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【アルファポリス様限定公開】  長編作品紹介
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最近、続編ばかりでショートショートをあまり書けてません!なので、しばらくの間こちらをトップ記事に。良ければ、今宵はじめての方には1001夜本番前の前夜祭のような気分で、馴染みの常連さんには懐かしい1001夜同窓会のような気分で、こちらのショートショートをお楽しみ下さい。訪れたすべての方々に感謝を込めて。 

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↓↓【第1夜】 千一夜の幕開け ジャンル:ファンタジー 2013/06/16 05:18UP↓↓
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人の記憶とは残酷だ。

あんなに愛していた王妃の顔が日に日に遠のいて、何もつかめなくなってきている。今、私が言えるのは王妃のイメージでしかない女の姿だ。

その女は人目を引く華やいだ笑顔で私を見つめている。愛しそうに細める目は、明るい黒色。少し低めの鼻は小生意気そうだが、小さな唇と密かに合っていて可愛らしい。長く艶やかな黒い髪。小麦色の肌。そして、そのぬくもり。心臓の鼓動…。

全てはイメージ。とらわれの感覚でしかない。自信がない。これが私の唯一愛した女だったという証拠がどこにある?しかし、確かに少し前まで王妃は私の側にいたのだ。いたに違いないのだ。

息苦しくなる。
なぜ王妃は私のもとから、いなくなってしまったのだろう?こんなに大きく、がらんとした城と私を残して。苦しみと哀しみだけを残して…。

会いたい。
ただ、会いたいのだ。それが叶わないから、余計に会いたいと願ってしまうのだ。

天にいるはずの彼女に訴える。
私を救えるのは王妃、お前だけだったではないか。そこから眺めてないで、私の前に幻でもいい。姿を現してくれ…。

その時だった。
真っ暗だったはずの私の部屋に不意に光りがもれてきた。どこからだと思って振り返ると、扉が少しずつ開いていて、人影があるのがわかった。

「…王妃…?」

声が震える。これは幻なのだろうか?

「いいえ、王様。私は王妃様ではございません。ただの女にございます」

その声色は確かに王妃のものではなかった。私はしばし絶望に打ちひしがれたが、一瞬でも惑わせたこの女に腹が立ち、

「帰れ!ここはお前などの来るところではない!」

と、冷たく言い放った。それなのに女は何も動じてはいないようだった。

「私は、あやしい者ではありません」

きっぱりとした物言いに、どこか王妃に似た意志の強さを感じた。

「王様にお会いするために参りました。生前、王妃様には大変お世話になって―」

しかし、夜目でとらえた彼女の姿は、王妃とは全く違う印象を受けた。
ただ清らかに微笑む顔。穏やかな物腰。全てを受け入れて包み込む聖母のような佇まいだった。

「王様に差し上げたいものがあるのです」
「…差し上げたいもの?」

女はゆっくりと近づき、その吸い込むような瞳で私をとらえた。

「物語にございます」

何を言い出すかと思えば、と私は鼻で笑った。すると、女は静かに笑い、こう告げたのだ。

「ただの物語ではございません。王妃様が愛する方のために残された物語にございます」

今度は笑うなんて芸当ができなかった。私は言葉を失って、女を見つめ返すことしかできなかったのだ。そんな私に対して、彼女はどこまでも優しかった。

「驚くのも無理のないことですわ。王妃様はご自分の命がそう長くないことを知っておられました。そこで、私のもとをたずねられたのです。頼みがあると―」

私はただ彼女の言葉を待った。

「愛する王に残しておきたいものがある―、と。でも、それは形を成すものではなかったのです。ただ、心にかすかな余韻として残るだけのもの…」
「それが?」
「物語にございます」

王妃よ、お前は私を一人おいていったわけではなかったのか…?

私は狼狽した。王妃は私に何も言い残さなかった。ただ静かに自分の死を受け入れて息を引き取ったのだ。私は深く息を吐き、冷静さを取り戻してから、彼女に席をすすめた。しかし、彼女はその場から動こうとはせず、こう切り出した。

「一つ、お願いがございます。私が話すのと同じように、王様にも何か物語を話していただきたいのです」

私は理解できずに首を傾けていると、彼女は微笑んで、私に打ち明けてくれた。

「私の家には古くから伝わる言い伝えがあるのです。一夜ごとに一話、互いが順に物語を語っていく…。それを千一夜、続けることができれば、千一夜目には奇跡が起きるというのです」
「…奇跡?」
「はい。私は以前からこの言い伝えが本当なのかどうかを確かめてみたかったのです。一緒に挑戦してみてはいただけないでしょうか?」

彼女の瞳は笑ってはいたが、真剣さが伝わってきた。今になって突然、私は全ての意図を解したのだった。そして、つい声を立てて笑ってしまった。

「やっと笑顔を見せてくださいましたね」

そんな私を見て、彼女は安堵したようだった。

「面白い女よ。名はなんと?」
「シエラザートにございます」

シエラザートは微笑みながら、軽く挑むように私を見た。私は観念して、彼女に告げていた。

「シエラザートよ、それではともに千一夜、語ってみせようではないか。そして、奇跡とやらをみてみよう」

私は彼女を席まで招くと、使いの者を呼んであることを言いつけた。シエラザートは不思議そうに私を見つめていた。

「おいしい葡萄酒がある。こんな夜にうってつけのな」

そんな私に彼女は可笑しそうに笑った。

「王様は余裕でいらっしゃいますね。一つ大事なことを言い忘れておりました。物語は必ず面白いこと、それが条件です」

今度は私が挑むように彼女を見る番だった。彼女もそう返してきたが、やがて、ゆっくりとその口元をゆるませた。私の中で、長い間忘れていたあたたかなものが広がっていく。

きっと王妃はわかっていたのだろう。一人取り残された私が哀しみに暮れることを。だから、彼女を寄越したのだ。誰かと話すことで気が紛れるように。一人で苦しまないように―。

ふと開け放った窓から見える天を眺めた。確かに天は高いかもしれないが、そう遠くもないはずだ。
視線を下ろすと、心配そうにこちらを見つめるシエラザートがいた。

「…始めるか」

その言葉を口にすると、次の瞬間、彼女は花開くような美しい微笑を見せてくれた。

それから、私たちはこの千一夜の幕開けにふさわしい一夜目の物語を始めた。




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