ユリが突然僕の家に押しかけてきたのは、十二月二十四日の夜―つまり、クリスマスイブの夜だった。遅い時間にチャイムを鳴らされ、もしやと一縷の望みをかけてドアを開けると、そこにはユリが立っていた。的は外れたが、よもやなぜユリが…?と驚いている僕以上に彼女は驚いたらしく、
 
「何でいるの?」

と開口一番に言ってくれた。つい僕はその言葉にムッときてしまって、

「それは、俺のセリフだ」

と睨みをきかせて言うと、ユリは少しすまなそうにしてから、笑ってごまかした。そんな彼女に変わってねぇな、と僕もつられて笑ってしまった。とにかくあがれよ、と僕は言い、ユリは大人しく一人暮らしの手狭な僕の家に上がった。

「へぇ。けっこういい部屋だね」

ユリはコタツに入ると、ぐるりと僕の部屋を見渡した。

「コーヒーでいい?インスタントだけど」

キッチンに向かう僕がそう訊ねるとユリはお構いなく、と返事をしてから

「あ、ミルクは…」
「たっぷりだろ?」
「さすが。わかってらっしゃる」

と嬉しそうに微笑んだ。ミルクたっぷりのコーヒー(っていうより、カフェ・オレ?)を作りながら、こいつとはもうどのくらいあっていなかったんだろう、と考えた。電話はちょくちょくしていたが、確か最後にあったのは…。

「高校の卒業式以来ね」

いきなりユリが話しかけて、そう教えてくれた。ということは、もう半年以上あっていないことになる…。女は大学に入ると変わるというが、ユリは見たところ、さっぱり変わっていない様子だった。美人ではないが、可愛げのある顔に黒髪のショートがよく似合っているのも。本人は気にしてはいるが、小さくて白い細い体も。どこか小動物めいていた彼女は、高校時代とにかく皆に愛される不思議な子だった。制服を着せれば、まだまだ高校生でいけるんじゃないか、と一瞬あやしげな思考に向かったが、慌ててそれを遮って、僕は彼女に訊ねた。

「どうしたんだよ?急に来て」

ユリは来るだろうと予期していた質問に、やっぱりため息をもらした。

「ほら、イブでしょ?一人じゃ淋しいなぁと思って。それに…」
「それに?」

少し気まずそうに僕を見てから、

「もしかしたら、いるかなぁと思って。…期待してたわけじゃないの。きたらいたで、こっちがびっくり」

おいおい。その言い草だと、まるでいる僕が悪いみたいじゃないか…。今度は僕がため息をつく番だった。

「何かあった?っていうか、私はここにいて平気なのかしら?」

ユリは少し不安そうに僕に問いかけた。本当はもうわかっているはずだった。待っていても来ないということを。でも、微かな望みを持ち続けていた。ユリがきたところで、潮時のような気がした。

「ケーキ食う?苺と生クリームたっぷりの」

そう僕は言って、笑った。ユリはそれで全てを理解してくれたようだった。そして、僕の弱い心を吹き飛ばすような変わらない自慢の笑顔で、

「うん、『食う!』」

と元気よく、こたえてくれたのだった。

冷蔵庫からケーキを運んでくると、ユリがバックの中からゴソゴソと小さいシャンパンのボトルを取り出していた。

「ごめん。やっぱり少し期待してたの。…安っちいのですが」

そうはにかんで笑うユリが懐かしく、僕を微笑ませた。

ふたりでホールケーキをナイフで切らず、フォークで摘んで食べ、シャンパンを飲む。いい感じに酔いがまわってくると、饒舌になり、お互いの近況報告をした。大学のこと。バイトのこと。最近あった面白かったこと…など。テレビではイブの夜にお馴染みの明石家サンタが、僕らのような淋しげでいたいけな子羊たちに、笑いを振りまいていた。

「さんまさん、いいよねぇ」

顔をほんのり赤くさせたユリが呟いた。

「決めた!私、さんまさんと結婚するっ!」
「バーカ。お前じゃ無理だ。さんまさんはな、俺と結婚するんだよ!」
「何それー?」
「だっはっは」

僕も随分酔いがまわっているようだった。思考が定まらないまま、つい口が滑ってしまっていた。

「…今日、本当は待ってた子がいたんだ」

僕は情けない顔でしていたと思う。ユリは少し驚いた表情を見せたが、しばらくしてから、

「そっか」

と、ぽつりと言った。一度切り出したら、僕はもう止められなくなっていた。

「凄く良い子だったんだ。でも、俺のせいで笑わなくなってきちゃって…辛いって。それで別れた。二日前だぜ?あ、もう二十五日だから、三日前か…」

どこか自嘲するような僕に、ユリは何も言わないで、ただ優しく見つめていた。そして、小さい柔らかなその手のひらで、昔のように僕の頭を撫でてくれた。それが合図のように、僕はつい彼女を抱き寄せていた。ユリは決して物怖じせず、僕が離すまでそのままでいてくれた。そのおかげで僕はやっと心が安らいでいくのがわかった。ここ二、三日バカみたく沈んでいたのだ。やがて耳元でユリが囁いた。

「前にも思ったんだけど、これじゃ、私たち恋人同士みたいね」
「…うん」
「いっそのこと本当の恋人にでもなる?」
「え?」
「クリスマスの本番は、イブじゃなくて今日だしさ」

僕はユリの顔を覗き込んだ。ユリは悪戯っぽく微笑んでいたが、その顔はどこまでもあたたかなものに満ちていた。

「…それも、ありかな」

ついその優しさに甘えそうになる僕にユリは、

「バーカ。冗談よ!」

そう舌を出して、笑った。本当に変わらねぇな、と僕もまた笑った。


=====================================
一応つづきもありますが、ここで終わるのが個人的には好きだったりします。

2014/5/6追記 『ユリ』シリーズ後半に関しては今後、毎年クリスマス期間(12/24~25)のみ全体公開にさせて頂きます。みなさまのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

つづき 【第71夜】 ラスボスたち(ユリ2)
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-77.html
=====================================

=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★村山由佳「夜明けまで1マイル」× 宮澤賢治「銀河鉄道の夜」★

もともと「ユリ」はもう少し長い短編作品でした。書いたのは高校生~大学生のとき。

宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」を読み、ジョバンニとカムパネルラが男女だったら、また違った展開になっていたんじゃないのかな?と思ったことがあり、それが生まれるきっかけだったような。(書いた後、保存していたファイルが壊れるとは思わなかったけど)授業中、ノートに手書きで最初書いてたような気もするので(不真面目な学生でした…)、もし当時のノートが見つかって、短編として抜き出せそうな部分があったら、またここでUPさせてもらおうかと思います。

① 村山由佳「夜明けまで1マイル」
http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%9C%E6%98%8E%E3%81%91%E3%81%BE%E3%81%A71%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%83%AB-somebody-loves-you-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB/dp/4087477746
村山由佳さんの初期作品は青春モノが多くて私好み。中でも一番好きなのが「夜明けまで1マイル」。幼馴染の男女の微妙な距離感のやりとりがとても好きでした。お互い違う恋愛をしているんだけど、うまくいかなくて、支えあうお話。ふたりでやる「お葬式」と呼ばれる場面が大好きでした。女の子が突然前ぶれなく男の子の家を訪ねに行ってしまうところや二人の微妙な感じはこれの影響を大きく受けたのかもしれません。ふたりはその後どうなったのかとても気になるんですよね。後味のいい素敵な作品。


② 宮澤賢治「銀河鉄道の夜」
http://www.youtube.com/watch?v=ZfjurHz2vrA
私は小説より先に小さい頃アニメ映画で知りました。猫の絵で描かれている彼らです。名作だから知っている人も多いかと思います。主人公と親友の男の子が一緒に銀河鉄道と呼ばれる不思議な列車に乗り、旅をする話。

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コメント

初めまして。
ぐりーんすぷらうとです。

何度か伺わせて頂いております。
とっても素敵なお話が次々と!
素晴らしいです!!
本当に千夜一夜みたいですね♪

ちなみに「青春」にあるお話が私はすっごく好きです。
特にこのユリが青春の甘酸っぱさを感じるというか、キュンときてしまいました。

二人はそれでも結局はそのままの関係なんですかね?まあ、聞くのが野暮といった所だとは思いますが(笑)

また密かにお伺いします(笑)


ぐりーんすぷらうと│URL│07/03 01:32│編集

すっごく長いお返事ありがとうございます&びっくりしました(笑)

そうですか、長編の一部だったんですね。
でも、確かに悲恋な感じはラスト部分からも伺えたので、大丈夫です。
何が大丈夫かって私的に(笑)。

銀河鉄道の夜は私も好きです♪
&村山由佳さんの方はすみません、全く知りませんでした。。。

でもすっごく興味が惹かれますのでまた読んでみたいと思います。

ちなみに幼馴染って設定に私はすっごく弱いです(笑)

何度も書き込みしてすみません。
わざわざ書いてくださっていたので、せっかくなのでと思いまして。。。

ありがとうございました。





ぐりーんすぷらうと│URL│07/05 12:17│編集
rurubu1001より
> ぐりーんすぷらうとさん

何度もコメント頂いてしまい、すみません!><(2日ほどPCから離れた環境にいて気づかなくて…)コメントになれてなくて、むしろお気をつかわせてしまい、申し訳ありませんでした。私のコメント&作品紹介は全然お気になさらないで下さいね^^


>みなさま

「=影響を受けた作品のご紹介=」は、もともと、私がこのブログを始めた時に自己満足で一緒に平行してやって行きたかったものなんです。物語を一気にUPしたら、後であいだに紹介文を書けないという驚愕の事実に気づき(ブログ初心者ですみません…)、今になって「コメント欄だったら、平行して好きな時に紹介文かけるかも!」と気づいての更新だったので。全然お気になさらないで下さい^^

何より見に来て頂いてる方が気持ちよく、楽しんでもらえるのが一番なので、コメントもご負担にならない程度&気が向いたらでぜひお願いします☆

最近、拍手も増えてきて、感謝でいっぱいです。いつもありがとうございます。

ご都合のいい時に、ぜひ楽しんで下さいね。
rurubu1001│URL│07/07 21:02│編集

え、冗談よ、なのですかい?
微妙ぅ~~。これってさあ・・・
と、うんちくを述べたくなります。
でも、述べません。
何か、今からこの二人の来年のクリスマスが気になっています。。。
けい│URL│07/24 21:39│編集
Re: タイトルなし
>けいさん

いつも本当にありがとうございます!
そうなんですよ。微妙な感じで終わるっていう…(苦笑)。
本当はもう少し長い短編だったんですが、保存してたファイルがこわれ、
続きが見れなくなってしまって><申し訳ないです。
ノートに手書きで授業中書いてた気もするから、それが見つかったらUPしますね^^
rurubu1001│URL│07/25 00:00│編集

1話を読んだら次は2話だろうと
2話を読んでみました。

そうそうそうそう!
こういうの!
すごく好きなんです!

どこか恋愛が入り混じったような友情。
なんかちょっともどかしい感じの関係。
私だったら安易に二人を恋人同士にして
終わらせちゃいそうですが(笑)

ジャンル分けすると「青春もの」になるんですね。
じゃあ、次は青春カテゴリーのを読んでみよう。
(順番に読めよって感じですね。すみません…)
Sha-La│URL│09/17 00:49│編集
Re: タイトルなし
>Sha-Laさん

コメントありがとうございます!

> どこか恋愛が入り混じったような友情。なんかちょっともどかしい感じの関係。ジャンル分けすると「青春もの」になるんですね。

私も微妙な距離感が好きでして^^
そういうのばかり書いて青春カテゴリに入れていたつもりが案外入ってなかったことに気づきました><
(青春もの増えちゃうから、さらにジャンル分けして他のところに行ってしまったのかも…)

「青春」カテゴリには恋愛ものもありますが、どうも青臭い感じの物語が入ってるなあ…。

ランキングを見ると、青春モノでは【第21夜】 ガリガリ君の陰謀 が入ってるみたいですね。
これは友情なのか恋愛なのか…という感じが少しあるかもしれないです。
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-21.html

でも、全然お好きなところからぜひ^^
(カテゴリ「目次&拍手ランキング」に下の方にUPした分の物語全部の簡単なあらすじをのせていますので)
rurubu1001│URL│09/17 22:16│編集

シリーズものですか?

何だかとても甘酸っぱくていい感じですね♪
最後に本当に恋人にならないところがいいです。
こういうのは大好きです。
ヒロハル│URL│12/09 22:26│編集
Re: タイトルなし
ヒロハルさん

コメントありがとうございます。

> シリーズものですか?何だかとても甘酸っぱくていい感じですね♪最後に本当に恋人にならないところがいいです。こういうのは大好きです。

『ユリ』はシリーズもので今集中連載しているところなんです。もう少しで最終回予定なんですが、クリスマス後はブロともさんのみの限定公開になる予定なので、もしよかったら。でも、全然お好きなところからどうぞ~^^
rurubu1001│URL│12/10 01:46│編集

ああ~、なんか甘酸っぱくていいですね。自分では青春もの書けないので、(なんか絶対サスペンスに持って行ってしまうので)こんなひと肌で温かな青春もの、読めてうれしいです。

でも影響を受けた作品の中にあの銀河鉄道の夜があるのにびっくり。私、原作も好きですが、ネコのあのアニメも、すごく好き。この二人はジョバンニとカンパネルラ?
発想が面白いです!

またゆっくり追いかけますね。この先が楽しみです。
lime│URL│01/11 21:41│編集
limeさんへ
コメントありがとうございます!

> ああ~、なんか甘酸っぱくていいですね。自分では青春もの書けないので、(なんか絶対サスペンスに持って行ってしまうので)こんなひと肌で温かな青春もの、読めてうれしいです。

そんな風に言って頂けて恐縮&光栄です><。でも、limeさんの作品は青春要素があるように感じましたよ。とても読みやすかったですよ!^^

> でも影響を受けた作品の中にあの銀河鉄道の夜があるのにびっくり。私、原作も好きですが、ネコのあのアニメも、すごく好き。この二人はジョバンニとカンパネルラ?発想が面白いです!

そうなんです。モデルはジョバンニとカンパネルラで、もし、彼らが男女だとしたら、また少し違った関係になっていたのかもしれないと思ったのがきっかけだったんです^^ネタバレになるので多くは語れませんが、物語が進んでいくうちに「あ!」と気づかれるかもしれません。

> またゆっくり追いかけますね。この先が楽しみです。

ありがとうございます!でも、全然いい時にぜひ。
私もゆっくりlimeさんの作品を追いかけさせてもらいますね!『KEEP OUT』楽しみ^^
rurubu1001│URL│01/12 00:44│編集

何だかわかるわぁと思いながら拝読しました。
私は、実は青春も恋愛も苦手なのですけれど、いっそ直球で「すれちがい」とか「どっぷり恋愛」とか「お涙頂戴」とかは、気になれば読んでいます。気になれば、というのは、世間でのベストセラーにおける、余命幾ばくもない人の恋愛とかは絶対見ないんですけれど(でも、みたら泣く)。
その中で村山由佳さんは結構好きなんです。文章も流れるようで読みやすいし。『星々の舟』は私のバイブルコーナーに並んでいます。こんなのが書きたいと思ったからなんです。
『銀河鉄道の夜』も好きですけれど、こちらはどっぷり賢治ワールドとしての「スキ」かな。

2人の関係が優しくていいですね。で、飲みながら話しているうちに打ち明け話になっていくあたり、これからを期待させる素敵な物語の入り口という感じで……
rurubu1001さんのお話・文章は読みやすいですね。う~ん、羨ましい…・・
これだけの世界を次々と書いていかれる世界の広さに圧倒されます。この続きも気になるけれど、順番に行くことにしました(*^_^*)
大海彩洋│URL│01/18 09:04│編集
大海彩洋さんへ
コメントありがとうございます!

> その中で村山由佳さんは結構好きなんです。文章も流れるようで読みやすいし。『星々の舟』は私のバイブルコーナーに並んでいます。こんなのが書きたいと思ったからなんです。

村山由佳さん好きとのことでとても嬉しいです^^流れるような文章ってよくわかりますー。物語の世界に入りやすいんですよね。読書が苦手だった頃、友人に「読みやすいよ」とすすめられたのが村山さんでした。『星々の舟』、私も読みましたよ。重いテーマの作品ですが、最後の父親の章が特に忘れられません。思い出しても泣けます!><

> rurubu1001さんのお話・文章は読みやすいですね。う~ん、羨ましい…・・

ややや!そんな恐縮すぎます!大海彩洋さん作品に比べたら…!!
博学の上、絶対プロの方に違いない!と思いました!!今、『清明の雪』を半分まで読んだところなんですが、その文章力に脱帽です。真くんがみる不思議な世界の場面も、自然と入りこんでしまっています。あんな風に絶対私は書けませんっ!!あと、半分で物語がどう展開するのかとても楽しみです^^

> これだけの世界を次々と書いていかれる世界の広さに圧倒されます。この続きも気になるけれど、順番に行くことにしました(*^_^*)

そんなそんな!ありがとうございます!いつでもいい時にいらして下さいね^^私も訪問させて頂きます!!

rurubu1001│URL│01/18 22:52│編集
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