※良ければ、先にこちらをどうぞ。
【目次】 淑玲『宮廷浪漫』シリーズ 【作品紹介】
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-253.html
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お昼のご飯休憩が終わって、午後の講義が始まった。

「それでは、午後の講義を始めましょう。私たちの住む、蹊国(けいこく)の政治・経済についてです」

胸が高鳴る。いよいよ、ずっとやりたかった学問が学べるのだ。席取りは自由らしく、隣りの席になってくれた珠露(しゅろ)が講義で使う本を一緒に見せてくれた。

「ありがとう、珠露」

私がお礼を言うと、珠露はかわいい童顔でニッコリと笑ってくれた。ふと緊張が和らぐ。

「さあ、期限は二日。二日でみんなに認めてもらわないとね」

そう言うと、前に座っていた同じ商店街の仲間が、私のやる気に水を差してくれた

「『淑玲は、失敗する』に、俺は賭けよう!」と、白い歯を見せて笑う魚屋の息子・平勝(へいしょう)。
「じゃあ、俺は『淑玲は、なんだかんだとうまくやる』に、賭けようかな!淑玲は敵を作りやすいけど、案外うまいこと自分を転がすんじゃないか?」と、キツネ目の酒屋の息子・渾沌(こんとん)。

なんか聞き捨てならないセリフを一気に聞いたような…。

「ちょっとちょっと、失敗するって何よ?それと、敵を作りやすいってどういうこと?」

私が聞き返すと、彼らは振り返り、ニヤニヤした。

「ダメだ。淑玲のやつ、無自覚だ!俺、賭けに負けるかも…。なんだあ、この賭け、平勝(へいしょう)の勝ちかあ」
「女に変に甘いんだよ、渾沌(こんとん)は。性格と能力を見抜かないと!まあ、俺の勝利は確実だね!」

…ちょっと、さっきから失礼じゃない?しかも人を勝手に賭け事のネタにしないでよ!

私が頬を膨らますと、人のいい丸顔の肉屋の息子・真野(まの)が盛り上がる2人を小声で注意してくれた。

「もう、みんな淑玲は淑河(しゅくが)の大事な妹なんだよ。僕たちがうまくフォローすればいいじゃん!」

ん?ちょっと待って。それってうまくいかないこと、前提??

「安心してね、淑玲。僕たちがうまくやるからね」
「…あ、ありがとう…」

う~ん。真野は優しいけど、何かと「淑河(しゅくが)が!淑河が!」と私の兄様の名前を出す。兄様と仲良しなのは知ってるし、だからこそ私に良くしてくれるのもわかるんだけど、素直に喜べないのはなぜ…?

そんな私の様子を見ていた珠露が笑って口を挟んだ。

「淑玲、みんな色々言ってるけど、伝えたいことは同じなんだと思うよ。正攻法じゃ難しい。たぶん、みんなそれを淑玲に伝えたいんじゃないかな」
「…え、それってどういう意味?」
「きっと、すぐわかるよ」

珠露(しゅろ)はそんな謎めいた言葉を残して、視線を先生に戻した。平勝(へいしょう)たちもいつの間にか前に向き直っている。今のは一体どういう意味なのだろう?

「蹊国(けいこく)の現国王、朱矜(しゅきん)王は四代目になります。行っている主な政策を説明できる人はいますか?」

先生が早速みんなに質問を出す。私は思い切り手をあげた。

「おや、淑玲一人だけのようですね。それでは淑玲、お願いします」

私は立ち上がり、みんなに聞こえるようにはっきり言った。

「朱矜王(しゅきんおう)が主に行っているのは経済政策です。蹊国初代国王から三代国王まで、戦乱後の国の立て直しに力を入れて来ました。まず法制度、人々が最低限度の生活ができるよう国家としての基盤を築き上げました。次は人々が豊かに暮らせるように、朱矜王は経済の発展に力を入れています。まず、私たちの住む首都・成安をはじめ、地方にも商業都市や経済特区を設けて、それから…」

早くみんなに私の力を認めさせないと!そんな気持ちばかりがせいで、私はまわりの空気の変化に気づかなかった。だから、次に何を言われたのか一瞬わからなかった。

「うぜー」
「何、知ったかぶってんのー」
「知識ひけらかすとか、どうよ?女のくせに」
「男を差し置いて、自分できますアピール?」

その場の空気が凍りついた。いや、違う。空気が凍りついたんじゃない。それを聞いて、凍りついたのは私だ…。

「…淑玲?」

先生が私に声をかけた。

「…あ、その…」

まるで声まで凍りついてしまったのか、私は急にうまくしゃべれなくなった。
今の悪意のある声は何?私、何か間違ったこと、言った…?

「…淑玲、どうしましたか?」

先生も今の声は聞こえていたはずだ。でも、助けてはくれない。それは最初に言われていたことだ。鋭い視線ならまだしも、言葉の攻撃、その鋭い切れ味に驚く。心臓がひやりとする。

その時だった。

「嫌だなあ、淑玲。僕が今、教えたことをそのまま言ってー。まるで自分の意見っぽく言うんだもん」

珠露(しゅろ)が冗談めかした声で空気を氷解させる。それに便乗するように、平勝(へいしょう)たちが続いた。

「みんな驚いた顔してるじゃん」
「知識とか特にあるわけじゃないのに、無理して頑張っちゃってさ。途中でわからなくなったんだろ―?」
「淑玲は、目立ちたがりなんだよなー。女の子がいるってだけで、充分目立ってるって」

そう言って、最後に真野が私の腕を引っ張って、腰を下ろさせる。

え、どういうこと…?

「なんだ。あいつらが仕込んだのか」
「あやうく騙されかけた…」
「女のくせに、学問できるとかありえねーだろ?」

どこかで好き勝手いう声がまた聞こえる。腰を下ろしたことで、隣りに仲間たちがいることで、私は落ち着きを取り戻していた。

『淑玲、みんな色々言ってるけど、伝えたいことは同じなんだと思うよ。正攻法じゃ難しい。たぶん、みんなそれを淑玲に伝えたいんじゃないかな』

そうか。正攻法じゃ難しいってそういうことか…。私は自分の能力を見せつけて、みんなを納得させればいいと思っていた。先生の質問にはたくさん答えられるし、難しい問題だって解ける。それがみんなを『認めさせる』ことにつながるって。でも、そういうことをしてもダメなんだ。それをすると、逆に今みたいに女の私はまわりの反感や顰蹙(ひんしゅく)をかうだけ。『認めさせる』ことにはつながらない。先生の言葉を思い出した。

『あなたの力でみんなを納得させて下さい。それは学問以外の方法でも構いません』

先生はわかっていたから、あの時、ああ言ったのね。うわ~、初対面なのに私ってば行動、よまれてる…。でもそれは先生に限ってのことじゃない。

『ダメだ。淑玲のやつ、無自覚だ!俺、賭けに負けるかも…』
『女に変に甘いんだよ、渾沌は。性格と能力を見抜かないと!』
『もう!みんな淑玲は僕たちがうまくフォローすればいいじゃん!』

私は呻るように呟いた。

「珠露(しゅろ)の言ってた『正攻法じゃ難しい』の意味がわかったわ…。でも女じゃなかったら、たぶんここまでされなかったような気がする…」

やっぱり女というハンデは大きいのだろう。男尊女卑。この国では、それが色濃く、根深くまだ残っている。私が女じゃなかったら、もう少し正攻法でうまくやれたかもしれない。珠露が笑った。

「学問塾って不思議だよね。僕は今まで家庭教師と一対一だったから、ここは全然違くてびっくりしたんだ。人が多くなると、環境って激変するんだね。でもきっとさ、こういうところだからこそ、うまくやれることもあると思うんだ」

珠露の言葉と先生の助言が重なる。

『淑玲、自分の能力を過信しないこと。人を頼ることを覚えなさい。謙虚でありなさい。そうすれば、あなたは自分が思っている以上の力を発揮できるでしょう。期待していますよ』

「…珠露と先生の言った通りだったわ。でも…」
「え?」

珠露が私を見つめるのがわかった。私は彼に笑顔を向ける。正攻法は難しい。自分の能力を過信しないこと…。そうね。確かに珠露と先生の言った通りかもしれない。でもだからって、さっきみたいに仲間に助けてもらってばかりじゃいけない。まわりの悪意を気にして、自分の意見や発言を我慢し続けるなんて無理だし、嫌だ。何もせずに埋もれたくない。もし、ここで学べるのが二日間だけだとしても、それまでは私もみんなと同じ生徒のはずよ。

「先生!」

私はまた勢いよく手を上げて、立ち上がった。鋭い視線が集まる。急速に。ピリピリと空気が張り詰める。…でも、知ってる?人間って慣れるものなのよ!

「提案があります。私、まだみんなの知識についていけなくて、一人だと不安なんです。なので、良かったら質問の受け答えなんですけど、何人かに組分けて、組ごとで競い合いませんか?誰か一緒だったら、私、頑張れると思うんです」

少し俯きがちの、か弱い女の子っぽい演技をして、そう提案してみた。前の席の二人が

「誰だ、お前!?」
「淑玲、キャラ変(キャラクター変更の略←性格変更の意味)??マジうけるんだけど!」

と小声で突っ込むのがわかった。

何よ。うるさいわね。こっちは必死なんだから…。これだったら、私が正解をあてても、私だけの評価にはならない。私と一緒の組になった人はもれなく同じ評価がつく。私を良いように思っていない人が私と組んだとしても、メリットになるんじゃないかしら?

両隣りの優しい二人が不安げに私を見上げている。私は先生を見つめていた。まさか『人を頼りなさい』と言った本人が反対したりはしませんよね?

先生はふっと笑った。まるで「よくできました」とでもいうように-。

「それは、面白そうですね。いいでしょう。淑玲、あなたのいる、この二日間はそれでやりましょう」

私は「ありがとうございます」と答え、ゆっくりと腰を下ろした。

「淑玲、驚いたよ!」
「面白いこと、考えたねー」

真野は肝が冷えたといい、珠露は楽しそうに笑った。私も微笑んだ。

「これなら、みんなに迷惑をかけないでしょう?私、足手まといになりたくないんだ。できれば、みんなと最初から同じ土俵にたちたい」

とりあえず、講義はこの方法で乗り切ろう。でも、これではまだみんなに私は認められないだろうな。学問以外の手も打たなきゃ…。

「『正攻法は成功法ではない』かー」

私の呟きに、珠露が反応した。

「淑玲、今なんて?」
「同じ言い方でも、私に必要なのはこっちだったのかもしれない。知恵を絞って、成功法を見つけ出さないとね」


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ YUKI 『誰でもロンリー』 × 草凪みずほ『暁のヨナ』 ★

ちなみにサブタイトル「正攻法は成功法ではない」は、故事成語(または諺)ではありません。今回は私が考えたものです。時間がなくて、仮タイトルです。いつも故事~を探すのにけっこう時間をとられるんですよね。余裕のある時に直しますね。

① YUKI 『誰でもロンリー』
http://music21-pv.seesaa.net/article/404432220.html
今回はこれをきいてました。曲調も歌い方もカワイイ。

②  草凪みずほ『暁のヨナ』
試し読みhttp://www.cmoa.jp/title/58131/
大人になっても楽しめる、脇役まで大事にしてるファンタジーってあまりないから貴重だなあ。弱々しい箱入りお姫様だった主人公がある事情で国を追われますが、仲間たちの助けを借りて、どんどん逞しく成長していきます。もう弓も引くし、剣も握る。そんな闘うヒロインがカッコいい。個人的にはみんながひたすらボケる中、一人でみんなをつっこむユンが好き。
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次回
【第154夜】 講義の合間のちょっとした小噺(淑玲『宮廷浪漫』シリーズ番外編)
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-161.html
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「…んで、お前はどうする気なの?」

放課後、担任のミヤザワに進路指導室に呼び出されて、早や10分。気まずい。何、この空気。逃げ出したい…。がさつで髭面のこのおっさんは現国担当教師なんだけど、教科に似合わず、性格は体育会系だ。

「高校卒業した後の進路はどうするんだ?」

まあ、もとはと言えば、進路調査票を白紙で提出した俺が悪いんだけどさ。いや~、先生、顔がコワイヨ?いつもそうだけどさ。おっと、失言失言。じゃあ、いつにもまして、かな。…あれ、もっとひどくなってる…?

「進学?専門?就職?もう高2も終わりなんだからさ、考えとかんと、まずいだろう?」

考えてたら白紙で出すか!?そう心の中でつっこんだ。言ったら、殺されるだろうな。だから、言わない。言えない。ミヤザワはようやくハッとした。

「…お前、まさか何も決めてないのか…?」
「えへ☆」

俺の返事にミヤザワは呆れた。俺はこの気まずい空気を壊したくて続けた。

「先生!俺の未来は、この白紙の進路調査票が語ってくれてるじゃないですか!何ていうの、可能性無限大!?」
「意味わからんっ!!」

ミヤザワはますます呆れたようだ。だって、しょうがないじゃん。決まってないんだからさ。っていうか、俺から言わせてもらえば、もう進路が決まってるみんなの方がすごいんだけど。だって自分の将来だよ?そう簡単に決まるもんなの?

「決まるもんというか、決めるもんだって感じだろうな。今の時期、みんな」

どうやら俺の疑問はダダ漏れていたようだ。

「お前はないの?将来の夢とか。卒業後、何をしたいとかさ」

俺は黙り込んだ。そう、それなんだよ。俺はその『将来の夢』ってやつが、曲者だと思ってるんだ。

「まあ、いい機会だ。今、思ってること、考えてることを全部言ってみろよ。聞いてやるから」

ミヤザワは椅子にしっかりと座り直した。腰を据えた、という感じだ。こうなったら、そう簡単には逃がしてはくれない。俺は観念した。

「…先生は将来の夢っていうけどさ。その将来の夢ってやつは、どうなの?」
「は?」
「俺、小さいころ、大きくなったらサラリーマンになりたいですって言ったら、もっと大きな夢を見ろ!って注意されたんだよね。野球選手とかサッカー選手とか宇宙飛行士とかさ。『子供は子供らしく、もっとデカい夢をもて』ってさ」
「ふむ」
「でも、今そんなこと言ったら、『そんな夢、無理に決まってるだろう?高校生らしく現実見ろよ、バカ!』ってなってるじゃん。結局、そうくるんならさ、小さいときに最初からデカい夢を見ろ!なんて言うなよな。しかも子供らしく!高校生らしく!ってなんだよ。いつも俺はその時その時で、俺らしく答えてるって!…あ、ちなみに俺はスポーツ選手になれる才能もなければ、宇宙飛行士になれる頭もなかったよ。成績もスポーツも中の下。先生もよく知ってると思うけどさ…」

一気にまくしたてるように言うと、ミヤザワは「やれやれ」と言いたげな顔をした。俺もわかってるよ。こういうの言うこと自体が一番子供だってこと。でも、すみませんね。これが俺なんです。一人ぐちぐち言っていると、ミヤザワは俺の目の前で人差し指をたてた。

「えーっとな、まず、最初に言うべきところはサラリーマンは立派な仕事だぞ!この日本経済をしっかり支えてくれているのはサラリーマンのみなさんのおかげだ」
「え!気にするの、そこ!?」
「まあ、小さいときにお前に『デカい夢をもて』と言った大人の気持ちもわからないでもない。現実は厳しいからな。厳しい現実を知らないうちは、大きな夢を、将来を、明るく考えてもらいたいっていう…」
「何それ?俺たち、大人のいいように振り回されてただけじゃん。それで今、手堅い進路を!って言われても、なんか途方に暮れるんですけど…」

ミヤザワは笑った。

「なるほどな。お前の言い分はわかった」
「え、わかってくれたの?じゃあ、俺、帰っていい?」

ミヤザワは俺の浮きかけた肩を制した。

「まだ帰さん。つまり、お前は自分の進路が決まらないのは、全部大人のせいだって言いたいんだな」
「え?」
「大人のせいで、将来の夢なんて一つももてない。だからって、大人が用意した手堅い進路があったとしても、それは嫌だとそっぽを向くわけだろう。何で大人に決められなきゃいけないんだって怒りだすんじゃないか?とんだあまちゃんだな。ただのワガママなクソガキだ」
「は?何それ!」

思わず、カチンときた。ミヤザワは構わず、続けた。

「俺に言わせてもらえば、お前は色々と準備不足だ。自分はスポーツ選手にも宇宙飛行士にもなれない。それは早い段階で気づいてたのに、お前は他の道を自分で考えすらしなかったんじゃないか?いざ、進路を決めなくちゃいけないって時は今言ったように大人のせいにして逃げようとしたんだろう?」
「…ちげーよ!」
「何が違うんだ?」
「…逃げてなんかない」

ミヤザワは「どうだかな」というように、鼻で笑った。

「俺は、逃げてなんか…ない…」

顔を伏せ、ただそれだけを言っていた。拳に力が入る。爪が皮膚に食い込んだ。

「じゃあ、何を考えているのか俺に教えてくれよ。本当のこと、言ってくれないと。俺の経験上、そういうことを言うやつに限って、実は自分の夢をしっかり持ってたりするんだ。でも、人に反対されやすい夢だったりするから口が重くなってる。お前もそうなんじゃないか?スポーツ選手や宇宙飛行士以外の…」

俺は顔を上げた。ミヤザワはニヤリとする。

「で、お前は何になりたいと思ってるんだ?」

…何だよ、何もかもお見通しだったってわけかよ。この分じゃ、俺が本当は何になりたいかも知ってるんじゃないのか?

「俺はお前の口から、聞きたいんだよ」

ミヤザワはズバズバ言ってくるけど、決して性格が悪いわけじゃない。生徒に無関心そうなのに、肝心なところはきちんとおさえる。しっかり俺たちを見ている。

「…絶対笑うなよ!」

俺は息を吸い込んだ。

「…漫画家。俺、漫画家になりたいんだ」

そう言うと、ミヤザワは「やれやれ」と言いたげな顔をした。でも、さっきのとは違う。今度はようやく言ったかというように―。

「確かにお前は絵を描くのが凄くうまいな。美術はA評価。自分で漫画も描いてる。それはクラス内でそこそこ人気だな。でも、それだけじゃ、漫画家にはなれない。お前自身はどうやったら漫画家になれると思っていて、それを叶えるために、どんな行動を起こしてるんだ?」

ミヤザワは真剣な顔をしていた。

「お前に言っとく。夢を夢だと、ただ語ってていい時期はもう終わったんだ。夢をかたちにするためにどうすべきか、どう動くべきか。具体的にプランを立てるのが今の時期なんだぞ?」
「…俺、自分の夢なんて言ったら、笑われるかと思ったんだけど…」

「心外だな」とミヤザワは自分の頭をかいた。

「俺はいつも笑ってるぞ?ニヤリとな」

そう言って、俺の目の前でニヤリと笑う。

「何だよ、それ…」
「お前はもっと真剣になれ。真剣に動け。それはお前の大事な夢なんだろう?」

胸が熱くなっていく。広げた手のひらにくっきり残った爪痕なんて忘れてしまうほど。それはとても熱くなっていく―。

「覚悟はできてんのか?」

俺は、しっかりと頷いた。

それから、ミヤザワは「やれやれ」と言いながら、美大や専門学校のパンフレット、漫画系の出版社の作品持ち込みに関する資料を取り出した。


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=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ ヨシノサツキ『ばらかもん』 × SUPER BEAVER『らしさ』 ★

『ばらかもん』が面白いと聞いて見てみたら本当に面白かった!私はまだアニメしか見てないのですが、最初の音楽から手を抜いてなくて、それを聞いてたら早速この物語が生まれました。今思うと、みんなから「先生」と呼ばれる書道家や進路に悩む受験生、漫画家になりたい女の子が登場していたので、それらがMIXされて今回この物語が生まれたのかな。ちなみにここで出てきたミヤザワ先生は以前も別の物語で登場しています。
【第18夜】 読書ノート 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-18.html

① ヨシノサツキ『ばらかもん』
スランプに陥った若き書道家が頭を冷やすためにやってきた五島列島。彼と地元民たちとの交流を描いた作品です。
https://www.youtube.com/watch?v=P_bfMxvFbN4&list=PL_hDuQRqG8PCtwQ2OXRJkct7D9YZTUWdl

② SUPER BEAVER『らしさ』
物語のタイトルはこちらより。このOPのドアを開けた時の光の眩しさがたまらない。fullは前奏から、ぎゅっと心を掴まれる感じが。
https://www.youtube.com/watch?v=PJZIwR9b5pE

「ばらかもん」のもう一つの音楽「 innocence 」は他の物語としてUP済。そちらも良ければ。
【第146夜】 ジェネラル・イシイ (ショートショート / 歴史) 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-172.html

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空港ターミナルで自分の乗る飛行機を確認してから、搭乗手続きをして機内に乗り込んだ。

「本当にいいんだね?」

会社の上司の言葉が脳裏によみがえる。

「ヤケになっているんじゃなかったのか?何もかも投げ出して、一体どうする気なんだ?」

いい上司だった。厳しい面で人と接することが多いのに、どこか大事なところを忘れずにもっている人…。もしかして私と彼のことを一番気にしていたのはこの人なのかもしれない。私と彼をひきあわせてしまったのはこの人だったから。でも、そんな優しい心遣いも今はいい迷惑だった。

「わかりません。これからゆっくりと考えていくつもりです」

機内はすでに多くの人でごったがえしていた。
私は自分の席を見つけると、静かにそこに座った。先に座っていた隣の男がこちらを向いた。肩まである、少しボサボサの茶色の髪。無精ひげ。サングラスをかけているから、表情はよくわからなかった。男はまるで興味がなかったように、何事もなかったように、また自分の世界へかえっていく。なぜか私はその男に少し好感が持てた。私も目を閉じ、ぼんやりと自分のこれからのことを考えた。

「本当にどうする気なの?」

施設でお世話になった先生の言葉を思い出す。あわない間に彼女の顔には深いしわが刻まれていた。なんだかそれを見ていると、とてもやるせなくなった。

「わかりません。本当にまだ何も決めてないんです」

それは嘘だった。本当は彼ともう会えなくなったことを知った時に、散々泣いた時に考えをまとめていた。

「そう、わかったわ。とにかく必ず何かあった時はすぐにここにきてちょうだい。約束よ。あなたには帰る場所があるんだから」

…約束…?

そう言えば、先生の口癖だったね。何度も私にそう言ってくれた。でも、私はそれを一度も守ったことがなかったと思う。私は頷くと、その施設を後にした。

「まもなく、とう飛行機は離陸します。シートベルトを…」

機内アナウンスが流れ、どことなく機内が慌ただしくなる。私は自分のシートベルトを確認した。自分の生まれ育った国とこうもあっさり離れることになるなんて、一体誰が予想しただろう?

『わからないぞ。世の中、想像を絶することなんていっぱいあるんだから』

そう言ってた彼が一番私の想像を絶していた。真新しい記憶の残像を呪ってやる。本当にあまりに急すぎて、心の準備もできなかったじゃない。

もう泣かないと決めていたはずなのに…。私の目にはあふれるばかりの涙がたまっていた。隣りの人に気付かれないように顔を伏せたことで勢いづいて重力に逆らうこともできず、それは簡単に零れ落ちた。

『お前の悪いところは一回、啖呵を切ると止まらないとこだ』

「どうしたの?」

隣りのサングラスをかけた男が声をかけてきた。

私は首を横に振った。あなたは自分の世界にいてくれればいいの。ほっといてよ。
ただ首を横に振り続ける私に男は困ったようだった。すると、いきなり腕を伸ばし、その手で私の顔を包むようにして自分の方に向けさせた。私はわけがわからず、瞬時に泣くのを忘れて男を見た。彼は今サングラスを外していた。透き通ったブルーの瞳が私を見つめ返していた。

…異国の人…?

そしてふわりと笑うと、私に自分のサングラスをかける。視界が急に黒く染まった。私はしばらく彼をそのまま見つめていたけど、彼がまた黙って窓の方に向き直るのを見て、そうかと思った。きっとハンカチを渡す代わりに、サングラスを貸してくれたのだ。目のまわりを隠してくれるサングラスで泣き顔をが見られないように…。

初対面の人でもハンカチなんて渡されたら、たぶん私は相手に投げ返していたかもしれない。同情なんてされたくないから。隣りにいる男にそれがわかっていたのだろうか。いや、きっとハンカチがなかったのだろう。私は思わず、笑っていた。そして、一言お礼をいった。

「…ありがとう…」

男は横目で私をみやると口元で微笑んだ。その顔にどこか見覚えがあった。でも、そういうときに限って思い出せない。

「…あのどこかでお会いしました?」

せっかちな私はたずねていた。男は目を見開いてから、意味ありげにこうつぶやいた。

「…もしかしたら会ったのかもしれない。僕も君もそれとなく、どこかで…」

私は彼に冷ややかな目を向けていた。

「からかわないで」

男は笑った。

「突然思わせぶりなことを君が言うからだ」
「思わせぶりって」
「日本の女性は大胆なのかな」
「違います」

どうだか、と言うように男はさらに声を上げて笑った。そして、私を穏やかに制した。

「まあ、落ち着けよ。もう泣き止んだ?サングラスを返してもらうけど、いい?」
「どうぞ」

私はぶすっとして、わざっとそっけなく、サングラスを相手に返した。男は気を損ねるふうもなく受け取り、自分の目元にそれを持っていく。サングラスは元々あった場所におさまった感じだった。

「…どうして泣いていたの?」

男がそう私にたずねてきて、私はまた冷たくあしらった。

「関係ないでしょう!」

まわりの人間に同情されるのが私は心底嫌いだったから。

「関係あるよ。どこかで会ったかもしれないから」

私は言い返すのも嫌になり、男から視線をそらす。

「質問を変えよう。君はどうして祖国を去るの?」

私は男を見た。この人は言い方を変えただけで、同じことを聞いている。

「別に答えたくないから、答えなくてもいいよ」

彼はついにあきらめ、また自分の世界にかえろうとする。私は思わず答えていた。

「…私は行きたいの」
「え?」
「見に行きたいの」
「何を?」
「この世の果て」

私は男を真っ直ぐ見て、そう言った。男は一瞬、虚を突かれたような変な間(ま)をあけてから、

「いいな」

と優しく呟いた。バカにされると思っていたから私は驚いた。

「それは、いい夢だよ」
「夢じゃないわ」
「わかってる。でも、あれだよな」
「つまり、君は“最後”を見に行きたいわけだよな」
「“最後”?」
「人の最後だよ」

私は何も言えなくなってしまった。この世の果てってそういうものを意味していたのだろうか?あの彼はそのことを知っていたのだろうか?…そうだ。たぶん知っていたのだろう。だから、ある日、突然そこに行ってしまったんだ。

「…私は…」
「え?」

何かを言いかけたところで、飛行機が動きだし、加速しているのがわかった。私をのせて生まれた国を離れ、空に飛びこむ。

― そうだ。もうあとにはひけない。

「そう。私は、この世の果てに行くの」

あくまでそう言い切る私に、男は

「君なら行けるよ」

と、微笑んだ。

「そうかしら?」
「たぶんね」

嘘でもそう言ってくれる男の言葉が胸にしみた。

「あなたは?」
「僕?…僕はそうだな」

男は一息ついて、

「僕も君と同じそこを求めていた人間の一人なのかもしれない。けど…」
「…けど?」
「けど、そこに行こうとは思わなかった」
「どうして?」
「そこには行ける人間と、行けない人間がいるんだよ。僕は行ける人間じゃなかった。きっと選ばれた人間だけが、そこに行けるんだよ」
「選ばれた人間?」

男は頷いてから、私を指さし、

「選ばれた人間と…」

そして、自分を指さしてこう言った。

「選ばれない人間」

「笑っていいんだよ。求めていたものが手に入れられない人間のなれの果てがここにいる。なれの果てなんて、ある意味、この世の果てなのかな?」

男は自嘲し、あきらめたように、また自分の世界にかえろうとする。私は無意識に男をひきとめていた。

「…ちがうわ。忘れられてただけなのよ」

膝の上にのせていた自分のこぶしがあつい。それを感じながら、男に向き直り、その黒のレンズの奥の瞳に訴えた。

「神様が選び忘れただけなのよ。だから、忘れられた人間は自分で気づくの。自分でそこに行こうとする…」

男はしばらく黙って私を見つめると、口元で微笑んだ。それに安心している私がいた。そして、ようやくあることに気付いた。

「そう言えば、あなたは日本語が上手ね」
「僕の母が日本人なんだ。父がイギリス人でね。ここに来たのも母に会いに来ようと思ったからだ」
「一緒に暮らしてはいないの?」
「ちょっとわけありでね。結局は会えなかったけど…」
「え?」
「…もうこの世の人じゃなかったよ」

さらりと言う男に、私は何も言えなくなってしまった。

「でも、日本に来てよかったよ。母の住んでいた国にこれただけでもよかったと思う。そこの空気にふれただけでもさ」
「…そんなに素晴らしい国ではないけど…」
「いいとこだよ。平和だし、歴史がある。それに…」
「それに…」
「変わった子もいるしね」

私は彼を軽くにらんだけど、おかしくなってすぐ笑ってしまった。確かに私は変だ。

「やっと笑ってくれたね」
「え?」
「笑ってた方がいい。笑ってる方が似合うよ。そっちの方が…」

『 笑ってた方がいい。そっちの方が俺は…』

「僕は好きだよ」

その言葉の余韻にひたる。懐かしい感覚に胸が痛んだ。私はまだはっきりと彼の言葉一つ一つを憶えているのが苦しかった。

「あなた、仕事は?」

話題をかえて、男に問うことにした。

「うーん、旅人かな?」
「仕事はしてないの?」
「…休業中なんだ。それではいけない?」
「…いいえ、私も同じだもの」
「僕らは似た者同士だ」

男が口元だけで親しげに微笑む。その笑い方は確かに見覚えのあるような気がした。本当にあったことはないのだろうか?ふと男の横にある窓に視線を移す。気が付けば、雲の上を飛行機がゆうゆうと飛んでいた。今、自分が祖国を去り、得体のしれない、他人にから見れば狂っているとしか思えない旅をしているのかと思うと、どこか苦笑してしまう。

私は人の期待を裏切るのが好きだった。

人の予想を覆すのがたまらなく好きだったから、決していい子では無かったはずだ。それなのに他人が自分と同じことをしでかした時には、たまらなく機嫌を損ねる。腹立たしくなる。そんな可愛くない性格だ。

そんな私にあの彼はいつも笑っていたのだ。私の言動すべてゆるすように。優しい目をして笑い続けてくれた。いつの間にか彼の前で私はそんなことをしなくなっていた。それまでのことが突然バカらしくなったのだ。そんな彼をいつしか好きになるのは時間の問題だった。人の信じたことのなかった私がはじめて人を信じてみようと思った。それだけで、自分の中の何かが満たされていくのを感じた。

私は他人がうらやむような幸せなんかいらなかった。そんなものより、自分の中のささやかな幸せを育んでいきたったし、そのつもりだった。だけど、最後の最後で彼が私の期待を裏切るとは本当に思いもよらなかった。

「どうしたの?」

男の声がして現実に戻る。そうだ。これが現実なのだ。終わったことをいつまでも嘆いても仕方がない。

「何でもないの」

私は軽く微笑んで、そう言った。

「僕は、今のあいだ考えていたんだけど」
「え?」
「君の旅に便乗してもいい?果て探しの旅に僕も参加してみたくなったんだ」
「…でも…」

男の言葉に驚きを隠せなかった。

「僕にも長い旅が必要な気がしたんだ。ダメかな?」

私は戸惑いながら、口を開けた。

「…これは無謀な旅なのよ」
「わかってるよ」
「いつ終わるかなんてわからないし…」
「途中で挫折したら、リタイヤするよ。たぶんしないだろうけど」
「…それに…」

きっと私はこの旅の最後で…。
いくら果て探しの旅とはいっても、こたえは最初から出ている。ただ、知らないふりをしているだけ。この世に果てなどないのだろう。私はそれを自らきちんと知りに行くことで、絶望することで、この世界から消えようと思っていた…。そのための理由が、ただ欲しかっただけなのだ。

「…見届けるよ…」

この男は気づいているのだろう。

「人の最後には見届ける人間が必要だと思う。いっとくけど、これは同情じゃないよ。どっちかというと、興味だ」

男は再びサングラスを外して私を見つめた。そのブルーの瞳にはあきらめの色が見てとれた。その時、はじめてこの人も私と同じ人間だということを知った。

…この世に生きる価値をなくした人間。死にすがりつくことしかできない弱い人間…。

「…あなたの名前は?…」

私の問いに男は何度口にしたかわからない、この世の名を教えてくれた。

「…ジョン。君は…?」

私も自分の名を教える。

「ヨウコ」
「ヨウコ、僕も君と旅をしていい?」

私は頷いた。それから私たちは笑みを交わし、どちらからともなく手を繋いだ。

私は静かに目を閉じた。
男の手のぬくもりに、私は彼がいなくなってからようやく安心して眠ることができた。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ LOVE PSYCHEDELICO 『Your Song 』 ★
http://nicotter.net/watch/sm13647525
10代の時に書いた物語。どんだけ大人に夢を見ていたんだろう、学生時代の私は。音楽の大人っぽい雰囲気でこうなっちゃたのかな。(彼らの曲で一番好きなのは『My last fight』いつかそれでも書けるといいなあ)…それにしても、オチはなんでこのふたりに…?謎すぎる。フィクションなので、微妙に名前をヨーコからヨウコに変えました。

早速その物語が生まれました。良ければ。
【第145夜】 手紙(『my last fight』シリーズ1/ミステリー )
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-145.html

LOVE PSYCHEDELICO『my last fight』
http://nicoviewer.net/nm5935553
(吹き出し押すとコメントが消えます)


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あの人が、帰ってくる。

   *

少し古びた日本家屋の縁側で、祖母は美味しそうな胡瓜(きゅうり)に何かをぷすぷすとさしていた。よく見ると、短く切った割り箸だった。

「おばあちゃん、何してるの?食べ物で遊んじゃいけないんだよ」

小学生の私が腰に手をあてて注意をすると、祖母は目を丸くした。

「おや、佳乃子(かのこ)は精霊馬を知らないのかい?」
「え、何?その…ショショッショ…?」

4本足の生えた胡瓜は、まるで可愛らしい生き物のようだった。祖母は笑った。

「ショショッショじゃないさ。精霊馬(しょうりょううま)だよ」

ぽかんとする私に祖母は教えてくれた。

「お盆だからね、死んだ家族やご先祖さまがあの世からこっちに帰ってくるの。そのための乗り物を作ってるのさ」
「胡瓜で?」
「そうよ~。胡瓜はお馬さんになる凄い野菜なのよ」

私は感心した。知らなかった!胡瓜、凄いじゃん!!

「じゃあ、おじいちゃんも、これに乗って帰ってくるの?」

亡くなった祖父を思い出して言うと、祖母はふふふっと笑った。

「そうよ~。おばあちゃんに会いたくてねえ、これに乗って早く帰ってきちゃうかもね」
「ふうん。でも、恥ずかしがり屋のおじいちゃんが、そう簡単に胡瓜にまたがるかなあ」

祖母はまた、ふふふと笑った。

「迎える時は早く帰ってきてほしいから胡瓜で馬を、送る時はゆっくり帰ってほしいから茄子(なす)で牛を作るのよ」
「へ~」
「佳乃子も作る?」
「うん、作る!」

自分の体温よりもひんやりした胡瓜に、祖母の真似をして、ぷすぷすと割り箸をさす。

「あら~、佳乃子。上手いじゃないの」

祖母に褒められ、私は得意げに胸をそらした。だから、気がゆるんだのかもしれない。

「…お母さんも、これに乗って帰ってこないかな?」

私の問いに、祖母は少し困った顔をした。
それを見なかったことにしたくて、そんなことを言ってしまった自分をごまかしたくて、私は新しい胡瓜に手を伸ばした。

「曾おじいちゃんたちの分もつくるね」

ぷすぷす。ぷすぷす。

「たくさん作るね!」

私の母はいない。ただ、いない。お盆になっても、帰って来ない。私たちを置いて、家を出ていったきりだ。

「迎え火、たこうかね」

祖母の声に顔を上げた。いつの間に、日が暮れていたようだ。
門口で苧殻(おがら)というのをたいた。小さな火が儚い時間をともす。見つめていると、なんだか不安になってきた。

「おじいちゃん、うちに来るの久しぶりで道に迷ったりしないかな?大丈夫かな?」

祖母は自信をもって言った。

「大丈夫!おじいちゃんはおばあちゃん、目指してまっしぐらよ~」
「まっしぐらって、なんかネコ缶のCMみたい」

祖母はふふふと笑った。彼女のしわしわの手が私の手と重なった。

「おばあちゃんも佳乃子、目指してましっぐらよ。いつもいつもまっしぐらよ~」

そのあたたかさに胸がいっぱいになる。返事ができず、一生懸命、手を握り返した。

「ずっと佳乃子と一緒に精霊馬を作らないといけないね~。佳乃子、おばあちゃんは長生きするよ!」

そんな祖母のふふふ笑いが、私は大好きだった。

   *

あの人が、帰ってくる。

古びた日本家屋の縁側で、私は美味しそうな胡瓜に短く切った割り箸をぷすぷすとさしていた。

「佳乃子、何してるの?食べ物で遊んじゃだめよ」

母が腰に手をあてて注意をしたの見て、私は目を丸くした。

「え、お母さんは精霊馬を知らないの?」
「え、何?その…ショショッショ…?」

ぽかんとする母に私は教えた。

「お盆だからね、死んだ家族やご先祖さまがあの世からこっちに帰ってくるの。そのための乗り物を作ってるんだよ」
「あ~。そういうの昔やったわ、おばあちゃんと」
「胡瓜はお馬さんになる凄い野菜なのよ~って、おばあちゃん言ってなかった?」
「言ってた言ってた。小さかったせいか、胡瓜のやつ、実は凄いんだなってえらく感心したもんよ」

う~ん、母子(おやこ)の考えることは似てるのかもしれないよ、おばあちゃん。

「佳乃子、何か言った?」
「別にー」

自由奔放で何かと家族を振り回す母だけど、祖母の死に際にはきっちり戻ってきてくれた。恨みや辛みが無いわけではないけど、祖母を看取ってくれたことで、どこか大きく救われたような気がした。

「じゃあ、おばあちゃんも、これに乗って帰ってくるのかしら?」

亡くなった祖母を思い出して母が言うと、待ってたように私はふふふっと笑った。

「そうよ~。私に会いたくてねえ、これに乗ってまっしぐらなんだから。早く帰ってきちゃうかもね~」
「ふうん。まっしぐらって、なんかネコ缶のCMみたいね」

もう少ししたら、夏の日が暮れる。小さな火が儚い時間をともすだろう。

―ふふふ。おばあちゃんも佳乃子、目指してましっぐらよ。いつもいつもまっしぐらよ~―

「だから、お母さん。一緒に精霊馬を作って。一緒に迎え火をたいて。ふたり一緒なら、きっともっと早く…」


あの人が、帰ってくる。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 安藤裕子 『 歩く』 ★
https://www.youtube.com/watch?v=3S_oylpESRk&list=PLCFD26E4FA264F3A7
初めて聞いたとき、絶対これにあうような物語を書きたいと思いました。今回久しぶりに聞くまでそのことをすっかり忘れていたけど。結局は自己満足でしかないけど。書けて良かった~。よし、200まで、あと59!


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そいつは、いつも不意打ちだった。

授業中ぼんやりしていたり、そろそろ眠ろうとベッドの中に入ったり、気がゆるんだ隙を狙って、そいつは僕に声をかけてくる。

『ハロー』

なんて挨拶をされたことは一度もない。自己紹介も特になしだ。
こっちが何者だ?と問う前に、いきなり本題に入るんだ。
 
『お目覚めですか?』

…僕は眠っていたのか…? 次の瞬間、僕は夜の海にいた。

『俺はずっと待ってたんだぞ、相棒』

…待つ?相棒?誰のことだろう? 次の瞬間、僕は知らない男と砂漠にいた。

『何度もあきらめずに手を伸ばす。届かなくても届くまで、つかむまで…』

…そんなことをしてどうするんだ? 次の瞬間、僕はどこまでも続く金色の海を見渡していた。

『力を生み出すんだよ。見ててごらん』

様々な声。それが飛び交っている世界。物語を生み出す世界。はっきりとつかめないくせに、そこに、すぐそこに。すぐ近くに。…いや、ここに自分の中に存在している世界。

『…ああ、僕は知っている』

僕はそいつを、『声』と呼んだ。 気軽に親しげに近づいてくるそいつを、そう呼んだ。

『私の末路を辿ろう』

でも、頭のどこかでそいつを警戒する僕もいた。

油断するな!そいつは、危険だ!あまりひきつけられるな、ひきずられるな-、と。
だから、時々怖くなる。『声』が止むことはないから。気がゆるんだ隙を狙って、ぐっと僕に迫ってくるから。

『恐れることは何もありません』

それは夢と似ているのかもしれない。甘い夢。たちの悪い夢。そんなつかみどころのないもの。でも、確かに存在するもの。そういうのって難しいよ。いったいどうやって説明すればいいのかな?

『見えないだけで、確かにここにあるんだ』

『声』を手放そうと思ったこと? 何度もあるさ。 振り切ろうと思ったことも? それも何度もね。

耳をふさげ!遮断しろ!逃げてみせろ!逃げ切ってみせろ! 試したさ。

― 本当は聞きたくてたまらないんだろう? ―

でも、全て無意味だったんだ。意味のないことだったんだ。…なら、もう開き直るしかない。

そいつは、いつも不意打ちだった。

『お目覚めですか?』

挨拶なんてされたことは一度もない。自己紹介も特になしだ。
こっちが何者だ?と問う前に、いきなり本題に入るんだ。

「ハロー」

だから、僕は言ってやったんだ。僕から、挨拶をしてやったんだ。 
今日はどんな『声』を、『物語』を、聞かせてくれるんだい?
さあ、全部聞いてやろうじゃないか!ってね。

『ここは…』

次の瞬間、僕は夜の海にいた。

― 本当は会いたくてたまらないんだろう? ―

上等だよね。 いつか必ず「グッバイ」て笑ってサヨナラしてやるさ。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ supercar 『 SILENT YARITORI 』 ★
https://www.youtube.com/watch?v=7LAXwiNghwM
作業中、聞いてた音楽です。人それぞれ物語の生まれ方は違うかと思いますが、私の場合、半分はこんな感じで。半分はフィクションで。よし、200まで、あと60!


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私の末路を辿ろう。

かつて生きた人生を。

私の末路を辿ろう。

かつて王として生きた私の最期(さいご)を。

あの者は、身を挺して私を守ってくれた。己を犠牲にして無残に散っていった。

『何も恐れることはありません』

他国に攻められ、国を救うこともできなかった愚かな王をなぜあの者は迷いもせず、己の命を差し出すことができたのか…?

『私は影武者。それだけです』

とても優雅な微笑だった。

『私は嬉しいのです。やっと、つとめを果たすことができるのですから』

その微笑を見た瞬間、本当の王はこの者ではなかったかと思ったほどだ…。

『兄上、そんな顔をなさらないでください』

腹違いの弟よ。母の身分が低くなければ、己の血の正統性を証明できれば、父王の子として堂々とともに生きることができたはずだ。あの者は、私の影として一生を終えなければならなかった。影武者として。

『兄上、どうかお元気で』

国は落ち、影武者の首は他国の者の前にさらされた。私はこうしてまだ、のうのうと生きている。それが、ただ苦しかった…。

『私は嬉しいのです。やっと、つとめを果たすことができるのですから』

影の中で見出すことのできた最大の喜びが死であったのだなとようやく気づく。

王宮へ足を向ける。

私の末路を辿ろう。

かつて生きた人生を。

私の末路を辿ろう。

かつて王として生きた私たちの最期を。

私も、つとめを果たそう。

成し遂げた後、とても優雅な微笑をしているに違いない。

『何も恐れることはありません』

影武者の、弟の、私の首を、この手に―。


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=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ びっけ『王国の子』× Collage of Our Life『An Alterimage』 ★

なんとか年末までに200作、いきたいところです。今年は無理かなあ。ピッチ上げて、頑張らねば。

① びっけ『王国の子』
試し読みhttp://www.cmoa.jp/title/70546/
私が影武者の話を書くとなんともお粗末なデキですが、この方はすごいです!最近出会った漫画家さんなのですが、読ませる読ませる!ひきこむひきこむ!話の元ネタが15世紀イギリス王室・女帝エリザベス1世。それを大胆アレンジした物語。王女エリザベスの影武者として生きる役者の少年がいい。

② Collage of Our Life『An Alterimage』
http://www.amazon.co.jp/%E3%80%8C%E6%81%8B%E6%84%9B%E5%AF%AB%E7%9C%9E%E3%80%8D%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF-%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A9/dp/B000095KZG/ref=sr_1_cc_1?s=aps&ie=UTF8&qid=1410446366&sr=1-1-catcorr&keywords=%E6%81%8B%E6%84%9B%E5%AF%AB%E7%9C%9E+-+Collage+of+Our+Life+%E3%80%80%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%A9
作業中に聞いてた音楽です。邦画のサントラ。試聴できるみたい。『Kokoro Eyes』とかもいいですよ。

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他の物語を待っていた方ごめんなさい。書きたくなって、久しぶりにショートショートを。

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隣りの席の野矢(のや)くんは、いつも傷だらけだ。

高2になってあったクラスがえ。私は仲の良かった友達と離れ、さびしいような、少しホッとしたような複雑な気分を味わっていた。そんな矢先、この謎めいた野矢くんと隣りの席になってしまった。

「俺、野矢英雄(のやひでお)。いつも寝てるだろうけど、気にしないで。よろしくな」

と最初に挨拶をかわした時、彼の鼻の頭に絆創膏が貼ってあったのを覚えている。それを見た私は、本当にそんなところ怪我する人いるんだなあ…、くらいにしか思わなかった。

でもね、夏服(男子は上が学ランから半袖白シャツに変わります)になって肌の露出度が上がってから、私は彼が心配で心配でたまらない。だって、野矢くんの腕はいつも打ち身や痣だらけ、それは全然治る気配も見せず、なんだか増える一方なんだかたら…。…野矢くん、きみはいったい…!?

大きな目がクリっとしてて、女子受けがよさそうな童顔。背は低い痩せ型。小動物系。だから、余計に痛々しい傷が目立ってしまうのかもしれない。

まさか野矢くん、本当はどこかで喧嘩してる不良さんだったんですか…?それとも、逆に悪質で陰険なイジメにあってたりしますか…?そんな彼の隣りの席で大丈夫なんでしょうか、私は…?とか。

野矢くんの心配より、ちょっぴり我が身を気にする始末です。クラスメートなのに、隣人なのに、ごめんなさい。でも、人間、自分が一番かわいい生き物って言うじゃないですか。小心者の私は、不安で心配でたまりません。せめて、誰かこっそり教えてほしい。彼についてぜひ詳しく!!

…そんなこんなで、最近、私はこの謎めいた隣人のことで頭がいっぱいだった。もう一人悩んでいるのも限界を越えてしまったある日、ついに行動に起こすことにした。なんてことはない放課後、野矢くんの後をつけたのだ。世に言う、ストーキングってやつですよ。

放課後のチャイムと同時に、大きなスポーツバックを背負って駆け出す野矢くんを追いかけた。俊足すぎて、見失いそうになっては「廊下を走るな、こら!小動物!!」って叫びたい気持ちをなんとか抑えた。彼の行き先は体育館だった。

半袖ハーパン姿に着替えた彼は、バレーボール用のボールを準備をし、一人黙々とストレッチを開始した。それから、肘と膝の部分にサポーターを付けて、立ち上がり、深呼吸をする。もしかして…これは、ひょっとしなくても…。

「部活の傷ってオチ…!?」

うっかりもらした私の声が聞こえたのか、野矢くんが振り返った。

「…あれ、隣りの席の…?」
「東(あずま)です」

私は自ら名乗り出た。やっぱり私の名前、知らないと思ったよ。授業中、野矢くんはいつも寝てるし、休み時間はものすごい勢いで何かしら食べてるし、まわりに興味なさそうだったから。こっちはあなたのせいで、終始ハラハラドキドキしっぱなしだったというのに。ちなみにそれって青春の痛みとかじゃないから。バイオレンス風味、とでも言いましょうか…。

「ごめんごめん、東さん!あれ、どうしてここに?」

見つかってしまってはしょうがない。私は大人しく白状した。というか、バカな自分の勘違いを一緒に笑い倒してもらいたくなったのかもしれない。たぶん誰よりも早く部活に来て、一人入念に準備をしている彼なら、一瞬犯したストーキングについても笑って聞き流してくれる。そんな気がしたから。案の定、彼は笑ってくれた。人の良さがにじみ出る笑顔だった。

「そっかー、心配してくれてたのか。ごめんごめん。俺、別に喧嘩もしてないし、イジメにもあってないから。これはバレー部の球拾いが原因なんだ」
「球拾い?」
「リベロってポジションなんだけど、知ってる?」

私は首を振った。体育の授業で何度かやっているバレーボール。でも、私はポジションとか詳しいルールは知らなかった。

「バレーってさ、相手のコートにボールを落として点を入れるスポーツじゃん?逆に相手に自分のコートにボールを落とされると負け。俺はそうならないように、とにかくボールを拾うんだ」
「へえ、カッコいいね」

野矢くんはきょとんと私を見返した。どうやら私の返事が意外だったらしい。

「東さん、変わってるね。バレーのカッコいいポジションって、素人目には絶対点取るスパイク打つ奴だよ」
「…そうなの?」
「そうそう。派手だし、目立つしね。得点とってチームを笑顔に導く存在(エース)。カッコ良くない?」
「…別に…」

野矢くんは笑った。

「東さん、面白いな」
「そうかな?」

私は懸命に傷だらけになる君の方が面白いけど…。それに、思うんだ。

「…エースなんて全然カッコよくないよ」
「え?」
「ううん。ほら、野矢くんって下の名前が確か英雄(ひでお)でしょう?英雄(えいゆう)って、ヒーローじゃん。そっちの方が断然カッコいいと思う」

私は彼の肩をポンポンとたたいた。

「私、エースよりヒーロー押しなんだ。がんばれ、傷だらけのヒーロー!」

そう笑って、私は体育館を後にした。


    *


隣りの席の東(あずま)さんは、密かに傷だらけだ。

高2になってあったクラスがえ。俺は仲の良かった友達と離れ、さびしいような、少しホッとしたような複雑な気分を味わっていた。そんな矢先、この謎めいた東さんと隣りの席になってしまった。

「私、東 一夏(あずま いちか)。いつも考え事してボーっとしてるだろうけど、気にしないで。よろしくね」

と最初に挨拶をかわした時、彼女の発言に「なぜいつも考え事を…?」となったのを覚えている。それを聞いた俺は、複雑な人っぽいから、あんまり声をかけない方がいいのかなあ…、くらいにしか思わなかった。

でも夏になったある日の放課後、俺の傷の心配をして後をこっそりつけてきたという彼女のことを知ってから、、俺は彼女が気になって気になってたまらない。だって、東さん「カッコいい」やら「私はヒーロー押しなんだ」やら言って、俺を褒め殺す一方なんだかたら…。…東さん、きみはいったい…!?

目尻がすっと上がったきれいな瞳、男受けがよさそうな顔。背は高めで均衡のとれた(つまり出るとこ出た)体型。美人系。だから、発言や行動が余計にが目立ってしまうのかもしれない。

まさか東さん、本当は俺のこと、その、好き…とかですか…?それとも、これは単に俺の勘違いだったりしますか…?そんな小悪魔系彼女の隣りの席で一体どうすればいいんだ、俺は…?とか。

東さんの心配より、ちょっぴり我が身を気にする始末です。クラスメートなのに、隣人なのに、ごめん。でも、人間、自分のことをそんなに褒められちゃ、うぬぼれてしまうじゃないですか。勘違い野郎の俺は、気になって気になってたまりません。せめて、誰かこっそり教えてほしい。彼女についてぜひ詳しく!!

…そんなこんなで、最近、俺はこの謎めいた隣人のことで頭がいっぱいだった。もう一人悩んでいるのも限界を越えてしまったある日、ついに行動に起こすことにした。なんてことはない部活のない放課後、東さんの後をつけたのだ。世に言う、ストーキングってやつですよ。

放課後のチャイムと同時に、自分のスクールバッグを背負って歩き出す東さんを追いかけた。歩くペースがゆっくりすぎて、近づきそうになっては「何、もたついてるんだ!小悪魔!!」って叫びたい気持ちをなんとか抑えた。彼女の行き先はグラウンドの見渡せる屋上だった。

バッグを地面に下ろし、塀に片肘をついてぼんやりしている彼女の視線の先は、野球部の…いや、ソフトボール部のグラウンドだった。夏の暑さの中、部員たちは汗まみれになりながらも、必死に球を追いかけている。それを見て、うちの高校の女子ソフト部が春の大会でいいところまでいって、逆転負けしたことを思い出した。見つめていた東さんは、軽く投げる仕草をすると、深くため息をついた。とてもキレイなフォームだった。

『…エースなんて全然カッコよくないよ』

もしかして…これは、ひょっとしなくても…。

「密かに傷だらけはきみってオチ…!?」

うっかりもらした俺の声が聞こえたのか、東さんが振り返った。

「…あれ、野矢くん…?」
「何がヒーロー押しだよ。ソフト部の嘘つきエースめ!」

見つかってしまってはしょうがない。俺は大人しく白状した。というか、バカな自分の勘違いを一緒に笑い倒してもらいたくなったのかもしれない。たぶん誰よりも傷ついている彼女なら、一瞬犯したストーキングについても、笑って聞き流してくれる。そんな気がしたから。案の定、彼女は笑ってくれた。人の良さがにじみ出る笑顔だった。

「そっかー、ごめんごめん。そう、ちょっと前まで私ソフト部のエースだったんだ」
「ちょっと前まで…?」
「ピッチャーの私の投げた球が最後の最後に打たれて、逆転負けしちゃってさ。仲間に合わせる顔がなくて今、部活サボってます…」

彼女はけらけらと笑った。無理につくった笑顔。…ああ、この笑いを俺は知ってる。だから、たずねた。

「本当はもっと部活に行けない。みんなに顔向けできない。そう思うような理由が他にあるんじゃない?」

東さんはきょとんと俺を見返した。どうやら俺の返事が意外だったらしい。

「鋭いね、野矢君。そうなの。私、仕出かしちゃったの。あの試合、最後キャッチャーのサイン、無視しちゃったんだ。自分なら絶対ストレートでおさえられるってふんで、そうして見事に玉砕…」
「そうだったんだ」
「ほらね、エースなんて全然カッコよくないよ」
「そうかもしれないね」

俺は笑った。

「今の東さんは確かにカッコよくないかもね。本当は部活に戻りたいのに戻れなくて、もたついててさ」
「厳しいなあ」
「授業中、いつもそのことで悩んでたんだろう?」
「もうカッコ悪すぎて面白くない?」

俺はそんなふうに懸命に傷だらけになる君の方が面白いけど…。それに、思うんだ。

「…エースなんてそんなもんだよ。バレーならスパイクで点とったり、ソフトなら球を投げて相手をおさえたり、決めたらカッコいいけど、失敗したら、一番矢面に立たされる。チームプレイのエースなんて、そんなもんだよ」
「責任重大でプレッシャー、ハンパなくてね…」
「でも、投げたいんだろう?」
「え?」
「ごめん。さっき投げるフォーム、見ちゃってさ。すげー、キレイだった。『投げたい』っていう、その気持ちだけで本当は充分なんじゃないかな。それが見られれば、まわりの俺たちは笑ってられるもんだよ、エース」

俺は彼女の肩をポンポンとたたいた。

「待ってるよ、俺たちは。エースがいないとつまらないからさ」

そう笑って、俺は屋上を後にした。


    *


隣りの席の野矢くんは、相変わらず、いつも傷だらけだ。

「で、ソフト部エースは無事、部活に戻ったんだ?」
「おかげさまで。野矢くんのいってたとおり、案外みんな笑って受け流してくれたよ。キャッチャーだけ泣いて喜んでたけど」
「なんかわかるな。そのキャッチャーさんの気持ち、俺すごく…」

しみじみと頷く隣人はエースを支えるポジション同士、何か分かり合えるものがあるのかもしれない。

「それはそうと、東さん」
「うん?」
「きみ、うちの…、バレー部のエースに何かした?」

やっぱり聞かれると思った。私はそらとボケた。

「…別に…」

『待ってるよ、俺たちは。エースがいないとつまらないからさ』

野矢くんのあの言葉が気になって、個人的にバレー部を調査したら、なんと私と似たような理由でバレー部エースも部活をサボっていることを知った。

「本当に東さん、何もしてないの?」
「たいしたことはしてないよ。『ただヒーローが傷だらけなんです。助けて!』って言って、バレー部のエースくんを現場に連れて行っただけだよ」

すると、バレー部のエースは自主練習に励む野矢君の姿を見てえらく感動し、おのれの不甲斐無さ反省したようだ。部活にきちんと戻ったらしい。

「助けられるヒーローってなんだかなあ…」

そう愚痴をこぼす野矢くんは、何気に嬉しそうだった。やっとお互い最近、隣人同士の関係がいたについてきた気がする。話しやすい、いい距離感とでもいいますか…。

「もう少しで、夏の大会か~」

野矢君が傷だらけの腕で伸びをした。私もそれにこたえる。

「あ、バレー部も?うちもだよ」

野矢君はニヤリとした。

「せっかくだから、東さんのエースっぷりでも見に行きますか」
「いいねー、それ。私もバレー部のカッコいいヒーローの応援に行っちゃおうかな」
「…出たよ、小悪魔め。はいはい、名前負けのヒーローですけどね」

そう笑って隣りの席を離れようとする彼を、私は慌ててひき止めた。

「すねないでよ、傷だらけのヒーロー!」
「東さんの褒め殺しの手に、二度と引っかかるもんか」

懸命に傷だらけになろうとする隣人。相変わらず、面白いなあ。だから、思うんだ。
私は彼の肩をポンポンとたたいた。

「私、エースよりヒーロー押しなんだ。今度は嘘じゃないよ」


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 古舘春一『ハイキュー!!』 × 秦基博 『 鱗』 ★

やっぱりショートショート書くの楽しいな。時間があったら、毎日書くんだけどな。ちなみに英雄の名前でヒーローというのは、あだち充さんの『H2』からきたのかと。

① 古舘春一『ハイキュー!!』
http://nicotter.net/watch/sm23702812
(吹き出しを押すとコメントが消えます)
以前紹介したスポーツ漫画。高校男子バレーの話。この動画を見て書けた物語です。秦基博さんの「鱗」も知れて良かった。

② 秦基博 『 鱗』
フルバージョンです。秦さんは、いい歌いっぱいのようで他にも聞いてみたい。
https://www.youtube.com/watch?v=V0xSlwow9rQ


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