夏休みに入る前、僕は呼び出しをくらった。国語の担当教師ミヤザワに。

「呼び出された理由はわかるな?」
「さっぱりわかりません!」
「とぼけんな」

がさつで髭面のこのおっさんは教科に似合わず、性格は体育会系だ。とりあえず、僕は思いついたことを言ってみた。

「授業態度は悪くないですよね。宿題もきちんとやっていますし。成績も悪くない。ついでにいうと、自分で言うのもなんですが、字も丁寧できれいだと思います」
「そうだな。素晴らしい自己評価だ。お前は授業態度も悪くない。宿題もきちんとやっている。成績も悪くない。どっちかというと、かなりいい方だな。ついでに字もきれいだ、俺よりも」
「じゃあ、なんでしょう?」

先生は人差し指を立てた。

「中身の問題だ」
「は?」
「とぼけるのもそこまでだ。ここからだ、よくきけ。俺の出している宿題は何だ?」

嫌な予感がした。

「…読書ノートです」

僕がそう言うと、先生は頷いて質問を続けた。

「それはどんなものだ?」
「週に一冊、本を読み、感想を書く。いわゆる読書感想文をノートとしてまとめたものです。読書を習慣化するのが目的ですよね。毎週月曜の一限、国語の時間に提出、週末までに先生のコメント付きで返却されます」
「よくわかっているじゃないか」
「はい。それが何か?」

平常心を装う。本当は脇の下に嫌な汗をかいていた。

「お前は実にいい感想文をノートに書いているよ」
「ありがとうございます」
「どれも面白い本なんだってこともよくわかる」

妙に芝居かかった仕草で先生は僕に迫ってきた。

「でも、不思議なんだよなー」
「…何が、ですか?」
「俺はそれを知らない」

ギクリ。

「お前は言ったな?週に一冊、本を読み、感想を書く」
「ですから、それが何か?」
「さっきのを正確に言いなおそう。お前が読んだという本すべてを、俺は知らない」

先生はゆっくりといたぶるように言う。そして、冷めた目で僕を見た。

「仮にも俺は国語教師だぞ。たいていの奴より本を読んでいるつもりだ。そんな俺の知らない本がずっと続いている。それが、どういうことかわかるか?」

ヤバイ。

「お前、本当に本を読んでいるのか?その本は存在しているのか?」

………。

「お前が書いたのは、まだこの世に発表されていないもの。そうだな?」
「…すみません」

素直にあやまった。

「あれは、お前の自作だな?」
「へへへ」
「へへへ、じゃねー!国語教師なめんなよ!」
「本当にすみませんでした!」

先生は腕組みをする。

「一応聞くが、どうしてあんなことをしたんだ?俺への…いや、教師へのあてつけか?反発心か?まあ、ぶっちゃけ、そんなの俺的には、どうでもいいんだけどな。あんまり興味なくてなあ。思春期の押し売りなんてものは」

思春期の押し売りって…。仮にも先生なのに。

「お前には、宿題をきちんとしてこなかった罰がある」
「えー」
「えー、じゃねー!俺を見くびった、お前が悪い!」
「…すみません。何をすればいいんでしょうか?」

先生は僕の読書ノートを出すと、適当なページを開いた。

「赤丸つけたところ、しっかり仕上げてこい」
「は?」
「作品にして、仕上げてこいって言ってるんだ。もうお前の中に、存在してるんだろう?こんなふうに小出しにできるんだから」

僕はこの時になって、初めて先生をきちんと見た気がした。

「教師も人間だ。才能や可能性をつぶしたり、否定したりする奴が多いかもしれん。でも、俺は小粋な種には適度に適当に水を撒きたいんだよ」

僕は下手に笑った。

「…思春期の押し売りには、興味ないんじゃないんですか?」

先生はニヤリとした。

「中身の問題だ」

僕は先生からノートを受け取った。気のせいか、自分の手が、心が、震えていた。

「夏休みの宿題だからな。しっかりな」

そう先生は笑って、僕の背中を勢いよく叩いた。


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=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 宮澤賢治 × 羽海野チカ『3月のライオン』 ★

もともと学生時代に書いた、宮澤賢治をモデルにした先生の物語があって、今の私がそれをもう一度書き直すとしたら?現代版の先生を書くとしたら…?というのが、このミヤザワ先生が生まれたきっかけでした。なぜか思い切り体育会系になってますね。羽海野チカさんの描く先生たちが私は大好きなので、そのあたりの影響を受けたのかもしれません。

羽海野チカ『3月のライオン』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm19586585

宮澤賢治をモデルにした先生話
【第15夜】 朝顔のはなし 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-15.html

ミヤザワ先生はこちらの物語でも再登場しています。
【第143夜】 らしさ 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-171.html

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コメント

ミヤザワ先生、もとい、ケンジ先生が、髭面・体育会系性格のおっさん、というずいぶんなことに。ぷぷ。

この僕は、悪くない成績表をもらい、策士の兄を持つ、弟くんでは?

自分の描いた話の読書感想とはすごい。しかも毎週。速筆ですねぇ。うらやましい。というか、それ、グッドアイデア。さすが策士の弟(と勝手に決める)

先生が読んだことない本の感想を見て、読みたくなるほどの出来。私も読みたい^^
けい│URL│08/22 17:35│編集
Re: タイトルなし
けいさん

いつも本当にありがとうございます!
> ミヤザワ先生、もとい、ケンジ先生が、髭面・体育会系性格のおっさん、というずいぶんなことに。ぷぷ。

そうなんですよ。書いてて、あれ??って私もなりました(苦笑)。

> この僕は、悪くない成績表をもらい、策士の兄を持つ、弟くんでは?

それは思いつきませんでした!名案!ぜひ採用で^^

> 自分の描いた話の読書感想とはすごい。しかも毎週。速筆ですねぇ。うらやましい。というか、それ、グッドアイデア。さすが策士の弟(と勝手に決める)先生が読んだことない本の感想を見て、読みたくなるほどの出来。私も読みたい^^

がっかりさせたら、とても申し訳ないのですが。この話、半分実話で。私が高校の頃、読書ノートというまさしく同じものが宿題であったんです。で、不真面目だった私は自分で物語を作って、テキトーに感想を書いて提出していたんです。まあ、この話のように、先生には呼び出されることもなければ、注意されることもなく、先生のコメントを見る限りでは、騙しとおせたみたいだったのですが…後々になってすみませんっていう気持ちが…。まあ、時効ですよね。いい思い出ということで^^
rurubu1001│URL│08/22 23:29│編集

rurubuさん、策士の弟君だったなんて。ってちがーう(><)

何と。実話だったのですか。改めてすごいです!
なかなか粋な宿題の切り抜け方法ですね。

そのときに書いたお話がここに来ているのでしょうか。
私が同じことしたら、3回分で終わっちゃいます。撃沈。
けい│URL│08/24 00:25│編集
Re: タイトルなし
けいさん

いつもありがとうございます!

> rurubuさん、策士の弟君だったなんて。ってちがーう(><)

ちがうちがう(苦笑)。私はふつうなので^^

> 私が同じことしたら、3回分で終わっちゃいます。撃沈。

けいさんは、超大作だから3回分じゃないですよ。章ごとに提出で全然OKだと思います!私が先生だったら、書いて来いって赤丸つけて呼び出しますよ~^^
rurubu1001│URL│08/25 17:39│編集
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