【1001夜ショートショート】へようこそ。

おいでませ。語りべのrurubu1001です。

目次全話UPまで時間がかかりそうなので、しばらくこちらなんぞどうでしょうか?


★☆★ 拍手の多かったものベストランキング ★☆★ 

みなさまの拍手でこのベストランキングの変動にご協力下さい。
(もちろん、もし良ければで全然構いませんので^^)
意外な物語が並んで個人的にびっくりです。まあ、アリなのかな。

はじめての訪問者様にも、これが参考になることを祈りつつ…。


★ 第①位 『【第112夜】 BLITZ PRETZ (ブリッツ プリッツ)』 こちらから
私は、誘拐される。帰宅途中だった。一人暮らしの自分の家まで、あと少しのところで。「動くな!おとなしく車に乗れ!」それをあえて狙っていたのだろう。あっさり覆面男たちに取り囲まれてしまった…。(青春)

★ 第②位 『【第146夜】 ジェネラル・イシイ』こちらから
お前は何も知らずに来たんだな。 マルタとは、人体実験用の捕虜のことだ…。(歴史)

★ 第③位 『【第181夜】 或るアプレ記者の回想④  』 こちらから
昭和25年7月。就職活動がうまくいかない京大生・ヨシダは歴史を揺るがす或る事件に遭遇する。世に言う、金閣寺炎上。新聞記者に扮し、現場に忍び込んだヨシダは徐々に事件の真相に近づいていくが…。(ミステリ)

★ 第③位『【第16夜】 同窓絵(どうそうかい)』 こちらから
個展を開くから来いと親友から誘いが来た。『お前はたぶん、ずっと引きずるタイプだな』主人公は20年ぶりに親友に会いに行くが…。(青春)

★ 第③位 『【第21夜】 ガリガリ君の陰謀 』 こちらから
放課後、僕は公園でこっそり一人バスケットの練習をしていた。そこをたまたま通りかかったクラスメートに見つかってしまう…。(青春)

★ 第③位 『【第115夜】 グレイブ・シティ』 こちらから
…鐘の音がする。いつからかわからない。ただ、夢の最後でいつも鳴り響くのだ。ずっと前から…。(SF)

★ 第③位 『【第301夜】 嵐を呼ぶ女』こちらから
電話のベルが鳴り響く。またかと思った。耳障りな事をこの上ない。いい加減、家の電話線を抜いてしまおうかとも考えたが、そうもいかない。担当編集者とのやりとりもある…。(歴史)

★ 第③位 『【第179夜】 音花 』 こちらから
彼女は後ろから飛びついて、自分の細腕を俺の首に絡めた。彼女が外から連れてきたのだろう。一緒に春の香りがした…。(青春)

★ 第③位 『【第38夜】  兄の帰省 』 こちらから
中三の一学期の終業式を終え、通知表をもらって家に帰ると、兄が帰省していた。何かと派手な兄に僕はまた振り回されることに…。(家族)

★ 第③位 『【第121夜】 パラレルサイン 』 こちらから
朝、目覚めたらベッドに知らない女といた。戸惑うに俺に彼女が言った。「あなたはタイムトラベラーなの」俺と彼女はいったい何者なのか…?(SF)

★ 第③位 『【第62夜】 幸せの香り』 こちらから
妻は、パンが大好きだ。彼女はきっと、パンを愛しているのだ。もう常人の僕が想像できないほどに。もしかしたら、旦那である僕への愛情以上に…。(家族)

★ 第③位 『【第245夜】 亡き王女のためのパヴァーヌ 』 こちらから
「あなた、絵のモデルになってくれない?」放課後、誰もいない音楽室でピアノを弾いていると、一人の少女が私に声をかけてきた眉の上で切りそろえた前髪が似合う整った顔立ち。自らがモデルと名乗ってもいいような美少女だった…(友情)。

★ 第③位 『【第149夜】 過去世話(むかしばなし)』 こちらから
過去世が、押し寄せる。人の記憶のさらに奥底。根深く、根強く、巣食う過去世がある。先生は前世とか過去世とか信じますか…?(SF)

★ 第③位 『【第143夜】 らしさ 』 こちらから
放課後、担任のミヤザワに進路指導室に呼び出されて、早や10分。気まずい。何、この空気。逃げ出したい… 。まあ、もとはと言えば、進路調査票を白紙で提出した俺が悪いんだけどさ…。(青春)

★ 第③位 『【第113夜】 ネバーランド 』 こちらから
「ようこそ、ネバーランドへ」№511の少年が言った。「ここは特別な場所、『選ばれた子ども』しか来れないんだ。きみは選ばれたんだよ」(サスペンス)

★ 第③位 『【第116夜】 I am a good girl 』 こちらから
『誰しも自分の幕引きを決めることなんてできないわ。だから、せめて自分の幕開けくらいは自分で決めたいじゃない?』ねえ、伯母さん。そのことをあなたはまだ覚えてる?(家族)

★ 第③位 『【第60夜】 桜の時 』 こちらから
私は立ち止まって、ゆうに十分は、ひらひらと舞い落ちる桜の花びらを眺めていた。声がして振り向くと、そこには何度見ても見飽きない、もう一つの優しい顔があった…。(青春)

★ 第③位 『【第51夜】 少年の夢 』 こちらから
曹騰(そうとう)は最近頻繁に自分の元へ訪れる孫を面白そうに眺めていた。「俺は征西(せいせい)将軍になって名をはせるんだ」そう夢を語る孫に曹騰は思うところがあった。(歴史)

★ 第③位 『【第24夜】 ハードボイルド少年 』 こちらから
「貧しい人の味方で、そのために銃を片手に一人闘うなんて素敵ですよ。刑事さん、彼はどんな人なんですか?」ハードボイルド少年なる者を追っている刑事は今日もあるBarにいた…。(ハードボイルド)

★ 第③位 『【第63夜】 往復書簡 』 こちらから
フリッツとアルの趣味を通じて始まった書簡のやりとり。何往復も続いた彼らの交流は、やがて大きな奇跡を生む…。(友情)




みなさまの拍手やコメントがとても励みになりました。いつも本当にありがとうございます!
今後とも【1001夜ショートショート】をよろしくお願いいたします。




=== 目次 === 


★ 『【第1夜】 千一夜の幕開け 』 こちらから
王妃を失い、悲しみにくれる王のもとへある女が訪ねてくる…。(ファンタジー)

★ 『【第2夜】 クリスマスの恋人(ユリ1) 』 こちらから
クリスマスイヴの夜、1人淋しく過ごしていた僕のところに高校時代の友人ユリがやってくる…。(青春)

★ 『【第3夜】 いちごばあさん 』 こちらから
小学生の私は母のお見舞いに行く途中、魔女に出会い、秘密の楽園に連れて行かれ…。(ファンタジー)

★ 『【第4夜】 琵琶法師(※未完※)』 こちらから
都を騒がす盗人が盲目の法師から琵琶を盗もうとして…。(ファンタジー)

★『【第5夜】 砂糖とスパイス  こちらから
幼馴染の男の子のために、女の子が夜中にこっそりお菓子作りに励み…。(青春)

★『【第6夜】ロックフェスティバルの人々 オーディエンス編』 こちらから
★『【第7夜】ロックフェスティバルの人々 アーティスト編』 こちらから
★『【第8夜】ロックフェスティバルの人々 主催者編』 こちらから
毎年夏に行われる、とあるロックフェスティバル。それに関わる人々の思いとは…?立場の違う3人の視点でそれぞれ書いてみました。(ロックフェスティバル)

★『【第9夜】 神様の寝室 』 こちらから
彼女は夜眠れないと、僕の寝室にやって来る。あることを『鑑賞』するために…。(ファンタジー)

★『【第10夜】 桜の森 』 こちらから
桜の森の満開の下、男が女を背負って歩いている。女との約束を果たすために…。(和風)

★『【第11夜】 ノスタルジア』 こちらから
私は海に向かう途中、「海にかえる人は人魚なんだよ」という不思議な少年と出会う…。(ファンタジー)

★『【第12夜】 ピザパーティー』 こちらから
★『【第13夜】 ポラロイド 』 こちらから
★『【第14夜】 金曜日の占い師 』 こちらから
今日も僕らはこの街で泣いたり、怒ったり、笑ったりしている。大切な誰かと一緒に…。舞台は東京の吉祥寺、井の頭公園。『くるり』の『ワンダーフォーゲル』という音楽を題材にして書いてみました。(ワンダーフォーゲル)

★『【第15夜】 朝顔のはなし』 こちらから
「物語をかいてください」ケンジ先生が夏やすみに出した宿題に困ってしまったぼくは、先生に相談しにいくが…。(ファンタジー)

★『【第16夜】 同窓絵(どうそうかい)』 こちらから
個展を開くから来いと親友から誘いが来た。男は20年ぶりに彼に会いに行くが…。(青春)

★『【第17夜】 西瓜』 こちらから
夢の中で恋人が突然いなくなり、探す旅にでた私。しかし、彼は見つからず、私は倒れてしまう。そこを助けてくれたのは…。(ファンタジー)

★『【第18夜】 読書ノート 』 こちらから
僕は国語の教科担任に呼び出しをくらい、ある秘密をあばかれてしまう…。(青春)

★『【第19夜】 世界の終点駅 』 こちらから
私は列車である場所を目指す。そこは「世界の終点駅」と呼ばれていた…。(ファンタジー)

★『【第20夜】 モダンガール事件手帖 』 こちらから
「それはとても奇妙な怪物でした」カフェーで働くモダンガールと英国かぶれの探偵が遭遇した事件。(ファンタジー)

★『【第21夜】 ガリガリ君の陰謀 』 こちらから
放課後、僕は公園でこっそり一人バスケットの練習をしていた。そこをたまたま通りかかったクラスメートに見つかってしまう…。(青春)

★『【第22夜】 織姫と彦星 』 こちらから
「会わなければならない人がいる!」私とは違う意志が、私の意識の中で強く訴えている。どうやら他人の意志が私の中に住み着いてしまったようなのだ。意志に従い、私はある場所を目指すが…(SF)

★『【第23夜】 砂漠のロックフェスティバル 』 こちらから
砂漠の中でくたばりかけていた僕は男に救われる。その男はギターを託して、姿を消した。男を追いかけ、僕はロックフェスティバルへ向かう…。(ロックフェスティバル)

★『【第24夜】 ハードボイルド少年 』 こちらから
「貧しい人の味方で、そのために銃を片手に一人闘うなんて素敵ですよ。刑事さん、彼はどんな人なんですか?」ハードボイルド少年なる者を追っている刑事は、今日もあるBarにいた。(ハードボイルド)

★『【第25夜】 蹊(こみち)を成す 』 こちらから
全ては彼女が宮廷に桃を届けに行ったことから始まった…。桃からたどりついた憧れの公子の正体とは…?真実を知ったことで彼女は宮廷事情に巻き込まれてしまう…。(ファンタジー)

★『【第26夜】 PLANET(プラネット) 』 こちらから
「ここは遠い夜の海。そして、あなたは私のボートの中にいます」気がつくと、目の前に見知らぬ男がいた。男は自ら星を作っているというが…(ファンタジー)

★『【第27夜】 夜を駆ける 』 こちらから
幼馴染と夏祭りにいった僕は「ずっと言いたかったことがあるんだ」と彼女にあることを告げようとする…。(SF)

★『【第28夜】 忘れものの沼 』 こちらから
森の中にある〈忘れものの沼〉には、人間たちの忘れものが沈んでいるという。そこには一匹の蛙が暮らしていた。ある日、一人の少年が自分の忘れものを探しにやってくるが…。(童話)

★『【第29夜】 森の結婚式 』 こちらから
黒い犬のワクワクと白い犬のフワフワが結婚することをきいた森の仲間たち。彼らは素敵な結婚式をしようと相談し、それぞれ準備をしますが…。(童話)

★『【第30夜】 水魚 』 こちらから
私はある晩、いたたまれなくなって家を飛び出した。その途中「…私を海に連れてってくれない?」という不思議な女性に出会う…。(友情)

★『【第31夜】 ノーマーク(虹の消えた後1) 』 こちらから
「…俺、好きな子ができたんだよね」放課後、隣のロッカーのタドコロが俺に打ち明けた。友達の恋愛相談の登場人物に過ぎなかったふたりが、後になって俺に深く関わってくる…。(青春)

★『【第32夜】 遠い砂漠の物語 』 こちらから
今までこの地には、誰一人として訪れたことなどなかった。ここはあらゆる生命を枯らせた大地だったから…。死の大地、砂漠。そこに、一人の老女が現れるが…。(ファンタジー)

★『 【第33夜】 悪夢 』 こちらから
自分という人間の位置づけについて考えることがある。俺は一体どこに立っているのだろうと…。(ファンタジー)

★『 【第34夜】 銀の羽 』 こちらから
その腕の中は心地よく、私はまるで赤ん坊のように小さく丸くおさまっていた。「迎えに来たよ」私は、その声に導かれるようにあるものを発見する…。(ファンタジー)

★『【第35夜】 SF小説を書こう!』 こちらから
「あれ、知らなかったんだ?ハルはね、恋をしちゃったんだよ」ケイゴ・スガッチ・ハル・シュウちゃんの仲良し4人組は、14歳の夏、一人の不純な動機のため、あることをすることに…。(友情)

★『【第36夜】 月の満ちる夜に』 こちらから
いらっしゃい。あなたの名前は?自分の名前を覚えてないの?でも、気にすることはないわ。私も自分の名前なんて知らない。そんなのあるだけむなしいだけよ…。月の満ちる夜に出会ったふたりが織り成す物語とは…(ファンタジー)

★『【第37夜】  20 』 こちらから
午前0時。日付が自分の誕生日に重なると、二十年間今まで生きてきて事が、断片的だけれど、鮮やかにあっという間に駆け抜けていった。私は呆然とこれが死ぬ間際に見るあれか、と別に死ぬわけでもないのに、考えてしまった…(友情)

★『【第38夜】  兄の帰省 』 こちらから
中三の一学期の終業式を終え、通知表をもらって家に帰ると、兄が帰省していた。何かと派手な兄に僕はまた振り回されることに…。(家族)

★『【第39夜】  冬ノチ春。』 こちらから
「受験番号0986」その数字はどこをどう探しても、目の前にある大学の掲示板には記されていなかった。その場を去ろうとすると…。(青春)

★『【第40夜】  雨と誕生日(バースデイ)(雨と誕生日1)』 こちらから
言っとくけど、俺は雨男じゃない。誰だって、好きで自分の誕生日を雨にしないだろう。雨は嫌いだ。俺から、いろんなものを奪ったから…。(青春)

★『【第41夜】  ロックフェスティバルの人々(オーディエンス編2)』 こちらから
★『【第42夜】  ロックフェスティバルの人々(オーディエンス編3) 』 こちらから
★『【第43夜】  ロックフェスティバルの人々(アーティスト編2)』 こちらから
毎年夏に行われる、とあるロックフェスティバル。それに関わる人々の思いとは…?立場の違う視点でそれぞれ書いてみました。お好きなところからどうぞ。(ロックフェスティバル)

☆カテゴリの「ロックフェスティバル」について こちらから

★『【第44夜】  消えない虹 (虹の消えた後2) 』 こちらから
「消えない虹が欲しいんだ」そう言うと、テツオはにこにこと身をのりだした。「消えない虹が欲しいのか?見ててごらん」そして俺は彼の手を借りて、消えない虹を手に入れるが…(青春)

★『【第45夜】  サクラハマダカ 』 こちらから
今日もあなたの声がする。「サクラハマダカ、サクラハマダカ」私はいつもその声で目覚め、桜がまだ咲いていないことにがっかりするの…。(ファンタジー)

★『【第46夜】 半分フィクション 』 こちらから
半分くらいのフィクションがちょうどいいと思うんだ。フィクションなんて言葉に愛がない?本当にそうなのかな?(青春)

★『【第47夜】  俺様路線テスト 』 こちらから
終業式の後、担任に言われた「抜き打ちテストって素敵だと思うんだよね」の一言にクラス中が騒然となる。でも、たぶんみんなどこかでわかっている。この抜き打ちの本当の意味を…。(青春)

★『【第48夜】  赤い傘と転校生(雨と誕生日2) 』 こちらから
振り向くと、赤い傘をさした知らない女の子が立っていた。「このままだと学校に遅れます。一緒にどうですか?」俺はきれいな彼女と学校まで一緒に向かうことに…。(青春)

★『【第49夜】  神様の結婚 』 こちらから
神様、あなたはこの娘さんを妻とすることを望みますか。順境にあっても逆境にあっても、病気のときも健康のときも、夫として生涯、愛と忠実を尽くすことを誓いますか。神様は果たして無事に結婚できるのか…?(ファンタジー)

★『【第50夜】  箱庭 』 こちらから
「これは箱庭といってね、箱の中にただ砂が入っているだけのものなんだ」クマ先生のお手本になるような完璧な笑顔が苦手な私は…。(未分類)

★『【第51夜】 少年の夢 』 こちらから
曹騰(そうとう)は最近頻繁に自分の元へ訪れる孫を面白そうに眺めていた。「俺は征西(せいせい)将軍になって名をはせるんだ」そう夢を語る孫に曹騰は思うところがあった。(中華風)

★『【第52夜】 セツナイ (虹の消えた後3)』 こちらから
入院生活に慣れ始めた頃、俺は病院の屋上でサワキと再会する。彼女はサトシの見舞いに来ていた。サトシは事故にあい、意識不明になっているという…。(青春)

★『【第53夜】 光の洪水 (虹の消えた後4)』 こちらから
「ありがとう」彼女はにっこりと俺を見上げた。俺はなんとか笑顔を返すので精一杯だった。ついにある人を思い出し、胸がつまって泣きそうになっていたのだ…。(青春)

★『【第54夜】 幸福の国 』 こちらから
ある人から、聞いたことがある。幸福の国に住む者は、誰でも幸福を味わうことができる。しかし、それは彼らにとっての本当の幸福ではない。では、本当の幸福とはなんなのだろうか…?(ファンタジー)

★『【第55夜】 瞳の記憶 』 こちらから
誰かに二の腕をしっかりとつかまれた。水たまりに落ちずにすんで、ほっとして顔を上げる。「いい瞳をしてる」私はある男の人に出会う…。(未分類)

★『【第56夜】 世界の入口(虹の消えた後5) 』 こちらから
「…きっとサトシが世界の入口になって見せてくれるよ」どこまでもサトシを信じて揺るがない。その姿に過去の自分がだぶってしまい…。(青春)

☆カテゴリの「マコト(虹の消えた後)」について こちらから

★『【第57夜】 笠森お仙騒動記 』 こちらから
私には見ていられないものが三つある。一つは宝の持ち腐れ。例えば、そう…目の前にいるお仙姉さんとかね…。江戸中期を舞台に一人の娘が起こしたある騒動とは…。(和風)

★『【第58夜】 烏と男 』  こちらから
その墓前で、男は膝をついて泣き崩れた。「泣いてても無駄だよ」一羽の烏(からす)が男に告げた真実とは…?(SF)

★『【第59夜】 鬼事(おにごと) 』 こちらから
「鬼は、あなたね」そう言われ、私は目隠しをする。「さあ、私をつかまえて」鬼ごっこのことを古くは、鬼事と呼んだ。どうして、私はあなたをつかまえられないの…?(ファンタジー)

★『【第60夜】 桜の時 』 こちらから
私は立ち止まって、ひらひらと舞い落ちる桜の花びらを眺めていた。声がして振り向くと、そこには何度見ても見飽きない、もう一つの優しい顔があった…。(青春)

★『【第61夜】 悪ふざけと昼掃除(雨と誕生日3) 』 こちらから
どうして、あいつは俺の名前を知っていたんだろう?『雨、嫌いですか?』掃除時間中、遠くから小さく見える彼女の姿は、俺と変わらずのんびりとしたものだったが…。(青春)

★『【第62夜】 幸せの香り』 こちらから
妻は、パンが大好きだ。彼女はきっと、パンを愛しているのだ。もう常人の僕が想像できないほどに。もしかしたら、旦那である僕への愛情以上に…。(家族)

★『【第63夜】 往復書簡 』 こちらから
フリッツとアルの趣味を通じて始まった書簡のやりとり。何往復も続いた彼らの交流は、やがて大きな奇跡を生む…。(友情)

★『【第64夜】 返却本と有意義な息抜き(雨と誕生日4)』 こちらから
「俺が図書室で借りた本、返しといてくれない?」成績優秀で何でもそつなくこなす友人。でも、彼に手渡された本は意外なものだった…。(青春)

★『【第65夜】 帰還者 』 こちらから
この街に帰ってきたのは、一体どれぐらいぶりだろう。家族全員が避けるように、逃げ出すように、昔この街からいなくなった。ここは私たちにとって、辛くてたまらない街になってしまったから…。(未分類)

★『【第66夜】 不思議めがね 』 こちらから
僕は手に入れたい。世界が薔薇色に見えるという、『不思議めがね』を…。(青春)

★『【第67夜】 知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』 こちらから
今から約1100年前のイラク、バグダッド。当時、この地はユーラシア最大の都市として栄えていた。国の知識・文化レベルを上げるため、時の指導者は古今東西の文献をアラビア語に翻訳する施設をつくるが…。(友情)

★『【第68夜】 知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)もう一つの結末』 こちらから
第68夜 知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)のもう一つの結末…。(友情)

★『【第69夜】 横顔と放課後の図書室(雨と誕生日5)』 こちらから
俺の放課後の日課は、主に図書室だった。友人は俺を本好きとぬかしたけど、別に俺は読書家じゃなかった。ただ、図書室の空間が好きなだけだった…。(青春)

★『【第70夜】 出立(鬼舞1)』 こちらから
「そなたに頼みがある。おもてをあげよ」抑揚のあまりない帝の声に、少女はゆっくりと顔を上げた。この世のものと思えぬ美しさに、御前に居合わせた少数の臣下はみな息をのんだ…。(和風)

★『【第71夜】 ラスボスたち(ユリ2)』 こちらから
僕がユリと初めて会ったのは高二の秋だった。一人の女の子がみんなにからかわれ、場を和ませている。その明るく澄んだ笑顔が眩しくて、僕は目を細めて彼女を見つめた…。(青春)

★『【第72夜】 A Hazy Shade of Winter(冬の散歩道)』 こちらから
この道を何度も君と通った気がする。「…ちょっと違う女(ひと)と間違ってるんじゃないの?」いやいや、そうじゃない。「じゃあ、本当に私なんだ。教えてよ。私はここでどうしてたの?」(ファンタジー)

★『【第73夜】 骨とり』 こちらから
「“骨とり”は立派な仕事だ。しっかりやんな!」女が子供を産めなくなってどのくらいたつだろう。科学だけでなく、遺伝子工学も大きな進歩を遂げた近未来。人類滅亡を阻止すべく、私たち“骨とり”は今日も骨を拾う…。(SF)

★『【第74夜】 僕らの朝(ユリ3)』 こちらから
クリスマス・イヴの夜、僕は酔っぱらった挙句、いつの間にか眠りこけ、懐かしい夢を見ていた。それは僕がユリと初めて出会った高二の秋のこと…。翌朝、眠りから覚めた僕にユリは…。(青春)

★『【第75夜】 足音(ユリ4)』 こちらから
クリスマス・イヴの夜、1人淋しく過ごしていた僕のところに高校時代の友人ユリがやってきた…。僕は酔っぱらった挙句、いつの間にか眠りこけ、懐かしい夢を見ていた。それは高校時代、僕とユリ、それと表向きは優等生のタカシが初めて出会ったときのこと…。翌朝、眠りから覚めた僕とユリは夢で見た場所。懐かしの母校へ向かう…。(青春)

★『【第76夜】 許せない親友(ユリ5)』 こちらから
クリスマス・イヴの夜、1人淋しく過ごしていた僕のところに高校時代の友人ユリがやってきた…。僕は酔っぱらった挙句、いつの間にか眠りこけ、懐かしい夢を見ていた。それは高校時代、僕とユリ、それと表向きは優等生のタカシが初めて出会ったときのこと…。翌朝、眠りから覚めた僕とユリは夢で見た場所。懐かしの母校へ向かう…。(青春)

★『【第77夜】 彼女の似合うもの(ユリ6)』 こちらから
イヴの夜、1人淋しく過ごしていた僕のところに高校時代の友人ユリがやってくる…。僕は酔っぱらった挙句、いつの間にか眠りこけ、懐かしい夢を見ていた。それは僕がユリと初めて出会った高二の秋のこと…。翌朝、眠りから覚めた僕とユリは一緒に懐かしの母校へ向かう…。(青春)

★『【第78夜】 もう一つの顔』 こちらから
イヴの夜、1人淋しく過ごしていた僕のところに高校時代の友人ユリがやってくる…。僕は酔っぱらった挙句、いつの間にか眠りこけ、懐かしい夢を見ていた。それは僕がユリと初めて出会った高二の秋のこと…。翌朝、眠りから覚めた僕とユリは一緒に懐かしの母校へ向かう…。その途中、ユリにねだられ、彼女に安物の指輪を買ってやった…。(青春)

★『【第79夜】 アオハルカラー』こちらから
イヴの夜、1人淋しく過ごしていた僕のところに高校時代の友人ユリがやってくる…。僕は酔っぱらった挙句、いつの間にか眠りこけ、懐かしい夢を見ていた。それは僕がユリと初めて出会った高二の秋のこと…。翌朝、眠りから覚めた僕とユリは一緒に懐かしの母校へ向かう。その途中の電車の中で…。(青春)

★『【第80夜】 仲介業、はじめました』こちらから
イヴの夜、1人淋しく過ごしていた僕のところに高校時代の友人ユリがやってくる…。僕は酔っぱらった挙句、いつの間にか眠りこけ、懐かしい夢を見ていた。それは僕がユリと初めて出会った高二の秋のこと…。翌朝、眠りから覚めた僕とユリは一緒に懐かしの母校へ向かう。その途中の電車の中で、僕とユリ、親友のタカシが実行委員として活躍した文化祭を思い出す。一体感にかける学生たちを盛り上げるため、当時の僕らがとった秘策とは…。(青春)

★『【第81夜】 通学路』こちらから
イヴの夜、1人淋しく過ごしていた僕のところに高校時代の友人ユリがやってくる…。僕は酔っぱらった挙句、いつの間にか眠りこけ、懐かしい夢を見ていた。それは僕がユリと初めて出会った高二の秋のこと…。翌朝、眠りから覚めた僕とユリは一緒に懐かしの母校へ向かう…。(青春)



1001夜までまだまだですが、これからもよろしくお付き合い下さいませ^^

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とても仲良しのふたりがいました。

黒い犬のワクワクと白い犬のフワフワです。ワクワクとフワフワはいつもいっしょでした。遊ぶときも、ご飯を食べるときも、眠るときも、いつもいっしょでした。笑うときも、怒るときも、泣くときも、いつもいっしょ。けんかもときどきしますが、すぐに仲直り。楽しい笑い話にしてしまいます。あるとき、ワクワクがご飯を食べながら言いました。

「ぼくら、そろそろ結婚しましょう」

フワフワは一瞬、何を言われたかわかりませんでした。ワクワクはいつもと同じように、口の周りを食べ物でよごして、とてもおいしそうにフワフワの作ったハンバーグをほおばっています。フワフワは笑いました。なんだかおかしかったのです。でも、それからとてもうれしくなりました。

「いいですね。そうしましょう」

ワクワクとフワフワはにこにこしながら、いっしょにおいしいご飯を食べました。

そんなふたりのやりとりをこっそり見ていたものがいました。おしゃべりでお祭りが大好きな猫のニャンペーでした。

「こりゃ、すごい!みんなに知らせないと!」

ニャンペーは野原に仲間たちを集めました。

「一体どうしたっていうんだい?」

みんながニャンペーにたずねました。

「ワクワクとフワフワが結婚することになったんだ!」

ニャンペーが大きな声でみんなに告げました。みんなはいっせいに騒ぎ始めました。

「こらこら。静かに、静かに!」

ニャンペーは自分の髭を一本引っぱると、もったいぶって続けました。

「せっかくだから、結婚のお祝いをみんなでやろうと思うんだけれども…どうかな?」
「賛成!!」

仲間たちは声をそろえました。

「では、何をするかだけれども…」
「そうだわ!ワクワクとフワフワの好きな食べ物をいっぱい用意しましょう!」

料理上手のうさぎのミミが提案しました。

「それはいい!かれらの好物は何だったけなあー」
「わたし、知っているわ。だって、フワフワに料理を教えたのはわたしだもの。確かハンバーグ、カレー、バウムクーヘン、フルーツタルト。あ、あと、いちごをいっぱい飾ったパフェも忘れちゃいけないわ」
「ふむふむ。じゃあ、ミミに料理はまかせよう!」
「じゃあ、わたしはかれらの衣装をつくる!」

裁縫の得意な小鳥のピーコが、羽ばたきながら言いました。

「シルクとレースを使った白の衣装がいいな。お花も用意した方がいいかしら?」
「お花ならぼくがいっぱい育てているよ!」

そう言ったのはハチミツが大好きなくまのクマゴロウでした。

「ぼくはかわいいお花でとびっきりのブーケをつくるよ」
「いいね、いいね」

ニャンペーは満足そうに頷きながら、腰に手をあてています。

「ところで、ニャンペーはどうするんだい?」

手作りのハチミツサンドを食べながら、のんびりとクマゴロウはたずねました。

「俺さまは司会だ。進行を見守るんだ」
「ふうん。ニャンペーはなんだかいつも楽そうなんだよなあ」

頭のいい馬のタロが少し不満そうな声をあげました。

「それだけじゃないぞ。あと、宙返りを見せて場を盛りあげるんだ」
「ニャンペー、宙返りなんてできるの?」

みんなにきかれて、ニャンペーは胸を張りました。

「ふふん。まあね!」
「すごいなあ」
「この前、サーカス団が来ただろう?そのときに、こっそり教えてもらったんだ。で、タロはどうするのさ?」

ニャンペーは自分より背の高いタロを見上げました。タロは腕組みして答えました。

「馬車にでもなろうかなあ。ほら、サーカス団のパレードの手伝いで、ぼくは立派な馬車になっただろう?それをワクワクとフワフワはとても気に入ってくれていたんだ。まだ衣装も道具も残っている。馬車で当日のかれらのお迎えとお見送りをして、あと、好きなところにかれらを連れて行くよ」

「わたしも見たわ、あのパレード!とてもすてきだった」

ミミは、うっとりとして言いました。それをみたニャンペーは少し面白くありません。大きな声でニャンペーはみんなに言いました。

「じゃー、それぞれ準備に励むように!日にちが決まったら、また連絡する!解散」
「はーい」

こうして、仲間たちは別れていきました。

ひとりだけ野原にまだ残っているものがいました。心の優しいロバのプクでした。

「どうしよう。ぼく、得意なことなんて何もないのに…。何をすればいいんだろう?」

プクは今にも泣きだしそうでした。そこへ寝坊したハムスターのモッチがやってきました。

「ごめんごめん、すっかり遅れてしまったよ。あれ、みんなはどうしたんだい?」

プクはあきれてモッチを見ました。

「もうとっくに帰ったよ」
「まいったなあ。いったい何の話だったんだろう?」

プクはワクワクとフワフワの話をしました。それをきいて、モッチはにっこりしました。

「そうか、ワクワクとフワフワが結婚するんだね。それはめでたいね!さて、ぼくは何をしよう。ねえ、プクはどうするの?もう決まっているの?」

プクはため息をつきました。

「…実はまだなんだ」
「そうかー。ぼくもすぐには決まらないなあ。みんなみたいに得意なことが特にあるわけじゃないしね」

それをきいて、プクは少しほっとしました。

「そうだ!良かったら、プク、ぼくといっしょに何かしないかい?」
「え?」
「ひとりよりふたりの方が、楽しいこと、思いつくかもしれないよ」

突然の誘いにプクは戸惑いました。でも、なかなかいい気がしました。

「いっしょにやりたいな。やってくれるかい?」

それをきいて、モッチはにっこりしました。

「喜んで!」

仲間たちがそれぞれ準備をしている間に、何も知らないワクワクとフワフワは仲良く音楽をきいていました。

ワクワクとフワフワは音楽が大好きで、特に山の音楽隊というグループがお気に入り。山の音楽隊は旅をしながら演奏を続けている謎の音楽団で、まえぶれもなく各地を訪れては生演奏をして幸せをふりまいているそうです。ワクワクとフワフワもいつかかれらに会うのが夢で、この日もかれらのレコードをゆったりときいていました。そこへニャンペーが招待状を届けに来ました。

「結婚式?」
「そうなんだ。仲間でワクワクとフワフワを祝わせてもらいたいんだ」

ワクワクとフワフワは顔を見合わせました。

「ぼくらのために?みんなが?」
「そうだよ」
「どうして知っているんですか?わたしたちが結婚すること」
「…どうしてかなあ。なんとなくかなあ」

ニャンペーの態度がおかしいので、ワクワクとフワフワは笑いました。ワクワクが言いました。

「ニャンペー、ぼくらの話をきいていたんですね。でも、うれしいです。ありがとう。ぜひ参加させてもらいますね」

日にちも決まり、それぞれが準備の山場にさしかかっていました。でも、まだロバのプクとハムスターのモッチは何をするか決まっていません。色々案を出し合ったのですが、どれもピンとこないのです。

「どうしよう?モッチ、このままだと間に合わないよ」
「うーん」

ふたりはお菓子の入ったバスケットを持って、野原をぐるぐる歩きながら、考えあぐねていました。

「誰かを楽しませるって難しいね」
「そうだねー」
「ぼく、自分を楽しませるなら、思いつくんだけどなあ」
「え?」

不思議なことを言うな、とモッチはプクを見ました。

「だって、自分の好きなことをすればいいだろう?」
「そりゃ、そうだ」
「あぁ、どうしようー」

プクは頭を抱えてしまいました。それを見て、モッチは提案しました。

「ちょっと休もうか。お菓子を食べながら、ひと休みをしよう。クマゴロウがくれたハチミツクッキーを食べようよ」
「…うん」

ふたりは並んで座り、ハチミツクッキーを食べながら、青空を眺めました。白い雲がぷかぷかと浮かび、そよ風にのんびりと流れていきます。

「気持ちいいね」
「うん」

やわらかな太陽の光りの中で、一匹の白いちょうちょが飛んできました。それはとても楽しげで、なんだか踊っているように見えました。あまりにも気持ちが良くて、プクは鼻歌を口ずさんでいました。とてもいい声です。プクの心があらわれているような、この青空の風景のような、優しくて、あったかで、ほんわかした笑顔が生まれる声でした。モッチはそれをきいて、思わず声をあげました。

「これだ!これだよ、プク!」

プクはびっくりして、きょとんとした顔でモッチを見つめました。


いよいよ結婚式の当日です。

野原に仲間たちが集まりました。ワクワクとフワフワの特別な日ですから、みんなおしゃれをしています。ねこのニャンペーはぴかぴかのブーツ、うさぎのミミは赤い花の耳飾り、小鳥のピーコはレースをあしらったストール、馬のタロは羽のついた帽子、くまのクマゴロウはくるみボタンのスーツ。ハムスターのモッチは黒のマント、ロバのプクは首にネクタイを締めたいようですが、どうも緊張してうまく締められません。見かねたモッチがプクの肩に飛び乗って、手伝いました。

「大丈夫だよ、プク。あんなに練習したんだから」
「そうなんだけど、だめなんだ。震えがとまらなくて」
「ほら、深呼吸、深呼吸」

そこへ馬車に乗ったワクワクとフワフワがやってきました。タロがみんなの前でとまると、ワクワクがフワフワの手をとって下りてきました。ワクワクは白のタキシード姿でとても凛々しく、フワフワはすその長い白いドレス姿でまるでお姫様のようです。「きれい」「かわいい」「すてき」と、みんな嬉しくなって、拍手してふたりを迎えました。衣装を作ったピーコも満足そうです。ワクワクとフワフワがとても幸せそうで、毎晩、目が真っ赤になるまで縫い続けてよかった、とピーコは思いました。

ふたりが椅子に座ると目の前の大きなテーブルに、様々な料理が運ばれてきました。ハンバーグ、カレー、バウムクーヘン、フルーツタルト、いちごをいっぱい飾ったパフェ、からあげ、さといもの煮物、けんちん汁…などなど。どうやらメニューが他にも追加されているようです。

「ニャンペーがわたしにおまかせって言ったじゃない?だから、ワクワクとフワフワが好きなものをいっぱい作っちゃったの」

お皿を並べ終え、ミミがかわいらしくウインクしました。ちょっとバランスの悪いメニューにみんなは苦笑い。ニャンペーが慌てて、お酒の入ったグラスを手に取りました。

「ほら、みんな!グラスを手に持ってー。乾杯するぞー」
「はーい」
「それでは、かんぱーい!」
「かんぱーい!!」

グラスの重なる音が響き渡ります。それから「おめでとう」の声が続き、笑い声が場を和ませます。ミミの料理はどれもとてもおいしくて、何よりもワクワクとフワフワがうれしそうでした。おなかが程よくふくらむとクマゴロウがワクワクとフワフワの前にブーケを持っていきました。

「ぼくからのプレゼントだよ。今日のために作ったんだ。良ければ、この日のために用意したぼくらのプレゼントの中で一番気に入ったものを渡した仲間に、これをあげてくれないかな?ブーケを作ったぼくは抜きにしてさ」

とてもかわいらしいブーケでした。バラ、ユリ、ユーチャリス、カラー、真っ白の花々が小さく上手にまとめられていて、そのまわりを緑のアイビーがふんわり包んでいました。とても甘い香りに鼻がとろけそうでした。ワクワクとフワフワは喜んで頷きました。ニャンペーがすかさず言いました。

「プレゼントの一番は俺さ!さあ、みてくれ。宙返りだぞ!」

ニャンペーは高く高くジャンプして、ぐるんぐるん、と回りました。みんなは拍手しましたが、それに続いて、次々と他の仲間たちも自分のプレゼントの猛アピールを始めました。

「わたしの料理が一番よ!」
「わたしの作った衣装で決まりよね!」
「ぼくの馬車だって!」
「何を言い出すんだ!俺さまの宙返りだ」

困ってしまったのはワクワクとフワフワとブーケを渡したクマゴロウでした。

「あわわわ、どうしよう…。こんなつもりじゃなかったんだけどなあ」

ハチミツ酒を持って、クマゴロウがあわあわしていました。その肩にモッチがやってきて、そっと耳打ちしました。

「大丈夫!すぐにおさまるよ」

それからぴょんとプクの肩に飛び乗って、鈴のついた小さなシンバルをふりました。しゃんしゃんと鈴の音が響き、みんなが振り返りました。

「みんな、落ち着いて。今日は楽しい日なんだよ。せーの!」

プクとモッチが互いに合図をしました。モッチの鈴のついた小さなシンバルで伴奏が始まります。プクは胸の前に祈るように手を合わせ、歌い始めました。今日はワクワクとフワフワを思って、もっともっと、やさしい歌になっていました。モッチの伴奏とも息がぴったりです。ぴりぴりしていた場の空気がとたんに変わります。気持ちのいい青空がぐんと近くなり、プクとモッチが仲良く見上げた、あの日の青空と同じような色でした。プクは、はっきりと覚えています。ぷかぷかの白い雲、そよそよとふく風、やわらかな太陽の光り…、すべてのものが包み込んでくれました。それがみんなにも伝わったのでしょうか。気づけば、みんな笑顔になり、体でリズムをとっていました。

「みんなで歌おう!踊ろう!」

プクとモッチは嬉しくなって言いました。みんなは喜んで、隣にいた仲間と手をつないで、輪になりました。ワクワクとフワフワは笑顔でダンスをしながら囁きあいました。

「すてきな音楽ですね」
「わたしたちの好きな音楽ですね」

その音楽が、かれらの笑顔が、森中に伝わったのでしょうか。いつの間に知らない動物たちも集まって踊り出していました。

「いい音楽だね!楽しそうだね!ぼくらも参加していいかい?」
「どうぞ、どうぞ!」
「今日は何か特別な日なのかい?」
「ワクワクとフワフワの結婚式なんだ」
「そうなんだね。おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」

ワクワクとフワフワはにっこりしました。顔見知りでないものにまで、お祝いされるなんて思ってもみませんでした。驚きと嬉しさが込み上げます。そのとき、美しい新たな音色が近づいてきました。

「見ろ!あれは山の音楽隊だぞ!」

ニャンペーが叫びました。ニャンペーの指差す方向をみると、山の音楽隊の姿があります。ワクワクとフワフワのお気に入りの音楽隊です。かれらがこっちに近づいてきて、いっしょに加わります。アコーディオン、フルート、バイオリン、ギター、大太鼓…、様々な楽器の豊かな音色で、ますます盛り上がっていきます。こんなに楽しそうなみんなをワクワクとフワフワは今までみたことがありませんでした。

「すごいですね」
「音楽はいいですね」

なんだか胸がじんわりとあったかくなって、泣きそうになりました。ワクワクとフワフワはみんなにお礼を言いました。

「ありがとう、みんな!」
「本当にありがとう!」

すると、プクがにっこりしました。

「ありがとうを言わなきゃいけないのは、ぼくらの方だよ」

ワクワクとフワフワは首をかしげました。モッチが後を引き継ぎます。

「君たちがぼくらを笑顔にしているんだよ。ワクワクとフワフワが笑顔でいてくれる。あしたも、あさっても、しあさっても、そのつぎの日も、ずーっとずーっと、君たちが笑顔でいてくれる。いっしょにいてくれる。だから、ぼくらもずーっとずーっと楽しくいられるって、そう思えるんだ」

ワクワクとフワフワはびっくりして仲間たちを見つめました。自分たちの笑顔が、いつの間にか仲間たちを笑顔にしていたなんて…。山の音楽隊のひとりが言いました。

「わたしたちは笑顔のある方に引き寄せられるんです。そのおかげで演奏の旅を続けていけるんですよ。笑顔が笑顔を呼んで、もっともっと大きな笑顔の輪になっていく。波紋のように広がっていくのを知っているから」

ワクワクとフワフワは思いました。これから自分たちは何があっても、いつまでも笑っていよう、と。

「ありがとう!!そして、おめでとう!!」

みんなからいっせいに、もう一度、ワクワクとフワフワは祝福されました。みんなのプレゼントすべてがかれらにとっての一番でした。だから、みんなにブーケをあげたい、と思いました。

ワクワクとフワフワは仲良くブーケをほどいて青空に投げました。白いちょうちょのダンスのように、ブーケは青空を軽やかに舞い、みんなに笑顔を届けました。

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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 安藤裕子「TEXAS」× ガース・ウイリアムズ「しろいうさぎとくろいうさぎ 」★

前回UPしたのと同時進行で仕上げた物語がこれです。せっかくなので続けてUPを。(他のジャンルを待っていた方がいたらすみません)良ければ、比べてみて下さい。ちなみにこれが結果、結婚祝いのプレゼントの絵本になったわけですが、イラスト担当役の友人に「(話が)長いよ!描くの大変だよ」って言われました…。ごめん。だって、しょうがないじゃん。こっちの物語は好きな動物(キャラの名前も含む)や食べ物、プロポーズの秘話とか事前にプレゼントする本人たちに色々きいて、それらを全部入れようと思って作ったんだから。(ちなみに前回の「忘れもの~」は逆に自分の自由に書かせてもらおうと思ってああなってしまい、まあ「ボツ」は自業自得だったわけで)振り返ると、そういう事前設定がきちんとあったのは「森の結婚式」が初だったのかも。…許せ友よ、素敵な絵をありがとう。

① 安藤裕子「TEXAS」
http://www.youtube.com/watch?v=nZFttLiayBQ
こちらもねえやんをききながら、書いてました。この音楽に勇気づけられ、かわいい感じの物語が生まれたのかもしれません。山の音楽隊はこの音楽のイメージでしょうか。PVのねえやんも、とてもかわいくて大好きです。ちなみにタイトルの「TEXAS」は、噂だと「素敵さ」をもじって名付けたんだそう。そんなところもなんかかわいいぞ。

② ガース・ウイリアムズ「しろいうさぎとくろいうさぎ 」
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%97%E3%82%8D%E3%81%84%E3%81%86%E3%81%95%E3%81%8E%E3%81%A8%E3%81%8F%E3%82%8D%E3%81%84%E3%81%86%E3%81%95%E3%81%8E-%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%82%91%E4%BD%9C%E7%B5%B5%E6%9C%AC%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA%E2%80%95%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%AE%E7%B5%B5%E6%9C%AC-%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%83%A0%E3%82%BA/dp/4834000427
私が一番好きな絵本です。すごい影響を受けている気がします。友人の結婚の報告をきくと、これをいつもプレゼントしたくなるんですよね。幸せだけど、ちょっぴり切なくて、そこがまたいいというか。大人向けの絵本と言われているのもわかります。私の物語より断然素敵なので、もし良ければ読んでみて下さい^^


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ある森の中に、深い深い沼がありました。その沼は〈忘れものの沼〉と呼ばれていました。

人間たちが忘れてしまったものがその沼に沈んでいるというのです。沼はたくさんの泥水であふれ、汚く淀み、嫌なにおいがしました。そのため人間たちはその沼に近づこうとはしませんでした。沼には一匹の蛙が暮らしていました。蛙は毎日、忘れものが沼に沈んでいくさまを喜んで眺めていました。

「忘れものがふってくる。たくさんたくさん、ふってくる」

今日も蛙は上手に歌います。ぴょんぴょん嬉しそうにはねて歌っています。

「忘れものがふってくる。たくさんたくさん、さようなら」

やがて木々がざわざわと音をたててゆれ、流れ星がこちらに飛んできました。それから、ちゃぽんっと沼に勢いよく落ちて、底に沈んでいきました。

「やや、今のはパンツだな。誰かのおねしょのパンツだな」

蛙は笑いました。おかしくておかしくて、白いおなかがぷくーっとふくらんでいます。また木々が音をたてて流れ星がこちらに飛んできました。それから、ちゃぽんっと沼に勢いよく落ちて、底に沈んでいきました。

「ややや、今度は指輪だな。きれいなきれいな、指輪だな」

蛙は笑いました。おかしくておかしくて、白いおなかがますますぷくーっとふくらみ、まるで風船のようでした。

「忘れものよ、さようなら。さようなら」

蛙は手を合わせて、目を閉じました。たくさんの忘れものが流れ星になって、沼に落ちていくのです。それを見届けることが、沼に住む蛙の楽しみでした。

そんなある日のことでした。蛙がいつものように沼のそばで嬉しそうに歌っていると、ひとりの少年がやってきました。人間がやってくることは、今までなかったので、蛙はびっくりしました。

「ここは〈忘れものの沼〉かい?」

少年が不安そうに、蛙にたずねました。

「そうだが、お前はだれだ?」

蛙は言いました。人間の子どもでも背丈は蛙より随分と高かったので、のけぞるかたちになりました。

「近くの村からきたんだ。自分の忘れものを探しに、この沼へ」
「ひとりできたのか?」

少年はうなずきました。 

「こわくはなかったのか?」
「こわい?」

少年はきょとんとしました。

「…こわいって、何が?」

少年は不思議そうに問い返しました。人間たちはこの沼も、沼を覆い隠す不気味なこの森も嫌っているはずでした。

「へんなやつがきた」

蛙がそう呟くと、少年は困ったように笑いました。

「この沼には、人間の忘れものが沈んでいるんだろう?」
「そうだが、おまえの忘れものとはなんだ?」
「自分の宝石」

蛙はじーっと少年を見つめました。少年の片目には傷あとがあって、固く閉じられたままでした。

「気づいたときにはこうだった。片目の宝石がない。なぜ、ないのかもわからない。母さんは、ぼくの片目があまりにきれいな宝石だったから、悪いやつらに盗られたといっていた」

人間の目には記憶というものが眠っています。それはとても大切な宝物で、人間たちは目のことを宝石と呼んでいました。

「ふうん」
「母さんはそういうけど、ぼくは違うと思うんだ」
「違うのか?」
「本当はぼくが忘れてしまっただけなんじゃないかって…」

また、蛙はじーっと少年を見つめました。少年のもう片方の目はとてもきれいな青色でした。こんなにきれいな宝石を蛙は見たことありません。だから、同じ色の宝石をむかし見届けたことがあったかどうかも思い出せませんでした。蛙はたずねてみました。

「ひとつだけじゃだめなのかい?」
「え?」
「もう片方、残っている青い宝石があるじゃないか?それだけではだめなのかい?」

少年はため息をつきました。

「違ったら、だめなんだ。みんなと違ったらだめなんだよ」
「どうして、違ったらだめなんだ?違ってても、同じ人間だろう?」
「同じじゃない…」

蛙の問いかけに少年はうつむきました。蛙は困ってしまいました。

「時々わからなくなるんだ」

やがて、震える声で少年は語り始めました。

「ぼくは宝石がひとつ足りないせいで、みんなにからかわれる。いじめられる。みんなと一緒に遊びたいのに、みんなと一緒に笑いたいのに、仲間はずれにされるんだ。そうなると、ぼくはわからなくなってしまう。ぼくはみんなと違う生きものように感じてしまうんだ」
「ふうん。でも、おいらはお前が人間にみえるがなあ。おいらも片目をなくせば、蛙じゃなくなるのかなあ」

そう蛙はつぶやきました。自分の気持ちなんて蛙にはわからないだろう、と少年は思いました。すると、蛙はにやりとしました。

「まあ、この沼に入って探すことは人間には無理だろうな。この泥水では息ができない。…それに、たぶん…気持ちがたえられっこない」

少年は首を振りました。

「そんなことないよ」

そう言ってから、少年は沼に目をやりました。汚い泥水はどこまでも黒く、暗く、広がっています。くさったような嫌なにおいが鼻にこびりつき、気持ちが悪くなりました。なんだか気味の悪い声が聞こえてくるような気がしました。

――ド…ウシテ…ワスレ…タ

少年は急に怖くなって後ずさりました。

「ほら、無理だった」
「なんだ、今の!誰の声なんだい?」
「お前ら、人間の声さ」

蛙はあっさり言いました。

「だって、お前らの忘れものじゃないか」
「忘れものって、こわいものなの?汚いものなの?顔をそむけたくなるような…」

蛙は笑いました。

「さあ?おいらが知っているのは何が沈んでいるかだけだから」
「一体、何が沈んでいるの?」
「最近あったのは何だったけ?おねしょのパンツ、銀の指輪、使い古された色鉛筆、壊れたおもちゃ、引き裂かれたドレス、染みだらけの日記帳、破られた写真、血だらけのナイフ…とかかな」
「何だよ、それ…」

少年は青ざめました。蛙はまた、にやりとしました。

「なあなあ、お前の忘れもの、おいらが探してきてやってもいいぞ」

蛙の意外な言葉に少年は驚きました。

「…そんな悪いよ」
「悪くないぞ。ただ、おいらの頼みもきいてもらうさ」
「頼み?」

少年が聞き返すと、蛙はにやにやしました。

「おいらに、その人間の体をおくれ」
「え?」
「おいら、ここの暮らしにちょっとあきてきてたんだ。人間になれるなら、なってみたい。おいらにはお前の体が人間に見えるもの。いらないなら、おいらにおくれよ」
 
今度は少年がじーっと蛙を見つめました。それから、おかしそうに笑い出しました。
 
「いいよ、ほしいならあげるよ。こんな体でよければね」

蛙はにやりとしました。それを見て、少年もにやりとしました。蛙は嬉しそうに跳ねながら、勢いよく沼に飛び込んでいきました。

 蛙を待つ間、少年はいくつもの流れ星を見ました。こんなに大きな流れ星を少年は間近で見たことがありませんでした。ふだん夜空にきらきら瞬く星は嘘ではないかと思いました。流れ星はぎらぎらとしていて勇ましく、身を振り絞るような轟々という音を立てて、沼に近づいてきます。でも、水面にふれると、ちゃぽんっというむなしい音だけたてて、終わりを告げるのでした。それを見続けていると、少年はとても哀しい気持ちになりました。
やがて蛙が戻ってきました。その顔を見て、少年は肩を落としました。

「なかったんだね」
 
蛙は大きくため息をつきました。
 
「残念だが…」

その姿は少年よりもひどく落ち込んでいるように見えました。つい少年は吹き出してしまいました。
 
「そんなに人間になりたかったんだ」
「ああ」
 
沼からあがった蛙は心底がっかりしました。少年は蛙に近づいて、そばに腰を下ろしました。

「ごめんね」

少年があやまるので、蛙は戸惑いました。

「どうしてお前があやまるんだ?おいらがあやまるところだろう」
「ぼくは内心ほっとしているんだよ。蛙をだますところだったから。ぼくは蛙にきちんと伝えてなかったことがあるんだ」

蛙は少年の顔をのぞき込みました。少年は小さいひざをぎゅっと抱えました。

「ぼくの目に残されたこの青い宝石も、そろそろなくなるんだ。だから、蛙が宝石をみつけてきてくれたところで、二つそろうことは難しいんだ」

蛙は目を見開きました。

「どういうことだ?」
「母さんの言葉を借りれば、また、悪いやつらに盗られるらしい」
「そんなやつらがきても、逃げればいいじゃないか」
「逃げられないんだって。ただ盗られるしかできないんだ」
「盗られたって奪い返せばいいじゃないか?おい、悪いやつらって一体何なんだ?何のことなんだ?」
「そうだね。悪いやつらって一体何だろう?ぼくもわからない。ぼくはね、ぼくがよくわからないんだよ」

蛙はさっぱり理解できませんでした。

「わからないって何だよ!お前、本当はここに何しに来たんだ?」

少年はひざに顔をうずめ、口を閉ざしてしまいました。
途方にくれた蛙は、空を見上げました。空といっても森の木々に覆われていて、見ることはできません。木々はうねるようにどこまでも伸び、空を覆い隠すほどの木の葉を異様に茂らせていました。それはまるで空を拒絶するかのようでした。迎え入れる光は、忘れものである流れ星だけ。もしかしたら、こんなところだから少年はやって来たのかもしれない、と蛙は思いました。

「なあ、流れ星を見ただろう?」

蛙は静かにたずねました。

「お前には、あの星の中身が見えたか?」

少年はひざに顔を埋めたまま、首を横に振りました。

「やっぱり。あれはおいらしか見えないのかもしれない」

蛙は薄く笑ってから、少年に言いました。

「あれが人間の忘れものだ。忘れものが流れ星になって、この沼に落ちてくる。沼に落ちる瞬間に、流れ星はおいらにその姿をちょっと見せてくれるんだ。どうして忘れられたかとか、そこまではおいらにわからない。でも、想像することはできる。たぶんどこかに捨てられたものなんだろう」 

蛙は少年にあやまりました。
 
「ごめんな。おいらもお前にきちんと言わなかった。チャンスがあるなら、どうしても、人間になりたかったんだ。だって、おいらもむかし人間だったから」
 
少年は顔をあげ、蛙を見つめました。蛙のぬるぬるとした鈍い緑色の肌は不快にてかり、なんともグロテスクで、人間の面影はどこにもありませんでした。
 
「お前ぐらいのときに川に捨てられたんだ。そして、流れ星になってこの沼に落ちた。おいらは必死だった。忘れられたくなかったから。死にたくなかったから。生きたいって、あがいてあがいて、気づいたら蛙になって沼の上に浮いてた」

少年は何も言えませんでした。蛙は続けました。

「それからおいらはずっとここにいる。おいらみたいに落ちてくる忘れものを見届けてやっているんだ。忘れものは、誰にも見届けてもらえない。忘れられて、死んでしまって終わり。そんなの哀しすぎるだろう?だから、おいらが笑ってさようならを言ってやってるんだ」

少年は流れ星が沈んでいったときの自分の気持ちを思い出しました。蛙は一体いくつの星をどんな思いで見届けたのか…、そのことを考えると、もっと哀しくなりました。

「…ねえ、君の人間の体はこの沼にしずんでいるの?」

いきなり少年が口をあけたので、蛙は驚きました。
 
「え?ああ、たぶんな」
 
少年は立ち上がって、沼の方に向かっていきました。
 
「どうしたんだ?」
 
蛙は少年を呼び止めましたが、少年はどんどん沼に近づいていきます。
 
「おい!」

少年の様子がおかしくて、慌てて蛙は追いかけました。

「君の人間の体を見つけにいくんだ」
「え?」
「自分の本当の体が沈んだままなんてだめだよ」
「探したけど、見つけられなかったんだ」
「蛙じゃ見つけられないだけなのかもしれない」
「もしかしたら、蛙になったときに消滅したのかも…」
「でも、違う誰かだったら、見つけられるかもしれないじゃないか」
「…待てよ。この沼はお前じゃ無理だ。死ぬかもしれないんだぞ!」

沼の目の前で、急に少年は立ち止まりました。

「どうしても生きたいって思えば、蛙になってでも生き延びるんだろう?そのときは喜んで蛙になるよ」
「何を言ってるんだ、お前は!」

わけがわからなくて、蛙は声を荒げました。少年は蛙にまっすぐ向き直りました。

「不思議だね。自分のためには怯んで沼に入れなかったくせに、誰かのためなら、ちっともこわくないんだ。平気なんだよ」

少年はにやりとして、それから勢いよく沼にもぐっていきました。

蛙は沼の前で立ち尽くしていました。目の前で起こったことが信じられず、ただぼんやりと思い返していました。
 
「本当にへんなやつだった」
 
蛙はひとり呟きました。

「死ぬかもしれないのに…。もしかしたら、死ぬ理由がほしかったのかな?」

でも、最後に見た少年の顔を思い出して、その考えを消し去りました。あの目は決して投げやりではありませんでした。

「へんなやつだ。本当に…本当に…」

蛙はこの沼でただ忘れものを見届けていたわけではありませんでした。本当は人を待っていたのです。自分を忘れてしまった、捨てていった人間を。ずっとずっと待っていたのです。思い出して、迎えに来てくれることを願って待っていたのです。でも、その人は来ることはなく、かわりに少年がやってきました。

見かけは弱々しかった少年が、蛙のために沼に飛び込んでいったのです。胸の中で湧きあがるものを蛙は抑えることができませんでした。気づいたときには、しゃくりあげていました。目から見たことのない雫が流れ出たと思ったら、もうとまらなくなっていました。蛙は大声で泣き出しました。あまりにも大きな声だったので、自分の体がそのせいでやぶれるかと思いました。でも、とまりません。とめ方を知らないのです。蛙は今まで泣いたことがありませんでした。思い切り力の続く限り、泣いていました。

蛙の泣き声に反響したのか森の木々が突然大きく揺れ、地鳴りが始まりした。沼が上下に浮き沈み、盛り上がってきた沼の泥が勢いよくあふれ出ました。泥水が激しく流れ出る中でも、蛙は泣き続けました。しばらくして、流されてくる少年を見つけました。意識はなく、ぐったりとしていました。蛙は少年を引き寄せ、小さい体でしっかりとつかまえました。

そのとき、青い光りがその先に見えました。それは少年と同じ青い宝石でした。蛙はせいいっぱい手を伸ばしました。宝石をどうしても少年に渡したかったのです。泥の渦にうでがまきこまれ、ちぎれそうでした。でも、蛙は必死に手を伸ばしました。その手がようやく宝石に触れたと思ったら、まばゆい光りに目がくらんで意識が遠くなり、蛙はもうなにもわからなくなりました。
 
少年は目を開けました。ぬかるんだ土の上に少年は放り出されていました。すでに泥は引いていて、沼のあった場所には深い深い穴が空いているだけでした。しびれていて、体の感覚がまだありません。でも、誰かがそばにいるという気配だけは強く感じられ、目を凝らしました。少年は知らない少女に守られるように、抱きしめられていました。腰のあたりまである少女の黒髪は泥水のせいで、鈍い緑色にところどころ不快に光っていました。それはどこかで見たことがありました。
 
「…蛙…?」

もしかしたら、蛙は自分が女の子だったことを忘れていたのかもしれません。少年は弱々しく笑い、かすれた声で少女にたずねましたが、返事はありませんでした。少女の白くて細いうでにはいくつものひどいあざがありました。少年が身動きをすると、それがだらりとたれて、少女の首も後ろにがくんと奇妙に下がりました。息がありませんでした。

「…蛙?」

かすれた声でもう一度だけ呼びました。返事はありません。少年は身動きをし、少女の体を揺すって目覚めさせようとしました。でも、ぴくりとも動きません。少年は静かに泣いていました。声も出さず、ただ涙だけがこぼれていきました。

やがて、木々がゆっくりと風に揺れて、木の葉がぽたぽたと音を立てると、雨が降り始めました。透明な雨でした。空を覆っていたはずの木々がきらきらと濡れていました。少年は顔を上げ、目を閉じました。蛙のことだけを思っていました。それから、動かなくなっている冷たい少女の体をぎゅっと抱きしめました。ただ泣き続けました。
 
――忘れものがふってくる。たくさんたくさん、ふってくる
――忘れものがふってくる。たくさんたくさん、さようなら

どこかできいたことがあるような声がして少年は目を開けました。木漏れ日からあたたかな陽射しがもれていました。太陽の光りが森を照らしていたのです。少年が眩しさに目をしばたくと、ふと柔らかなものが少年の顔にふれました。小さい赤ん坊の手でした。ほっぺたがふっくらとした、かわいらしい赤ん坊です。少年が目をぱちくりさせていると、赤ん坊はにやりと笑いました。

「…もしかして、蛙…なの?」
 
少年はたずねました。赤ん坊はきゃっきゃっと笑うだけでした。少年はじーっと赤ん坊の顔をみつめました。それから、あっ、と声を上げました。
 
「その目…」

赤ん坊の目は左右色違いの宝石だったのです。緑がかった黒い宝石と見覚えのあるきれいな青い宝石―。

「蛙が見つけてくれたの…?」

少年はなんだか胸がいっぱいになって、それからおかしくなって、笑いだしました。赤ん坊はきょとんとしています。教えてあげたくて、鏡はないかと周りを見渡すと、沼のあった場所がこんこんと透明な水が湧き出る泉になっていました。少年は駆け寄り、水鏡に赤ん坊を映しました。赤ん坊は自分の宝石にとても驚いてから、少年を心配そうに見つめました。少年はにやりと笑って言いました。

「いいんだ。これがぼくの本当に欲しかったものだから」

その言葉を聞くと赤ん坊もまたにやりとして、少年のほっぺたをいたずらっぽくつねりました。じんじんとした痛みが優しく広がりました。

泉には自分の忘れものを大切な誰かの手によって取り戻し、さようならをしたふたりの姿が静かにきらめいていました。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 安藤裕子「忘れものの森」× オスカーワイルド「幸福な王子」★

前作の書き直しのため、次作UPが遅れそうだったので昔かいたものですが良かったら。実はこれ友人の結婚祝いに絵本を手作りプレゼントしようとして用意した1つの物語でした。2作思いついて、同時進行で書いてたんですけど、暗めのお話のため、こちらは「ボツ」になったという…日の目を見なかった物語なんです。確かにこれはまずいって今はよくわかりますが、書いた当初は「ボツ」と聞いて涙目でした。私は2作仕上げる気満々だったから。編集やイラスト担当役をかってくれた友人たちが全力で阻止してくれて…。でも、本当に良かった。渡さなくて。書き終わると達成感で感覚が麻痺するというか、客観的に見れなくなるというか…よくないですね。ちなみにもう1作はハッピーな物語で無事友人の手に渡り、喜んでくれました。生まれた赤ちゃんに読んでくれるそうです。いい友人に恵まれました、本当に。そっちも近々UPできたらしようかなと思います。

① 安藤裕子「忘れものの森」
http://www.youtube.com/watch?v=OW0hskNZSQQ
永作博美さんの月桂冠のCM
http://www.youtube.com/watch?v=i1Qn5nNBcsA
昔、永作博美さんの月桂冠のCMで出会い、ねえやんこと安藤裕子さんの声の虜になりました。気怠いような、涼やかなような、甘いような、凛としてるような…つかめない声。私の中で「風鈴」のイメージ。ノスタルジックというか。とても魅力的な人(しかも、べっぴんさん!)。余談ですが、悩み相談を昔メールで送ったら、ブログで返事をくれて。それも真剣にこたえてくれてて感動しました。ねえやん、なんてカッコいいの!彼女の音楽のおかげで、たくさんの物語が生まれました。もしかしたら、私の物語に出てくるヒロイン像は彼女のイメージが多いのかもしれません。

② オスカーワイルド「幸福な王子」
http://www.amazon.co.jp/%E5%B9%B8%E3%81%9B%E3%81%AA%E7%8E%8B%E5%AD%90-%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%89/dp/4898151663
佐野洋子「100万回生きたねこ」
http://www.amazon.co.jp/dp/4061272748
オスカーワイルド作品好きです。色違いの目という設定が私の物語の中では頻繁に登場しているようで、たぶんこれの影響を受けてたのかな。でも、いまだに「幸福の王子」か「幸福な王子」かわからなくなりますが…。心にグッとくる感じ、胸に迫る感じのものが彼の作品には多く、時代や国が違っても響いてくるというか。まさか美しい刺繍アートを作る清川あさみさんとコラボするなんて…企画を考えた方、素敵すぎます!
もしかしたら泣く場面は、佐野洋子「100万回生きたねこ」の影響かな。大好きな絵本です。
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「俺、お前にずっと言いたかったことがあるんだ」

それを聞くと、彼女は笑顔でこう言った。


     ※


たくさんの風車(かざぐるま)がまわる。くるくる。くるくる。
…ああ、これはきっと神社の夏祭り。夜店に飾られたものに違いない…。

「コウちゃん、どうしたの?」

ふと横に並んで歩いていたヒマリが僕を呼んだ。

「人混みに酔っちゃった?」

彼女は心配そうに僕の顔を覗き込んだ。今日のヒマリは浴衣姿の上、うっすら化粧もしているらしい。僕は慌てて後ろに身を引いた。

「バカ、そんなんじゃねーよ」

本当は少し酔っているのかもしれない。頭痛もしていた。

「もう心配して損したー」

ヒマリはぶすっとしながらも、持っていたうちわで僕を煽いでくれた。幼馴染の嘘は簡単に見抜けるらしい。

「悪い。ちょっと酔ってるかも」
「無理しないでいいよ。体調悪かったらさ、もう帰ろうよ?」
「何、言ってんだ。もうすこしで俺らの番じゃん?」
「…そうだけど」

僕らは神社の境内の前にできた長蛇の列の中にいた。

「夏祭りにここで願ったことは絶対かなうんだろう?」
「そうなの!すごいよね」

ヒマリは自信を持って頷いた。お団子にしている頭が揺れ、後れ毛がうなじにかかる。

「毎年恒例だもんな。ヒマリとここでお参りするの。やらなきゃ夏が始まんないよな?俺ら的に」
「でしょう?」

ヒマリは微笑んだ。きっとこの顔が見たくて、毎年ここに来てたんだなと思う。でも、それが言えずにいる。きっとずっと言えないんだろうな。幼馴染の居心地のいい距離を壊したくないから。

「今年は何をお願いすんの?」
「あんまりお願い事って言っちゃいけないらしいんだけど、コウちゃんは特別ね」

ふふふっともったいぶって、ヒマリは続けた。

「演劇部の次回公演がうまくいきますようにって。私ね、次の主役に決まったんだ」
「まじで?やったじゃん!おめでとう」

僕らは笑いあった。前の人がみんな去り、いつの間にか僕らの番になった。

「ねえ、コウちゃん。コウちゃんは毎年何をお願いしてるの?」

どうしてだろう?さっきまでの笑顔はひっこみ、ヒマリは僕を真剣に見つめていた。

「…俺?俺は…」

僕はこの時、何て言ったのだろう?ヒマリが少し哀しげな顔をしていた。

「そっかー。それがコウちゃんの願い事か…」
「ヒマリ?」

賽銭箱に小銭を投げ入れる。

「コウちゃん。私がコウちゃんの願い事を叶えるからね、絶対に」

ヒマリは手を合わせる。

僕はそれを止めなきゃいけない。ダメだ、ヒマリ。お前はそんなことをしたら、いけない。

「俺、お前にずっと言いたかったことがあるんだ」

それを聞くと、彼女は笑顔でこう言った。

「ごめんね、コウちゃん」


     ※


たくさんの風車がまわる。くるくる。くるくる。
…ああ、これはきっと神社の夏祭り。夜店に飾られたものに違いない…。

「コウちゃん、どうしたの?」

ふと横に並んで歩いていたヒマリが僕を呼んだ。

「人混みに酔っちゃった?」

彼女は心配そうに僕の顔を覗き込んだ。今日のヒマリは浴衣姿の上、うっすら化粧もしているらしい。僕は慌てて後ろに身を引いた。

「バカ、そんなんじゃねーよ」

本当は少し酔っているのかもしれない。頭痛もしていた。

「もう心配して損したー」

ヒマリはぶすっとしながらも、持っていたうちわで僕を煽いでくれた。幼馴染の嘘は簡単に見抜けるらしい。

「悪い。ちょっと酔ってるかも」
「無理しないでいいよ。体調悪かったらさ、もう帰ろうよ?」
「何、言ってんだ。もうすこしで俺らの番じゃん?」
「…そうだけど」

僕らは神社の境内の前にできた長蛇の列の中にいた。

「夏祭りにここで願ったことは絶対かなうんだろう?」
「そうなの!すごいよね」

ヒマリは自信を持って頷いた。お団子にしている頭が揺れ、後れ毛がうなじにかかる。

「毎年恒例だもんな。ヒマリとここでお参りするの。やらなきゃ夏が始まんないよな?俺ら的に」
「でしょう?」

ヒマリは微笑んだ。きっとこの顔が見たくて、毎年ここに来てたんだなと思う。でも、それが言えずにいる。きっとずっと言えないんだろうな。幼馴染の居心地のいい距離を壊したくないから。

「今年は何をお願いすんの?」
「あんまりお願い事って言っちゃいけないらしいんだけど、コウちゃんは特別ね」

ふふふっともったいぶって、ヒマリは続けた。

「演劇部の次回公演がうまくいきますようにって。私ね、次の主役に決まったんだ」
「まじで?やったじゃん!おめでとう」

僕らは笑いあった。前の人がみんな去り、いつの間にか僕らの番になった。

「ねえ、コウちゃん。コウちゃんは毎年何をお願いしてるの?」

どうしてだろう?さっきまでの笑顔はひっこみ、ヒマリは僕を真剣に見つめていた。

「…俺?俺は…」

僕はこの時、何て言ったのだろう?ヒマリが少し哀しげな顔をしていた。

「そっかー。それがコウちゃんの願い事か…」
「ヒマリ?」

賽銭箱に小銭を投げ入れる。

「コウちゃん。私がコウちゃんの願い事を叶えるからね、絶対に」

ヒマリは手を合わせる。

僕はそれを止めなきゃいけない。ダメだ、ヒマリ。お前はそんなことをしたら、いけない。

「俺、お前にずっと言いたかったことがあるんだ。…もしかして俺たち、何度も同じ時間を繰り返してないか?」

それを聞くと、彼女は笑顔でこう言った。

「ごめんね、コウちゃん」


     ※


たくさんの風車がまわる。くるくる。くるくる。
…ああ、これはきっと神社の夏祭り。夜店に飾られたものに違いない…。
僕らは何度同じ時間を繰り返しているのだろう?

「コウちゃん、どうしたの?」

ふと横に並んで歩いていたヒマリが僕を呼んだ。

「人混みに酔っちゃった?」

彼女は心配そうに僕の顔を覗き込んだ。今日のヒマリは浴衣姿の上、うっすら化粧もしているらしい。僕は慌てて後ろに身を引いた。

「バカ、そんなんじゃねーよ」

本当は酔っているのかもしれない。頭痛もしていた。同じ時間を何往復もしているのだ。無理もない。

「もう心配して損したー」

そう。ヒマリはぶすっとしながらも、持っていたうちわで僕を煽ぐんだ。幼馴染の嘘なんて簡単に見抜けるんだよな。

「悪い。ちょっと酔ってるかも」
「無理しないでいいよ。体調悪かったらさ、もう帰ろうよ?」
「何、言ってんだ。もうすこしで俺らの番じゃん?」
「…そうだけど」

僕らは神社の境内の前にできた長蛇の列の中にいた。この光景も性懲りもなく、見続けている。同じ時間を僕らは繰り返すだけ…?そうはさせない。僕は必死に考える。…そうだ。違うセリフを言えばいいんじゃないか?僕は勢いよく、口を開けた。

「夏祭りにここで願ったことは絶対かなうんだろう?」

でも、それができない。なぜか口が勝手に動いてしまう。決められた台本か何かがあって、それの通りしか話せないのだ。

「そうなの!すごいよね」

ヒマリは自信を持って頷いた。お団子にしている頭が揺れ、後れ毛がうなじにかかる。この場面も何度も見た。見るたび、ドキッとしていたことも、もう思い出した。僕はもう一度必死に考えた。逆に話せないように、口をしっかり閉じたら、どうだろう?挑戦してみたけど、無駄だった。

「毎年恒例だもんな。ヒマリとここでお参りするの。やらなきゃ夏が始まんないよな?俺ら的に」
「でしょう?」
「今年は何をお願いすんの?」
「あんまりお願い事って言っちゃいけないらしいんだけど、コウちゃんは特別ね。演劇部の次回公演がうまくいきますようにって。私ね、次の主役に決まったんだ」
「まじで?やったじゃん!おめでとう」

僕らは笑いあった。前の人がみんな去り、いつの間にか僕らの番になった。…ああ、またあの場面がやって来てしまう。

「ねえ、コウちゃん。コウちゃんは毎年何をお願いしてるの?」
「…俺?俺は…」

ここが時間をループする引き金になったのかもしれない。何度も同じ時間を繰り返す発端になったところ。僕はこの時、何て言ったのだろう?思い出せ、思い出してくれ、俺!頼むからっ!!

「そっかー。それがコウちゃんの願い事か…」
「ヒマリ?」

賽銭箱に小銭を投げ入れる。ダメだ。

「コウちゃん。私がコウちゃんの願い事を叶えるからね、絶対に」

ヒマリは手を合わせる。待ってくれ、ヒマリ。

僕はそれを止めなきゃいけない。ダメだ、ヒマリ。お前はそんなことをしたら、いけない。僕は、必死に叫んだ。

「俺、お前にずっと言いたかったことがあるんだ。俺の本当の願いはそれじゃない!待ってくれ、ヒマリ!!」

それを聞くと、彼女は笑顔でこう言った。

「ごめんね、コウちゃん」


     ※


たくさんの風車がまわる。くるくる。くるくる。
…ああ、これはきっと神社の夏祭り。夜店に飾られたものに違いない…。
いったいこれは何周目?僕らは何度同じ時間を繰り返しているのだろう?

「コウちゃん、どうしたの?」

ふと横に並んで歩いていたヒマリが僕を呼んだ。

「人混みに酔っちゃった?」

また繰り返す。僕は自嘲した。いい加減に気づけよ。ゴールなんてないことを知るのが、ゴールだったんだ。永遠に続く。その繰り返し、繰り返し…。

僕はどうすることもできなかった。この先も、何度も何度も、ヒマリに謝らせることしかきっとできないのだ…。

そう思った瞬間、僕の中で何かがキレた。

…ふざけんなっ!!

いきなり極限にまでたまっていたものが爆発した。でも、それが呪縛を解く鍵になったのかもしれない。金縛りがとけたように、自分の何かが解放されるのがわかった。

ヒマリは心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。もう慌てて身を引いたりはしなかった。僕は彼女を抱き寄せた。そして、その耳元でささやいた。

「ヒマリ、なんで俺たちは時間をループしてるんだ?お前、何か知ってるんだろう?」

彼女は体をこわばらせた。僕は彼女が言う前に、あのセリフを自ら口にした。

「ごめんな、ヒマリ」
「…コウちゃん…?」
「お前だけに、辛い思いさせたな」

すると、彼女は僕の体にしがみつくようにして泣きだした。僕はほっとした。それから彼女が落ち着いたところで切り出した。

「なあ、何があったのか教えてくれ。一緒にもとの時間に帰ろう」

その瞬間、くるくるとまわっていたはずの風車がピタッと全て止まった。人の気配も消えたと思ったら、誰もいなかった。僕とヒマリの呼吸の音だけ。時間が静止した世界に、僕らふたりきりだった。

「私もよくわからないの。気がついたら、同じ時間を繰り返してた」

涙をぬぐったヒマリは、僕の腕を引っ張ってある場所に案内した。

「たぶん、きっかけはここだと思う」

そこは神社から商店街に続く大きな階段だった。少し急だから、みんな手すりにつかまりながら、上り下りをする。突然激しい頭痛に襲われた。頭を抱えて僕はしゃがみこんだ。なんだよ、これ…!?頭が割れそうだ!!

「コウちゃん!はやくこっちに」

今度はヒマリが僕を抱きかかえる。その細い腕にもたれるのに申し訳なくて、支えられながらも、なんとか自力で歩いた。階段から離れる。尋常じゃない痛みが少しずつおさまっていた。まさか、俺…。

「コウちゃん、大丈夫?ここまでくればもう」

ヒマリはガタガタと震えていた。そうか、そういうことだったのか。

「俺、あそこから落ちたんだな?」

ヒマリは涙目になった。でも、もう聞くしかなかった。

「死んだのか?」

ヒマリは首を横に振った。

「わからないの。落ちた瞬間に時間が戻ったから」
「そうか」
「ごめんね、コウちゃん」

そのセリフにビクッとして、僕はとっさにヒマリの腕を強くつかんだ。また時間が逆行するかと思ったのだ。でも、違った。

「私を庇ったからなの。お参りが終わった後、私が階段で変な人に絡まれて、バランスを崩しちゃって。コウちゃんが私を庇ってくれたの」

ヒマリは本格的に泣き始めたけど、僕は事情を聞いて、けっこうホッとしたのだった。ただ間抜けに一人階段から落ちるよりも、誰かを守って落ちた方が絶対的に何かが違う。しかも、好きな女を守って死ねたなら、男としてはかなり本望だったんじゃないか、とさえ思っていた。

「浴衣なんて、着てくるんじゃなかった…。動きづらいし、絡まれるし…それに…」

泣き止まないヒマリの腕を引っ張って、もう一度抱き寄せた。

「そんなこと言うなよ。せっかく似合ってるんだからさ。ほら、なんていうの?べっぴんさん?」
「何それ、もう」

ヒマリの頭を優しく撫でながら僕は言い直した。

「すごくきれいだよ。最後に何度も見れてよかった。お前の幼馴染で本当に良かったよ」

これが僕の精一杯の告白だったのかもしれない。時間をとめてくれた神様には申し訳ないけど…。

「コウちゃん?」
「ん?」
「行っちゃうの?」
「ああ。だから、俺の願いはもう気にしないでいい。っていうか、俺の本当の願いはお前の願いが叶うことなんだよ、ヒマリ」

ヒマリは僕を見上げた。潤んだ目での上目遣いはかなり卑怯だと思った。名残惜しくなる。でも、時間は動く。動き出す。風が吹く。サアーッと吹き渡り、いっせいに風車が回り出した。

「…コウちゃん、私の本当の願いはね…」
「え?」

たくさんの風車がまわる。くるくる。くるくる。
最後に唇に何か触れた気がしたけど、気のせいだったのかもしれない。もう彼女の声は聞こえなかったし、姿も見えなくなった…。

ごめんな、ヒマリ。俺、思い出したわ。どうしても思い出せなかった自分の願い事をようやく思い出した。俺は『このままで、お願いします』って、ずっとずっと祈ってたんだよな。このままで充分俺は幸せだから、何も望まない。何も起きなくていい。ヒマリとの関係も今の居心地のいいままでって。告白して後悔するより、告白しないで後悔する方が断然楽だと思ってたから。とにかく現状維持でって。こんなしょぼい願いを叶えるために、お前は何度も何度も時間を戻してくれてたんだな。ごめんな、ヒマリ。本当にごめん。でも、ありがとう…。

『…コウちゃん、私の本当の願いはね…』

たくさんの風車がまわる。くるくる。くるくる。

『毎年コウちゃんと一緒に夏祭りに来ることよ。とりあえず、おじいちゃんとおばあちゃんになるまで』

とりあえずって…。それ全然、とりあえずの話じゃねえー。


     ※


次に気が付いた時には、僕は病院のベッドの上だった。

「…あれ?」

足が変にぎこちないと思って視線を下げると、しっかり変な機械で固定されている。腕を見ると、そっちは自由に動くようでほっとした。

「足の骨折と全身打撲ですむなんて奇跡だって、お医者さんが言ってたよ」

病室の入り口にヒマリが立っていた。どうやら見舞いに来てくれたらしい。

「頭は?全然平気みたいなんだけど…」
「地面に直接頭を打たずにすんだみたい」

そういうと、彼女は僕の横にある小さい机の引き出しから何かを取り出した。それは窓から入る風にゆっくり反応する。くるくる。くるくる。

「…風車?」
「これがなぜか落ちた地面一面に敷いてあって、クッションがわりになってくれてたの。無事で本当に良かったー」

もしかして、その風車はヒマリが時間を戻してくれた数だけあったんじゃないか…?と思った。でも、ヒマリはそんなこと気にも留めてないようだった。彼女は胸を撫でおろして、僕のベッドの隙間に勢いよく倒れこんできた。その様子に僕は笑った。

「安心したのか?お前、大げさだよ」
「大げさなんかじゃないよ、バカ」

彼女は心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「…来年の夏祭りも一緒に行けるよね?」

今日のヒマリは浴衣姿じゃないし、化粧もしていない。部活帰りに寄ってくれたらしく、ふつうの制服姿だ。それでも、きれいだと思った。また涙目になっていて、見てられなかった。

「俺、お前にずっと言いたかったことがあるんだ」

僕は彼女を抱き寄せた。そして、その耳元でささやいた。

「好きだ」

それを聞くと、彼女は笑顔でこう言った。

「おかえりなさい、コウちゃん」




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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ Spitz「夜を駆ける」× Suneohair「Skirt」× SF時間ループ系作品たち★

SFにハマったからには一度は時間モノを書きたいと思っていました。でも長編になりそうだったので、まずこんな感じのループ系から手をつけてみましたけど、難しかった…。初めてで下手な感じだと思いますが。最終的に自分の頭がぐるぐるして、なんだかよくわからないものに…。 書き直しで消えた美輪明宏さんと菅野美穂さんのエピソード、今度読み直した時の声に入っているといいな。

① Spitz「夜を駆ける」
https://www.youtube.com/watch?v=38BgQRQF4N8
私が彼らで一番好きな曲です。いつか絶対これで物語を一つ書きたいと思ってたのですが、まさかのSF使用になるとは…。タイトルもこれから。切ないけど、疾走感があり、歌詞も素敵なんです。アニメの「ハチクロ」(大好き)で流れた時は衝撃でした。

② Suneohair「Skirt」
https://www.youtube.com/watch?v=NQVfP1LePiI
何度か書き直す作業をして、ラストに頭の中に流れてきた曲。もしかしたら、こっちの方が物語の雰囲気にあっているのかも。

③ SF時間ループ系作品たち
北村薫「ターン」(←私は映画を鑑賞)・桜坂洋「All You Need Is Kill」など。何度も同じ時間を繰り返すループ系作品は、けっこう中だるみしそうですが、これらは一気に観れたり、読めたりで凄かったです。これ系の作品はあんまり知らないので、これからもっと探そうと思います。

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「お目覚めですか?」

気がつくと、目の前に見知らぬ男がいた。

「…ここは?」
「ここは遠い夜の海。そして、あなたは私のボートの中にいます」

横たわっていた体を起こし、辺りを見渡すと、黒い海がどこまでも果てしなく広がっていた。

…なんなのだろう、ここは…。

一体どこまでが海なのか空なのか、まるでわからない。全てが濃い闇に覆われているせいで、境界が見定められないのだ。私は恐怖に怯え、自分の腕で自分の体を抱きしめた。このまま自分も、このおぞましい闇に染まっていく…そんな気がしたからだ。すると、男は優しく微笑んで、こう言った。

「何も恐れることはありませんよ。目に見えるものばかりに気を取られなければいいんです。ここは波も穏やかで、汐の匂いも優しい」

確かにボートに打ち寄せる波は弱く、汐の匂いもそこまできつくなかった。少し落ち着くと思考がゆっくりと動き出す。…そうだ。どうして私はここにいるのだろう…。

「どうやら乗っていた舟が難破したようですね。あなたは筏につかまって、夜の海を一人で漂っていましたよ」

…あぁ、そうだったのかもしれない。何かの衝撃で舟が突然壊れ、私は海に投げ出されたのだ。

「夜が明けるまでの辛抱です。夜が明ければ、大きな舟か陸が見つかるでしょう。それまで狭いところですが、ゆっくりなさってください」

足元に灯っていた微かなランプの光りを頼りに、私は男の顔を見つめた。

彫りの深い美しい顔が私を見つめ返していた。
頬は疲れのためか少しこけていたが、秀でた額には若さの光りがあった。鼻筋はすっと伸びて高く、目元には深い陰影が刻まれている。そして、その中で何よりもどこか遠くを見つめるまなざしが私の心を強く打った。その目は昔どこかで見たことがあるような気がしたのだ。
首から下はくすんだ白いローブのようなもので身を包んでいる。そこから覗く手の仕草や振る舞いには品の良さがあった。外見やそれらが男を年かさに見せてしまってはいるが、本当の年は私とそんなに変わらないのかもしれない。

「あなたは、ここで何をしているの?」

いくら何でもここに一人でいるのは、おかしかった。男は表情をさらに和らげた。

「私は、夜空に星を送っているんですよ」

私がうまく理解できないでいると、男はそばにあった小さな袋を取り出して、その口を縛っていた縄をといた。そして、そこから手のひらに納まるくらいの石を取り出したのだ。

「それが、星…?」

私は思わず笑ってしまった。こんなところで変な冗談を飛ばすなんて。どう見たって、ただの石ころだった。おかげで緊張の糸がほどけていったが。

すると男は両手で石を包み込み、何かを唱える。しばらくすると、そこからゆっくりと白い光りがこぼれた。私が驚いて目を見開くと、男は優しく声を立てて笑い、その手を空に大切に掲げた。光りは夜空に向かってまっすぐ上り、やがて一つの美しい星になった。

「私はこうやって、夜空に星を送っているんですよ」
「…素敵ね」

あふれ出た言葉は、感嘆の他の何ものでもなかった。その言葉に男は笑った。少年のような無邪気な笑顔で。

「私も星を送れるかしら?」

男は頷いて、私の手のひらにそっと石をのせてくれた。その時なんとなくこの石は死んでいるなと思った。男は私が石を包み込むのを待つと、軽く自分の手を添えて、また何かを唱える。やがて、あたたかな感触とともに、あの白い光りが現れた。私は空にそれを掲げ、星となる光りを見送った。

私は微笑んだ。男も愛しそうにその星を眺め、ゆっくりと口を開いた。

「きっと、あの星の光りを頼りに誰かが生きるでしょう」

私は男を見た。

「生きることにもがく人は、星を眺めます。そして、その光りを頼りに思う…」

男が見つめているのがわかったが、私は気づかないふりをした。

「生きたい、と」

男は、はっきりとそう告げた。私は、笑った。淋しい声の響きが汐風とともに、運ばれていく。

「…何もかもお見通しなのね」

彼は、ずっと私を待っていたのだろう。

「あなたは必死に、筏にしがみついていましたよ」

私は納得して自ら海に飛び込んだのだ。そのはずなのに…。

最期に感じたのは決して楽になれる安堵ではなく、哀しい後悔だけだった。

「私は、生きたかったのかもしれない…」

でも、自分で自分が良くわからないのだ。今は生きたいと思っていても、今度はただ死にたいと本当は思っているだけなのかもしれなかった…。

男は空を指差すと、静かに語り始めた。

「あの星は、ただの星ではないんですよ。美しい物語をのせて輝いている」
「物語?」
「そう。あなたの物語です」
「…私の?」
「そうですよ。あのままでも充分美しい。でも…」

私は男を見つめた。その遠い目には今、優しい光りが灯っている。

「見せて下さい、あなたの物語の続きを。その道標となるように、私は何度もあなたのもとへ星を送るでしょう」

男が美しい手を伸ばし、私の頭を撫でた。尊いその手のひらは大きくてあたたかで、まるで心が洗われていく。涙がこぼれた。

生きられると思った。どこまでかはわからない。どこへいけるかもわからない。
全てはこの夜の海と同じなのかもしれない。

でも、私は星を知っている。

それを送り届ける男の存在も知っているのだ。きっと生きる糧になるだろう。切り札になるだろう。そして、いつか素敵な物語となって男のもとに現れてみせよう。

「約束するわ」

私の言葉に、男は嬉しそうに笑った。それは今までに見たことのない忘れられない笑顔だった。

目を閉じて、私は男の唱えていたあの言葉を静かに待った。

『幾千の星が夜空に美しい彩りを添えているかのように―。
今宵はこの私が愛すべき物語によって、新たな彩りを添えてごらんにいれましょう 』



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★ 夏目漱石「夢十夜 第七夜」× supercar「PLANET」 ★

「夢十夜」の第七夜を読んだ夜でしょうか。私自身も夢を見ました。それが今回の物語です。覚えているうちに書き出して保管してたみたい。今思うと、第七夜を読んで主人公と一緒に沈んだ気分になっていたので、きっと救いに来てくれたのだと思います。私の忘れられない夢になりました。

① 夏目漱石「夢十夜 第七夜」
http://www.amazon.co.jp/%E6%96%87%E9%B3%A5%E3%83%BB%E5%A4%A2%E5%8D%81%E5%A4%9C-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%A4%8F%E7%9B%AE-%E6%BC%B1%E7%9F%B3/dp/4101010188/ref=sr_1_3?s=books&ie=UTF8&qid=1374152070&sr=1-3&keywords=%E5%A4%8F%E7%9B%AE%E6%BC%B1%E7%9F%B3%E3%80%80%E5%A4%A2%E5%8D%81%E5%A4%9C
夏目漱石では「夢十夜」が一番好き。高校の教科書で長編の「こころ」を中途半端にやるより絶対短編のこっちをやるべきだ!ってなんかあの頃強く思っていたような…。「こんな夢を見た」で始まるそれぞれ雰囲気の違った10種類の短編。特に一、三、七夜が好きで、一夜で恋に落ち、三夜で愕然とし、七夜で一緒に沈みました…。お札になる人はやっぱり偉大なんですね。

② supercar「PLANET」
https://www.youtube.com/watch?v=DzKi3BMCMAc
歌詞は物語とあってないんですが、この曲をよく聞いてました。私が彼らで一番好きな曲です。メロディがとてもきれいで、これを10代でつくるとかすごいなあって。「PLANET」って調べてみたら、星のほかに「彷徨い歩く者」とか「放浪者」って意味もあることを知り、当時とても感動しました。

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桃だ。きっとすべては桃から始まったんだ…。

淑玲(すうりん)は何度もこの先考えることを、初めてこの時考えていた。

きっかけなんて、いつも些細なこと。それがやがて大きな渦となって人々を巻き込んでいく…。

車に揺られながら、淑玲は頭を抱えていた。

でも、巻き込まれに行くことを望んだのは私なんだ。そのことを忘れてはいけないんだわ。

…淑玲、この時まだ十五歳。人生の大きな転機が訪れようとしていた。

    *

事の起こりは…宮廷に桃を届けに行ったこと、だった。

    *

蹊国(けいこく)の首都・成安(せいあん)はこの日、大いに賑わっていた。宮廷で王主催の夏の宴が盛大に行われるからである。城下のありとあらゆる商家がてんてこ舞いだった。こういう時が、稼ぎ時。みんなわかっているのだ。八百屋の我が家も例外ではなく、宮廷の御前房(台所)から料理の食材になる野菜や果物の注文が多く来ていた。

「なんで私が宮廷まで桃を届けに行かなきゃ行けないのー?」

私は父様に不満をもらした。

「しょうがないだろう?淑河(しゅくが)が持っていくのを忘れたんだよ」

淑河とは私の双子の兄のことだ。顔はよく似ていても性格は正反対。私はどちらかというとまめな方だけど、兄様は大ざっぱ。しかも彼は度が過ぎるほどのうっかり者ときている。もう、だからあれほど届けに行く前に確認しろって言ったのに…。人の話を全然きいてないんだから。

「まあ、そういうわけだ。頼むよ、淑玲」
「私、これから行くところがあったのにー」
「どこだい?」
「え?…それは、ちょっと色々よ」

父様はじっと私を見たが、すぐ手を合わせた。

「まあ、桃を届けるだけだからさー。うちの桃は公子様の好物なんだと。これはもうなくちゃ困るだろう?」
「えー、公子様って全員分の?そんな重いのやだ」

確か王の息子たちである公子様って、十人近くいるんじゃなかった?

「それがな、お前の大好きな第一公子様だぞ」
「え、本当??それを早く言ってよー」

とても優秀な公子様と評判だ。もちろん人望もある。次期王候補。でも、私がひいきにしている理由はそれだけじゃない。

「わかった。行ってくる」
「おう、頼んだ。俺は店があるから悪いな」
「いいって、いいって」

私は父様から桃の入った包みを受け取ると、「いってきまーす」と笑顔で手を振った。

「ま、本当はどの公子様か知らんがんね」

と、父様がぼそっと呟いたような気がしたけど、それはきこえなかったことにしよう…。

「御前房に近い門ってどれ…?」

宮廷の城門まできて、私は途方に暮れてしまっていた。父様に大事なことを聞き忘れていたのだ。てっきり来れば、どうにかなると思っていたのに。門番に聞いて、案内してもらえるものと。でも、今日は宴だ。出入りが激しく、門番も慌てふためいている。声、かけづらいなあ…。

その時だった。

「お前、こんなところで何してるんだ?」

見たことない男の子が声をかけてきた。年は私と同じくらいだろうか。格好からしてどうやら宮廷で働いている子らしい。

「八百屋ですが、果物を届けに来ました。御前房まで案内して頂けますか?」

私が頼むと男の子が思い切り顔をしかめた。

「急いでるんだ」

じゃー、声をかけなきゃよかったじゃない!と思ったけど、それは寸前で飲み込んだ。商人は笑顔が基本よ。いつ誰が次のお客様になるかわかりませんからね。

「そこをなんとか。公子様のとてもお好きな桃なんです」

それを聞くと、男の子は真剣な面持ちで私に近づいてくる。え、何?

「これがそうか」

どうやら私にではなく、桃が気になるらしい。宮廷では今、桃が人気なのだろうか?

「案内してくれたら、今度あなたに桃を持ってくるわよ」

私がそう持ちかけると、男の子は私を見て笑い出した。涼しげな目元が少し冷たい印象を与えていたけど、笑顔になると、とたんに変わる。明るく溌剌としていて、人好きするものになった。

「お前は取引上手だな。いいだろう。でも、桃が必要なのは御前房じゃないぞ。私が今から行くところだ。だから、ついでに案内を頼もう」
「え、どこまで行くの?」
「俊楽堂(しゅんらくどう)まで」

私は内心喜んだ。そこは私が今日行きたいと思っていたところだ。

「いいわよ。案内する。私は淑玲。あなたは?」
「私?私は……その…戴青(たいせい)だ」
「ふうん、戴青ね」

私は彼をちらりと見やってから微笑んだ。

「ねえ、戴青。道中せっかくだから、宮廷事情を詳しく教えてくれない?私まだ中に入ったことがないのよ」

俊楽堂は街はずれの静かなところにある。第一公子様の発案で、使われなくなった小さなお堂を国が維持し、無料開放しているのだ。そこをひと月くらい前からある青年がやってきて、街の者に学問を教えていた。

「そうか、お前は第一公子様が好きなんだな」

戴青は私にそう問いかけた。彼は私の桃の包みをかわりに持ってくれている。実は優しいのか、桃が相当好きなのか…。たぶん後者な気がするけど。

「そうよ。だって優秀な方じゃない?まだ公子様なのに政(まつりごと)にも積極的に参加されて」
「例えば?」
「例えば…そうねえ。使わなくなったお堂は…今から行く俊楽堂もそうだけど、建物を再利用して、国に生かす使い方をしたり」

戴青は不思議そうにたずねた。

「古い建物なら壊して、田畑を作ったっていいじゃないか?」

私はため息をついた。

「田畑になる土なんて時間をかけてできるものなのよ。それに時間や労力かけるより、他のことに使った方が効率いいわ。科挙が始まって、貴族以外の民も官吏試験を受けられるようになったけど、まだその民の教育は行き届いていないし。そういう者が学べる場所が必要だったのよ」
「…ふうん」
「それに街はずれにあるあそこは、戦でせめられた時の外壁がわりにもなる。あそこなくしたら一帯が丸見えなのも困るし」
「なるほどな」
「無駄をただ省くんじゃなくて、うまく生かすのがいいのよ」
「お前は、中々ものをわかっているな」

私は微笑んだ。

「それはね、今から行くところの先生のおかげよ。このご時世、本当は男の子だけしか、学問はできないでしょう?でも私ね、こっそり盗み聞いて学んでいたの。そしたら、見つかっちゃってね。でも、追い出さず、混ぜてくれたわ」
「暉仁(きじん)様は、そういうお方だ」
「暉仁様って…え?もしかして、あなた暉仁さんのお知り合い…?」

戴青が頷いた。

「そうなのね。私ね、たぶん第一公子様って暉仁さんに似た人格者だと思っているの。絶対そうに違いないわ」

調子に乗って話しすぎたことに私は気づかなかった。この時、戴青は私に鋭い視線を向けていたに違いない。

「あれ、淑玲?」
「暉仁さん、こんにちは」

俊楽堂に着いた私たちは、ここでひと月前から住んでいる青年、暉仁さんを見つけた。彼はお堂の掃除をしていたらしい。肌は学問人に相応しく、少し青白い。でも、すらりと伸びた背は高く、きちんと筋肉もついていた。整った顔は少し柔和で優しく、人を和ませてくれる。年は十九といっていただろうか。彼はしっかり絞った雑巾をおけにかけ、額の汗をぬぐっていた。

「こんにちは。おや、そちらにいるのは?」

戴青は年長者に向け、礼をとった。

「お久しぶりです」
「…ああ、戴青か。君が来てくれたんですね」
「さすがに今日、お迎えに来ないとまずいでしょう?」
「そうですね」

暉仁さんは少し淋しそうだった。私は嫌な予感がした。

「暉仁さん、どこかに行かれるんですか?ここからいなくなるの?」

暉仁さんは私を見て、困ったように微笑んだ。

「実は家に帰らねば行けなくなってね」
「…そんな」

今度、困ったように微笑んだのは戴青の方だった。

「そんなってお前、何を今さら…」
「え?」
「誰のための桃だよ」

私は戴青の言葉に理解できずにいると、戴青は暉仁さんに向き直り、桃の包みを開いた。暉仁さんは嬉しそうに笑った。

「おお、これは私たちの好きな桃ですね」

今、何て言った?私はまだ暉仁さんに、うちの桃を渡したことは……いや、なかったはずだ。ということは……?でも、そうだ。戴青は言っていたのだ。桃が必要なのは宮廷の御前房ではなく、俊楽堂だと。

「この方が、お前の好きな第一公子様だよ」

夏の暑さにやられてしまったのだろうか?私は一瞬気が遠くなってしまったのかもしれない。

「戴青は相変わらずですねー。淑玲が驚いてるじゃないですか?」
「だって、こいつ道中、もう当ててましたよ?第一公子様はきっと暉仁さんみたいな人だって。なのに、なんでそんなに今驚いているんだ?」
「……それとこれとは…話が……違うわよ」

私はやっとの思いで言った。

「あれはただの私の願望で、別に推理してたわけじゃないわ」
「え、そうだったのか?しまった。言っちゃまずかったか…」
「戴青、それはもう後の祭りってやつですよ」

そうは言いつつも、暉仁さんはおかしそうに笑っている。

「知られてしまった以上、きちんと話しますね。とりあえず、まずは淑玲。桃をむいてきてもらえますか?一緒に食べましょう」

暉仁さんはいつもと変わらない笑顔でそう言った。私はなんとか立ち上がり、桃をむきに行った。もしかしたら、暉仁さんは私を短時間で落ち着かせる方法を知っていたのかもしれない。私は料理をするために、包丁を持つときがなぜか一番冷静になれるのだ。包みには桃が三個入っていて、それをゆっくり丁寧に切った。それから深呼吸を何度も繰り返して、私は桃を二人の前に持って行ったのだった。

「今から聞くことは内密に」

暉仁さんの言葉に、私は重々しく頷いた。

「正確には、私はまだ第二公子。これから第一公子になる者です」
「…どういうことですか?」
「兄である、第一公子はこの世にはもういません。ひと月前に亡くなりました」

私は口元を手で覆った。

「私たちは八人兄弟です。皆、それぞれに事情があり、玉座を狙っていておかしくありません。第一公子は世間の評判通り、優秀な方でした。まるで王になるべくして生まれてきたかのような方だった。腹違いの兄でしたが、私との兄弟仲はとても良かったのです。私は兄が王になった時、彼を補佐し、支えられるような者になりたかった。それが私の夢でした」

しかし、ひと月前、寝所で杯をもったまま倒れている第一公子が発見された。毒殺だった。近い関係者のみ伝えられ、次の立太子は第二公子になることが極秘にすすめられた。そこで父である現王は第二公子である暉仁さんが次に狙われることを恐れ、ある提案をした。第一公子は病に伏してはいるが、まだ生きている。ひと月なら彼の死をそう隠し通せる。その間、安全な場所で暉仁を守ろうと。

「お言葉に甘え、私はひと月ほど、雲隠れさせてもらうことにしたのです。たぶん父王は私に最後の時間を与えてくれたのだと思います。立太子したら、もう逃げられませんから。命を狙われ、闘う覚悟を決めろと」

どこか淋しげにいう暉仁さんを私はただ見つめることしかできなかった。

「がっかりしたでしょう?」

暉仁さんは申し訳なさそうに微笑んだ。私は首を横に振った。

「でも、これまでの第一公子が行ってる政策のほとんどは、本当はこの方の案だ」

ずっと静かに聞いていた戴青が口を開けた。

「だから、お前の憧れる第一公子様はこの方だよ」
「戴青…」
「だってそうじゃないか!亡くなった第一公子は人をひきつけられるお方だったが、少し危ういところがあった。言ってしまえば、慎重さに欠けるところがあったんだ。あんなに注意しろといったのに…」

暉仁さんは戴青を宥めるように頭を撫でた。私は全てを理解した。

「事情はよくわかりました。とりあえず、せっかくですし、桃を食べませんか?」

彼らは私の言葉に、慌てて頷いた。

「そうですね」
「そうだな。すまない」

私はふたりをまっすぐ見て言った。

「この桃はあなた方、公子様たちの思い出がつまっているんですね?」

戴青の視線が鋭くなった。

「…お前」

私は動じず、笑顔で続けた。

「戴青、あなたも公子様のお一人なんでしょう?」

固くなった空気をまず壊したのは暉仁さんだった。

「さすが淑玲ですね。いつわかりました?」
「ちょっとおかしいなって思ったのは最初にあった時。公子様の好きな桃をもってここまで案内することになって関係者じゃないかと思いました。今、思えばこの時に暉仁さんの正体に気づくべきだったんですよね。でも、そこまで頭がまわらなかった。で、戴青のことを察したのは桃をむいていた時です。桃の数でわかりました。三個あったから。一人で三個食べるのはさすがに多いし。ここには今、暉仁さんしかいない。それに暉仁さんが『私たちの好きな桃』って言っていたのを思い出したんです。あと、今のやりとりを見てれば…」
「なるほど」
「ちょっと待て。桃はわかったが、なんで最初あった時におかしいって思ったんだ?」

戴青が噛みついてきたので、私は苦笑した。

「名前、言うときに時間がかかってたでしょう?自分の名前、すぐ答えられないのは充分あやしいわ」

戴青は恥ずかしそうに、鼻の頭をかいた。そういう仕草はまだまだ子供だ。

「お前、女にしておくのはもったいないな」

私は笑った。

「よく言われる。性別を間違えて生まれてきたって」

それは私が一番思っているもの。

「でも、淑玲は女性特有の細やかな気遣いや気配りもある。それに料理の腕もいいんですよ。私はあなたの作ってくれたご飯のおかげで何度飢え死にしないですんだか」

暉仁さんは笑顔で今度は私の頭を撫でてくれた。このお堂に通うようになってから、私はどれだけ彼にそうしてもらってきたかを思い出す。最初は『女が?』と、みんなに思われていた学問だけど、認められるように厚い本をいっぱい読んだ。でも、その本も全部暉仁さんが貸してくれたもの…。

「淑玲の言うとおり、この桃は第一公子と私たちの大切な思い出がつまっています。もう三人で食べることはできませんが、今日新たな三人で一緒に食べられて嬉しかった。ありがとう、淑玲。ここの生活はあなたのおかげでとても楽しかったですよ」

私は泣きたくなるのを必死にこらえ、桃を一緒に食べた。今日の桃の味を絶対に忘れないだろうと思った。そんな私を戴青が盗み見ていた。そんなことには全然気付かなかった。

「お前さー」

暉仁さんは帰り支度をするため、自分の房(部屋)に戻っていくと、見計らったように戴青が声をかけてきた。

「なんですか、公子様?」
「別に今は戴青でいいよ。外にいるし、誰かに聞かれたらまずい」
「はいはい。じゃあ、何よ、戴青」

戴青は吹き出した。

「お前、面白いな」
「は?」
「ふつうはさ、それでも敬意を払うんだ。でも、お前は…」
「私、自分が尊敬してない人に敬意なんてあまり払いたくないわ」
「なるほどね。王族でもってことか。お前、殺されるぞ」
「脅し?」
「いや、試してる」
「でしょうね。そんな気がした」

ここまでの道中もそんな感じの会話だったしね。

「兄上の言ってた通りだったな」
「え?」
「面白い女の子がいると。機転もきいて、人をひきつける才もある。でも、それをより生かせる場所がまわりにないと」

私は俯いた。

「なあ。お前、兄上が好きだろう?」
「え?」
「見てればわかる。恋だろう?しかも兄上はそのあたりは相当鈍いからな」
「そうよ。大好きよ。それが悪い?」
「…素直に認めるのがまた面白いな。恐れ多いとか、そんなことないとかふつう言うぞ」
「だって、どういったところで、もう自分の気持ちは決まってるもの」

本当はいなくなってしまうから、投げやりになっているだけかもしれない。

「兄上は立太子されたら、たくさんの妃ができる」
「…そうね」
「それでもそばで見守ることはできるか?お前にその強さや覚悟はあるか?」

私は戴青を見つめた。彼はいったい何を言っているのだろう?

「私は王宮で兄を守るための仲間を集めている。お前さえその気があれば、後宮の女官として働けるよう手配しよう」
「え?」
「決めるのはお前だ。相当きついと思う。実家にも帰れず、一人後宮暮らしだ。でも、私はお前の機転とやらをみてみたくなったよ」

その夜、家に戻った私は両親と兄に後宮で働くことを告げた。家族は驚いていたけど、反対はしなかった。

「その方が淑玲のためになるのかもしれないな」
「この家は僕がしっかり守るから安心して」
「でも、明日からなんて急ね。知っていたら、今日は淑玲の好きなものを作ったのに」
「母様、そんないいのよ。いつもどおりが一番よ」
「何があっても、お前の家はここですよ」

私は家族に感謝して床についた。今頃、宮廷では宴が始まり、暉仁さんや戴青がすでに動いているのだろうか。

「淑玲!淑玲!」

翌朝、戴青の使いの者が迎えに来る前に準備をしていると、いきなり父様が外から大きな声で私を呼んだ。

「どうしたの、父様?」
「淑玲、お前の迎えはあんな大行列で来るのか…?」
「は?何言ってるの?せいぜい多くて二人がいいところよ」
「じゃあ、あれは何だ??」

私は急いで外に出た。そして、慌てる父様の視線の先を見やった。………え?何あれ??とんでもない大行列なんですけど…。しかも大きな車まであるじゃない。

「もしかして第二公子様が立太子されたお祝いの行列とかじゃないの?」
「何を言ってるんだ、お前は!あ、誰かこっちに来る」

私はこの時の自分の勘の良さを後で褒め称えてあげたい。嫌な予感がして、見えないようにとっさに家の門の陰に隠れたのだ。

「淑玲様のお父様ですね」

父様は緊張して固まっている。「はあ…」とやっと出た声は、裏返っていた。

「私は第八公子様の使いの者。この度は第八公子様と淑玲様のご婚礼おめでとうございます。淑玲様をお迎えに上がりました」

今、何て言った…?

「ご婚礼??…え?誰と誰がですか?」
「第八公子様と淑玲様ですが…」

第八公子様の使者は怪訝な顔をする。父様は私に目配せを送ったけど、私は頭をぶんぶんと振った。何も知らないし、聞いてない。…っていうか、第八公子様ってだれ?あいつ、戴青のこと??

「あ、そうでした。先にこの文を渡すようにとのことでした」

そういうと彼は立派な文箱を父様に渡した。

「む、むむ、娘に渡してきます」

父様はどもりながらお使者に礼をすると、息もたえたえ、家の中に入っていった。私もこっそりそれに続く。

「あれ、ふたりとも慌ててどうしたの?」
「何かあったんですか?」

兄と母はのんびりお茶を啜っていた。私と父様はお互い気持ちを落ち着かせようと必死だというのに…。

「淑玲、これはどういうことだ??」
「私がききたいわよ。とりあえず、ちょっと文を見せて」

私は箱にも負けず劣らずの立派な文をひらく。そこにはこう記されていた。

『昨日、私がこっそり出歩いたことが父王にばれて、女官の件は難しくなった。すまない。でも、待っているだろうし、一応迎えにきた』

は?意味わかんないんですけどっ!『女官の件は難しくなった』というのは、まあわかる。事情があるのだろう。でも、問題は次だ。『一応迎えに来た』っていうのが、どうしてご婚礼になってしまうわけ??大事なことが抜けてるじゃない!とにかく私は続く文字に目を走らせた。

『私は末弟だから、妃(妻)といってもそこまで苦労をかけることはないし、お前の身分でも妃にすることができる。気にするだろうから先に言っておくが、まだ他に妃はいないぞ。悪い話ではないと思う。お前が後宮に出入りするためにはもうこれしかなかった。後はお前の機転にまかせる』

――私はお前の機転とやらをみてみたくなったよ――

何、あの公子!まだ私のことを試してたの?っていうか、私を、女を、ばかにしてない??この時の私の怒りは誰にも説明できないだろう。ぷつっと自分の中にある血管みたいなものが切れた気がした。気づいた時には、声を上げていた。

「父様、時間を稼いで」
「え?」
「母様、家にある香を全部たいて。外のお使者に煙がみえるように」
「どうしたの?」
「兄様、ちょっと手伝って」
「淑玲?」

私は家族に指示をだし、協力を願った。みんなぽかんとしている。

「私の一生の頼みよ!お願いっ!!」

父様が外に出ると、もう行列はうちの前に止まっていた。

「お父上様、何かあったのですか?なにやらすごい煙がおうちから出ておりますが…」
「…それが娘がですな、奇病にかかりまして」
「な、なんと??ご婚礼の日に??」

父様は汗をふきふき、お使者に頭を下げる。

「いったいどんな奇病ですかな?宮廷にはお医師もおりますぞ」
「それがなんとも奇妙なもので。口に出すのも…」

そう言って自分の服の袖を引き寄せ、涙をぬぐう真似をする。何気に演技派だったらしい。

「とにかく、娘は絶対安静。その奇病にきくという香をたいておるのです」
「香りもきつく…これ以上は近づけませんな。どうしたものか…。公子様に私はなんと伝えればよいのか…」
「その心配にはおよびません」

私はお使者の前にさっと現れると、きれいに礼をした。

「そなたは…?」
「淑玲の兄、淑河にございます。私から、直々に公子様にお話しいたしましょう。妹からの伝言も預かっておりますので。どうかお取次ぎを」

お腹に力を入れ、めいいっぱい低い声を出す。兄様に服を借りて、髪も結った。女と見破られたらそれまでだ。一世一代の大芝居。そんなことは初めてだった。女の姿のまま、この車に乗りたくなかった。乗ったら二度と何かから引き返せないような気がしたのだ。あの公子様はどういうつもりか知らないけど…。私は自分の心臓がこんなに大きな音をたてるのを生まれて初めてきいた。お使者は私をみとめると、ほっとしたようだった。

「そうして頂けますか?公子様はお会いできるのをとても楽しみにしておりましたので。それでは兄上様、車にどうぞ」
「はい。それでは父様。みんなによろしくお伝え下さい」

私は車に乗り込んだ。家族は(兄様はこっそり遠くから)心配そうに私を見つめている。私はなんとか笑顔を作った。そして、初めて入る宮廷を前に事の発端を振り返り、私は一つ大きなため息をついた。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ YUKI「プレゼント」× 中華風作品たち ★

一度は書きたいと思っていた中華風モノ。それ系の好きな作品の詰め合わせになってました。書き終えて大ショック。本当は後宮のお話を書いてみたかったのに。その前で終わっちゃうし…。他にも色々反省が多いです。 ちなみにタイトルの「蹊を成す」は私の好きな言葉で、「桃李物言わざれども下自ら蹊を成す」というもの。魅力的な人には自然と周りに人が集まるみたいな意味だったかと。でも、字をそのまま生かして、桃の実がきっかけになった物語もありかなと思いました。

① YUKI「プレゼント」
http://www.youtube.com/watch?v=y00shgjLD24
かわいい女子も好きですが、男前女子もカッコ良くて好きです。YUKIの曲は全ての女子たちに向けた素敵な音楽って気がします。年齢を重ねるごとに、どんどんパワフルになっていく彼女。ずっと輝いてて最強だなあと思います。 こんな大人女子になりたいなあ。

② 中華風作品たち
中華風作品好きです。ヒロインがカッコいいのが多いいんですよね。「人形劇三国志」(←淑玲の名前はコレから)・「雲のように風のように」・井上祐美子「桃花源奇譚」(←漢字が違うかもですが、戴青と暉仁の名前はコレから)・雪乃紗衣「彩雲国物語」・小野不由美「十二国記」…など。設定も似たり寄ったりで反省。中華風モノは自分で書くより、読む方がいいなって思いました。難しいんだなあ。
中華風ではないですが、以下の作品も影響を受けてたのかも。
氷室冴子「ざ・ちぇんじ!」・池上永一「テンペスト」など。
=====================================
※ 淑玲が主人公である『宮廷浪漫』シリーズ/ファンタジーは、続編のある物語です。
まだ書き途中の中華風ファンタジーで、それを少しずつUPしています。
気になる方は、カテゴリ 淑玲『宮廷浪漫』シリーズ/ファンタジー をどうぞ。
以下に、アドだけ貼っておきますね。参考までに。
ちなみに続編までの経緯はこんな感じでした。
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-123.html
登場人物紹介もあったりします。
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-144.html
次回【第114夜】 女は氏無くて玉の輿に乗る(淑玲『宮廷浪漫』シリーズ2) 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-125.html
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いつから声を出さずになくことを覚えたのだろう。

私は居場所というものを探していたのかもしれない。自分にはどこにも居場所がないとバカみたく思っていたのかもしれない。

『海はみんなの故郷です』

それをきいた時、強く心をひかれたのはそう思っていたせいだろうか。遅い夕飯を食べていた私は思わず、手を止めた。

『私たちは昔、海に住んでいて、いつしか陸を見つけて土を踏み、人となったのです』

海のドキュメンタリーと銘打って放送していた番組。今までテレビをぼーっと眺めていただけなのに、いつの間にかひきつけられていた。

…海か。

テレビに流れる映像はエメラルドグリーンの日本ではあまり考えられないようなきれいな海。なーんて、日本の海を全部見てきたわけじゃないから何とも言えないけど。

――おいで。

あれは幻聴だったのだろうか?確かにそう聞こえたような気がする。誰もいない食卓にその声は無邪気に響いた。

――待ってるから。

それっきりその声は聞こえなくなって、私はまた一人になった。いくら大きくて広い家でも、誰もいないかったら、すぐに淋しさで埋め尽くされてしまう。ぽつんと私だけ取り残された気がする。

いたたまれなくなって、私は鍵と財布をつかんで家を飛び出した。


   *


昼のうだるような真夏の暑さと打って変わって、夜は過ごしやすい涼やかな風が吹いていた。どこかの家の風鈴がちりんちりんと鳴っている。それに耳を澄ませ、心を落ちつかせようとつとめた。

夜は真っ暗な闇で全てをのみこんでくれるからいい。あの家も、私自身も、もちろんみんなも、簡単にのみこんでくれる。それはどこかホッとすることができた。結局みんなちっぽけでなんの力もないことを教えてくれる。

なんか疲れたな、と思った。不意に何もかもが嫌になった。時々こんな感情に襲われる。そんな自分も嫌だ。

私をとりまく環境も私自身も、もう、うんざりだった。手を伸ばしても誰にも気づかれない。もがいてもがいて、ただ沈んでいくのを静かに待つことしかできないのだ。

重いため息と同時に涙が出る。いつから声を出さずに泣くことを覚えたのだろう。自分の中の生きる活力みたいなものが日に日に衰えているのがわかる。

……全然ダメだ。

その時だった。突然泣き叫ぶ女の人の声が聞こえてきた。

あまりにも突然すぎて自分の嗚咽かと思い、思わず手で口を押えたほどだ。一体どこからだと思って、あたりを見渡すと、少し先の電柱の下で、うずくまっている人影があった。

引き返そうかと思った。変なことに巻き込まれるなんてまっぴらだ。でも、彼女は私の存在に気付いたのか、急に泣き止み、食い入るような、すがるような瞳で、

「……ねえ」

と、声をかけてきた。しわがれた低い声にもかかわらず、闇の中で不思議とはっきりそれは聞こえた。私は動けず、次に続く言葉を待った。

「赤の他人に…いきなりものを頼んでなんだけど…」

さっきまで大声を出して泣いていた人には思えない。なぜか冷静さも感じられる声。

「…私を海に連れてってくれない?」


   *


彼女は水魚(すいぎょ)と名乗った。本当は『水魚』と書いて、『みお』と読むらしいけど、まわりから、なぜか『すいぎょ』と呼ばれているそうだ。年は二十五で平凡なOLをしているという。「そんな名前だから海に行くの?」そうたずねる私に彼女は幸薄そうな口元で小さく笑った。

とりあえず、私は彼女を家に連れて行くことにした。

主だけではない誰かを久しぶりに招いた家はどこかあたたかだった。玄関の明かりをつけて振り返って彼女を見る。うさぎのような真っ赤な目が痛々しい。黒いワンピースの上に真珠のネックレスをしているのを見て、葬式帰りだとわかった。

とにかく少しでも気分をすっきりしてもらいたくて、シャワーをすすめた。

彼女は大人しく従って、タオルと着替えを受け取る。そして、未だ抜け切れない夜の闇の色を含んだ声で「ありがとう」と言った。

彼女がシャワーを浴びている間、私は深夜のバラエティ番組を意味もなく、眺めていた。

「シャワー、どうもありがとう」

バスルームからリビングにやってきた水魚は、まだ目は赤いもののどこか生気を取り戻したようだった。

「何か食べる?それともお茶?」

私の問いに水魚はお茶といった。冷蔵庫から麦茶をさぐる間、彼女は面白くもないバラエティを私の代わりに引き継いでくれた。

「西澤さんは学生?」
「え?そうですけど…」

水魚がいきなり聞いてきて、戸惑った。なんで私の名前を知っているのだろう?彼女は考えを呼んだのか、

「家の表札、西澤って書いてあった」

私はそうかと軽く笑い、「高校生です」と告げた。私は彼女に氷の入った麦茶を渡した。

「私も数年前は学生してた。今は夏休み?」
「…はい」

愛おしそうな目を向ける水魚が私の心をとらえた。湯上りの女の人はすごくきれいだと思う。濡れそぼった髪が顔に軽く張り付く感じが、どこか艶っぽくて甘い。そして、どこか憂いさが見え隠れする彼女に、私は見とれてしまうのだ。

……大人の女の人。水魚は突如あらわれた『女性』だった。

「今日ね、すごく仲の良かった友人のお葬式だったの」

髪を軽くかきあげ、優しく語る。私はテレビのボリュームを少しだけ下げた。

「親友って言える子の」

水魚はどこか遠い目をして語りだした。

「本当にいい子で、良く笑ってね。お日様みたいだった。まわりから愛される子で、私は彼女が大好きだった」

私は静かに彼女の話に耳を傾けていた。

「大学の時はふたりしてバカばっかりやってたの。それがムチャクチャ楽しかった。夜通しお酒飲んで語り合ったり、同じ男を取り合ったり、授業サボって遊んだり…。そんなことを繰り返してたわ」

水魚はいつの間にか涙を流していたけど、構わず、続けた。

「卒業してから、全然会ってなかった。事故だって。車とぶつかって即死。あっけなく死んじゃったわ」

水魚はけらけら笑ってから、麦茶を飲んだ。そして、目を伏せた。

大切な人の死。彼女はそれを受け止めるのに必死だった。沈黙が重い。ただ、テレビの音だけがむなしく流れる。私は口を開けた。

「…でも、どうして海?」

彼女は顔を上げて、その問いにこう答えた。

「夢。夢を見たの。大学の時、海に行ってね。確かどっちかが失恋して励ますためにいったと思うんだけど。その子が『海に帰る』っていったことがあったの。『私が死んだら、海に帰るから』って。ずっと忘れてたんだけど、夢を見て思い出した」

私はさっきのドキュメンタリーを思い出した。

『海はみんなの故郷です』

――おいで。

もしかしたら、幻聴ではなかったのかもしれない。

――待ってるから。

「帰りましょうか?」
「え?」

水魚は私の言葉の意図をつかめないらしく、眉を寄せた。

「私たちも帰りましょう」

私はにっこりと微笑んだ。

「海へ」


   *

 
 いつからあの家は誰もいなくなってしまったのだろう。

ちょっと前まで私には『家族』というものが存在していたはずなのに。

私には弟がいた。九つ離れたかわいい男の子が。でも、彼は病弱でいつも顔は青白く、痩せっぽちだった。それはまるで隅っこで大人しく咲こうとする儚げな花みたいだった。

父や母、そして私は、弟がいつ医者から死の宣告を受けるかをびくびくしながら暮らしていた。でも、うちは明るかった。弟の前で暗い顔をするわけにはいかないと、暗黙の了解のように私たちはみんな笑っていたのだ。でも、いつからかどこか家にまとわりつく死の匂いが私たちの気を滅入らせていたのも事実だ。父も母もいつも死と隣り合わせでいる弟から、あの家から、本当は離れたくて仕方がなかったのだ。

そして、唯一私たち家族を繋ぎ止めていた弟がこの世を去ると、途端に私たちはダメになってしまった。父は他の女の人のところへ。母はどこかの新興宗教に走りそうになったけど、どうにか踏みとどまって、今は気を紛らわせようと友達と旅行に行っている。

もちろん母は私も誘ってくれた。でも、私は断ったのだ。予備校の夏期補習を理由に。でも、そんなの行く気なんてなかった。私はただ、あの家を誰もいない状態にしたくなかったのだ。弟を一人にしたくなかった。いくらこの世からいなくなっても、彼は私の弟で、帰るところは、きっとあそこしかないのだから…。


   *

 
 水魚が免許を持っていてくれて良かった。

うちにある車で深夜の高速を駆け抜け、夜明け前には小さな海岸に着いた。

「共鳴しあっちゃったのかしらね、私たち」

水魚が車から出て鍵を閉めた。

「見つけてくれてありがとう」

水魚がそう言ったので、私は笑った。

「声をかけてくれてありがとう」

私も彼女にそう言った。彼女も笑った。

私たちは浜辺をゆっくりと歩きだした。夏なのに、夜明け前の海岸は肌寒かった。私たちは寄り添うようにぴったりとくっついて歩いた。人のぬくもりは生きている証拠だと私は胸を撫で下ろした。水魚もそう感じていたのかもしれない。

海は穏やかな波音に包まれながら、夜明けを迎えようとしていた。私たちもやがて視界に入ってきた防波堤から夜明けを迎えることにした。きっとあそこからなら朝日が良く見える。

防波堤に上り、海を見渡した。私たちの故郷は、少しずつ夜明けの色に染まっていく。私は真っ直ぐ前をみすえた。目の前に広がるのは、今日という光。始まりも終わりも、そんなものをすべてを飛び越えてくれるような、神々しい光だった。

水魚がふと呟いた。

「…もしかして、これを見せたかったのかな?」
「え?」
「悔しいけど、失ってみて初めて気付くわ。色んなものの重みとか。自分にどれだけ影響を与えてくれていたのか。…どこかで私は履き違えていたのかもしれない。生きていることは、決して当たり前なんかじゃないんだわ」

水魚の言う意味がわかるような気がした。

生きていることは、決して当たり前なんかじゃない。生きて死んでいくことが、当たり前なのだ。

弟も水魚の友達も当たり前のことが起こったまでだ。それがただ、早すぎただけ。私たちはそこに戸惑ってしまったのだ。

私の家族はどうなってしまうのだろう…。

「別にそれに縛られる必要はないと思う。個人を見ればあなたはあなただもの。あなたの好きなようにすればいいと思うわ」
「そうかな?」
「そうよ」

それを聞いて、なぜか楽に息が吸えるようになった気がした。自分から息苦しくする必要はないんだよ。

「ただ、投げやりになってはダメ。私はよくなるけどね」

水魚は腰に手をあてて自慢げに言った。私たちは笑いあった。その笑い声は朝日と同じくらい明るい色をしている。

私は大きく深呼吸をした。体内に一気に血液が駆け巡るのがわかる。やっと私の心と体は正常に戻ったのかもしれない。

「大丈夫?」

水魚が私に声をかける。もう彼女の瞳に暗い影はさしていなかった。きっと私もそうなのだろう。

「うん。お腹すいた」

水魚が笑った。

「じゃあ、朝食にしましょう」
「確か近くにファミレスがあったよね?そこで食べようよ」

人間はたくましいと思う。どんなに辛くても、泣くだけ泣いても、お腹はすくし、笑うことができる。

父と母もばらばらでもいい。笑うことができるなら。どこかでそうしているなら、私はいい。それでいいと思う。

「ほら、行こう」

水魚が私を呼ぶ。呼んでくれる人がいる。居場所なんて本当はどこにでもあったのだ。なかったのは、そこにあるはずの心。私自身の心だ―。

それから水魚とこれでもかというくらいファミレスで食べまくり、家に戻って爆睡した。目覚めた時、もう彼女はいなくなっていたけど、リビングのテーブルの上に彼女らしい書置きがあった。そこにはこう記されていた。

『また、来ます。ご馳走を作りに』―と。

私はまだ一人であの家にいるけど、彼女の訪問を心から楽しみにしている。




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=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★よしもとばなな「白河夜船/サンクチュアリ」×白鳥マイカ「red clover/Shelter」★

高校時代に授業中に手書きでノートに書いていた物語を発見!今回PCに急いで打ち込んだので、誤字脱字、古臭い言い回しなどあるかもしれません(後で訂正しますので)。良ければ、雰囲気だけでもお先にどうぞ。当時、どうも私はやたら海・涙・人魚・故郷っていう題材で物語を書いていたようです。(なぜ?)それにしても、手書きってアルバムを見ているようなこそばゆい気分だ。しばらく手書きの物語をPC入力・保存という若干手間な作業をすることになりそう。そのため時間がかかり、UPする頻度が落ちるかもしれません。良ければ、気長にお付き合い下さい。

① よしもとばなな
「白河夜船」
http://www.amazon.co.jp/%E7%99%BD%E6%B2%B3%E5%A4%9C%E8%88%B9-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%90%89%E6%9C%AC-%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%AA/dp/4101359172
「サンクチュアリ」
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%86%E3%81%9F%E3%81%8B%E3%81%9F-%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AA-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%90%89%E6%9C%AC-%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%AA/dp/4101359164
学生時代、ばなな作品にハマり、影響を受けて書いた物語だと思います。なんか水魚という名前とかそのような気がする。普段の私は割と普通の名前が好きみたいだし。最近のものより、私は初期作品の方が読んでいるかもしれません。「キッチン(私は同時収録の「ムーンライト・シャドウ」も好き)」、「哀しい予感」とか。あと、ばなな作品は、出てくる食べ物がやたらとおいしそうなんですよね。それもなんかいいなあと思います。

②  白鳥マイカ
「red clover」
http://nicotter.net/watch/sm8933851
「Shelter」
http://www.youtube.com/watch?v=Oz0by-lAtQM
「Someday」
http://www.dailymotion.com/video/x3b0we_someday-%E7%99%BD%E9%B3%A5%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AB_music
「線」
http://nicotter.net/watch/sm8936337
書いていた頃に聞いていた音楽を忘れたので、今回入力作業をしながら聞いてた音楽を。最初はNorah Jonesを聞いていたんです(「マイ・ブルーベリー・ナイツ」みたいなロードムービー的な物語になるかと思って。でも、そういうわけでもなかった…)。個人的に気になる日本人アーティストさんを。白鳥マイカさんは「ラヴァーズ・キス」(吉田秋生さん原作漫画)という映画で出会いました。その映画で流れていた音楽です。なんかきれいな歌声が心地よくて、BGMに最適だったんです。


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彼についてたずねると、誰もが口をそろえてこう言った。

『…やつは、ハードボイルドだったよ…』


     *


深夜近くまでの張り込みを終えて、一息つきたくなった俺はあるBar(バー)の扉を開けた。

「あら、刑事さん。いらっしゃい」

今夜はマスターがいないらしい。カウンターにはポニーテールがトレードマークのバイトのナタリーがいるだけだ。

「あれ、今夜はナタリーちゃんだけかい?」

わかってはいたが、つい聞いてしまうところが俺の性分だ。

「そうなんですよ。マスター、ギックリ腰になっちゃって」

ナタリーが言うとギックリ腰も遊園地のアトラクションのようだな。まあ、あれだ。かわいいお嬢さんってことだよ。

「今夜はどうします?」
「バーボン、ロックで」
「刑事さんは、いつもそれですね。私、覚えちゃった」

彼女の笑顔を見て、俺の顔が少し赤くなる。暗がりの店内のおかげできっとナタリーには気づかれないだろう。ふう、やれやれ。ハタチそこそこの娘に何ときめいてるんだ、俺は…。カウンターに座り、目の前に置かれたバーボンに救われる思いで、俺は視線を下げた。

「今日もお仕事だったんですか?」
「ああ、例のハードボイルド少年をね。追っているんだ」

すると、ナタリーは目を輝かせた。この手のネタは悔しいが一般人うけがいい。刑事の俺としては複雑なところだ。

「ハードボイルド少年って、悪の組織やマフィアを片っ端からやっつけてくれてる、あの??」

ナタリーちゃん。顔をそんなに近づけて聞かれると、おじさん、ちょっと困っちゃうな。

「ああ、そいつさ」

そんな思いとは裏腹に、しれっと返す俺がいた。

「貧しい人の味方で、そのために銃を片手に一人闘うなんて素敵ですよ。私、彼のファンなんです!刑事さん、彼はどんな人なんですか?」

……ちょっと面白くない。俺はバーボンを手に取り、少し口に含んだ。そのグラスを揺らす。カランッと氷がいい音をたてた。その間をナタリーはどう勘違いしたのか、両手をパンッとたたいて何度も頷いた。

「わかりました。もう色々と情報をつかんでいるけど、機密事項で言えないってやつですね!わー、カッコいい!刑事ドラマみたいですねー」

う~ん、思い切り勘違いしているな。でも悪い気はしないから、それでいこうじゃないか。

「まあね。たぶんそろそろじゃないか。やつがお縄になるのも」
「ハードボイルド少年かあ。気になりますよねえ。どんな人なんだろう。さすがに子供じゃないですよね?少年って言ってるからって」

俺は意味ありげに笑ってみせた。…知らん。ぶっちゃけたところ、俺たち警察はさっぱり何もつかんでいなかった。さすがに組織やマフィアを相手にしてるんだ。ガキってことはないだろう。そういえば妙なのが、証言者の証言だ。彼についてたずねると、誰もが口をそろえてこう言った。

『…やつは、ハードボイルドだったよ…』

しかも老若男女問わず、この証言ときている。それこそ、ガキからジジババまで。みんな意味深に気取って言いやがる。

は?それ、とっくにみんな知ってるし!だから、具体的にどんなやつか外見を聞いてんの!顔とか格好とか覚えてないのかよ?……そう言いたいところをグッとこらえ、やんわりと俺は言い直して聞いてみたさ。俺は冷静な刑事だからな。

『…やつは………』

よしよし、ご協力願えますか。俺はじっくり待った。

『………ハードボイルドだったよ…』

刑事なめんてんのか、こらっ!!しかもタメて言う必要、全然なかったよな??っていうかお前、言ってる自分に酔ってるだけだろ!

「何がハードボイルドだ、まったく」

誰が言い始めたんだ、くそっ。思わず、俺は多めにバーボンを飲んでしまった。やばい、喉がやける。

「知ってました?にわかに今、彼のおかげでハードボイルドブームが起きてるんですよ」

ナタリーの発言に俺は耳を疑った。

「そうなんだ?」
「はい。最近、道行く人のほとんど帽子にトレンチコートを着てるじゃないですか?しかも襟をたてて。煙草は葉巻だし、お酒もウィスキーとブランデーが多いかな。あと、遠い昔にハードボイルドを題材にした有名な3部作の映画があったそうで、そのリバイバル上映までしているんですって」

面白くない。全くもって、不快!不愉快だ!みんなして、踊らされやがって。気づけば、バーボンが空になっていた。ナタリーに頼んでもう一杯飲む。ぐび。ぐび。ぐび…。

「そう言えば、ハードボイルドってどういう意味なんでしょうね?実は私、よくわからなくて」

ナタリーがかわいい声でたずねる。ここは俺さまが紳士的にこたえてやらねば…。

「それはアレだよ。…男の生き様に、…こう、しびれますね!っていうアレよ。…簡単に言うとな、渋い俺、カッコいい!っていうアレアレな世界でな」

ナタリーは大きな目で瞬きを繰り返す。それから、おかしそうにクスクスと笑いだした。

「やだ、刑事さん。酔ってます?」
「酔ってないよ…」
「目がすわってますよ。やだやだ、渋い顔が台無し」

ごめん、ナタリーちゃん。おじさん、何気に酔ってます。酒、弱いんだ…本当は俺。

「タクシー、呼びますね」

ナタリーの声が段々と遠くなる。店内に静かに流れるジャズが心地よかった。やがてタクシーがきて、俺は運転手に担がれたようだった。そこで記憶が途切れてしまった。


     *


私は酔っぱらった刑事さんをタクシーに乗せて見送ると、伸びをしてからBar(バー)の扉を開けた。

「…ちょっと、いつまでそこに隠れてるんですか?」

カウンターの下で、こそこそしている男が一人。

「マスター、そんなところにいたら逆にあやしいですよ」
「あの刑事、苦手なんだよ…」

実は一杯先にやっていたらしいマスターはグラスを片手に腰を上げた。

「っていうか、誰がギックリ腰だ!ピンピンしとるわ」

あの刑事さんと年はそう変わらないだろう。でも、働き者な彼らは年齢よりもずっと若く見える。

「元気で何よりです」

私はニッコリした。この笑顔が仕事の武器ですから。マスターはそれを見ると、肩をすくめた。

「はいはい。かわいい子ぶるのはそれくらいにしろ。クセになるぞ、いい加減にもとに戻れ」
「えー」
「『えー』じゃない!返事は『はい』だ」
「はーい」

マスターに言われ、しぶしぶポニーテールのウィッグをとる。ショートの短い髪の清々しさに生き返った気分だ。…まあ、今まさしくある意味、本当に生き返ったわけなんですけど。

「あの刑事も本気でお前に惚れてんのかね?本当は男のナタリーちゃんに。知らずに不憫なもんだ」

一人楽しんでるマスターに私…いや、俺は噛みついた。

「不憫なもんか!外で俺を追いかけて、うちにも押しかけるとか、愛情押し付けすぎだろ!俺の方がよっぽど不憫だ」

マスターはニヤリとした。

「愛されてるねえ~、ハードボイルド少年」
「楽しむなよ、マスター。女装できるのもせいぜいあと数年だ」
「まだ10代だっけ?」
「16です♥」
「わっ!男に戻って、ウインクとかするな!うっかりときめいた自分に寒気がするわ!」
「けなしてんのか、褒めてんのか、わかんねーよ、それ!」
「親に感謝しとけよ。見てくれってやつも貴重な財産だ」

マスターは紙巻きの煙草を取り出した。この人は、葉巻なんて吸わない。格好悪い背伸びはせず、自分に似合うものをきちんとわかっている。

「名前も財産かもね」

俺がそう呟くと、マスターは美味しそうに煙を吐いた。

「苗字がボイルドだから、名前はハードだ!とか傑作だよね。親父が一番ハードボイルドだったかもしれないな」

それを聞いて、マスターは声を出して笑った。

「親父さん、相当面倒だったか、本当に気に入ってたかだな。まあ、そのおかげで、お前は世間様にも助けられてるんじゃないか」

最初は公園で不良のガキたちに集団リンチにあっていた浮浪者を助けただけだった。俺はただ「警察がきたぞー」と叫んだだけ。浮浪者のおっさんは、俺に礼を言って、名前を聞かれて答えたらニヤリとした。やがて警察が駆け付け、おっさんは言ってくれたのだ。

『助けてくれた少年…やつは、ハードボイルドだったよ…』

たまたま時を同じくして、近くの路上でマフィアのボスが頭から血を流し、死体になって発見された。

偶然と必然が重なったのか、噛み合ったのか…。

「別にどうだっていいし」

ちなみに俺は何もしてない。まだ16のガキがそんなこわいこと、できませんから。

「俺が人助けをするたびに近くに事件が起こって、なぜか犯人扱い。どんどん事は大きくなるし。気づけば俺、大犯罪者じゃん」
「証言者もみんな正直にお前の名前を言ってるだけなのにな。警察も勘違いしちゃって、謎のハードボイルド少年なる者を追え!って躍起になってさ。事情通はみんな腹を抱えてるぞ」

俺はカウンターに寄りかかり、刑事の残したバーボンを手にした。

「…でもさ、俺のまわりで事件が起こってるのは事実じゃん?」

空気が変わる。室温が一度くらい下がったのかもしれない。

「俺の動きをよーく知ってるやつじゃないと無理な気がするんだよね?」

グラスの氷はもう小さい。とけてなくなりそうだ。

「ハードボイルド少年のファンじゃねえの?」

マスターは軽く笑い、煙草を消した。そして、俺からグラスを奪う。

「だよね。俺もそう思う」

カウンターに入って、マスターがいつものように動き出す。どうやら新しい酒をつくっているらしい。

「俺、前から不思議だったんだ。親をマフィアに殺されて、天涯孤独になった俺をどうしてあんたが引き取ってくれたのか…」

初めてここに連れてきてくれた日をよく憶えている。

「俺を守りながら、かたきをとってくれてたんだね」

マスターはそれには答えない。ふっと口元で微笑んだだけだ。

「ほらよ、少年。寝付けに飲め」

それは初めて俺がここに来た時、マスターが最初にくれたのと同じ飲み物だった。ホットミルクに少しブランデーを混ぜたもの。確か名前は…。

「大人のホットミルク?」

俺が聞くと、マスターはニヤリとした。

「最高にハードボイルドだろう?」

俺たちは声を出して笑った。アレアレ刑事に教えてやりたいところだ。

「マスター」
「ん?」
「愛してるぜ」

俺は敬礼しながら言った。マスターは低く手を振る。

「なに、ふざけたこと言ってんだ。少年は、早く寝ろ」

…こんな笑いのある生活をくれたあんたを、今度は俺が守るよ。

「はーい」

俺はそう返事をすると、ミルクを一気に飲み干し、『Bar Léon(バー・レオン)』の扉にclose(クローズ)の札をかけに行った。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ リュック・ベッソン「Léon」× SUPERCAR「ROLLIN' ROLLIN'」「Karma」★

「ハードボイルド少年」はもともと別物語に出てくる小説だったんですが、名前だけしか決めてなくて。今回せっかくなので中身を書いてみました。全然ハードボイルドじゃないかもですが…それに設定とか超アレだったし。

① リュック・ベッソン「Léon」
http://www.youtube.com/watch?v=iq4vPEU3vGo
私は頭で考えないで心の赴くままに書いてしまうので、終盤間際までどんな物語になるかわからないのですが、もろコレの影響を受けてましたね。最初ナタリーの名前は違うものだったのですが、こうなったらとことんコレでいっちゃう?と思い、ヒロインを演じた女優(ナタリーポートマン好きです)さんの名前を借りちゃいました。大好きな映画です。ちなみに作中に出てくる「3部作のハードボイルド映画」は「ゴッドファーザー」です。でも、私の中で「レオン」の方がハードボイルドって感じでそっち押しになったのかな?(確かに「ゴッドファーザー」は私にはちょっと難しかった…)

② SUPERCAR
「ROLLIN' ROLLIN'」
http://www.youtube.com/watch?v=YG4pQxolSAY
「Karma」
http://www.youtube.com/watch?v=7d43uHGFJ2s
「YUMEGIWA LAST BOY 」
http://www.youtube.com/watch?v=dVVRG_MJ8W8
音楽をききながら良く書いてるのですが、今回はルパンの銭形警部みたいな人が出てきたので、最初はルパンのJAZZをきいてました。でも、あまり筆が進まさなくて、困ったときの彼らが登場。私の青春ナンバーと言えば、彼らなんです。(度々紹介に出てきちゃうかもですが)初期のノイズがかったギターサウンドも後期の電子音のきいたそれもどちらも心地よくて。作中の「愛してるぜ」はたぶん映画「ピンポン」で夏木マリさんの言うセリフから。SUPERCARつながりで蘇ったのかもしれません。

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 ――とにかく、あそこに行かなくてはいけない!

自分の中で抑えられない何かがそう語る。このところ激しい頭痛と眩暈に襲われることが、度重なっていた。理由はわかっている。その何かのせいなのだ。
私とは違う意志が、私の意識の中で、強く訴えている。どうやら他人の意志が私の中に住み着いてしまったみたいなのだ。しかし一体、誰の意志なのだろう。

 ――会わなければならない人がいる!

意志は執拗に私に迫り、焦らせるのだが、当の私はどうすることもできない。会うとは一体、誰に会わなければならないというのだろう。

やがて頭が激しい痛みを伴い始める。眩暈が起こり、私は意識を失ってしまう。
いつもはそこで終わるはずだった。しかし、そのときは違っていた。薄れ行く意識の中で、また違う誰かの声がきこえてきたのだ。

『約束しましょう。またここで必ずお会いしましょう』

男の人の声だった。しかし、ただの男の人の声じゃない。懐かしい大切な男の人の声だった。

『…だから、生き延びてください』

その最後の一言に強い汐のにおいを感じた。情景が少しずつはっきりしてくる。

そこにあるのは、波のざわめきと青さをたたえた海だ。私たちはそれを見渡せる岸壁に立っている。

『わかりました。生き延びて必ずここでお会いします』

涙を含んではいるが、しっかりした女の人の声。これは私…?それとも私に住み着く誰かの声?私―いや、彼女の言葉に男の人は、ほっとしたようだった。その目元は優しい笑みをかたちづくっていた。

私は知っている。

彼女は彼のこの目が好きだった。好きで好きでたまらなくて、本当は手放したくなどなかったのだ。彼女はきっと約束を果たせなかったのだろう。だから、私に助けを求めにきたのかもしれない。

意識が戻るとすぐに、私はその海を目指した。

気がついたら勝手に足が動いていたのだ。普段の私だったら、考えられない行動だった。
私は常に自分のために生きてきたのだから。しかし今、知らない誰かのために、きっとこの世にいないであろう誰かのために、かりたてられている。自分でも理解ができなかった。

計画性もなく行動に移してしまったせいか、その海に辿り着いたのは、すっかり日が傾き始めた頃だった。海を見下ろせた岸壁は、今では古びた灯台がひっそりと建っていた。さすがに高台にあるためか、風が強かった。汐の混じった風が、ずさんに私の髪をかきあげる。
灯台の中に入ると、私以外の客は他に誰もいないようだった。ただ管理人らしいおじいさんが一人、入り口で座って本を読んでいるだけだ。彼は私に気づくと、読みかけの本を閉じ、嬉しそうに目を細め、

「―どうぞ、ごゆっくり」

と微笑んだ。自分の足音を確認するかのように階段を上り、展望室に向かった。

着いたそこは、やはり人気はなく、閑散とした空気に満ちていた。私はガラス越しに見える海を眺めやった。目の前に広がるのは、夕日に染まるオレンジ色の哀しげな海。

「着いたよ」

私の言葉に彼女は何の反応も示さなかった。ただ私と一緒に静かな気持ちで海の彼方を見つめていた。もしかしたら、彼と一緒に過ごした日々をもう一度思い描いているのかもしれなかった。

時は流れすぎていた。

今日という日も、あの夕日が姿を消せば、夜というただの無償な闇をもたらす。間もなくここは、全てを終えてしまった淋しい果てとなる。私は彼女の気がすむまで、ここにいることにした。それしか、私にはできなかったから。夕日はやがて海の中へとろけるように消えていった。展望室の蛍光灯がつき、その光りが弱々しく私たちを照らしていた。

「申し訳ありませんが、そろそろ閉館になります」

いつの間にか管理人のおじいさんが、私の後ろに立っていた。少し腰が曲がってはいるが、白くて長い立派な髭や身のこなしが彼の品の良さをうかがわせた。

「すみません」

私は頭を下げて、立ち去ろうとした。すると彼は私を引きとめ、こう言った。

「本当はいたいだけいて下さって構わないんですよ。ただあなたはどこか哀しそうだったので、気になって声をかけてしまってね」

どうやら彼女と一緒に私は、自分の顔を思い詰めたものにしていたらしい。何をそこまでと、つい可笑しくなって笑ってしまった。すると、おじいさんは不思議そうに私を眺めている。その顔を見ていたら、ふと話してみようか、という気持ちになった。

「遠い昔、ここで再会を約束した人がいたんです」

彼は優しく私を見つめていた。

「結局、私が約束を果たせなかったんですけど…」
「―私もですよ」

私の後を引き継ぐかのように、おじいさんは続けた。

「私も遠い昔、ここで再会を約束したんですよ。戦争で死別した恋人とね」

私は彼を見つめた。

「兵として戦地に赴かなければならない前日に、私は彼女に言いました。生き延びて必ずここで会おう、と。彼女も頷き、約束すると言ってくれました。しかし、戦争が終わり、私が戻ってきたときには、彼女はもうこの世にいなかった。空襲に巻き込まれ、亡くなったと訊きました」

おじいさんは淋しそうに微笑んだ。その目元の優しいかたちに見覚えがあった。

「…会いたかったの。ずっとずっと、あなたに会いたくてたまらなかった」

私ではない彼女の声が今、私の体を使って話し始めていた。

「でも、そうできなくなってしまいました。私の体はもうなくなってしまったから」

彼は戸惑いを隠せない表情で、私を見つめていた。

「…君は一体?君は…彼女、なのかい?」

私―彼女は―頷いた。

「…まさか…こんなことが」

彼はそれ以上、言葉を続けられなかった。大きく見開いた目には、いつしか涙がにじんでいた。そして、おそるおそる自分の手を伸ばし、私の手に触れた。

それは、とてもとても熱い手だった。
泣きたくなってしまうくらい熱い手をしていた。

そのとき、私は彼を真剣に愛していたのだと改めて知った。その思いが、私の体の隅々まで、かけめぐる。

「会えてよかった」

その声を合図に、すうっと体から、彼女の意志が消え去っていくのがわかった。私の役目は終わったのだ。

「…行ってしまったんだね」

おじいさんが私の手を静かに離した。涙はすでに渇き、調子を取り戻しているようだった。

「あなたには迷惑をかけましたね。でも、ありがとう。生きているうちに、ここで会うことができて嬉しかった」

それは満ち足りた幸福な笑顔だった。

「丁度あなたぐらいの年だったんですよ。私たちが約束をし、別れたのは」

だから、彼女は私の中に現れたのだろうか…?

「あの時代はね、皆が何をするにしても、全てが命がけだった。生きることも。人を愛することも」

そう言われてやっと腑に落ちたような気がした。私がなぜここまで来たのか。

「私はまだ命がけで誰かを愛したことなんてない…」

だから、強く思い続けていた彼女に惹かれ、ここまでやって来たのだ。いや、それだけではないのだろう。彼女が私の中に来たのも、彼女が私の元に押しかけてきたのではなく、欠けている私が、彼女を呼び寄せてしまったのではないか…?

私は自分のためだけに生きてしまってきたから。傷つくことをずっと避けてきたから。
忘れられない恋愛も、真剣な思いも、熱い手も、私には何もなかった。自分がいる―ただ、それだけだったから。

「まだ、あなたは若い。これからきっと必ずあるはずですよ」

おじいさんの言葉が胸にしみた。私もそう信じたかった。

「…だから、必死に生きてください。ここで約束しましょう」

彼の言葉に思わず笑ってしまった。おじいさんも安心したように微笑んだ。
その目元はあの優しい笑みをかたちづくっている。私もいつかそれを自ら見つけ、愛することができることを願う。

 彼に別れを告げて、私は灯台を後にした。

外はただ真っ暗な夜が広がっていた。その中で凛とした輝きを放つもの―幾千もの小さな星を私は見つめた。そうだ。今日は七月七日。…七夕だった。

 そしてその時、始めて気がついた。
夜の中で星々は、決して彷徨っているわけではない。力強く導くものなのだ。

 確かな一つの星が夜空を走る。
私はそれを見届けると、深呼吸をして、笑顔で自分の家を目指して歩き始めた。


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。
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★ある女優さんの言葉 × 恩田陸「イサオ・オサリヴァンを探して」★

「織姫と彦星 」は確か20歳くらいに書いたような…。

① ある女優さんの言葉
ある女優さん(名前は忘れました…)の人生を振りかえるという特集番組が小さい頃にやっていて、戦争時代の話になり、司会者が「あの時代はやはり思い出すのも辛いですよね?」と女優さんにきかれたんです。でも、女優さんは「あの時代は戦争で大変だったけど、いい時代でしたよ」と話されていて。司会者も(私も)驚いていると、彼女はにっこりとして「あの時代はみんな必死に生きていたから」と続けられたんです。今まで戦争時代のお話をきくと、みんな涙ぐんだり、口を噤んだりしてる人が多かったから、私には大きな衝撃でした。(戦争を美化していたり、決して肯定しているわけではありません)「あなたは今、必死に生きてる?」って逆に問いかけられたような…。たぶんそれがずっと忘れられなくて、こういう物語が生まれてきたんじゃないかと。…女優さんの名前を覚えてないのが残念です。

② 恩田陸「イサオ・オサリヴァンを探して」(「図書室の海」に収録)
http://www.amazon.co.jp/dp/4101234167
文章の感じから、たぶん恩田陸さんにハマっていた時に書いたような気がする…。彼女の短編集で一番好きなのは「図書室の海」。その中でも、忘れられないのが、この「イサオ・オサリヴァンを探して」。ある戦争時代を生きたイサオ・オサリヴァンという恐ろしい謎の人物を主人公が追いかけていくという話なんですけど、とにかく暗くてこわい。ホラー的な怖さだけでなく、人間の心の闇に触れていく感じの怖さが凄くて、鳥肌が立った記憶があります…。続編が出るという話もあったようですが、どうなんでしょうか。続編と言えば、私が恩田さんでずっと続編を待っている別作品がありまして。「理瀬シリーズ」と呼ばれているものなんですけど、黎二が実は生きているのかずっーと気になっています。恩田さん、早く書いてくれないかなあ。校長先生とか好きだったのに…キャラが濃くて。

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きれいな弧を描いた。

それは僕が唯一、誰よりも高く、大きく、空に手を伸ばせる瞬間だった。
 
            *

「ムカイくーん!」

コンビニのレジ袋を下げたタナベが僕を呼んだ。

「また来たの、お前?」

軽く汗ばんでいた僕は、シャツの襟元のボタンを一つ外した。短い梅雨がさっさと明けて、七月に入り、気温も少しずつ上昇中らしい。

「来ちゃ悪いー?いいじゃん、どうせ『ひとりバスケ』でしょー?」
「何、その淋しいひとり遊びみたいな呼び名…?」
「だって、そうじゃーん」
「ちげー」

放課後、高校の近くにある公園のバスケットコートで、僕は一人でシュート練習をしていた。ある日、そこをたまたま下校中に通りかかったクラスメートのタナベに見つかってしまった。

「あれー、ムカイ君じゃん。何してんのー?」
「え?」

高校に入学して、ふた月くらい経った頃で、僕はまだクラスメートの顔を全然覚えていなかった。だから…、

「ごめん、誰だっけ?」
「超失礼ー!」

と、かなりひどい挨拶を交わした。でも、タナベは笑って、

「まあ、私たちの席、遠く離れてるしね。それにムカイ君、いつも速攻帰宅モードだったし、しょうがないかー」

と、フォローしてくれた。見た目が派手なのと不躾な口調でまわりに勘違いされそうだけど(お互い様か)、どうやら根はいいやつらしい。それから、彼女は何が面白いのか、ちょくちょくのぞきにくるようになったのだ。

「はい、ガリガリ君」

僕らはコート脇のベンチに座った。初めて公園で会った時と同じように、タナベは定番のアイスを僕に渡してくれた。

「またこれか?」
「いいじゃん。好きなんだもーん、ガリガリ君」

彼女はべりっとその袋を破くと、青いソーダ味のアイスを取り出した。そして、いただきますのかわりに、

「ガリガリ君、考えた人、天才ー!」

と、お菓子会社に謎の敬意をしめし、美味しそうに食べ始めるのだ。変な子…いや、面白い子だった。

僕も食べる。アイスの爽やかな味が舌によく馴染んでうまかった。

「ムカイ君、どうしてバスケ部、入んないの?」

いきなりタナベが聞いてきた。

「何度も言ってんじゃん。タイミングを逃しただけだよ」
「ふうん。うまいのに、勿体なーい」
「うまいって…、お前、バスケよく知らないだろう?」
「知らないけど、見てればわかるよー」

彼女はゴールポスト指さした。

「あそこにボールが入れば、いいんでしょー?」
「まあ、そうだけど」
「ムカイ君、バンバン決めてんじゃん」

でも、それじゃダメなんだ。

「しかも、かなり遠くからボール投げてさー、スパッと決めるよね」
「スリーポイントな」
「いいよねー、あれ。決めた時、超気持ち良さそうー」

試合中に決めたら、もっと気持ちいいんだぜ。

「入んなよ、バスケ部。中学でもやってたんでしょー?」
「まあね」
「じゃあ、入ればいいのに。勿体ないなー」

色々事情があるんですよ…。

「あ!」
「え、何?」

タナベが急に大声を出した。隣りをみると、彼女はニンマリして、

「また、当たりだ!」

と、きれいに完食したガリガリ君の棒を僕の顔に近づけた。ふたりでこうして並んで食べるようになってから彼女は連勝中なのだ。

「お前にはきっと、ガリガリ君の神が降臨してるな」
「それ、いいねー。神、降臨!ムカイくんは、またはずれー?ざんねーん!」

きっと、あれから運とツキに見放されてるんだと思う。

「また、次があるよー」

と、タナベ。
俺ら、一体どんだけガリガリ君、食うの?とは、喜んでいる彼女にさすがに言えなかった。


 怪我をしたのは中三の冬だった。

受験の息抜きにと部活のメンツと久しぶりに集まってやったお遊びのバスケ試合。そこで膝をやった。ゴールにうまく収まらなかったボールを拾おうと飛んだら、何人かと重なった。そこで下敷きになった。一番下に押しつぶされたっていうね。…何やってんの、俺。

致命傷ではなかったけど、リハビリは必要で病院通いが始まった。親は受験があったから、手じゃなくて良かったとこぼしていた。別にスポーツ推薦をもらうほど優秀じゃなかったけど、俺の中でバスケはかなりでかかったから、なんだかカチンときた。…本当何やってんの、俺。

高校には無事受かった。親も納得するような進学校でバスケもそこそこ強いところに。自分で選んだ場所だ。入学してからも放課後はしばらく通院が続き、ようやくリハビリが終わったころ、部活に入部するシーズンはとうに過ぎていた。

仮入部だけでもできたはずなのに、どうしてだろう。僕はそれをしなかった。自分でもよくわからなかった。

「はい、ガリガリ君」

タナベは懲りずに何度もやってきた。

「ムカイ君、どうしてバスケ部に入んないの?」

そのセリフも繰り返し、繰り返し、続けてくれた。

「あ!また、当たった!」

神すぎる発言も何度も。何度も。

「ムカイ君、ざんねーん!」

なんかそこまで当たりすぎると、もう陰謀めいてねえ?

「なんかすごーい。ここまで当たりすぎると逆にこわいよねー」

…ですよね。そうですよね。そう思いますよね。

「今日は神様からムカイ君にプレゼントしてあげるねー」

そういうとタナベは僕に自分のガリガリ君の当たった棒を渡した。僕はそれを受け取り、ため息をついた。

『当たり』

何がだよ…。俺の何が『当たり』なの?さっぱりわかんないんだけど…!

「タナベはさー、よくここに来るじゃん?どうして?」

口から転げ出た言葉は、どうしようもなく尖っていた。

「『ひとりバスケ』してる俺が、かわいそうだった?」

最悪だ。でも、止まらない。

「もう俺に構わないでくれよ、頼むから」

僕は俯いた。タナベがサッと立ち上がる気配がした。そのまま帰るかと思った。でも、違った。

「ムカイ君、見てて!」

彼女はバスケットボールを拾い、スリーポイントラインに立つ。そして…

「アチョーーーーーーーーーッ!」

変な奇声を発し、ボールを投げた。前にバスケ初心者のタナベに漫画を貸したことがある。あれはその某バスケ漫画のヒーローがシュートを決める時の雄叫びじゃ…??

なんだかメチャクチャなフォームだった。あんなんで入るわけがないだろうと思った。案の定、やっぱりボールはゴールリングに当たって豪快に外れた。わかっていただろうに、タナベは深くうなだれた。

「やっぱりダメだー。ひどいよー、ガリガリ君のせいだよー」

彼女の呟きに僕は首を捻った。

「私の運を根こそぎ持ってっちゃってさ…」

……運の問題…?

タナベは顔を上げると、キッと僕を睨んだ。

「私ねー、前から知ってたんだ、本当は。ムカイ君のこと。高校に入る前から」
「え?」

いきなり話題がかわり、僕は戸惑った。何の話をしてるんだ、この子は。

「リハビリに来てたでしょう、病院に?」
「どうしてそれを…」
「私もあの病院にいたの。気づかなかったと思うけど」

タナベの目は真剣だった。僕はただ驚いていた。

「私もちょっとリハビリが必要な怪我しててさー。陸上やってたんだけどね。私の場合、致命傷でさ。スポーツ推薦はなくなるし、かなりショックだった…。そんな時にね、見つけたんだよね。いつもリハビリ開始時間より早くきてるのに、土壇場で逃げ腰な男の子をさー」

げっ。

「確かにリハビリってきついし、逃げ出したい気持ちはよくわかるのー。でも、それだけじゃない気がして。なんでだろう?って、ずっと気になってたー。その子と同じ高校だって知って、ますます知りたくなったんだー」

タナベは困ったように笑って言った。

「で、『ひとりバスケ』してるのを見て、ようやくわかった」

次に、困ったように笑うのは僕の番だった。だから、彼女に言わせず、僕は自ら告白した。

「…みんなと、やるのがこわくなったんだ」

怪我をしたとき、膝をやられた。それだけじゃなかった。心もやられていた。みんなに押しつぶされたことから、恐怖心が芽生えたのだ。

「もうバスケできるのに何やってんだろう。俺、カッコ悪いよな?」

タナベは一瞬考えてから言った。

「う~ん、わかんなーい」

僕は苦笑した。タナベは続けた。

「そう言ってるのは確かにカッコ悪いかもしれない。でもムカイ君は、まだ何もしてないじゃない?」

僕はタナベを見た。タナベはニンマリ笑った。

「やれること、全部やりに行こうよー」
 

            *



 夏休み。

バスケ部で練習に励む僕がいた。体育館で筋トレをする。なまってた体が少しずつ昔のリズムを取り戻していく。ふと笛が鳴った。

「はーい、集まって下さーい」

マネージャーが集合をかける。

「差し入れでーす」

大きなレジ袋の中身は、大量のガリガリ君だ。部員全員で不満をもらす。

「またかよー」
「せめて味、変えてー。全部ソーダじゃん」
「どんだけ好きなの、マネージャー」

それらを、あの笑顔でみんなにこたえるタナベがいた。なんだかんだと、彼女はそこそこかわいいから、みんな結局許しちゃうっていうね。

僕らはみんなでガリガリ君を食べた。なんだか夏の風物詩になる勢いだな。

「ムカイ君、またはずれー?」

タナベが僕の隣に座る。場所が変わって体育館の床の上でも、僕らは並んで座っていた。

「うん、はずれだね。タナベは?」
「ジャーン!私もはずれでーす」

でも、タナベは喜んでいた。

「なんかあれ以来、不発でさー。神様もどっかにいっちゃたのかなー?」

彼女もあの日、何かが変わるきっかけを得たのかもしれない。

「ガリガリ君の陰謀だよ、きっと」
「それ、いいねー!ガリガリ君の陰謀かー。そのせいでムカイ君は永久にでないんだね、当たりー」

そんなことないぞ。お前は、知らないだけさ。

僕は立ち上がり、スリーポイントラインに立った。

「タナベ、見てて!」

深呼吸して、シュートを打つ。ついでにあの奇声も真似してやった。

僕はタナベに言ってなかった。

本当はタナベに初めて会った日、彼女が僕にくれたガリガリ君は『当たり』だったのだ。

「ちょっとー、まねしないでよー!」

きれいな弧を描いた。

それは僕が唯一、誰よりも高く、大きく、空に手を伸ばせる瞬間だった。



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=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 浅田弘幸「I'll~アイル~」 × GOING UNDER GROUND「Kodama」 ★

そろそろスポーツものとかどうかな?と思い、UPする3・4時間くらい前に音楽を聞きながら書いてみました。まだ高校生の青春モノ書けるかな?と内心びくびくでした。

① 浅田弘幸 「I'll~アイル~」
http://www.amazon.co.jp/Ill%E3%80%9C%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%80%9C-1-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E3%81%82-61-6/dp/4086192616/ref=sr_1_8?s=books&ie=UTF8&qid=1373294629&sr=1-8&keywords=%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%80%80%E6%96%87%E5%BA%AB
主人公が彼女に貸した漫画がコレ。バスケ漫画と言えば某漫画が有名ですが、私はこれ派。同時収録されている「-#(マイナスナンバー)」というのがまたいいんですよ。 「I'll~アイル~」登場人物たちの過去が知れるスピンオフシリーズ。短編の描き方を学んだような気がする。中でも「桜の色」は何度も読み返しました!

②  GOING UNDER GROUND「Kodama」
http://www.youtube.com/watch?v=XKSmDtTyZnQ
「I’ll」のイメージアルバムで知ったGOING UNDER GROUND。今回は「Kodama」を聞いてましたが、「サンセット」も好き。
GOING UNDER GROUND「サンセット」
http://nicogame.info/watch/sm2489917

③ 赤城乳業株式会社「ガリガリ君」
http://www.garigarikun.jp/
私も彼女じゃないですけど、ソーダが一番!彼女のモデルは高校時代の親友みたいですね、どうやら。

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