※良ければ、先にこちらをどうぞ。
【目次】 淑玲『宮廷浪漫』シリーズ 【作品紹介】
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-253.html
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刺すような視線。鋭い眼差し。なんとも心が痛くなる。
未だかつてこんなに注目されたことがあっただろうか。でも、羨望の眼差しとか、そんなんじゃない。人を敵視するような、値踏みするような、見下すような、もうとにかく不躾なものだ。

先生が私を俊楽堂(しゅんらくどう)の中に招き、生徒の前で紹介すると、案の定、非難の嵐だった。

でも、二日間の期限付きで、二日後に改めてみんなの意見を聞く。一人でも反対意見があれば入学不可と告げると、嵐はぴたっとおさまり、かわりに失笑や嘲笑に変わったけど…。ふん!後で「ぎゃふん」と言わせてやるからね。見てなさいよー!

でも、みんながみんな敵愾心をむき出しにしているわけじゃない。同じ商店街の見知った顔ももちろんあって、彼らは割とすんなり私を受け入れてくれた。

「まさか淑玲(すうりん)が来るとは思わなかったなあ」

私の紹介の後、すぐ昼休みになったのも良かったかもしれない。お肉屋のおばさんに頼まれたおにぎりを彼女の息子に届けると、「淑玲も僕らと一緒に食べようよ」と誘ってくれたのだ。彼の名は、真野(まの)。人のいい丸顔の少年だ。

「来るなら、淑河(しゅくが)だと思った。あいつは来ないの?」

淑河とは私の双子の兄のことだ。顔はそっくりなんだけど、性格は正反対。

「兄様は学問にあまり興味がないから」

「そっかー。確かにそうだね」とおにぎりを頬張る彼は、私にも「一つ食べな」とわけてくれた。気前が良くて、優しい彼に感謝する。まさかそのまま俊楽堂で学べるとは思わなかったから、私は自分の分のお昼を用意してなかったのだ。でも、彼らは私と一緒にいて大丈夫なのかしら?気になってまわりの視線を伝えると、彼らはおおらかに笑ってこう言った。

「だって、淑河の妹だから!」

未だかつてこんなに兄様に感謝したことがなかった。兄様はうっかり者で、いつも私は口うるさく叱ってばかりだったから。ごめんなさい、兄様!これからは気を付けます!!

「それに『女の子には優しくしなさい』って母ちゃんにいつも言われてるんだ。いざって時に男を助けるのは女らしいよ、母ちゃんに言わせると」

経験談に基づいてそうな名言にはあえてふれませんけど、お肉屋のおばさんもありがとう!!

「でも、すげーな、お前の嫌われっぷり!さっき俺、吹き出しそうになっちった!ははは!」

失礼な発言をしてくれたのは、魚屋の息子の平勝(へいしょう)だ。浅黒い肌に、白い歯を光らせて笑っている。

「笑いすぎだって、平勝!」

それをたしなめてくれたのが、この中で一番の年長者、キツネのような細目の酒屋の息子の渾沌(こんとん)だ。

「俺は歓迎するよ、淑玲。女の子が一人いるだけでなんか華やぐじゃん?今までここ、ちょっとむさくるしかったし。ねえ、二日とは言わず、もっと長くいなよ」
「私はいたいんだけどね…っていうか、なんか裏があるでしょう?あやしいわよ、渾沌」

彼は舌を出した。

「バレた?」
「バレバレ」
「ここで淑玲に良くしとけばさ、後で友達の女の子を紹介してくれるかもしれないじゃんか!頼むよ~、淑玲。ちなみに淑玲は俺の好みじゃないからごめんね」
「お、それいいな。じゃ、俺も頼んだ、淑玲。ちなみに俺もお前はパスな。かわいい子、限定でよろしく!」
「みんな、いい加減にしなよ!淑玲もかわいいよ。…僕はよくわからないけど、いつもそう言ってるよ、淑河が!」

う~ん、みんなそれぞれヒドくない…?なんだろう?逆にいたたまれなくなるような…?気のせい…?

「ところで、いつもこの面子でつるんでるの?」

私がたずねると、みんなが言った。

「もう一人、いるよ。ここで仲良くなったんだ!超いいやつでさ」と、真野。
「でも、誰もやつの素性を知らねえの。本人も言いたがらないから、あえて触れてねえんだけど」と、平勝。
「俺は貴族のボンボンだと思うね!あいつの弁当、すごいもんな。いつも昼休み、ここまで家の人が届けにくるんだよ。いま受け取りにいってるから、もうすぐ戻ってくるんじゃないかな。お、噂をすればじゃん。おーい、こっちこっち!」と、渾沌。

渾沌が手を振った方をみると、かわいい顔をした男の子が手を振りかえしていた。彼はまわりの和をうまくよけて、こちらに向かって来る。

「あれ、きみは?さっき紹介されてた女の子?」

私の存在に気づいても彼は嫌な顔をしなかった。みんなの言うとおり、本当にいい人なのかも。

「確か淑玲さんだっけ?初めまして。僕は、珠露(しゅろ)。よろしくね」
「こちらこそ。よろしく、珠露くん」
「珠露でいいよ。僕も淑玲でいい?」
「うん。もちろん!」

童顔だけど、年は私と同じらしい。人なつっこい笑顔が好印象の少年。身なりは私たち庶民と変わらないけど、包みの中から立派な重箱を取り出した。

「あ、良かったら珠露。淑玲に弁当を分けてあげてくれない?淑玲、弁当を持ってくるのを忘れちゃったんだ」
「え?そんな悪いからいいわよ。おにぎりも、もらっちゃったし」
「僕は全然構わないよ。たくさんあるから、淑玲だけじゃなくて、みんなも一緒に食べようよ」
「俺らもいいの?マジで!?」
「実は超気になってたんだよね。お前の弁当」

珠露が重箱のふたを開けて並べると、私たちはいっせいに声を上げた。

「うわー!」
「すごい…」
「超うまそう!!」
「やばいな、これ!」

海老の芝煮(しばに)、松笠烏賊(まつかさいか)、帆立の生姜煮、椎茸の甘露煮(かんろに)、とびこ、錦糸玉子、隠元豆(いんげんまめ)など、見目華やかなちらし寿司が重箱の一段をしめていた。他の段だって、負けてない。豆腐の青のり揚げ、ぜんまい、つき蒟蒻(こんにゃく)、木耳(きくらげ)、油揚げ煮、大根の甘酢漬という、一見普通の食材なのに一工夫して手間暇掛けたのだろう。上品で凝ったものばかりだ。渾沌が珠露のことを貴族のボンボンだというのもわかるわ…。

私たちの感想に珠露は「どうぞ召し上がれ」と、嬉しそうに笑った。

「いただきまーす!!」

と、みんなで手を合わせると…次の瞬間、

「ちらし寿司は俺がもらったあー!!」
「待て―い!俺が先だ―!!」
「ちょっとちょっと、みんながっつき過ぎだよー!僕もー!!」

見えない速さで箸を伸ばす男三人の戦場と化していた。私があっけにとられていると、珠露が声をかけてくれた。

「淑玲、箸(はし)がないよね?あまってるのあるから、これ使って」
「あ、ありがとう」

その時、私の近くによった珠露から、ふわりといい香りがした。…これは、女物のお香(こう)…?

「珠露、お弁当を届けてくれたのってお母さん?それか、もしかしたら女姉妹(きょうだい)とか?」
「え?違うよ。僕は一人っ子。届けてくれたのは…」

そこで珠露はハッとなり、口元を手で抑えた。

「あ、ごめん!別にいいの。珠露、とてもいい香りがしたから」
「…いい香り?」
「うん。お弁当もそうだけど、上品で知的っていうか…。素敵な香りね」

私が微笑むと、珠露は少し照れたように笑った。

「そんなふうに言われたの初めてだな。実は弁当を作ってくれたのは、おばあちゃんなんだ。料理が大好きでね。いいって言ってるのに、いつも自分で作るって聞かなくて…」
「おばあさん、とても料理上手なのね。私、初めて見たわ。こんなに美味しそうなお弁当。教えてもらいたいくらいよ。じゃあ、その香りもおばあさんかな?」
「…かもね」

少し珠露の顔が曇ったのは気のせいだろうか…。

『誰もやつの素性を知らねえの。本人も言いたがらないから、あえて触れてねえんだけど』

平勝の言葉を思い出す。そうね。きっと、あえて触れない方がいい。本人が語りたくなるまでそっとしておいた方がいいんだわ。兄様の友達は少し失礼で口が悪いけど、人間ができている。そのことに私も感謝しなきゃ。心が痛くなる視線を一時忘れさせてくれたもの。笑顔で守ってくれた。もう一度、私は手を合わせた。

「じゃあ、遠慮なく頂きまーす!」

元気よくそう言ってから、私は珠露の手をひいた。

「珠露も、ほら。自分の分がなくなっちゃうよ」
「あ、うん!そうだね」

彼の顔がぱっと明るくなる。そうこなきゃ。腹が減っては戦はできぬ。さあ、これから男の戦場に乗り込もうじゃない!



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★余談
・芝煮(しばに)…白身魚やえびのだし汁と酒を主に薄口醤油・みりんなどでごく薄味に調味してさっと煮た料理。
・松笠烏賊(まつかさいか)…碁盤目に切り目を入れてタレをつけて焼いたイカ。
・とびこ…トビウオの魚卵を塩漬けにしたもの。
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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ YUKI 『ふがいないや』 × 氷室冴子『ざ・ちぇんじ!』 ★

思いの外、遅れたUPになってしまいました。名前が決まらなかったのが、原因かと。いつもは声の聞こえるがまま名前も浮かぶんですけど、中国人っぽい名前って全然出てこなくて困った。焦った。淑河の友達ということで、淑河の名前のモデルになった作品「雲のように風のように」に登場する人物から名前を借りて来ました。なので、後で少し漢字を変えたりするかもですが…。ちなみに珠露だけ違います。なぜか彼だけお茶の名前に。

ちなみにサブタイトル「腹(はら)が減(へ)っては戦(いくさ)はできぬ」は「腹が減っていては、十分に活動ができない。もちろん戦うこともできない。物事に取り組むときは、まず腹ごしらえをしてエネルギーを補給するべきだというたとえ」が本来の意味だそう。今回のこじつけは、男の戦場に乗り込むというのを、お弁当争奪戦とこれから淑玲が学問塾(男社会?)で奮闘することで、かけてみました。

① YUKI 『ふがいないや』
https://www.youtube.com/watch?v=pBisndlJjzk
https://www.youtube.com/watch?v=3blU8GYxVRQ
私の中で『ハチクロ』の曲なんですけど、今回はこれをきいてました。

②  氷室冴子『ざ・ちぇんじ!』
http://www.amazon.co.jp/%E6%9C%88%E3%81%AE%E8%BC%9D%E3%81%8F%E5%A4%9C%E3%81%AB-%E3%81%96%E3%83%BB%E3%81%A1%E3%81%87%E3%82%93%E3%81%98-%E3%82%B3%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%B0%B7%E5%AE%A4-%E5%86%B4%E5%AD%90/dp/4086016680/ref=pd_cp_b_0
氷室作品の中で読者の年齢・性別を問わず一番エンタメ性にとんでいるのはもしかしてこれなんじゃないでしょうか。「面白かった~!」と思わず拍手を送りたくなってしまう読後感の良さ。平安時代の「とりかえばや物語」をもっと見事に書き切ってくれたというか。あとがきにあった氷室版「源氏物語」もぜひ読んでみたかったなあ。

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次回
【第144夜】 正攻法は成功法ではない(淑玲『宮廷浪漫』シリーズ11)
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-170.html
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コメント

みんな気の良い仲間ですね。
一人気になる人もいますが、そのうちに、ですかね。

お弁当の中身がすばらしい・・・
漢字が難しくて(-_-;)
振りがな&解説、ありがとうございます。

アニキの淑河がここにいないのに、しっかりと存在感。アニキは勉学は?
それにしてもみんな、淑玲ちゃんにちょっとちょっとなにぃ(><)
数年後にみんな反省するときがくるだろう(予言)
おなかが満足して、淑玲ちゃんの作戦やいかに。
けい│URL│07/14 19:21│編集
けい さんへ
いつも本当にありがとうございます!

> みんな気の良い仲間ですね。一人気になる人もいますが、そのうちに、ですかね。

はい。たぶんそのうちに…かな?^^

> お弁当の中身がすばらしい・・・漢字が難しくて(-_-;)振りがな&解説、ありがとうございます。

たぶんこの時私が食べたいものになってしまったんだと思うんですけど、ちらし寿司って案外のっている具とか名前が面倒なものばかりだということに書いてて気づきました。本当はもっと、説明的じゃなくて、おいしそうにかければよかったんですけど…(あとで、直すかもしれませんが^^;)

> アニキの淑河がここにいないのに、しっかりと存在感。アニキは勉学は?

アニキの淑河のその辺に関する理由も後々わかるかと思います。淑玲の物語は思ってたよりけっこうな長編になるのかも…と最近書いてて「やばい…」とあわあわしています。

> それにしてもみんな、淑玲ちゃんにちょっとちょっとなにぃ(><)数年後にみんな反省するときがくるだろう(予言)おなかが満足して、淑玲ちゃんの作戦やいかに。

少女小説にありがちな主人公(女の子)はみんなにモテモテ。逆ハーレム状態というのは、避けたいなあ。でも、そう言う方が面白いのかなあ?必要なのかなあ?ってまだ悩んでいるのがこんな結果になってしまったのかもしれません。淑玲の物語はわりと考えながら書いているのですが、やっぱり声次第だからこれからも私の予想を裏切るかもしれません。う~む。「宮廷浪漫」って銘打ってるのに、まだ宮廷にもどれてないんですよね。。どうなることやら。頼むぞ、淑玲!><
rurubu1001│URL│07/15 00:20│編集

もっと冷たい目で見られるかと思ったけれど、温かく迎えてくれる仲間がいてくれてひと安心です。
ガンバレ! 淑玲ちゃん!
椿│URL│11/17 19:34│編集
椿 さんへ
コメントありがとうございます!

> もっと冷たい目で見られるかと思ったけれど、温かく迎えてくれる仲間がいてくれてひと安心です。ガンバレ! 淑玲ちゃん!

冷たい目&淑玲が少し痛い目にあうのは、次回に持ち越しかもしれません。でも、仲間がいるありがたみをしる機会だと主人公も思てくれれば。成長の醍醐味ですよね、きっと^^

rurubu1001│URL│11/18 00:36│編集
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