「…んで、お前はどうする気なの?」

放課後、担任のミヤザワに進路指導室に呼び出されて、早や10分。気まずい。何、この空気。逃げ出したい…。がさつで髭面のこのおっさんは現国担当教師なんだけど、教科に似合わず、性格は体育会系だ。

「高校卒業した後の進路はどうするんだ?」

まあ、もとはと言えば、進路調査票を白紙で提出した俺が悪いんだけどさ。いや~、先生、顔がコワイヨ?いつもそうだけどさ。おっと、失言失言。じゃあ、いつにもまして、かな。…あれ、もっとひどくなってる…?

「進学?専門?就職?もう高2も終わりなんだからさ、考えとかんと、まずいだろう?」

考えてたら白紙で出すか!?そう心の中でつっこんだ。言ったら、殺されるだろうな。だから、言わない。言えない。ミヤザワはようやくハッとした。

「…お前、まさか何も決めてないのか…?」
「えへ☆」

俺の返事にミヤザワは呆れた。俺はこの気まずい空気を壊したくて続けた。

「先生!俺の未来は、この白紙の進路調査票が語ってくれてるじゃないですか!何ていうの、可能性無限大!?」
「意味わからんっ!!」

ミヤザワはますます呆れたようだ。だって、しょうがないじゃん。決まってないんだからさ。っていうか、俺から言わせてもらえば、もう進路が決まってるみんなの方がすごいんだけど。だって自分の将来だよ?そう簡単に決まるもんなの?

「決まるもんというか、決めるもんだって感じだろうな。今の時期、みんな」

どうやら俺の疑問はダダ漏れていたようだ。

「お前はないの?将来の夢とか。卒業後、何をしたいとかさ」

俺は黙り込んだ。そう、それなんだよ。俺はその『将来の夢』ってやつが、曲者だと思ってるんだ。

「まあ、いい機会だ。今、思ってること、考えてることを全部言ってみろよ。聞いてやるから」

ミヤザワは椅子にしっかりと座り直した。腰を据えた、という感じだ。こうなったら、そう簡単には逃がしてはくれない。俺は観念した。

「…先生は将来の夢っていうけどさ。その将来の夢ってやつは、どうなの?」
「は?」
「俺、小さいころ、大きくなったらサラリーマンになりたいですって言ったら、もっと大きな夢を見ろ!って注意されたんだよね。野球選手とかサッカー選手とか宇宙飛行士とかさ。『子供は子供らしく、もっとデカい夢をもて』ってさ」
「ふむ」
「でも、今そんなこと言ったら、『そんな夢、無理に決まってるだろう?高校生らしく現実見ろよ、バカ!』ってなってるじゃん。結局、そうくるんならさ、小さいときに最初からデカい夢を見ろ!なんて言うなよな。しかも子供らしく!高校生らしく!ってなんだよ。いつも俺はその時その時で、俺らしく答えてるって!…あ、ちなみに俺はスポーツ選手になれる才能もなければ、宇宙飛行士になれる頭もなかったよ。成績もスポーツも中の下。先生もよく知ってると思うけどさ…」

一気にまくしたてるように言うと、ミヤザワは「やれやれ」と言いたげな顔をした。俺もわかってるよ。こういうの言うこと自体が一番子供だってこと。でも、すみませんね。これが俺なんです。一人ぐちぐち言っていると、ミヤザワは俺の目の前で人差し指をたてた。

「えーっとな、まず、最初に言うべきところはサラリーマンは立派な仕事だぞ!この日本経済をしっかり支えてくれているのはサラリーマンのみなさんのおかげだ」
「え!気にするの、そこ!?」
「まあ、小さいときにお前に『デカい夢をもて』と言った大人の気持ちもわからないでもない。現実は厳しいからな。厳しい現実を知らないうちは、大きな夢を、将来を、明るく考えてもらいたいっていう…」
「何それ?俺たち、大人のいいように振り回されてただけじゃん。それで今、手堅い進路を!って言われても、なんか途方に暮れるんですけど…」

ミヤザワは笑った。

「なるほどな。お前の言い分はわかった」
「え、わかってくれたの?じゃあ、俺、帰っていい?」

ミヤザワは俺の浮きかけた肩を制した。

「まだ帰さん。つまり、お前は自分の進路が決まらないのは、全部大人のせいだって言いたいんだな」
「え?」
「大人のせいで、将来の夢なんて一つももてない。だからって、大人が用意した手堅い進路があったとしても、それは嫌だとそっぽを向くわけだろう。何で大人に決められなきゃいけないんだって怒りだすんじゃないか?とんだあまちゃんだな。ただのワガママなクソガキだ」
「は?何それ!」

思わず、カチンときた。ミヤザワは構わず、続けた。

「俺に言わせてもらえば、お前は色々と準備不足だ。自分はスポーツ選手にも宇宙飛行士にもなれない。それは早い段階で気づいてたのに、お前は他の道を自分で考えすらしなかったんじゃないか?いざ、進路を決めなくちゃいけないって時は今言ったように大人のせいにして逃げようとしたんだろう?」
「…ちげーよ!」
「何が違うんだ?」
「…逃げてなんかない」

ミヤザワは「どうだかな」というように、鼻で笑った。

「俺は、逃げてなんか…ない…」

顔を伏せ、ただそれだけを言っていた。拳に力が入る。爪が皮膚に食い込んだ。

「じゃあ、何を考えているのか俺に教えてくれよ。本当のこと、言ってくれないと。俺の経験上、そういうことを言うやつに限って、実は自分の夢をしっかり持ってたりするんだ。でも、人に反対されやすい夢だったりするから口が重くなってる。お前もそうなんじゃないか?スポーツ選手や宇宙飛行士以外の…」

俺は顔を上げた。ミヤザワはニヤリとする。

「で、お前は何になりたいと思ってるんだ?」

…何だよ、何もかもお見通しだったってわけかよ。この分じゃ、俺が本当は何になりたいかも知ってるんじゃないのか?

「俺はお前の口から、聞きたいんだよ」

ミヤザワはズバズバ言ってくるけど、決して性格が悪いわけじゃない。生徒に無関心そうなのに、肝心なところはきちんとおさえる。しっかり俺たちを見ている。

「…絶対笑うなよ!」

俺は息を吸い込んだ。

「…漫画家。俺、漫画家になりたいんだ」

そう言うと、ミヤザワは「やれやれ」と言いたげな顔をした。でも、さっきのとは違う。今度はようやく言ったかというように―。

「確かにお前は絵を描くのが凄くうまいな。美術はA評価。自分で漫画も描いてる。それはクラス内でそこそこ人気だな。でも、それだけじゃ、漫画家にはなれない。お前自身はどうやったら漫画家になれると思っていて、それを叶えるために、どんな行動を起こしてるんだ?」

ミヤザワは真剣な顔をしていた。

「お前に言っとく。夢を夢だと、ただ語ってていい時期はもう終わったんだ。夢をかたちにするためにどうすべきか、どう動くべきか。具体的にプランを立てるのが今の時期なんだぞ?」
「…俺、自分の夢なんて言ったら、笑われるかと思ったんだけど…」

「心外だな」とミヤザワは自分の頭をかいた。

「俺はいつも笑ってるぞ?ニヤリとな」

そう言って、俺の目の前でニヤリと笑う。

「何だよ、それ…」
「お前はもっと真剣になれ。真剣に動け。それはお前の大事な夢なんだろう?」

胸が熱くなっていく。広げた手のひらにくっきり残った爪痕なんて忘れてしまうほど。それはとても熱くなっていく―。

「覚悟はできてんのか?」

俺は、しっかりと頷いた。

それから、ミヤザワは「やれやれ」と言いながら、美大や専門学校のパンフレット、漫画系の出版社の作品持ち込みに関する資料を取り出した。


=====================================

=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ ヨシノサツキ『ばらかもん』 × SUPER BEAVER『らしさ』 ★

『ばらかもん』が面白いと聞いて見てみたら本当に面白かった!私はまだアニメしか見てないのですが、最初の音楽から手を抜いてなくて、それを聞いてたら早速この物語が生まれました。今思うと、みんなから「先生」と呼ばれる書道家や進路に悩む受験生、漫画家になりたい女の子が登場していたので、それらがMIXされて今回この物語が生まれたのかな。ちなみにここで出てきたミヤザワ先生は以前も別の物語で登場しています。
【第18夜】 読書ノート 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-18.html

① ヨシノサツキ『ばらかもん』
スランプに陥った若き書道家が頭を冷やすためにやってきた五島列島。彼と地元民たちとの交流を描いた作品です。
https://www.youtube.com/watch?v=P_bfMxvFbN4&list=PL_hDuQRqG8PCtwQ2OXRJkct7D9YZTUWdl

② SUPER BEAVER『らしさ』
物語のタイトルはこちらより。このOPのドアを開けた時の光の眩しさがたまらない。fullは前奏から、ぎゅっと心を掴まれる感じが。
https://www.youtube.com/watch?v=PJZIwR9b5pE

「ばらかもん」のもう一つの音楽「 innocence 」は他の物語としてUP済。そちらも良ければ。
【第146夜】 ジェネラル・イシイ (ショートショート / 歴史) 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-172.html

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コメント

おはようございます
夢を持つのは良いことだと思う反面、現実も考えなければならず、そこが難しいと思いました。
ネリム│URL│09/26 07:55│編集
ネリム さんへ
コメントありがとうございます!

> 夢を持つのは良いことだと思う反面、現実も考えなければならず、そこが難しいと思いました。

夢って一見キラキラしていますけど、現実など色々悩みはつきまとう難しいものですよね^^
rurubu1001│URL│09/26 23:33│編集

ふらりとやってきました。お久しぶりです!

確かに小さいころは大きな夢~とか言われることが多いのに、いつの間にか現実が目の前に迫ってくるのはなかなか残酷な時もありますよね…
彼はその迫ってくる様をマジマジと見ていたんだろうな―と。

ミヤザワ先生がかっこいいですね。
最後にしっかり彼に必要な資料を持ってるあたりが、すごいいい先生なんだろうなあ、と思いました。
彼はミヤザワ先生に出会えてよかったですね!

では!またふらっと来ます!
Nicola│URL│09/27 18:46│編集
Nicolaさんへ
コメントありがとうございます!

> 確かに小さいころは大きな夢~とか言われることが多いのに、いつの間にか現実が目の前に迫ってくるのはなかなか残酷な時もありますよね…彼はその迫ってくる様をマジマジと見ていたんだろうな―と。

そうなんですよね。私も友人と昔「小さい頃は大きな夢を~」って言われてたのに、いつの間に「夢ばかり見るな」って変わっててなんでだろうねーって話してて。もしかしたら、それがこの物語のうまれるきっかけだったのかもしれません。厳しい現実を知るのって残酷ですよね。

> ミヤザワ先生がかっこいいですね。最後にしっかり彼に必要な資料を持ってるあたりが、すごいいい先生なんだろうなあ、と思いました。彼はミヤザワ先生に出会えてよかったですね!では!またふらっと来ます!

ミヤザワ先生気に入って頂けたようで、とても嬉しいです^^口は悪いけど、ちゃんと見てる先生なんですが、そう言う人に出会えたのって彼にとっても大きいことだったと思います。人生でそう言う人に会えるのって中々難しいですよね。

そんなそんな。またいつでもいい時にいらして下さいね~。
rurubu1001│URL│09/28 04:06│編集

ミヤザワ先生が、人差し指を立ててニヤッとしたら、スイッチオンですね。

ミヤザワ先生は話す前からすべてがわかっているのですよね。
それを本人の口から言わせるのがうまい。
生徒は不器用だから、表現の仕方がわからないだけなんです。
知っているくせに、知らない振りをして相手から引き出す。
刑事かサムライみたい? おっと、見た目そうかも?
けい│URL│10/24 20:03│編集
けいさんへ
いつも本当にありがとうございます!

返信が遅くなってしまい、すみません!><

> ミヤザワ先生が、人差し指を立ててニヤッとしたら、スイッチオンですね。ミヤザワ先生は話す前からすべてがわかっているのですよね。それを本人の口から言わせるのがうまい。生徒は不器用だから、表現の仕方がわからないだけなんです。知っているくせに、知らない振りをして相手から引き出す。刑事かサムライみたい? おっと、見た目そうかも?

おお、仕草まで見抜いてくださるとは!そうなんです。ミヤザワ先生は生徒の秘密をあばいてばかりなんですよね。一応、才能のある子にはその夢を適度に応援するのがスタンスっぽいのかな。ちょっと、取り調べるする感じが刑事っぽく、ズバズバモノ言うらへんが侍の刀のような切れ味という感じ?^^もしたら、そのうちシリーズ化になるかも。

rurubu1001│URL│10/25 01:28│編集

投票したよ~ん^^
だから、シリーズ化、よろしくね^^
(↑脈略ないけど)
(↑希望ってことで^^)
けい│URL│11/01 08:23│編集
けいさんへ
いつも本当にありがとうございます!

> 投票したよ~ん^^だから、シリーズ化、よろしくね^^(↑脈略ないけど)(↑希望ってことで^^)

おお~、早速ありがとうございます!初めて私もアルファポリスさんの賞に応募してみました。たぶん長編ばかりだろうし、ショートショートの需要がないかもですが…。10位圏内目指して頑張ります!入れたら、シリーズ化を考えますね~。^^

おおー!けいさんさんの『夢叶』を発見!!早速投票しましたよー!^^青春小説大賞って1人3票なのに、なんで同じ作品に票が入れられないんだっ!けいさんさんの『夢叶』は、私の一押し青春小説なのにー!!><
rurubu1001│URL│11/01 11:54│編集

こんにちは~。
投票してきましたよ^^
進路、夢の話はやっぱり青春時代には外せませんよね。
漫画家かあ。2年ほど夢見たけど、もうその時は社会人だった(爆)
ちょっと前に見たコミカルドラマ「アオイホノオ」を思い出しました(笑)
庵野秀明さん達の在学中はなしw
夢を叶えていく姿って、わくわくします。
これ、続きも見たいですね。
lime│URL│11/01 12:13│編集
Re: lime さんへ
コメントと投票して頂き、ありがとうございます!

> こんにちは~。投票してきましたよ^^進路、夢の話はやっぱり青春時代には外せませんよね。漫画家かあ。2年ほど夢見たけど、もうその時は社会人だった(爆)

なにー、limeさんが漫画家さん志望!?全然社会人からでも遅くないですよー。余裕でいけると思います!というか、limeさんは絵も文章も(たぶん絵本とかもいけそう!!)本当に多才で憧れです^^

> ちょっと前に見たコミカルドラマ「アオイホノオ」を思い出しました(笑)庵野秀明さん達の在学中はなしw夢を叶えていく姿って、わくわくします。これ、続きも見たいですね。

「アオイホノオ」は、たしか柳楽くん主演のドラマですよね!何気に実在する著名人がたくさん出ていて「クスリ」と笑える感じのドラマで。庵野秀明さんもでてらして!けいさんの『夢叶』もそうですが、夢を追い求めて、つかむまでのお話はグッときますよね。

月末まで10位圏内に残ってたら、シリーズ化を考えてみますね。(たぶん難しいと思うのですが、健闘できるといいな)応援して頂き、感謝です。本当にありがとうございます^^
rurubu1001│URL│11/01 13:32│編集
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