私は立ち止まって、ゆうに10分は、ひらひらと舞い落ちる桜の花びらを眺めていた。

「おーい、行くぞー」

声がして振り向くと、そこには何度見ても見飽きない、もう一つの優しい顔があった。

「はーい」

彼のもとに向かい、並んで歩き出した。どちらからともなく手を繋ぐ。いつものように、思わず顔がほころんでしまう。

この世の不思議のような、当たり前のようなことに…。

彼も同じように感じてくれていたらいいな、と心から思った。すると、彼はふわりと笑って、こう言ってのけたのだ。

「来年もまた、ふたりで花見に来るか?」

たまらない彼のそのセリフに、私は大きく頷いた。


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★『【第39夜】  冬ノチ春。』の元ネタ★

気づく方もいるかもしれないので先に。これは以前UPした「冬ノチ春。」の元ネタのようです。今回見つけたので、こちらもUPしてみました。雰囲気と文章も、ほぼ一緒ですが…。

ちなみに『【第39夜】  冬ノチ春。』はこちら。興味のある方はどうぞ。
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-41.html

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「鬼は、あなたね」

そう言われ、私は目隠しをする。

「さあ、私をつかまえて」

そう言われ、私は戸惑う。

「音をたよりにするのよ」

そう言われ、私は首をひねる。

「手を鳴らすから」

そう言われ、私は頷く。

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」

そう言われ、私は歩き出す。

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」

そう言われ、私は手を伸ばす。

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」

そう言われ、私の手はさまよう。

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」

そう言われ、私は焦る。

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」

そう言われ、私の呼吸は荒くなる。

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」

どうして、つかまえられないの?

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」

どうして、つかまえられないの?

「鬼さん、こちら。手の鳴る方へ」

そう言われ、私はようやく気づいた。

「鬼は、あなたね」

そう言うと、鬼は笑った。


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その墓前で、男は膝をついて泣き崩れた。

古い知り合い、愛した女、笑いあった家族、誰をおもっていたのだろう。
声を殺すこともできず、嗚咽がもれた。

「…俺は、死んだのか…死んじまったのか…」

ふと気配を感じ、顔を上げた。

「泣いてても無駄だよ」

一羽の烏(からす)だった。

「魂なんて、簡単に手放せるんだ。それを忘れたらいけなかったのさ」
「お前に言われたくない!」

男の返答に、烏は笑った。

「へえ、俺を覚えててくれたんだ。そうだよね。そう簡単に忘れられても困るよ」
「何しに来た!」

男は声を上げた。烏は羽をばたつかせ、おかしそうに笑って言った。

「決まってるだろう。奪いに来たんだよ。お前に奪われた俺の魂をね」

男は烏を見据えた。

「…お前のだと?笑わせるな!もとは俺の魂だったのをお前が奪ったんだろう?」
「相変わらず、だね」

烏は冷めた目で男を見た。

「墓の名前を見てみろよ。そこに真実がある」

男は墓に視線を戻した。
そこに記された名前を、男は知らなかった。自分の名前を思い出そうとするが、とうに忘れていた。

「魂なんて…自分なんて、簡単に手放せるんだ。それを忘れたらいけなかったのさ」



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ オノ・ナツメ「さらい屋五葉」× 穂積「10月の箱庭」★

昨夜、なんとなく書いたものなのですが、因縁めいた不思議な物語になってました。輪廻転生も書いてみたいSFの一つです。まだぼんやりですが、そのうちこの二人(一人と一羽)の因縁話の続きも書けたらいいな。

① オノ・ナツメ「さらい屋五葉」
http://skygarden.shogakukan.co.jp/skygarden/owa/solc_dtl?isbn=4091883265
http://www.nicozon.net/watch/sm10158309
前回UPした「笠森~」をきっかけに今、江戸を舞台にした物語にハマってます。オノさんは絵が独特ですが、私は大好き。彼女が江戸を描くと、お洒落な江戸になるのが凄い。こんな江戸の物語を書けたらいいなあ。この漫画で墓前で泣き崩れる哀しい男の姿があって、それを見ていたら今回の物語が生まれました。おこがましいとは思うのですが、私の頭の中で、今回の物語はオノさんの絵のイメージになってます。「さらい屋~」の漫画の試し読み&PV映像(TVアニメをやっていたようです。コメント書き込みでいっぱいなので、右下の吹き出しを押すとそれが消えるかと)をここに。雰囲気だけでも良ければ。

② 穂積「10月の箱庭」(「式の前日」に収録)
http://skygarden.shogakukan.co.jp/skygarden/owa/solc_dtl?isbn=9784091345851
最近気になってる漫画家さん。まだ新人さんだそうですが、表題の「式の前日」のどんでん返しはびっくりしました。「式の前日」は短編集なのですが、その中で烏が出てくる少し不気味な話があって、たぶんそれの影響を受けてたのかもしれません。収録されている全作品のクオリティがかなり高くてオススメです(こちらも少し試し読みができるみたい)

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私には見ていられないものが三つある。

一つは宝の持ち腐れ。例えば、そう…目の前にいるお仙(せん)姉さんとかね。
お仙姉さんといえば、ここ江戸谷中(やなか※現在の東京都台東区あたり)の笠森稲荷門前(かさもりいなりもんぜん※笠森稲荷神社前)の水茶屋(みずちゃや※休憩所)鍵屋(かぎや)の娘で、それはもうたいそうな美人なのに、なぜか色恋沙汰には無縁ときている。しかも、水茶屋もそこまで繁盛していない。

おかしい!これは絶対におかしいわ!だって、美人がいれば、それ目当ての客とかでいっぱいになりそうなものよ。お店の売り上げだって、その分、跳ね上がるはずだわ。でも、ここ最近の水茶屋「鍵屋」の閑古鳥はなんだというの。お仙姉さんのおじいさんが作るお茶もお団子も普通においしいのに。これはおかしい!絶対おかしい!水茶屋「鍵屋」には疫病神でも住み着いているのかしら?

「おつうちゃん、何をまた一人でぶつぶつ言ってるの?」

お仙姉さんは今日も笑顔で私に声をかけてくれた。美人が笑うと、どうしてこうも幸せで得したような気分になるのだろう。だからこそ、思うのよ。

「宝の持ち腐れだわ…」

お仙姉さんは聞き取れなかった私の言葉に、「また一人の世界に入っちゃったのね」とくすくす笑った。違う!違うわ、姉さん!…まあ、ちょっとだけそうだけど、そうじゃないのよ!私はあなたを憂いているのよ。

「私はおつうちゃんがそうしてると、なぜか見ていられなくなるのよね。初めて会った時もそうだったからかしら?ほら、お団子でも食べて。こっちに帰ってきなさい」

姉さんは優しい。でも、もったいない。美人で気立ても良いのに、姉さんはなんか本来いるべき場所にいないという気がする。姉さん自身はそのへんのところ、いったいどう思ってるんだろう?せっかくだから、さりげなく本人の意見もきいてみないと。

「あら、お団子食べたら、すぐ戻ってきたのね。安心したわ。え?私?私は今のままの静かな茶屋でもいいんだけど…。そうねえ、たぶん最近ここに人が来なくなったのはあの人のせいじゃないかしらね」

そういって、向こうの方を指さした。私は顔をそちらに向けた。すると、鳥居の影から変な男がこちらを見ている。

「誰あれ??」

見るからにあやしい一人の男。

「さあ、誰なのかしらね。私も知らないの」

古汚い着物に乱れた長い髪。そのせいで顔の半分が隠れ、とても不気味だった。男は月代(さかやき)をして髷(まげ)結いをする今の江戸のご時世にあの姿はあやしい!あやしすぎるわ!

「ここ最近ずっとあそこからこちらを眺めているのよ」

疫病神はお前かー!!

「私が話をつけてくるわ!」
「おつうちゃん、やめて。いいの。ほっとけばいいのよ。何かあったら、言ってくるわよ」
「姉さん、のん気すぎるわ!何かがあってからじゃ遅いのよ!」
「え?…あら、やだ。考えてみれば、それもそうねえ」

姉さんはくすくすとまた笑った。「あら、やだ」じゃないわよ。もう!姉さんはこれだから!!私は自分の決心が鈍らないうちに、男に勇ましく、向かっていった。

「ちょっとあんた!そこで何してるの!?」

仁王立ちの私の剣幕に男は驚き、後ずさった。

「…別に」
「別にじゃないわよ。営業妨害よ。あんたのおかげで最近そこの水茶屋に全然客が入らないじゃない!」
「俺はただ…」
「ただ、何よ?」
「ただ…絵を描いていただけで」
「絵?」

よく見ると、男は絵筆と紙を大事そうに抱えていた。

「ちょっと見せなさいよ!」

本当に絵なんて描いていたのか気になって、私は男から紙を奪い取った。

「…うわ!何するんだよ!返せよ!」

男はとりかえそうと向かってくる。でも、私はそれを無視。というか本当は、ただ絵を見て驚いていただけなんだけど…。

「…あんた絵師なの?」
「…まあ、そんなとこ」

それは見事な墨絵だった。お仙姉さんの笑顔が品よく、穏やかに描かれていた。姉さんの美しさはこんなふうに、本当はもっと気高いんだって思わせてくれるような…。

「あんた…」
「なんだよ?」
「お仙姉さんに惚れてるの?」

長い髪のせいでよくはわからなかったけど、男は半分見える頬を真っ赤にして、固まっている。どうやら図星らしい。意外とうぶなのね。…ん?ちょっと待って…。……この絵は、使えるんじゃないの…?この時、私は閃いてしまった。

「…いける!…いけるかもしれないわ!」
「は?」
「ねえ、私がその恋、協力してあげてもいいわよ?」
「え?」
「あんた、お仙姉さんをもっと描きたいんでしょう?仲良くなりたいんでしょう?」

男は私を不思議そうに眺めていた。考えあぐねていたのだろう。それから、ついに観念したようだった。

「…そうだけど」

よし、きた!

「あんた、錦絵(にしきえ※浮世絵)はできるの?」
「は?」
「最近、江戸に出回っている錦絵!…確か版画だったはず。それはできるの?」
「…できるけど…」
「じゃあ、お仙姉さんの錦絵を作ってちょうだい!もう江戸中の誰もが手にとるくらいすごいのを。引き受けてくれたら、私の古い知り合いってことでお仙姉さんにあんたを紹介するわ」
「…本当か??」
「ええ。でも、その機会を生かすのはあんた次第よ!頑張ってね!」

私はにっこりした。私の提案に男は何度も頷いた。よし、交渉成立ね。

「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったわ。私は、つう。あんたは?」
「穂積(ほづみ)だ」
「よろしくね、穂積」

その時、穂積のお腹が大きな音をたてた。穂積はさらに顔を赤くする。私はつい笑ってしまった。

「あんた、何も食べてないの?しょうがないわね。私、ひもじい思いをしている人も見てられないものの一つなの。私のお団子、わけてあげるわ」

そう言って、私は水茶屋「鍵屋」に穂積を招き、彼にお仙姉さんを紹介したのだった。

錦絵は最近ここ江戸で少しずつ流行り出した版画だった。まず絵師が下絵を描き、下絵のとおりに彫り師が版木を彫る。その後、摺り師が絵の具をつけて紙に摺る。この三工程。

だから、一概に絵師の力量だけが問われるわけじゃない。彫り師や摺り師の職人技術が大きくものをいう。錦絵ができるのか穂積に聞いたとき、頷いたのは少し驚きだった。彫り師や摺り師との伝手や繋がりがあるということだから。

「いつもお仙さんの絵をこっそり描いて、知り合いの彫り師や摺り師の奴らに見せてたんだ。みんな凄く喜ぶんだよね。お仙さん、俺たちのあいだで超アイドルだから!」

どうも穂積とよく似た仲間らしい。…っていうか、超アイドルって何??新語かしら?

「本格的に描くことになったって聞いたら、みんな驚くだろうな」

とにかく錦絵作りに関しては、穂積に任せれば大丈夫そうだ。私は下絵作りが順調にできるようお仙姉さんと穂積の仲をとり持って、絵が出来上がった後のことを考えればいい。版画だったら、同じ絵が何枚も速く摺れる、つまり大量生産可能!それを江戸中に配りまくって、「この美人はどこにいる!?」と世間の注目をかっさらい、水茶屋に客が殺到する…!

「これぞ水茶屋鍵屋、復活のシナリオよ!」
「…人のこと言えないけど、シナリオって何だよ??新語?…まあ、いいけど」

穂積がぼそっと隣りで呟いた。私はそれをきいて、はっと我に返った。

「何、言ってるの?ほら、穂積、ちゃんと描いて。お仙姉さんの働いてる姿を!もっと激しく美しく!」
「…へいへい、わかってますよ。しっかり描いてますよ。っていうか、激しく美しくって意味わからん」

そんな私たちをお仙姉さんは笑いながら、時たま優しく声をかけてくれる。

「もう、おつうちゃんはまた穂積さんをせかして。穂積さん。ずっと集中して描いていたら、疲れるでしょう?お茶、飲まれます?」
「…え、いや。…だ、大丈夫…です…」

穂積はお仙姉さんに声をかけられると、真っ赤になって俯いた。そうとう惚れてるのね。惚れると、みんなこうなるものなのかしら?

「私も誰かに絵を描いてもらうなんて初めてだから、緊張しちゃうわ。ちゃんと、できてるかしら?」
「…な、何を言ってるんですかっ!もうバッチリですよっっ!!」

穂積がすかさずそうこたえると、お仙姉さんはほっとしたようだった。

「なら、良かったわ。穂積さん、無理せず、休憩しながらやって下さいね」

そう言うと、お仙姉さんは稲荷神社の参拝帰りの客の注文を取りに行った。

「お仙さんは、人柄もいいんだなあ」

穂積の言葉に、私も深く頷いた。

「そうなのよ。私ね、お仙姉さんのおかげで、ここにおいてもらってるんだ」
「へえ。そうなんだ…」
「あ、政之助さんだ!」

私はのれんをくぐる見慣れた顔に嬉しくなって立ち上がった。水茶屋をご贔屓にしてくれる常連客。ここ一帯の土地主である旗本(はたもと※武士)倉地家のご嫡男、倉地政之助(くらちまさのすけ)様だ。

「やあ、おつうちゃん。今日の鍵屋はちょっと混んでるね」
「はい!疫病神を追っ払ったというか、うまく丸め込みましたから!」

「は?お前、何言っちゃってるの?…っていうか、俺、丸め込まれてたの…?」と言う穂積を無視して、私は政之助さんのもとへ駆け寄った。

「疫病神を?ははは!おつうちゃんのやることは相変わらず豪快で面白いなあ」

政之助さんはとても人がいい好青年だ。私たち町人にも分け隔てなく、接してくれる。士農工商という身分が確立したこのご時世に貴重な方かもしれない。

「政之助さん、こちらがその疫病神だった絵師の穂積さんよ。政之助さんはいつものお茶とお団子ですよね?」

私は政之助さんの分のお茶とお団子を取りにいった。

「…初めまして。もと疫病神だったらしい穂積です」
「初めまして、倉地政之助です。君も人がいいなあ、穂積さん。おつうちゃんの話に合わせてくれて。彼女はあれでも人見知りで、出会ったころは誰とも口を聞かなかったんだよ」
「へえ、全然そんなふうには見えませんけどね。いつも威勢がいいというか…」
「今はね。男が惚れ惚れするくらい、たくましくなっちゃったけど。ちょっと前に家が火事にあってね。大変だったんだ。一人逃げのびて、ここの前で倒れていたところを私とお仙さんが見つけてね」
「…そうだったんですか」
「ずっと、ぶつぶつひとり言ばかりでね。町医者に預けた方がいいんじゃないかってみんな心配してたんだけど、お仙さんが大丈夫よ。一人の時間が必要なだけよって笑って止めてね。そしたら、しばらくしてようやく人と話ができるようになったんだ」

私がお茶とお団子の準備をしていると、政之助さんが笑顔でこっちに手を振っていた。私も手を振りかえす。

「…知りませんでした。そんなことがあったなんて」
「女のほうがずっと男らしいかもしれないなあ。いざって時に男は怯んでだめだね。お仙さんを見てて、私はそう思ったんだ」
「……それって…」
「政之助さん、お待たせしました!」

私はお茶とお団子を政之助さんに渡すと、隣に座らせてもらった。

「ねえ、政之助さんはもう見た?穂積の描いた絵」
「あ、まだ見てないね。私も見せてもらおうかな?いいかな、穂積さん?」

穂積がなぜか少しむすっとしていた。でも、催促されて、しぶしぶ紙を渡す。

「これは美しい。働いているお仙さんだね?」
「そうよ!これを錦絵にして江戸中に配るの!ここの水茶屋が繁盛するように!政之助さん、いい案でしょう?」

政之助さんは少し顔を曇らせた。

「う~ん、ちょっと嫌な予感がするなあ」
「え?」
「いや、なんでもない。何事もやってみないことにはね。杞憂かもしれないし。お仙さんがいいのなら、私がとやかく言うのも…」
「どうもお仙さんはおつうの言うことだったら、なんでも叶えてやりたいって感じなんですよね。おつうの案は悪くないと思うけど、そんなにうまく行くもんかねえ…」

集中して肩が凝っていたのか、穂積が伸びをしながら口をはさんだ。みんなして何よ。そんなこと、ないわよ!姉さんだって、今の状況を憂いでいたのよ。私は勢いよく、啖呵を切った。

「もうみんな心配性なんだから。私はいい予感しかしないわ!大丈夫よ!きっとうまく行く。私に任せて」

ところが、事態は思わぬ展開を見せることになる。なんと、三人みんなの予感が的中してしまったのだ。

穂積が作った錦絵は大評判となり、江戸中に急速に広まって、『笠森お仙』は一躍、時の人となった。有名な看板娘に一目会おうと、あちこちから江戸谷中の笠森稲荷神社に人が殺到し、その前にある水茶屋鍵屋は大繁盛となった。

「すげー。本当に繁盛してる」

長蛇の列になっている鍵屋を目の当たりにして、驚きを隠せないでいる穂積。私は鼻高々だった。ついでに、手に腰をあてて言ってやった。

「ほら、ごらんなさい!私の言った通りでしょう?ふふん!」
「…まあ、実際は俺と仲間の渾身の力作のおかげなんだけどな」

そのとおりだけど、啖呵を切った分くらいは、ほめてもらいたかったのに…。でも、完成した錦絵を見て驚いたことがある。

「錦絵ってあんなに派手な版画だったのね!三色くらいしか色がないと思ってたから、もっと地味なのかと思ってた」
「そこが俺たちの渾身の力作だぜ。おつうの言うとおり、今までは三色しかない紅摺絵(べにずりえ)ってやつが主流だったんだけど、俺たちのお仙さんは三色なんかじゃおさまらねえ!と俺の仲間たちが本気を出してくれてな。で、この通り、もっと何色も足して激しくも美しい出来栄えになったというわけ」
「なるほどね。あ、それと気になったんだけど、ここに書いてある『春信』って何?」
「ああ、これね。これは俺の名前」
「名前って、穂積じゃないの?」
「穂積は本姓。名前は春信。ちなみに絵師名だと鈴木春信ね」

鈴木春信…?どこかできいたことがあるような、ないような…。

「まあ、これで俺の役目も果たしたかな」

満足げに立ち去ろうとする穂積に「ちょっと待った!」と私は声をかける。

「何、言ってるの?まだ始まったばかりよ。ここからが稼ぎ時なの!あの長蛇の列、暇そうにしてるじゃない?あれを狙わなきゃ」
「え?」
「お仙姉さんのグッズを売るにはうってつけね!手ぬぐいや絵草紙、双六でしょう。姉さんの絵が入った物をとにかく売ってしまうの。来た人の記念になるような、また来たいなあって思えるような物をね!」
「嘘だろ…?」
「稀代の絵師、鈴木春信様にはまだまだお仕事が待ってます!頑張って頂かないと!」

私は片目をつむってみせた。「もしかして、俺、本当に丸め込まれてた…?っていうか、グッズって何?また新語??」と青くなる穂積を無視して、私は次の新作を何にするか思案していたのだった。


新作も大当たりで向かうところ敵なしかと思っていた。

でも、いつの時代もそうなのかもしれないけど、一つ流行れば、二番煎じというものが必ず出てくる。この看板娘もそうで、浅草寺奥山の楊枝屋「柳屋」の看板娘柳屋お藤(やなぎや おふじ)、また二十軒茶屋の水茶屋「蔦屋」の看板娘蔦屋およし(つたや およし)など、多くの娘たちが登場し始めていた。そして、これがちょっとした騒動に発展してしまうことになる。

「江戸看板娘決定戦…?何だ、それは?」

胡散臭そうな顔をしてたずねる穂積に私は説明した。

「だから、江戸で一番人気の看板娘を決めるんですって。最近ごろごろ似たような看板娘が出てきたから、これはもう一番を決めるしかないだろうって」
「どっかの時代の総選挙かよ?ばからしい!」
「そう?町人のちょっとした娯楽じゃない?私は別にいいと思うけど。物が売れれば…」
「お前もちょっと調子のりすぎじゃないか?金の亡者になりつつあるぞ?」
「失礼ね!稼がないと、お給金が払えないでしょう?私は穂積やその仲間たちに、ちゃんと払いたいだけよ!」
「…お前、そんなことを考えてたのか…」
「何よ!」
「はいはい!ふたりとも、そこまでにして。今日は水茶屋がお休みだから、静かに休ませてね」

顔色の悪いお仙姉さんが、私たちの止めに入る。

「姉さん、具合が悪いの?」
「大丈夫よ。一日休めば、すぐ元気になるわ。お店も繁盛、おつうちゃんも笑顔、私は幸せよ」

姉さんは儚げに笑った。働きすぎだ。聞かないでも、本当はわかってるのに…。

少し前、人手が足りない水茶屋の手伝いをしようとしたら、私の顔を見た客は騙されたと変に騒ぎ始め、ゴタゴタしたことがあった。それ以来、私は水茶屋の外でお仙姉さんの関連物品の販売に専念している。だから、水茶屋の接客は全部姉さんが引き受けていた。毎日、あの長蛇の列だ。疲れるに決まっている。

「おつうの言い分はわかった。俺や仲間のことは気にしなくていい。好きでやってるんだ。でも、お前はこのままだと大事なものを失うかもしれないぞ。それは肝に銘じとけ」

わかってる。本当は潮時なのかもしれない。だから、穂積の言葉が鋭く突き刺さった。

「もう穂積さんったら、大げさに言いすぎよ。私は大丈夫。おつうちゃん、そんな顔をしないで。私はおつうちゃんには笑っててもらいたいのよ」

私も姉さんには笑っててもらいたいのに…。

「大丈夫。私はわかってるわ」

言葉にできない思いをなぜか姉さんはいつも汲み取ってくれる。出会ったころから、そうだった。私が頷くと、姉さんが安心したように、奥の自分の部屋に戻っていく。その時だった。

「お仙、覚悟!!」

茶屋の扉が勢いよく開いて、誰かが駆け込んでくる。頭巾をかぶった小柄な人物が、合口(あいくち※短刀)を持ってお仙姉さんを狙っていた。背中を向けている姉さんは、反応が遅れてしまった。

「姉さん、危ない!」

私は姉さんを守ろうと前に飛び出した。刃の掠れる音がして、私はおそるおそる閉じていた目を開いた。

「間に合ってよかった!」

私の前には大きな背中があった。政之助さんだった。自分の刀で応戦している。それから、いとも簡単に合口を飛ばし、相手の喉元に剣先を向けた。格が違いすぎた。相手はへなへなと腰をおとした。

「こんなことになるんじゃないかと思ってだんだ。さて、誰の差し金だ?」

すると、頭巾をとった相手はきっとこちらを睨んだ。

「誰の差し金でもないわ!私はここに自分の意志で来たのよ!」

頭巾の下はきれいな娘だった。年はお仙姉さんと同じくらいだろうか。お仙姉さんにおとりはするけど、この子もまた美人の部類だった。

「お仙!あんたが邪魔だったのよ!あんたがいると江戸看板娘決定戦で優勝できない!」

…そんなことで、姉さんの命を狙ったの…?

「優勝しないと、私、私…好きな人と結婚ができない…!」

そう言って泣き崩れた。呆然とする私たちの中で、一人冷静だった政之助さんが間に入る。

「この娘さんにも何か事情があったみたいだね。お仙さん、どうします?奉行所に引き渡します?」

お仙姉さんは、首を振った。

「…あら、何かあったの?私、熱で朦朧としていたから何も覚えてないわ」

…姉さん。

「どこのどなたか知らないけど、安心して。私は江戸看板娘決定戦には出ないわ。私、嫁ぐことにしたのよ」
「え?」
「相手はこの方、倉地政之助さん。政之助さん、求婚の返事が今になってしまって申し訳ないですけど、私をもらってくれますか?」
「え?いや、はい!もちろんですよ!」
「ふつつかものですが、これからよろしくお願いします」

思いがけない展開に、私たちは言葉が出なかった。政之助さんだけは、とても嬉しそうに笑っている。そう政之助さんは、ずっと前からお仙姉さんを思い続けていたのだ。私はそれを知っていたし、もしかしたら、お仙姉さんもそうなんじゃないかと思っていた。

「決定戦に出られなくてごめんね、おつうちゃん」

最後まで私に優しいお仙姉さんに、私は怒るなんてとてもできなかった。だからこそ、潮時だった。

「ほら、あなたも泣いていないで立ち上がって。良かったら、お茶でも飲んでってよ。ここのお茶とお団子は中々なのよ」


  *


具合の悪いお仙姉さんを政之助さんにお願いして、私と穂積は泣き止んだ美人を途中まで見送りにいくことにした。その帰り道、穂積がしゅんとしてる私の背中を軽くたたいた。

「何、しょぼくれてんのさ。当初の望みは叶ったわけだろう?」
「え?」
「人をだしにしておいて、本当はお仙さんと政之助さんをくっつけたかったんだろう?違うのか?」

私は、息を吐いた。ばれてたんじゃしょうがない。

「でも、別にだしにしたわけじゃないわ。最初に言ったでしょう?『あなた次第』って。政之助さんの気持ちは知ってたけど、お仙姉さんまではちょっとわからなかったの。だから、男が一人絡めば、何かしら動くかな?とは思ったけど」
「なるほどね」
「旗本と町人の結婚も難しいじゃない?身分があるから。ある程度、評判の高い娘ってなれば、倉地のお家も認めてくれるかなって」
「で、お前はうまいこと、やったわけだな」
「結果的にね。でも、姉さんが命を狙われるとまでは思わなかった。…誤算というか、痛恨の極みよね…」
「なんか言ってることが、武士っぽいなあ」

笑う穂積に、私は続けた。

「私ね、自分の中で見ていられないものが三つあるの。一つがひもじい思いをしてる人、一つが宝の持ち腐れ。だから、あんたの絵を見たとき、この人もそうだと思ったわ。せっかくの絵の才を生かしきれてないんだって。で、閃いたの。お仙姉さんの美貌と水茶屋の繁盛とあなたの絵の評判で、一石三鳥できないかしら?って。ごめんね。私、強欲なのよ」

穂積はふっと笑った。確かに強欲すぎる。でも、自分はそっちのけで、すべて他人のことばかりだった。

「で、最後の一つはね。大切な人が、幸せをつかみそこなっていること」

そう言って涙ぐむ私に、穂積は言ってくれた。

「強がってないで、認めればいいんだ。自分だって政之助さんに惚れてたんだろう?」
「ううう…、そんなの気づかなかったわよ」
「…まさか、ふたりがうまくいった後で気づいたクチ??うわ、面倒くせー!」
「しょうがないじゃない…ううう…」

穂積はため息をつきながらも、私に優しく言ってくれた。

「俺さ、ずっと美しさって外から見えるものとばかり思ってたんだけど、おつうを見ていたら、考えが少し変わった」
「え?」
「今のお前は美しいと思う。とびっきりの美人だってね。絵師が言うんだから、間違いない!」

一七七〇年(明和七年)、一人の娘が江戸で起こした珍騒動がこうして幕を閉じた。おつうという彼女の名は後世にはもちろん残されていない。

「…ううう…、そんなうまいこと言ったって、あんたなんかに惚れないわよー!」
「誰も頼んでねーわ、そんなことっ!!」

しかし、錦絵改め浮世絵の創始者・鈴木春信が『笠森お仙』という美女を描き、一世を風靡したのは紛れもない歴史的事実である。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ タイムスクープハンターseason5 第8回「誕生!水茶屋アイドル」 ★

書いててあれですが、浮世絵など今回初めて調べました。本当は文献をあさってきちんとやりたかったんですけど、働いてる私にはちょっと難しかった。参考にした番組とネット知識なので、全て正しい情報と言えません。おつうは私が作ったキャラですが、鈴木春信と笠森お仙、その相手の倉地政之助(名前が違うかも)は本当にいたようです。春信さんはもしかしたら、お仙を描いたころは、ご高齢だったかもしれないのですが、私の中では若者になってます。タイムスクープハンターで笠森お仙を知って、その裏で何があったのかを考えていたら、一人の女の子が騒ぎ出して、みんなの人生をまとめて変えていく物語が生まれました。

タイムスクープハンター
http://www.nhk.or.jp/timescoop/
最近ハマっている歴史番組。時空ジャーナリストの沢嶋雄一(要潤さん)がその時代をドキュメンタリータッチでお届けするというもの。面白いのが有名な歴史人物ではなく、名もなき人々にスポットを当てているところ。毎回ちゃんとそのドラマに見せ場があって、ちょっとグッとくるんです。これを見てると、色んな歴史モノを書きたくなります。闘茶、忍者なども書きたい。みんなが知らないような歴史の裏側を書いてみたいなあって。古代史なら秦氏とか。学生時代は日本史選択だったから、世界史もやってみたいなあ。歴女ではないので、一から調べなきゃですが。ちょっと難しそうなものを興味が持てるように、簡単に面白く書かけるのが理想かな。書きたいものと書けるものは違うかもしれませんが…。


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【目次】 『箱庭に眠る』シリーズ 【作品紹介】
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-305.html
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母親とクマ先生が話している間、私は外で遊んでいた。

動物のクマによく似ているから、先生はみんなからクマ先生と呼ばれ、慕われている。でも、私は主治医のクマ先生が苦手だった。先生の完璧な笑顔を見ていると、どこか気後れしてしまう。先生の前で自分の笑顔を探さなくてはいけないから、なおさらそう思ってしまうのかもしれない。

昨夜降った雨のせいでぬかるんだ地面には、いくつかの水たまりができていた。それに飛び込んで、水しぶきを豪快にあげる。長靴を履いているから、そこまで服を汚す心配はないだろう。母は少し眉をひそめる程度で、決して怒ることはない。怒る気力がまだない、と言う方が正しいのかもしれない。

「さあ、行きましょう」

母の呼ぶ声に不意をつかれた。足を滑らせ、水たまりの中に尻餅をつきそうになる。その時だ。

「大丈夫か?」

誰かに二の腕をしっかりとつかまれた。水たまりに落ちずにすんで、ほっとして顔を上げる。男の人だった。その人は軽々と幼い私を持ち上げ、安全な地面の上にたたせる。そして口元で微笑んだ。

私は「ありがとう」も言えず、ただじっと彼の顔を見つめた。人前でうまくしゃべれず、笑顔もつくれない私の様子は、生意気に見えたかもしれない。でも、彼は笑って私の頭を撫でてくれた。

「元気がいいな」

とても大きな手。それと、

「いい瞳をしてる」

お互い同じことを思っていたらしい。

やがて彼の手のひらが離れていった。それを名残惜しく思う自分に驚く。不思議と彼には嫌悪感を抱かなかった。あの瞳のせいだろうか。母が慌てて駆け寄り、その人に何度も頭を下げた。彼はまた笑い、その場をにこやかに立ち去る。クマ先生のところを訪ねて行くようだった。

「先生のお知り合いかしらね?」

母がひとり言のように、ポツリと呟いた。私は首をかしげるそぶりをすると、彼の背中をじっと見つめた。


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=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ Kyte『Sunlight』 ★
https://www.youtube.com/watch?v=TodLrdg4is4


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ある人から、聞いたことがある。

幸福の国に住む者は、誰でも幸福を味わうことができる。

しかし、それは彼らにとっての本当の幸福ではない。

なぜなら、彼らは幸福という言葉も、その意味すらも、知らないのだから。


ある人から、聞いたことがある。

幸福の国に住まない者は、誰しも幸福を求めている。

しかし、それが彼らにとっての本当の幸福なのだ。

なぜなら、彼らは幸福という言葉も、その意味をも、知っているのだから。

曹騰(そうとう)は最近頻繁に自分の元へ訪れる孫を面白そうに眺めていた。

少し前までこの孫は、祖父が生殖能力を喪失した男性である宦官(かんがん)ということから、まわりに侮蔑の目で見られ、曹騰やその養子になった父に深い憤りをあらわにしていたものだ。しかし、今ではそれが落ち着き、明るい顔をするようになった。

「俺は征西(せいせい)将軍になって、西にいる異民族を倒し、名をはせるんだ」

なるほど夢を見つけたのか、と曹騰は思った。

曹騰は宦官であるが、高官である。思慮深く、学問にも優れ、何より人の才を見抜く目にたけていた。彼の推薦により、様々な人物が高官や将軍になっている。今日も彼の元には多くの者が集まっていた。征西将軍なども、もちろん顔を出している。

彼らに会いたくて、孫は祖父の元へ訪れたのだろう。征西将軍とは西にいる異民族を征伐にいく隊の将である。この時代の中国においては花形職であり、憧れるものが数多くいた。

「俺、思ったんだ。出自がどうであれ、最終的には能力のあるやつが生き延びるに決まっている」

世を悟ったような孫の物言いに、曹騰は笑った。しかし、その目は節穴ではない。今、王朝は静かに腐敗し始めている。それは官たちの間で賄賂が横行していることが大きい。曹騰の目には王朝が傾くのも時間の問題に見えた。

「俺は自分の能力でそれを証明してみせるんだ」

孫の目には迷いがない。吹っ切れたなと曹騰は思った。この少年はまっすぐ自分の運命を見据え、それをばねとし、これからおおいに羽ばたいていくだろう。

「そんなことより、じいさん。喉が渇いた。茶が飲みたい」

しかし、我がままで生意気な性格はまだ直っていないと見える。

「自分でやれ!」

曹騰は孫の頭を叩いた。この時、曹騰はふと孫はもしかしたら王の器かもしれないと思った。しかし、すぐにその考えを振り払う。自分の目もついに曇ったか…。

「クソじじい!早く、くたばれ!!」

孫は暴言を吐きながらも、おとなしく茶を淹れに行った。

「やれやれ」

そんな孫を曹騰は面白そうに眺めていた。

……しかし、曹騰の目はまだ曇ってもいなければ、節穴でもなかった。

この孫は後に、三国時代の王朝『 魏(ぎ) 』の基礎を作ることになる。

少年の名は曹操(そうそう)。字(あざな)は孟徳(もうとく)。

古代中国史に多大な影響を及ぼし、名をはせることになる。

彼らはもちろんそれをまだ知らない。


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★NHK『BS歴史館~「三国志」時代を超えた男の魅力 』★

他の物語を書いていた時、なんとなくBGMがわりに流していた歴史番組。「三国志の曹操の幼少期は?」みたいな話があって。2分くらいの解説者の解説だったんですが、妙に心に残り、そこだけ巻き戻して何度も見ました。曹操って悪人のように描かれているけど、子供時代は案外知られていませんよね。ふつうの少年像を書きたかったのかな。半分フィクション感覚で楽しんで下さると嬉しいです。

NHK『BS歴史館』
いつの間にか番組、終了していたんですね。
https://www.nhk-ondemand.jp/program/P201100075800000/
NHK『BS歴史館「三国志」時代を超えた男の魅力 』
解説は40分頃かな。興味のある方がいたら。
http://www.pideo.net/video/youku/6035cfce1bdcae9b/
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【目次】 『箱庭に眠る』シリーズ 【作品紹介】
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それは水色の変な箱だった。

まだ幼い私の広げた両手よりも大きな箱で、中にはさらさらとした白くて細かい砂が入っている。とてもきれいだけど、私にはなんだか冷たく儚ないものに思えた。風が吹けば、すぐさま飛び散ってしまいそうだ。箱の隣には人形や置物が整然と並べてある。子供が遊ぶにしては、やけに可愛げのないものばかりだった。見るからに不釣合いでどこかぎこちない。アンバランスで、よけい無機質なものに見えてしまう。それらをぼんやりと眺めていた私に、みんなからクマ先生と呼ばれている、クマによく似たおじさんが言った。

「これは箱庭といってね、箱の中にただ砂が入っているだけのものなんだ。置いてある人形や置物を使って、この中に好きなものを作ってごらん」

クマ先生の口調は仕事柄とても優しい。でもだからといって、私が笑うことはない。クマ先生のことが別に嫌いというわけではなくて、私が単に笑うことを知らないからだ。

「なんでもいいんだよ」

クマ先生はお手本になるような非の打ちどころがない笑顔を向けた。私は目をそらし、しばらく視線を宙に彷徨わせた。先生にしてみれば、目の前の人形や置物よりも私の方が無機質なものに見えたかもしれない。

「ゆっくりでいいからね」

クマ先生はそれでも笑顔で語りかける。それでしっかり私を押さえつけようとする。コンクリートの壁に囲まれたこの部屋で。閉め切られた小さい窓一つしかないこの部屋で。か細い太陽の光りに蛍光灯のまっすぐな明かりが嫌らしく重なるこの部屋で。

ドアは一つで私の遠く向こうにあった。

テーブルの上の水色の変な箱の先、向かい合う先生の先。子どもの力では開けるのに時間のかかる、きつくて重いドアだった。

逃げ場のない私は頷くしかない。また今日もこの部屋で、自分の笑顔を探すのだ。観念した私は、ゆっくりと箱に手を伸ばした。先生が自然と本物の笑顔になるのが気配でわかった。

それを見ないように、箱の中にある砂をじっと見つめた。


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神様、あなたはこの娘さんを妻とすることを望みますか。

はい、望みます。

順境にあっても逆境にあっても、病気のときも健康のときも、夫として生涯、愛と忠実を尽くすことを誓いますか。

はい、神様なのでできないことはありません。自分に誓います。

娘さん、あなたはこの神様を夫とすることを望みますか。

はい、望みます。

順境にあっても逆境にあっても、病気のときも健康のときも、妻として生涯、愛と忠実を尽くすことを誓いますか。

はい、相手が神様なのでできないことはありません。喜んで誓います。

わたしは、お二人の結婚が成立したことを宣言いたします。お二人が今わたしたち一同の前でかわされた誓約を神様の神様が固めてくださり、祝福で満たしてくださいますように。

…………え、神様の神様?

どうしました?おふたりさん。なに、変な顔をしているんですか?

神様にも上には上がいますよ。は?そんなこと、知らなかった?そんな自分の思い通りになんていくわけないでしょう。ちょっと神様、何ですか、その態度?感じ悪いですよ。私を誰だと思っているんですか?神様の神様は私なんですよ。こら、娘さん!騙されたなんて人聞きの悪い。おふたりさん、どうして指輪を投げるんですか?なに、けんかしているんですか?ちょっとあなたたち、本当に結婚する気はあるんですか?

ありません!この結婚、なかったことにして下さい!!

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