男は女を背におぶって、人目を避けるように先を急いでいた。

結ばれることのできなかった男と女の末路。それを語るのは何とも心苦しいが、話さなくてはならない。

 春はその身をゆっくりと追い立てられていた。そこは桜の森。

ふたりはそう呼んでいた。すでに満開の時分は過ぎ去り、薄紅色の花弁が夜風にはらはらと散っていた。

 まるで何かの夢の中に迷い込んだようだ―、ぼんやりと男はそう思った。
おぶされた女の意識はとうになく、すでに事切れていた。男は女に別れを告げるため、ここを訪れたのだ。

 男は一本の桜の木の下で女をおろし、静かに地に寝かせた。
そして、丁寧に女の両手を胸の上で組ませると、懐かしそうに桜を見上げた。

 約束を果たしにきたのだ。

この桜の木の下で男と女は出会い、愛を誓ったのだった。男はそのふたりの姿を今も容易に思い描くことができた。しかし、それはもう痛ましい光景でしかない。

 …私が死んだら、あの桜の木の下に埋めてください…

男は頷くことしかできなかった。それまで女は、男に決して頼みごとなどしなかったのだ。

ここでかつて大切に抱きかかえられた赤子がいた。その赤子はとても愛らしく、目が合うと嬉しそうに無邪気に男に微笑みかけた。

 妹だった。その日から男の目に映る女は、この妹の他にはいなかったのだ。

女にとっても、それは同じだった。物心ついた頃には、すでに兄だけが女の特別な男だったのだ。

女の顔が月の光りにさらされると、なおいっそう白く優美に輝いた。
男は女に最後の抱擁と口づけを交わすと、一粒涙をこぼし、その顔を土で汚した。

…どうして桜がこんなにも美しく咲いているか、兄上はご存知ですか?それは桜が人の血を吸って、生きているからだそうですよ。

 土を掘り、女の亡骸を埋めた。

…なら、お前の言うように、私たちの最期はここがいいのかもしれぬ。きっと血が濃ければ濃いほど、見事な桜が咲くのだろう…。

 ふさわしいと思った。それだけだ。

男は静かに決意を固めると、胸に秘めていた小刀で自分の喉もとを掻っ切った。
勢いよく血は溢れ出した。辺りを赤々と染め上げ、桜の木をその鮮やかな色で濡らした。

桜はふたりの最期を看取ると、風の中で大きくその身を奮わせた。渡る夜風は、さも歓喜に笑いざわめくようだった。




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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 坂口安吾「桜の森の満開の下」× 友人の話 ★
http://www.amazon.co.jp/%E6%A1%9C%E3%81%AE%E6%A3%AE%E3%81%AE%E6%BA%80%E9%96%8B%E3%81%AE%E4%B8%8B-%E8%AC%9B%E8%AB%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E8%8A%B8%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%9D%82%E5%8F%A3-%E5%AE%89%E5%90%BE/dp/4061960423
これは確か20歳前後くらいに書いた気が…。遊べる本屋さんのポップが面白くて、何気に好きなんですけど、中で「美しくて儚い…」という凄くシンプルなポップを見つけて。本の名前は「桜の森の満開の下」。それを見た瞬間、一気にイメージが飛び込んできたんです。タイトルを見てそんな風になったのは初めてで。タイトルだけで惚れてしまったというか…。とにかく、これはまず自分の物語を書いてから読もうと思いました。

① 坂口安吾「桜の森の満開の下」

坂口安吾は「桜の森の満開の下」が一番好きです。私が書いた物語なんかと全然比べ物にならないほど素敵な作品です!でも、ちょっと嬉しかった共通点がありまして。私の物語も女を背負って歩いてましたが、彼の作品でも、女を背負って桜の森の中を歩いている場面があったんです。ちょっとだけ重なった気がしてそれがすごく嬉しかった記憶があります。特に好きな場面は、主人公が女にどうして桜の森が好きなのかたずねられ、それを答える場面。それと、あのしんとするラストでしょうか。そうそう。書き終えて購入しようとしたら、文庫でこのお値段とはさすがに驚きました。

② 友人の話
「桜の森の満開の下」と出会った衝撃を友人に伝えたら、「そう言えば、桜の木の下には死体が…っていう話をきいたことがあるなあ」と言っていて、ちょうど書いた後だったから、すごくびっくりしたんです。今、調べてみたら、梶井基次郎の短編小説「櫻の樹の下」という本があるようで、もしやこのことを言っていたのかな?気になったので、今度読んでみようと思います!って青空文庫に「桜の森の満開の下」もあってネットで読めるじゃん!なんてこったい…。

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コメント

うわっ。なんという悲恋ですか、rurubuさんっ。
ぐっさり来ました。これ、中学のときに書いたとか言わないですよね。一応確認。

タイトルから、森の精でも出てくるファンタジーかと思ったじゃないですか。もう。救われないし・・・

そうですよ。世の中、ハッピーなことばかりではないのですよね。いろんな事情があるのですよ。ね。桜は看た。。。

けい│URL│08/05 22:08│編集
いつも本当にありがとうございます!
>けいさん

いつも本当にありがとうございます!

せっかくなので影響を受けた作品紹介を先に書かせてもらいました。

中学生のとき、書きました!って言えたら、ちょっと面白かったですよね、残念^^
rurubu1001│URL│08/06 00:14│編集

これは何とも切ないというか、やり切れないというか・・・・・・物語としては素敵なんですけど、悲しいというか・・・・・・。
もう、言葉では言い表せない複雑な感情が渦巻いております。

この短い文の中に、二人が過ごした日々を見た気がしました。
素晴らしいです。

rurubuさんは小説を書かれてるようになってどのくらいですか?
差し支えなければ教えてください。
ヒロハル│URL│01/22 13:32│編集
ヒロハル さんへ
コメントありがとうございます!

> これは何とも切ないというか、やり切れないというか・・・・・・物語としては素敵なんですけど、悲しいというか・・・・・・。もう、言葉では言い表せない複雑な感情が渦巻いております。この短い文の中に、二人が過ごした日々を見た気がしました。素晴らしいです。

ややや!そんなそんな!ヒロハルさんにそんなお言葉を頂けるとは…!恐縮過ぎます、本当に><。
拙いもので本当に本当にお恥ずかしいのですが。

> rurubuさんは小説を書かれてるようになってどのくらいですか?差し支えなければ教えてください。

年数を今まで考えたことがなくて…気が付いたら、書いていたのですが。
(途中に書いていない期間もあったりするので、正確じゃなく&参考にならなかったら、すみません!)

たぶん10~15年くらいかと思います。
けっこう年数経ってるのに、あんまり成長してない自分にがっかり…ということに気づきました(汗)。
rurubu1001│URL│01/22 22:57│編集
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