図書館から寄宿舎に戻った涼子(りょうこ)が自分の部屋に行くと、来客がいた。同じクラスの遥(はるか)だった。

「秋吉さんにお願いして、部屋に入れてもらったの」

秋吉さんとは、涼子のルームメート秋吉美和(あきよし みわ)のことである。冬休みを実家で過ごした美和は、三学期の始業式前日である今日、寄宿舎に戻ってきた。涼子は遥をみて微笑んだ。

「一番乗りなんて、遥の鼻は相変わらずね」

実家が有名洋菓子店の美和は、美味しいお菓子をたくさんお土産に持って帰ってくる。美和は今みんなにお茶会の召集をかけているのだろう。部屋にはいなかった。

「そう。私の鼻はとてもいいの。甘いものなんて、特に目がないんだから」

遥は涼子のベッドから腰を上げると、意味ありげに笑った。

彼女たちの通う女子高は長期休みに入ると、寄宿舎暮らしの生徒は帰省組と居残り組にわかれる。美和のように実家に帰るものもいれば、涼子や遥のように帰らない居残り組もいる。

「居残り組って響きが嫌よね。なんだか取り残された感があって。涼子もそう思わない?」
「そうね」
「しかも、影で『わけあり組』って言われてるのを知ってる?実家に帰らないのは、きっと何か帰れない事情があるからだ!って」
「知ってるわ。でもだからって、帰省組を『ホームシック気味』って影で呼ぶのも僻みっぽくて抵抗があるのよね」

涼子の言葉に、遥はくすくすと笑った。

「涼子は一見優等生にみえるけど、実はそうでもないのかしら?」
「あら、遥ったら意地悪ね」

図書館で借りた本を自分の机の上に置いた涼子はコートを脱いだ。降っていた雪のせいで、コートは冷たく濡れてしまっていた。

「意地悪なんてひどいわ。私は涼子のことが大好きなのに」
「もう、そんなこと言って。また、みんなに嫉妬されちゃうわ」

自分の部屋に戻って来たのに心が休まらないのはなぜだろう。相部屋の相方である美和が今日戻ってきたからだろうか。話好きの遥がこの部屋にいるからだろうか。一人になれないもどかしさに、涼子は少し息がつまった。

「私は涼子に嫉妬してもらいたいのにな」

涼子と遥はクラスメートだが、特別仲がいいわけではない。美人の遥はクラスの人気者で、憧れる者も多かった。それに比べ、涼子は特に目立たない真面目な優等生である。それなのに、最近なぜか遥は涼子によく声をかけ、かまうから不思議だ。

「私ね、本当はこの冬休み、涼子と話したくて残っていたのよ。気づかなかった?」

遥の問いかけは、涼子を戸惑わせるものだった。

「私はいつも涼子を見ていたのに。これじゃ片思いね」
「…片思い?」
「そう、片思い。誰かさんと同じ」

遥は涼子のそばに近寄ると、机の上に置いたあった本を手に取った。

「吉屋信子の本、私も好きよ。『花物語』なんて特にね」

涼子は観念し、自分の椅子に深く座った。

「甘いものには目がない、か…」

涼子はそう呟き、無意識に足を組んでいた。遥はこちらがうっとりするような微笑をみせる。

「ごめんなさい、涼子。あの日の放課後、私もいたの。理科準備室に」

涼子は肩をすくめた。

「…見られていたのね」
「言ったでしょう?私、とても鼻がいいの」

鼻がいい、か…。確かにそうかもしれない。成績はあまりよくない遥だが、勘が人一倍冴える。その鼻で甘い香りをかぎつけ、涼子の隠していた思いを一瞬で見抜いてしまった。

「白衣の似合う人はいいなあって私も思うもの」

冬休みに入る少し前、ある放課後のことだ。涼子は理科室に忘れものを取りに行った。ふと人の気配がして、隣の準備室をのぞいたが、そこには誰もいなかった。あるのは化学教師に忘れられた白衣だけだった。涼子は無意識にそれに手を伸ばしていた。

「変よね。どうしてあんなことをしたのか自分でもよくわからないの」

あの時、手を伸ばしたのはなぜだろうか。触れたのはなぜだろう。抱きしめていたのはなぜだろう。物音がして慌てて放し、その場を逃げ出した。

「変じゃないわ。その気持ちはきっと素敵なものよ」

遥にそう言われるとは思わなかったので、涼子は面食らった。遥の目はとても優しかった。

あの日の放課後、夕焼けに染まった理科準備室。そこにいた涼子はとても美しかった。控えめで大人しい雰囲気の少女だったが、内に秘めた熱を垣間見せ、見たことのない表情をしていた。穏やかで甘い。ひた向きで微笑ましい。それはずっと見ていたいと思わせるほど…。

「とても素敵なものだわ」

繰り返される遥の言葉に、涼子はなぜか涙ぐんでいた。それを隠すために彼女は急いで立ち上がった。

「お茶をいれるわね」

涼子の言葉を聞いて、遥もいつもの調子に戻る。

「う~ん、この香りだとお土産はフィナンシェね」
「え?」
「涼子、紅茶はダージリンとか後味のさっぱりするものでお願い」
「遥って、本当に鼻がいいのね」

ふたりは顔を見合わせると、同じように可愛らしく微笑んだ。


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=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ Matt Pond PA 『So Much Trouble』× 氷室冴子『白い少女たち』★

年明け初更新です。今年もどうぞ『1001夜ショートショート』をよろしくお願いします!

昔の少女小説っぽいものを一度書いてみたいと思ってました。できれば、寄宿舎?寮?生活を舞台にしたもの。そこにいる少女たちの姿を。ちなみに書いててなんですが、作中の吉屋信子『花物語』は未読です。少女小説の元祖と呼ばれる方の著作なので、ちょっと読んでみたい。読んだら、またこのジャンルに挑戦してみようと思います。

① Matt Pond PA 『So Much Trouble』
http://www.youtube.com/watch?v=VTbeGDhQlxU&index=1&list=RDVTbeGDhQlxU
最近洋楽ばかりですが、こちらも美メロです。少女たちが主人公の物語でこちらの音楽を使いたかったので叶って良かった。アーティスト情報があまりないので、マイスぺ貼っておきます。
Matt Pond PA  myspace
https://myspace.com/mattpondpa

② 氷室冴子『白い少女たち』
http://www.amazon.co.jp/%E7%99%BD%E3%81%84%E5%B0%91%E5%A5%B3%E3%81%9F%E3%81%A1-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB%E2%80%95%E3%82%B3%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-52A-%E6%B0%B7%E5%AE%A4-%E5%86%B4%E5%AD%90/dp/4086102358
ずっと探していた本をようやく入手。寄宿舎を舞台にした思春期の少女たちの物語です。氷室さんが20歳くらいの時に書いたものと聞き、驚きました。話は重くシリアスなのに目が離せなくて。未完の『碧の迷宮』もそうですが、彼女のこんな物語をもっと読みたかったなあ。何より私世代じゃ氷室冴子作品は、ほぼ絶版なのが悲しいです。いっそのことまとめて全集とか出してくれないかな。

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コメント

久しぶりに、女子の会話を聞きました。
ふふ。女子は色々に鋭いのですよね。恐るべしです。

漢字のお名前キャラはめずらしいですね。
ルームメイトさんも加わって、三人になったらもっと強力になりそう?

rurubuさん、今年もよろしくお願いいたします。
2014年がrurubuさんにとって素敵なお年となりますように^^
けい│URL│01/05 17:34│編集
Re: タイトルなし
けいさん

いつも本当にありがとうございます!

> 久しぶりに、女子の会話を聞きました。 ふふ。女子は色々に鋭いのですよね。恐るべしです漢字のお名前キャラはめずらしいですね。ルームメイトさんも加わって、三人になったらもっと強力になりそう?

女子って何気に鋭いですよね。特に恋愛方面とか^^
そうなんですよ。今回の登場人物は漢字で浮かんできたので不思議でした。

> rurubuさん、今年もよろしくお願いいたします。2014年がrurubuさんにとって素敵なお年となりますように^^

そんなそんな。こちらこそ今年もよろしくお願いいたします!
2014年がけいさんにとって、素晴らしいとしでなりますように^^

rurubu1001│URL│01/05 20:16│編集

遅くなりましたが
新年明けましておめでとうございます。

女子は何かと鋭い部分があるなと思いました。

今年も宜しくお願いします
ネリム│URL│01/13 13:41│編集
ネリムさんへ
こちらこそ、遅くなりましてすみません!明けましておめでとうございます。

おっしゃる通り、女子は何かと鋭い部分がありますよね。色々と驚くような。

今年も宜しくお願いします^^
rurubu1001│URL│01/13 14:01│編集
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