ケンジ先生が夏やすみに出された宿題は、なんともふしぎなものでした。

 それは物語をかくというものでした。

 ぼくは文章をかくことがあまりうまくはないので、とてもこまってしまいました。いったいどんな物語をかけというのでしょう?かぐやひめ、ももたろう、いっすんぼうし…ぼくにそんな物語がかけるわけがありません。ぼくは思いきってケンジ先生にそうだんすることにしました。

 ケンジ先生はぼくたちの学級で育てている朝顔のはちに水をやっていました。夕日のせいでしょうか。教室はきらきらかがやいてきれいでした。

「おや、どうしたんですか?」

ぼくに気づいたケンジ先生は、教室のまどをあけ、はちのならんだ庭から声をかけてくれました。ぼくは教室に誰もいないことをかくにんして、ケンジ先生のもとにむかいました。そして、まどから顔を出しました。

「…ケンジ先生、ぼくには物語なんてかけません」

はずかしいことに、ぼくは泣きそうになっていました。ケンジ先生はやさしく、たずねられました。

「なぜ、そう思うのですか?」
「物語のかき方なんてわかりません。文章も字もうまくはないですし…」

ケンジ先生は朝顔の水やりをやめて、にっこりとしました。

「朝顔はすきですか?」

いきなり、はなしがかわり、ぼくはびっくりしました。

「朝顔ですか?」
「そうですよ。僕が今、水をやっていた朝顔です」

ぼくは水でぬれた朝顔を見つめました。赤と白の花がしぼみ、葉っぱからしずくがぽたぽた落ちていました。

「好きです。でも、さいている方がもっと好きです」
「それは、なぜですか?」

ぼくはこまってしまいました。そんなことをよく考えたことがありませんでした。

「…さいている方がきれいだから」
「僕も君と同じですよ。さいている方がきれいですからね。でも、今の朝顔も好きなのです。明日に向けて、懸命に生きようしています。水をたくさん飲んで、明日はもっともっときれいに咲いてみせようと意気込んでいるような…そんな気がするのです。君はどう思いますか?」

ぼくはもう一度、朝顔を見つめました。今度はさっきよりも、じっとかんさつしました。

「…ケンジ先生の言うように見えなくもないですが、ぼくには少しくたびれているように見えます。花びらを広げるのもたいへんなのかもしれません。水をのんで、やっと休めて、ほっとしているようにみえます」

ぼくの言葉にケンジ先生はうれしそうにうなずきました。

「なるほど。そうですか。わかりました。君は物語が書けますよ」
「え?」
「そうだ。夏休みの間、君にこの朝顔の鉢の世話をお願いしてもいいですか?実はこの子には名前もあるのですよ。アサコと言います」

ぼくはとまどいながら、ケンジ先生から朝顔をうけとりました。

「朝夕、水をあげてくださいね」

ケンジ先生はそういうと、また残った朝顔の水やりをはじめてしまいました。ぼくはしょうがなく、アサコをかかえて教室を出ようとしました。

「…アサコ?」

ためしにアサコに声をかけてみました。もちろん、アサコの返事はありませんでした。

ふりかえると、ケンジ先生が笑顔で手をふっていました。


□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □  ■ □ ■ □

以下のランキングに参加中です。

■ NEWVEL ランキング
http://www.newvel.jp/nt/nt.cgi?links=2014-03-1-35262

■ アルファポリス ランキング


■ 人気ブログ ランキング

人気ブログランキングへ

■ にほんブログ村 ランキング
にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

スポンサーサイト
  
コメント

ケンジ先生のさりげなさが良いですねえ。

ぼくもなかなか観察眼ありそう?
アサコが返事をするときが来る? 
そしたら・・・?
けい│URL│08/21 19:46│編集
Re: タイトルなし
けいさん

いつも本当にありがとうございます!

これも昔に書いたやつなんですが、ケンジ先生は宮澤賢治がモデルなのかな?
ケンジ先生が現代版になったら、どんな感じだろう?と思って書いてみたのが、『【第18夜】 読書ノート 』です。ずいぶんと違う感じの人になってしまってビックリ!><
rurubu1001│URL│08/21 23:05│編集
コメントする












 管理者にだけ表示を許可する?

トラックバック
トラックバックURL
→http://short2story.blog.fc2.com/tb.php/15-26db4c0d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)