※良ければ、先にこちらをどうぞ。
【目次】 淑玲『宮廷浪漫』シリーズ 【作品紹介】
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-253.html
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私が俊楽堂に着いたのは、ちょうどお昼頃。

「まだ講義中かしら?」

思ったより早くついてしまったのか、あたりは妙に静かだった。時間つぶしと偵察がてら、塀越しにお堂をぐるっと一回りしてみる。

「俊楽堂ってこういうところだったんだ。あまり来たことないから、よく知らなかったな」

彩色や文様(もんよう)をおさえたつくりで豪奢(ごうしゃ)さはない。屋根は落ち着いた本瓦葺(ほんかわらぶき)だし、柱や梁(はり)、扉が丹塗(にぬ)り(※朱色の塗装)という程度。月日が経ち、それらの朱(しゅ)は所々剥がれ、まわりの白壁の汚れも目立ってきてはいるけど、特に問題はなさそうだ。むしろ風格のある佇まいには、独特の静寂さがあった。

「勉強するには、うってつけの場所なんだ。ここなら集中して本が何冊だって読めそう!」

さすが古いお堂の再利用を提案した第一公子様!と、ここで学問塾を開いたという先生!環境をわかってらっしゃる。いったいどんな方なんだろう。さすがに第一公子様に会うのは無理だろうけど、先生は目の前のお堂で講義の真っ最中。どんなふうに学問を教えているのか気になって、しかたがなかった。

蔀戸(しとみど)(※格子状の窓のようなもの)が半分開いているみたいだから、うまくすればちょっとのぞけるかも…。

「おや、あなたはこんなところで何をしているんですか?」

心臓が飛び上がる。驚いて振り向くと、農作業の格好をした男の人が立っていた。

「…す、すみません。知り合いのお昼を届けに来ただけなんです」

私が急いで言うと、男の人は「そうだったんですか。それはわざわざありがとうございます」と頭をさげた。農作業用の大きな帽子のせいで顔はよくわからなかった。背は高く、ほっそりとしている。

「もし良ければ、私が渡しておきますよ?どなたのでしょうか?」

そういって、私から握り飯の入った包みを受け取ろうと彼は自分の手を差し出した。待って!これを渡したら、せっかくのここに来た口実がなくなっちゃうわ!私は咄嗟に包みを背中に隠した。

「?」

男の人は不思議そうに首をかしげ、「あはは…」と、私は気まずそうに笑った。

「………」

…どうしよう。沈黙が重い。観念して、白状したほうがいい?…もう最初からつまづくとか私どうなの!?これからなんとかここで学べるよう知恵を絞らなくちゃいけないのに、いきなりこんな調子じゃ全然だめじゃない。しかも簡単に白状するとか、なんて弱腰なの!この人が何者かもしれないのに…ん…?っていうかこの人、だれ??

その時だった。お堂の中から、声がもれてきた。

「床前明月光 (床前(しょうぜん)月光(げっこう)明らかなり)」

あれ、これは…?

「…漢詩?」

私が反応をしたのを不思議に思ったのかもしれない。男の人がたずねた。

「知ってるんですか?」

私は反射的に吟(うた)っていた。だってこれは、私にとって特別な漢詩だったから…。

「 床前明月光 (床前(しょうぜん)月光(げっこう)明らかなり)

 疑是地上霜 (疑(うたご)うらくは、これ地上の霜かと)

 挙頭明月望 (頭(こうべ)を挙げて明月(めいげつ)を望み)

 低頭思故郷 (頭を下げて故郷を思う) 」

それを聞くと、彼は嬉しそうに笑った。

「女性が漢詩を吟うのを久しぶりに聞きました。あなたは漢詩を知っているんですね」
「…いいえ、そんな。全然です!これは私が小さい頃、初めて覚えた漢詩だったので」

そう返すも、男の人は興味をもったのかさらに聞いてきた。

「小さい頃に?」
「…あ、はい。小さい頃、外で遊んでいたら、通りすがりの人がうたっていたんです。意味を聞いて感想をいうと、その人がその漢詩のかいてある本をくれて…」
「…この漢詩の意味を聞いても?」

気のせいだろうか。帽子越しに強い視線を感じた。

「…え?あ、はい。確か…静かな夜、寝室に月の光りが差しこんでいた。その輝く光りは季節はずれの霜が降ったのだろうかと疑うほどである。空を遠く望めば煌々とした月が美しく輝いていた。故郷の空でも、きっとこんな美しい月の光を見ている人がいるのではないかと、ふと頭を下げて望郷の念にかられた…」
「では当時の、あなたの感想を教えて下さい」
「昔のですか!?かなり的外れな感想ですよ?…というか、感想ですらないかも」
「構いません」

私は苦笑しながら言った。

「これは故郷を懐かしんで、少しさびしく思う詩ですよね。小さい私は自分の家から離れたことがなかったので、故郷というものがよくわからなくて。だから、こう言っちゃったんです…。きっとその詩を詠んだ人より、私の方がさびしいだろうって。だって、私は故郷を知らないから、そういう気持ちになったことがない。だから、詩のさびしさも何もわからない。きっと、それは詩を詠んだ人より、もっとさびしいことだろうって」

そうだ。確かそう言ったら、本をくれた人はお腹を抱えて笑っていた。もうぼんやりとしか覚えてないけど、吟っている姿がかなしげで、ほっとけなくて声をかけた。私の発言がツボにハマったのか、その人は思い切り笑ってくれて、安心したのを覚えている。

「私が初めて手にした本で、今でも大切な宝物なんです」

彼は、ふっと笑った。

「…そうですか。あなたでしたか」
「は?」
「いえ。失礼ですが、名前は?」
「……淑玲(すうりん)と言いますが…」

どうしてこの人は、私にこんなことを聞くのだろう?訝しげに見つめると、彼は笑って言った。

「いい名前ですね。それでは、淑玲。うかがいますが、もしやあなたはここに学びにきたのではないですか?」

私は驚いて声を上げた。

「ど、どうしてそれを?」

その問いには答えず、彼は被っていた帽子をとり、私に笑顔を向けた。陽(ひ)の下にさらされた少し青白い肌にはっとなる。柔和で優しい人を和ませる風貌…。

「淑玲、ようこそ俊楽堂へ。私はここで学問を教えている者です。名は暉仁(きじん)と言います。あなたを歓迎しますよ。ただし、ちょっと条件がありますけどね」



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★余談
・引用漢詩は、李白「静夜思(せいやし)」和訳は解説ネットサイトより。
・俊楽堂の外観モデルは、日本の国宝・浄土寺浄土堂(兵庫県小野市)。
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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ YUKI 『プレイボール』 × 韓国大河ドラマ『トンイ』 ★

出てきた俊楽堂の外観モデルは日本国宝の「浄土寺浄土堂」(兵庫県小野市)。漢詩はむかし私が丸暗記した李白の「静夜思(せいやし)」です。どうもものによって、明月が山月になっているようです。今回は自分が覚えている方をチョイス。お待たせしました。ようやく暉仁(きじん)の登場です。

ちなみにサブタイトル「合縁奇縁(あいえんきえん)」は「不思議なめぐり合わせの縁。人と人とが互いに気心が合 うかどうかは、みな因縁という不思議な力によるものであるということ」が本来の意味だそう。今回のこじつけは、不思議なめぐり合わせの縁という部分を頂いて、淑玲は俊楽堂で思い出深い漢詩と再び巡り合い、暉仁も暉仁で何か(縁?)を感じている…?みたいなところで。

① YUKI 『プレイボール』
https://www.youtube.com/watch?v=Y5Odr60XU7Y
夏になると聞きたくなります。何気にYUKIのストック曲があることに気づきました。

②  韓国大河ドラマ『トンイ』
http://www.pideo.net/video/veoh/8279bdf2183f6039/
韓国大河にハマったきっかけ。60話くらいあったけど、ずっと次回が気になる気になる。賤民→下女→女官→そして…?と、のぼりつめていくトンイがカッコ良かった~!あと、王妃さまが聖母すぎて…。王様を足蹴にするところは一番好きな場面です。

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次回
【第134夜】 図南の翼(淑玲『宮廷浪漫』シリーズ9)
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-159.html
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コメント

おにぎりを渡すまでもなくご対面ですね。
以前に会ったことがあるのかも・・・?
淑玲ちゃんは気づいていないのですか?

歓迎の言葉とは裏腹の条件とは何でしょうね。
サブタイトルが毎回印象深いです。
けい│URL│07/08 20:49│編集
けいさんへ
いつも本当にありがとうございます!

> おにぎりを渡すまでもなくご対面ですね。以前に会ったことがあるのかも・・・?淑玲ちゃんは気づいていないのですか?

淑玲はどうも気づいていないというか、覚えてないようです。でも、暉仁は何かを感じたようですね。まだ詳しくは書けてないのですが^^

> 歓迎の言葉とは裏腹の条件とは何でしょうね。 サブタイトルが毎回印象深いです。

裏腹の条件は次回で明らかになるかと思います。サブタイトルは毎回書き終えてから、「物語内で使ったテキトーな単語+故事成語」というキーワードでネット検索かけて探しています。これが中々見つからなくて…地味に面倒くさい(苦笑)。なので、そう言って頂けてありがたいです!ありがとうございます^^
rurubu1001│URL│07/09 01:27│編集

これが暉仁さんとの出会い。
まだ、前がありそうな。

運命の出会いになるのかな?

漢詩っていいのが多いですよね。
読み始めると結構ハマってしまったりします(*^。^*)
椿│URL│10/26 13:07│編集
椿さんへ
コメントありがとうございます!

> これが暉仁さんとの出会い。まだ、前がありそうな。運命の出会いになるのかな?

ちょっと暉仁の方はまだ何やらありそうですよね。それも後々描ければいいなあと思います。

> 漢詩っていいのが多いですよね。読み始めると結構ハマってしまったりします(*^。^*)

椿さん、すごい!漢詩、詳しそう!!私はたまたまテレビでやっていて覚えたのが今回の漢詩だったんです。中国語で聞くと、きちんと韻をふんでいたりするから音もきれいで。漢詩、素敵ですよね^^
rurubu1001│URL│10/26 21:47│編集
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