海に行こうと思ったのには、別にたいした理由があるわけではなかった。

行く場所がなくなってしまって、ぱっと思いついた所がそこだったに過ぎない。だから、私はなんとなく海を目指していたのだ。きっと私に限らず、海という場所はそういうところなんだろう。

「海にかえる人は、人魚なんだよ」

その途中で、少年はひょっこりと姿を現してくれた。

遠い異国から来たような新鮮で軽やかな空気をふわりと、私に届けてきたのだ。それはとても心地良かった。私は胸を撫で下ろして、自然に笑うことができた。笑いは、人間の最大の武器だ。

「僕らは昔々、体の半分がきれいな魚だったんだよ。好奇心あふれたご先祖様がある日、陸に出てしまって、人間になったんだ。それが良いことだったのか、悪いことだったのか、僕にはよくわからないよ…」

このとき少年はとても懐かしい目をしていた。瞳に映っているのは、私たちの青い海。でも、二度と会うことの叶わない特別な海だった。

「どうして僕らは、何もかも失うことはないんだろう?本当にあの海を失っているなら、こんなふうに泣いたりは、できないはずなんだ」

少年は仙人のように深い話をしてくれた。こういうとき、私は流してしまう。昔からの悪い癖だ。あとで、とんでもない落し物に気がつくというのに。謎を解くヒントになりえたかもしれないような重要な何か―を。

「涙は唯一、僕らをあの海に繋げてくれるものだから。手放すなんてできなかったんだよ、きっと。たとえ魚の足を失ったって…」

少年は私に訴えていた。とても真摯に。私が頷くと、少年は言った。

「君は何も悪くないよ。僕は知ってるんだ。君の手はとても優しかったから」

私は自分のお腹に触れた。その様子を見て、少年は微笑んだ。

「ありがとう。いっぱい泣いてくれて。だから、こうして会いに来れたんだ」

海にかえる途中だったこの少年こそが、本物の人魚だった。

「大丈夫。僕らは、いつでも会えるんだから」

私はこれからも泣いてしまうだろう。少年に会いたくて。私たちの海に会いたくて。

「僕らは、いつでも会えるんだよ」

やがて視界が青く染まり、だんだんと少年の姿が見えなくなっていった。


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コメント

いっぱい、いっぱい、泣いたんですかね。
海はどんな理由も受け入れてくれるから好きですね。

人魚って、何年生きるんでしょうね。
この少年は、少年の姿をした、誰かな?

潮風に吹かれたくなりました^^
けい│URL│08/06 20:58│編集
Re: タイトルなし
>けいさん

いつも本当にありがとうございます!

私も海が好きです。人魚って何年くらい生きるんでしょうね。
人魚はもしいるならぜひ見てみたいものです!
もちろんマナティとかでなく…^^
rurubu1001│URL│08/06 23:28│編集

人魚ってとても不思議な存在ですよね。
敵なのか、味方なのか。
怪物なのか、妖精なのか。
どちらにもとれて、神秘的です。
そろそろ私も人魚にまつわる物語にチャレンジしようか。

rurubuさんって私より執筆歴が長かったんですね。
いろいろと失礼しました。
ヒロハル│URL│01/24 22:13│編集
ヒロハルさんへ
コメントありがとうございます!

返信が遅くなってしまい、すみません。PC環境から離れていました><!

> 人魚ってとても不思議な存在ですよね。敵なのか、味方なのか。怪物なのか、妖精なのか。どちらにもとれて、神秘的です。そろそろ私も人魚にまつわる物語にチャレンジしようか。

そうそう。不思議な存在なんですよね。昔から心惹かれてしまい…。
ぜひぜひ!ヒロハルさんの書く人魚の話、楽しみにしています^^

> rurubuさんって私より執筆歴が長かったんですね。いろいろと失礼しました。

私は学生時代から、気づけば授業中に物語を書いているような子だったので、執筆歴は割と長めかもしれませんが、たいしてうまくはないので、全然気になさらないで下さいね^^
rurubu1001│URL│01/26 21:54│編集
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