も内容も上手いなあと思います。1001作目を書かれる頃には、第2の星新一さんとして有名になられているかもしれませんね。

ええ??そんなそんな恐縮ですっ!!私は全然なのでっ!!でも、そう言って頂けて、とても励みになったというか感謝でいっぱいです。本当にありがとうございます。1001作品書けることを目標にこれからも頑張りますね^^
rurubu1001│URL│09/18 22:09│編集
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