今でも思い出すと、胸がしめつけられる。

もう亡くなってしまった私たちの国。私たちの故郷。そこには私たちの一生分の幸せがつまっていた。

大地を駆けまわる子供たち。それを見守る大人たち。人々は笑顔で、明日は希望の光に満ちていた。

家族は血縁だけではなく、この未開の新天地にやってきた者すべてがそうだった。ともに喜びや悲しみを分かち合い、力を合わせて暮らしてきたのだ。

『 日本という故郷を捨てたのですか? 』

そう言えば誰かに聞かれたことが、…いや、言われたことがある。

思わず、私は笑った。何を言ってるの、と。

『 私たちが日本に捨てられたのだ 』

皮肉ではない。事実だ。

昭和11年、貧しい小作の長女だった私はたくさんいる兄弟のために、身売りしなければならなかった。そんなときに『大陸の花嫁』の話を聞いた。

中国の東北地方にある満州国、日本の領土になったその地に移民として渡った日本人、満蒙開拓団に女手が必要だという。つまり花嫁を探しているとのことだった。

海を渡って満州へ行き、花嫁にならないか…?

それは私にとって悪くない話のように思えた。お腹いっぱい食べることができるなら。それで充分だ。ひもじい思いをすることさえなければ。土地を取られた中国人が反発しているときいたが、それは関東軍が取り締まってくれる。恐れることはない。…中国人と言っても同じ人間だろう。

…花嫁…。

何よりここではないどこかへ行きたかった。毎日、その日の食べ物を気にしながら生きていく暮らしに嫌気がさしていた。いつ言われるかわからない身売り先に怯えるより、ずっといいかもしれない。見たこともない場所、もしかしたら希望さえあるかもしれない新たな故郷…。私は初めて夢を見た。

そして、『大陸の花嫁』になった。

海を渡った花嫁たちは私のような小作の出が多かった。満州に向かう船の中で白いご飯が出た時はみんなで手を取り合って喜んだ。そういう時代だった。

やがて迫りくる不穏な気配に誰も気づきもしなかった。気づいていても、もうどうすることもできなかったのかもしれない。

『 …時代のせいにしてはいませんか? 』

そう言えば、誰かに言われたことがある。

思わず、私は笑った。何を言ってるの、と。

『 じゃあ、私たちの生きた時代を人々は何て呼んでるの? 』

皮肉ではない。事実だ。

生まれて初めて粗末ではない着物に袖を通し、今は亡きあの国で私は花嫁になった。

やがて娘ができた。息子も生まれた。家族は増えたが、豊かで実りの多い土地に作物はどんどん育ち、昔の貧しい生活を忘れさせてくれた。忘れることができるというのはなんと幸福だろう。

私は夢をつかみ、叶え、この幸せは一生続くものだと思っていた。
でも、それは今は亡きあの国の花嫁たちの夢の終わりだった。

戦争が始まり、開拓団は免除とされていたはずの兵役に夫をとられ、家や子供、年寄りは残された女が守らなければならなかった。

中国人とソ連軍の侵攻から逃れるため土地を手放し、荷物を抱え駅に向かったが、線路は関東軍によりすでに爆破されていた。

私たちは、見捨てられた。

中国人が襲撃してきて、武器を持って戦ったあの娘、ソ連軍が女をあさりに来て必死に抵抗したあの娘、逃げ場がなく集団自決したあの娘、何日も歩きどおし、途中で食べ物がなくなってしまい、中国人の民家に子供を置き去りにしたあの娘、命からがらようやく日本人避難所に辿りついた時、腕に抱える我が子の死に気づいたあの娘…。

私たちは、生きたかった。ただ、それだけだった。

日本行きのひきあげ船に乗り、懐かしいはずの生まれた土地に戻っても、もはや居場所はなく、開拓団で集結して新天地を探した。みんな気持ちは同じだった。日本内で根をはやし、土地を耕し、そこで女は夫の帰りを待ち続けた。

私は夫の死の知らせを聞くまで、彼がシベリアで捕虜となり、過酷な労働を強いられていたことを知らなかった。

どうしてか涙は出なかった。きっとそれは今は亡きあの国においてきてしまったのだろう。
ただ残された子供たちを彼の唯一の形見だと思い、必死に懸命に育てることしかできなかった。

私が泣くことができたのは、やがて娘が嫁ぐことになり、その花嫁衣装を見た時だ。

もう亡くなってしまった私たちの国。私たちの故郷。そこには私たちの一生分の幸せがつまっていた。

人々は笑顔で、明日は希望の光に満ちていた。

今でも思い出すと、胸がしめつけられる。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ ドラマ「開拓者たち」 ★

NHKの戦争を描いたドラマは胸が苦しくなりますが、凄味のある大作ばかりです。山崎豊子さん原作「大地の子」はご存知の方も多いと思いますが、この満島ひかりさん主演の「開拓者たち」もいいです!あと、長谷川京子さんが日本人女性役を演じ、韓国人男性と恋に落ちる「海峡」は後編を見るのを逃してしまい、未だに続きが気になっています。

ドラマ「開拓者たち」
http://www.amazon.co.jp/%E9%96%8B%E6%8B%93%E8%80%85%E3%81%9F%E3%81%A1-Blu-ray-%E6%BA%80%E5%B3%B6%E3%81%B2%E3%81%8B%E3%82%8A/dp/B007IPPQ22/ref=sr_1_2?s=dvd&ie=UTF8&qid=1438329750&sr=1-2&keywords=%E9%96%8B%E6%8B%93%E8%80%85%E3%81%9F%E3%81%A1
http://7tv7dorama.blog.fc2.com/blog-entry-1516.html
主人公だけでなく、その兄弟たちにもスポットが当たって色々な人間ドラマあります。家族がバラバラになりながら、それぞれ必死に生きている姿に涙し、胸を打たれます。みなさん演技がうまくてやばかったのですが、特に新井浩文さんに驚きました。今まで悪役のイメージだったんです。口数少ない優しい夫役にぴったりでした。

ドラマ「大地の子」
これは衝撃でした、本当に。
https://www.nhk-ondemand.jp/program/P200800007100000/
http://www.youtube.com/watch?v=Zck6Uey-760

ドラマ「海峡」
韓国人男性役、日本の方だったんですね!「大地の子」の上川さんといい、いいキャスティングするなあ。
http://www.amazon.co.jp/%E6%B5%B7%E5%B3%A1-DVD-BOX-%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D%E4%BA%AC%E5%AD%90/dp/B0012PGMTK
http://www.free-douga.jp/drama.php?num=163

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コメント

素晴らしい作品です^^
「歴史は流れる」と言って忘れてはならない事を忘れる日本人。
「歴史は積み重なる」と言って、移民や開拓の苦労を忘れない西洋人。日本人は棄てたものの重みをいつか味わう様な気がします。
sado joURL│03/11 17:32│編集
sado joさんへ
コメントありがとうございます!

> 素晴らしい作品です^^

そんなそんな!sado joさんにそんなふうに言って頂けてとても光栄です!
ドラマを見た勢いで書いてしまって^^なので、落ち着いたらまた少し書き直しがあるかもしれませんが。

> 「歴史は流れる」と言って忘れてはならない事を忘れる日本人。「歴史は積み重なる」と言って、移民や開拓の苦労を忘れない西洋人。日本人は棄てたものの重みをいつか味わう様な気がします。

ああ、なんか的を射ている言葉ですね!日本人はいい意味でも悪い意味でも忘れやすい人間なのかもしれません><!
rurubu1001│URL│03/12 02:18│編集

こんにちは。

あぁ、こういうタイプのものも書くのですね。
いや、うん。なんだかすごく感心して、思わずコメント書いちゃいました。

上の方も書いてらっしゃいますけど、私たちって。
あの時代の人たちがつらい思いをしたからこそ、今の暮らしがあるのに、なぜあの時代の人たちを今の価値観で非難するんだろうなーって。

『海峡』はDVDになってますよ。
確か、ツタヤのネットレンタルにあったと思います。
ひゃく│URL│03/15 19:37│編集
ひゃく さんへ
はじめまして。コメントありがとうございます!

> あぁ、こういうタイプのものも書くのですね。いや、うん。なんだかすごく感心して、思わずコメント書いちゃいました。

ありがとうございます!戦争ものは人を選ぶところがあるから、書いても大丈夫かな?と少し気になっていたので。そう言って頂けてとても感謝です^^

> 上の方も書いてらっしゃいますけど、私たちって。あの時代の人たちがつらい思いをしたからこそ、今の暮らしがあるのに、なぜあの時代の人たちを今の価値観で非難するんだろうなーって。

そうですよね。だんだん戦争の知らない世代が増えてきているのも原因かもしれませんが、私たちは常に自分のものさしが一番だという、おごった思いがどこかにあるのかもしれませんよね。そんなことはないのに。あの時代を何も知らない私が物語を書くのも失礼かとも思ったのですけど、どうしても書きたくなってしまいました^^;

> 『海峡』はDVDになってますよ。 確か、ツタヤのネットレンタルにあったと思います。

本当ですか??これはみないと!!嬉しい情報、ありがとうございます!!^^
rurubu1001│URL│03/15 22:10│編集

女性視点だと、家族や生活が語られるのが良いと思います。
女性の戦争は、生きるためのものだったことが多く語られるような気がします。

必死で生きて、あるときふっと時間を振り返るとき、
そこで初めて全てを意識して理解して泣く、というところに泣く。
そしてやっぱり、今生きているということに感謝する。
けい│URL│03/29 11:13│編集
けいさんへ
いつも本当にありがとうございます!

お忙しいと聞いていたので、あまりコメントも無理なさらずで大丈夫ですからね。
いつでも息抜き感覚でぜひ。いい時にいらして下さいね^^

> 女性視点だと、家族や生活が語られるのが良いと思います。女性の戦争は、生きるためのものだったことが多く語られるような気がします。必死で生きて、あるときふっと時間を振り返るとき、そこで初めて全てを意識して理解して泣く、というところに泣く。そしてやっぱり、今生きているということに感謝する。

戦争ってやはり難しい問題ですよね。同じ「守る」をしていても、女性と男性ではしていたこと、見ていたことも違ったかもしれません。けいさんのおっしゃるとおり、女性は生活面をしっかり守っていくのに精いっぱいで。そんな女性側からの視点で書けて、素敵なコメントも頂けて嬉しいです^^そして、やはり今を生きていることに感謝~!
rurubu1001│URL│03/29 15:53│編集

亡国の花嫁というタイトルに惹かれて、
中世ヨーロッパあたりの架空の物語かなと思って読み始めたら
日本(かつての満州国)の話だったので驚きました。

シベリア抑留…。
これも掘り下げると深い話が作れそうです…。

まだ、あれから100年も経っていない。
ごく最近の真実。

もし、機会がありましたら、「劇団四季」の
「李香蘭」
(日本人だが中国人の養子になった李香蘭と、清王朝の王女であり、清王朝を復権させるために日本人の養子になった川島芳子の物語)
http://www.shiki.gr.jp/applause/rikoran/story.html

「異国の丘」
(日本の総理大臣の息子と敵国・中国の高官の娘との悲恋。
そしてその後のシベリア抑留…)
http://www.shiki.gr.jp/applause/ikoku/story01.html
(共にオリジナルミュージカルです)
をご覧になられると
rurubu1001様の心により響くかと思います。
(個人的には2階席などより、1階前方席がおすすめです。笑)
Sha-La│URL│06/25 22:55│編集
Sha-La さんへ
コメントありがとうございます!

> 亡国の花嫁というタイトルに惹かれて、中世ヨーロッパあたりの架空の物語かなと思って読み始めたら日本(かつての満州国)の話だったので驚きました。シベリア抑留…。これも掘り下げると深い話が作れそうです…。
まだ、あれから100年も経っていない。ごく最近の真実。

ちょうどドラマを見終えた直後のノリで書いたのがこの物語でした。最初は「大陸の花嫁」とそのままタイトルいするつもりだたんですが、なんとなく「亡国の~」というタイトルにしてみました^^

> もし、機会がありましたら、「劇団四季」の「李香蘭」(日本人だが中国人の養子になった李香蘭と、清王朝の王女であり、清王朝を復権させるために日本人の養子になった川島芳子の物語)

私が唯一みた劇団四季さんの作品がまさしくこれだったんです。たまたま知り合いにチケットをもらって見に行くことができて、男装の麗人とふたりのヨシコのお話ですよね、確か。ちなみに一階席で見ることができましたよ~。

> 「異国の丘」(日本の総理大臣の息子と敵国・中国の高官の娘との悲恋。そしてその後のシベリア抑留…)(共にオリジナルミュージカルです)をご覧になられるとrurubu1001様の心により響くかと思います。
(個人的には2階席などより、1階前方席がおすすめです。笑)

こちらは知らない作品でした。ご紹介ありがとうございます!総理大臣の息子と中国高官の娘なんて、素敵そうですね!見に行きたいなあ^^
rurubu1001│URL│06/26 21:06│編集
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