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パスワード入力が必要と表示される長編はアルファポリス様限定公開ですので、ここでは閲覧できません。お手数ですが、アルファポリス様(無料)をご利用ください。予約投稿中の作品もあり。詳細は下記。
【アルファポリス様限定公開】  長編作品紹介
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-256.html
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↓↓【第304夜】 多分、風。  ジャンル:家族 ↓↓
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ヴァージンロードの途中で、ウエディングドレスを着た花嫁はその身を翻した。


突然の出来事に、新郎は唖然、神父は茫然、招待客は騒然となった。


しかし、そんなことを気にしている場合ではない。


花嫁の瞳には、ただ一人しか映っていなかったのだ―。


彼女は、走る。 


走って走って、その人のもとへ向かう。 


ウエディングドレスの裾を持ち上げ、颯爽と駆けだす花嫁の姿は軽やかで、華やかで、とても美しかった。 


多分、風。 …いや、それよりも速かったかもしれない。


チャペルを出て、道行く人の目をひきながら、彼女は走った。


花嫁のことを心から愛してやまない人のもとへ―。


そして、叫んだ。


「待って!行かないで!私のことが大好きなら!!」


自分の思いを言葉に、風に、のせる―。


「ヴァージンロードの途中で『娘は誰にもやれん!こんなの歩いてられるか!』とか言って逃げないで!戻ってきて、お父さーん!!」




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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ サカナクション『多分、風。』 × CM『資生堂 ANESSA 走る、真木よう子』 ★ 

気付けば、7~11月とショートショートをさっぱりUPしていませんでした。「これじゃ、いかん!!」と思い、月末ギリギリで速攻ショートショートを書きましたよ。超短かくて、ごめんなさい。今、私は読書熱が高くて高くて…。たまりにたまっている本を誠意読破中です!あ、ネタ帳はこっそり更新中ですので。
【ネタバレ注意】自作物語のネタ帳(プロット?) 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-382.html


① サカナクション『多分、風。』
https://www.youtube.com/watch?v=8lx0vLTH_yg
私の中でサカナクションの音楽は「或るアプレ記者~」の創作方面に頭がいってしまいがちなんですが、この曲と「新宝島」はそうはそうならなかったみたいです。メロディがどこかサカナクション「ユリイカ」に似ているような気がするけど、これはこれで好きだ。

② CM『資生堂 ANESSA 走る、真木よう子』
CMhttps://www.youtube.com/watch?v=es1OFoOh7y4
メイキングhttps://www.youtube.com/watch?v=T2KaFqP09sk
私の書いた物語はちょっとふざけてますが、資生堂さん、次はこんな感じのCM、いかがでしょうか?ウエディングドレスを着て走る真木よう子さんを見てみたいです!日焼けどめじゃなくても、崩れないファンデーションとかでも、この内容ならいけるんじゃないでしょうか?お父さん役を平泉成さんあたりにお願いして…なーんて。


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あの人が、帰ってくる。

   *

少し古びた日本家屋の縁側で、祖母は美味しそうな胡瓜(きゅうり)に何かをぷすぷすとさしていた。よく見ると、短く切った割り箸だった。

「おばあちゃん、何してるの?食べ物で遊んじゃいけないんだよ」

小学生の私が腰に手をあてて注意をすると、祖母は目を丸くした。

「おや、佳乃子(かのこ)は精霊馬を知らないのかい?」
「え、何?その…ショショッショ…?」

4本足の生えた胡瓜は、まるで可愛らしい生き物のようだった。祖母は笑った。

「ショショッショじゃないさ。精霊馬(しょうりょううま)だよ」

ぽかんとする私に祖母は教えてくれた。

「お盆だからね、死んだ家族やご先祖さまがあの世からこっちに帰ってくるの。そのための乗り物を作ってるのさ」
「胡瓜で?」
「そうよ~。胡瓜はお馬さんになる凄い野菜なのよ」

私は感心した。知らなかった!胡瓜、凄いじゃん!!

「じゃあ、おじいちゃんも、これに乗って帰ってくるの?」

亡くなった祖父を思い出して言うと、祖母はふふふっと笑った。

「そうよ~。おばあちゃんに会いたくてねえ、これに乗って早く帰ってきちゃうかもね」
「ふうん。でも、恥ずかしがり屋のおじいちゃんが、そう簡単に胡瓜にまたがるかなあ」

祖母はまた、ふふふと笑った。

「迎える時は早く帰ってきてほしいから胡瓜で馬を、送る時はゆっくり帰ってほしいから茄子(なす)で牛を作るのよ」
「へ~」
「佳乃子も作る?」
「うん、作る!」

自分の体温よりもひんやりした胡瓜に、祖母の真似をして、ぷすぷすと割り箸をさす。

「あら~、佳乃子。上手いじゃないの」

祖母に褒められ、私は得意げに胸をそらした。だから、気がゆるんだのかもしれない。

「…お母さんも、これに乗って帰ってこないかな?」

私の問いに、祖母は少し困った顔をした。
それを見なかったことにしたくて、そんなことを言ってしまった自分をごまかしたくて、私は新しい胡瓜に手を伸ばした。

「曾おじいちゃんたちの分もつくるね」

ぷすぷす。ぷすぷす。

「たくさん作るね!」

私の母はいない。ただ、いない。お盆になっても、帰って来ない。私たちを置いて、家を出ていったきりだ。

「迎え火、たこうかね」

祖母の声に顔を上げた。いつの間に、日が暮れていたようだ。
門口で苧殻(おがら)というのをたいた。小さな火が儚い時間をともす。見つめていると、なんだか不安になってきた。

「おじいちゃん、うちに来るの久しぶりで道に迷ったりしないかな?大丈夫かな?」

祖母は自信をもって言った。

「大丈夫!おじいちゃんはおばあちゃん、目指してまっしぐらよ~」
「まっしぐらって、なんかネコ缶のCMみたい」

祖母はふふふと笑った。彼女のしわしわの手が私の手と重なった。

「おばあちゃんも佳乃子、目指してましっぐらよ。いつもいつもまっしぐらよ~」

そのあたたかさに胸がいっぱいになる。返事ができず、一生懸命、手を握り返した。

「ずっと佳乃子と一緒に精霊馬を作らないといけないね~。佳乃子、おばあちゃんは長生きするよ!」

そんな祖母のふふふ笑いが、私は大好きだった。

   *

あの人が、帰ってくる。

古びた日本家屋の縁側で、私は美味しそうな胡瓜に短く切った割り箸をぷすぷすとさしていた。

「佳乃子、何してるの?食べ物で遊んじゃだめよ」

母が腰に手をあてて注意をしたの見て、私は目を丸くした。

「え、お母さんは精霊馬を知らないの?」
「え、何?その…ショショッショ…?」

ぽかんとする母に私は教えた。

「お盆だからね、死んだ家族やご先祖さまがあの世からこっちに帰ってくるの。そのための乗り物を作ってるんだよ」
「あ~。そういうの昔やったわ、おばあちゃんと」
「胡瓜はお馬さんになる凄い野菜なのよ~って、おばあちゃん言ってなかった?」
「言ってた言ってた。小さかったせいか、胡瓜のやつ、実は凄いんだなってえらく感心したもんよ」

う~ん、母子(おやこ)の考えることは似てるのかもしれないよ、おばあちゃん。

「佳乃子、何か言った?」
「別にー」

自由奔放で何かと家族を振り回す母だけど、祖母の死に際にはきっちり戻ってきてくれた。恨みや辛みが無いわけではないけど、祖母を看取ってくれたことで、どこか大きく救われたような気がした。

「じゃあ、おばあちゃんも、これに乗って帰ってくるのかしら?」

亡くなった祖母を思い出して母が言うと、待ってたように私はふふふっと笑った。

「そうよ~。私に会いたくてねえ、これに乗ってまっしぐらなんだから。早く帰ってきちゃうかもね~」
「ふうん。まっしぐらって、なんかネコ缶のCMみたいね」

もう少ししたら、夏の日が暮れる。小さな火が儚い時間をともすだろう。

―ふふふ。おばあちゃんも佳乃子、目指してましっぐらよ。いつもいつもまっしぐらよ~―

「だから、お母さん。一緒に精霊馬を作って。一緒に迎え火をたいて。ふたり一緒なら、きっともっと早く…」


あの人が、帰ってくる。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 安藤裕子 『 歩く』 ★
https://www.youtube.com/watch?v=3S_oylpESRk&list=PLCFD26E4FA264F3A7
初めて聞いたとき、絶対これにあうような物語を書きたいと思いました。今回久しぶりに聞くまでそのことをすっかり忘れていたけど。結局は自己満足でしかないけど。書けて良かった~。よし、200まで、あと59!


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受験で思い出す母上様の逸話がある。

あれは忘れもしない私の第一志望大学受験日、前夜のことであった。

「眠れない…。まったくもって眠れない…」

あの晩、私は布団の中で、何度も何回転も寝返りをうっていた。

今思うと、明日は受験というのにさっぱり眠れない自分に焦り、苛立ち、多大なる不安を抱え、

「眠れない!…いかんぞ、これは!いかんいかん、甚だ遺憾…!!」

…たぶんプチパニックに陥っていたのだろう。

そこで私は定番だが、とりあえず羊を数えることにしたのである。

(羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹…)

しかし想像上の彼らは滑ったり、転んだり、なぜか崖から落っこちたりしている。

(…羊のやつめ、喧嘩を売りよって…)

私は布団の中で思わず歯ぎしりをしたが、ふと思い直した。

(…待てよ。別に羊でなくてもいいのではないか?羊の部分を他のものに変えれば、案外いけるかもしれん)

私は妙案に手を打った。例えば、その部分を羊つながりでメリーさんに変えてみてはどうだろう?

思い立ったら吉日。命あっての物種(特に意味なし)。私は早速実行してみた。

(メリーさんが1匹、メリーさんが2匹、メリーさんが3匹…)

そして、ふとまた思い直した。

(…待てよ。メリーさんは人間ではなかったか…?)

愚かな自分の間違いに気づき、私は数え直した。

(メリーさんが1人、メリーさんが2人、メリーさんが3人…)

順調にメリーさんの数が増えてきたところで、どうも悪寒がし始めた。これはおかしい…と思った。

その時だ。

『…私、メリーさん。今、あなたの布団の中にいるの…』

想像上のメリーさんが突如ホラー化(都市伝説化)したのである。

「ひいいいいいいいいいーーーーーーーー!!!!!!」

真夜中に私は絶叫し、飛び起きたのは言うまでもない。

「ちょっと、一体どうしたの!?」

私の部屋に、何事かと母上様が駆け込んできた。

「…メリーさんが!メリーさんが!変身!!…布団に!!」

意味不明な私の発言に取り乱すこともなく、母上様はヤレヤレとため息をついた。

「…眠れないのね?」

私はうなだれた。

「ちょっと待ってなさい」

そういうと、母上様はスタコラサッサと行ってしまった。…と思いきや、すぐまた戻ってきた。

その手に何やらお持ちのようである。

「まさかそれは…!?」

私は目を疑った。

「黙りなさい!これでぐっすりバッチリです!」

それは梅酒缶(容量:350ml、アルコール分:4%、希望小売価格=消費税別=263円)であった。

「さあ、飲みなさい!!」

母上様は水戸黄門の助さん角さんどちらか(忘却)の言う「控えおろう!この紋所がうんぬん…」のごとく、毅然と言い放った。

私はひれ伏したいような気持ちで、

「は、ははあっ!!」

と、それを受け取り、はんばヤケクソになって一気に飲み干した。

夢の中で、羊たちやメリーさん(多数)とアルプスの少女のような世界で愉快に笑っていた…ような気もする。

気が付けば、朝になっていた。

受験当日、妙にスッキリ晴れやかな気分で大学試験会場に向かった。めでたしめでたし。…と記憶している。

…さてさて時は経ち、母上様と思い出話に花を咲かせる機会があり、なんとなくその話題にふれてみた。

「あら、やだ。そんなことあったかしら?あはは、ごめん。全然覚えてないわ」

ま・じ・で・ー?

かわいい子供になんたる仕打ち!しかしながら受験は見事(なんとか)合格したけども!

この母上様の偉大さたるや、いかに、いかに、これいかに…!!








※ 実話です (やや脚色有)





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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ なんとなく森見登美彦調で × 梅酒  ★

また予告と違くてすみません。早く書き終えたので、こちらを先にUP。もう受験シーズンは過ぎてしまったかもですが…。メリーさんネタは「メリーさんの羊」と都市伝説の「メリーさん」がごっちゃになってしまったのかな。

① 森見登美彦
http://www.youtube.com/watch?v=8e3YIuhxOMk
森見作品は「夜は短し歩けよ乙女」と「四畳半神話大系」しかまだ読んでなく…。独特の文体は私の中で声に出して読みたい日本語、という感じです。知り合いの人に頼んで、電気ブランを手に入れてみんなで飲んだなあ。UPしたのは「四畳半神話大系」みたいですね。

②  梅酒
http://www.choya.co.jp/
受験の思い出です。母って偉大ですね。


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幕が上がる。

彼女の幕が、観客の幕が、そしてきっと私の幕が…。

『誰しも自分の幕引きを決めることなんてできないわ』

昔、まだ子供だった私は彼女の言葉に首をひねった。でも、今ならその意味がわかる。そうかもしれない。結局は自分の死が訪れた時。それが自分の、人生の、幕引きなのだ。

『だから、せめて自分の幕開けくらいは自分で決めたいじゃない?』

ねえ、伯母さん。そのことをあなたはまだ覚えてる?


    *


子供の頃、一度だけ家出をしたことがある。
その時、身内に絶大なる不人気で嫌われ者の伯母のもとへ逃げた。

「私、これから仕事なんだけど?しかも恋人と一緒に暮らしてるんだけど?…それでも押しかける気?」

私はよく伯母がやっていたウインクをまねてみた。

「できてないわよ。両目、閉じてるから。ったく下手すぎ。こうするの!」

すっぴんでも彼女は実に色っぽく片目をつむってみせた。でも、私はへこたれなかった。

「藤子(ふじこ)ちゃ~ん、お願い!!」

伯母の本名は峰藤子(みね ふじこ)という。あの某名作ヒロイン・不二子と漢字は違うけど、見た目は負けてなかった。

「ルパンのまねをしてもだめ!しかも似てなさすぎ!出直しな!」

私はしょんぼり肩を落とした。

「いいじゃん、藤子。一晩くらい。まだ10歳とかそこらだろう?俺は手を出さないよ。ロリコンじゃないんだから」

煙草をふかしながら、部屋の中にいたイケメンのお兄さんが助け船を出してくれた。彼氏には弱い藤子ちゃんはため息をつきながらも中に入れてくれた。イケメンのお兄さんに私は頭を下げた。

「ありがとう、ルパンさん」
「ルパンさん?」
「藤子ちゃんの恋人だから」
「なるほど。えーっとじゃあ…どういたしまして、クラリス」

イケメンのお兄さんは「ハートは盗まないから安心して入りな」と笑って私を招いてくれた。クラリスというのはよくわからなかったけど、とりあえず私も笑い返した。藤子ちゃんが不機嫌だったのも最初だけで、彼女はすぐに仕事の準備に取り掛かった。

「姉さんとまた喧嘩でもしたの?」

彼女は今、ドレッサーとにらめっこしている。

「うん、教育方針の違いで」
「教育方針って。あんたいくつよ?まだガキんちょでしょう?」
「11歳。来年中学生!」
「ほら、ムキになった。立派なガキんちょ!」

鏡に映る藤子ちゃんの顔がみるみる変身する。細い筆を駆使し、画家みたいに多彩な絵を描いていく。お化粧って魔法みたい。私もいつかするのかな?自分のコンプレックスである細い目も、藤子ちゃんと同じ血をひいてるなら、ちょっとは美人になるかな?

「で、教育方針って?」

藤子ちゃんの声に現実に戻される。

「お母さんは中学受験をさせたがってるの。有名私立に行かせたいんだって。大学までしっかりあるところ」
「姉さんは優等生だった自分が大学受験に失敗したから、それが怖いのよ。あんたにはそうなってほしくないの」
「…でも、私はお母さんじゃないよ」

藤子ちゃんは鏡越しに笑った。重たそうな睫毛がキレイに震えている。

「そうよ。あんたは姉さんじゃない。私でもない。あんたはあんた」
「え?」
「さて、メイク終了!出陣しますか。ルパンも今日は一緒に店に出勤で、ここには誰もいないわよ。どうすんの?ここでじっとしてるつもり?」

どうしよう。逃げられればそれで良かったから、後のことはさっぱり考えてなかった。

「なら、一緒に来なさい。社会科見学にいきましょう、大人のね」

その完璧なウインクに、私はただ黙って頷いた。

    *

幕が上がる。

彼女の幕が、観客の幕が、そしてきっと私の幕が…。

“ The dress is Chanel ”
(ドレスはシャネル)

“ The shoes YSL ”
(靴はイヴ・サンローラン)

“ The bag is Dior, Agent Provocateaur ”
(バックはディオール 下着はアジャン・プロボカトゥール)


彼女のショーに誰もが魅了されていた。

「すごいだろう?藤子はこの店のメインをはってるんだ。歌も踊りも抜群!」

この店でバーテンダーをしているルパンさんが言った。カウンターの中に隠れ、私はこっそり舞台を眺めていた。

「…親戚中が伯母さんは夜のいかがわしいお店で働いてるっていってた…」
「まあ、そう思っちゃう人も少なくはないだろうね。でも、ここは別に裸になったりはしない。そういうところとは違う。実際見た、きみならわかるだろう?」

金髪のボブのウィッグをつけ、下着のような露出の高い派手な衣装。甘い笑顔を見せつけて全身で歌って踊る藤子ちゃんに大きな歓声が上がる。ライトは常に彼女に向けられ、それを眺める観客は男女を問わず、彼女に首ったけみたいだった。

“ My address today, L.A. by the way ”
(ちなみにきょうのアドレスはLA)

“ Above Sunset Strip, the Hills all the way ”
(サンセット通り ハリウッドヒルズ)

“ My rings are by Webster, it makes their heads twirl ”
(指輪は驚きのウェブスター)

“ They all say,'darling, what did you do for those pearls?'”
(誰もが言うわ。どんな色仕掛けを使ったの?って)


店内は異様な熱気に包まれていた。ただ、お酒のせいでこうなっているわけじゃない。藤子ちゃんの創り出す世界にみんな酔いしれているのだ。

「すごい…」

そう呟いた私に、ルパンさんは嬉しそうに微笑んだ。

「そう。すごいんだ、藤子は」

私は隠れるのを忘れ、飛び跳ねて彼女に手を振った。

「すごすぎる、いけない娘(こ)なんだ」

そこでタイミングよく、藤子ちゃんの笑顔が弾けた。

“ What?! I am a good girl(何ですって?私はいい娘なんだから)”


    *


「どうだった、大人の社会科見学は?」

化粧を落とした藤子ちゃんが楽屋に私を招いてくれた。

「もう、最高だったー!!」
「それは良かった」

藤子ちゃんも満足そうに微笑んだ。楽屋は舞台に上がった人たちの衣装や靴であふれ、戦場の後みたいに散らかり放題だった。それもなんか良かった。

「藤子さん、お疲れ様でーす」
「お疲れ~」

藤子ちゃん並みにキレイでスタイルのいいお姉さんたち。次々にご帰還のようだ。

「ほら、あんたはここに座んな。社会科見学はまだ続いてるの」

腕をひかれ、椅子に座らされた。それは楽屋内の藤子ちゃん専用のドレッサーだった。

「私が結局あんたに教えられることなんてこれだけ」

そう言って細い筆を取り出すと、目をつぶるように言われた。はじめてのお化粧に胸がドキドキした。

「ここにきた時、オーナーにまず言われたことがあった。あ、オーナーってわかる?」
「…お店の偉い人?」
「よくできました。その人にこう言われたの。『幕引きは自分で決めろ』って」

こんな話を聞くのは初めてだった。親戚の集まりがあってもすぐに帰ってしまう。お年玉も一番すごい金額をくれるのに、「じゃ!」と言って、そそくさと消える。逃げるっていう方が藤子ちゃんには似合うかもしれない。この人もきっと家出をした人間なのだろう。

「なんか納得できなかったのよね。誰しも自分の幕引きを決めることなんてできないわ。だから、せめて自分の幕開けくらいは自分で決めたいじゃない?」

唇に筆先があたり、くすぐったかった。そうこうしているうちに、不意に肩をポンと叩かれた。

「はい、できた。目を開けてごらん」

ゆっくり目を開ける。舞台の幕が上がるような緊張感が走る。

「わあーーー!」

鏡に映っていたのは、私じゃなかった。いや、もしかしたら本当の私だったのかもしれない。

「だから意地でもチャンスをつかんで舞台に立ちたかった。そして、必ずそうできると信じてたわ」
「何でそう思えたの?」

私のお化粧した顔なんてかすむくらい藤子ちゃんの笑顔は眩しかった。

“ What?! I am a good girl ”(何でですって?私はいい娘なんだから)


    *


幕が上がる。

彼女の幕が、観客の幕が、そしてきっと私の幕が…。

『誰しも自分の幕引きを決めることなんてできないわ。だから、せめて自分の幕開けくらいは自分で決めたいじゃない?』

ねえ、伯母さん。そのことをあなたはまだ覚えてる? 忘れているなら、私が教えてあげるわ。


    *


「まさかあんたがあの舞台に立つとは思わなかった」

店のカウンターに座った藤子ちゃんが笑った。少しほうれい線が目立っても、その美しさは変わらない。

「しかもあれ、あんたが初めてみた私のショーの曲でしょう?」
「好きなんだ、『I am a good girl』!で、どうだった?私だって藤子ちゃんに見劣りしなかったでしょう?」

私はよく伯母がやっていたウインクをまねてみた。もう上手にできることを教えてあげる。

「あんたには負けたわ。…わかった。受けるわよ、手術。助かるかもしれないのに、何を自分で幕引こうとしてたんだろう。そう、あんたを見て思ったわ」
「よくできました」
「あの大人の社会科見学が、こんなふうに功を成すとは…」

伯母の体調が悪いと知らせてくれたのは、店の現オーナーであるルパンさんだった。子宮がんになったのに、手術をうけようとしない妻のことをとても心配していた。たぶん伯母は自分の幕引きについて考えていたのだろう。

藤子ちゃんのあのショーを見て以来、舞台の虜になった私は、母には内緒で歌とダンスのレッスンに通い、無事大学進学も果たした。今も授業の合間を縫って、それは続いている。あの時の歌と踊りは、目に、脳裏に、焼き付いて離れない。

だから、私はルパンさんにお願いをした。店の舞台に立たせてほしいこと。藤子ちゃんにそれを見てもらいたいことを。

「でも、少し色気が足りないのよね」
「うるさいな、おばさん!」
「こういう時だけおばさん、いうな」

ふたりとも、お酒は控えている。藤子ちゃんの手術が終わったらっていうのが暗黙の了解。その時のお酒は、ぜひルパンさんに作ってもらいたいことも。

「お母さんも心配してた。年は離れてても、たった一人の妹だから」
「…そう。でも、私はまた姉さんに恨まれるわね。自慢の娘が舞台デビューしたなんてしれたら…」
「もう知ってるよ。今日見に来てたはずだもん。あ、連絡きた。ここに呼んでいい?」

スマホを手に取る私に、藤子ちゃんは目を丸くした。

「はあ?あんた大丈夫なの!?」
「藤子ちゃんじゃないけど、自分の幕開けくらいは自分で決めたいじゃない?」

それから私は自慢のウインクで、こう答えてみせた。

「大丈夫、心配しないで!“ I am a good girl(私はいい娘なんだから)”



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ Steve Antin『Burlesque』 × Christina Aguilera 『I am a good girl』★

クリスティーナ・アギレラ主演の『バーレスク』をやっと見れました。これでアギレラを知った私はそのカッコ良さに大興奮!これは映画館でぜひ見たかった!!感動が大きいとすぐに自分の中で物語が生まれます。清々しい気持ちになれる物語に仕上がっているといいのですが。峰藤子の名前はモンキー・パンチ『ルパン三世』の峰不二子をモデルに。性格は『Burlesque』のCherが演じたクラブのマダムかも。クラリスは『カリオストロの城』より。

① Steve Antin『Burlesque』
http://www.youtube.com/watch?v=dSLvpTODAp0
http://www.youtube.com/watch?v=V4nWAZU9mu8
http://www.youtube.com/watch?v=vMFRI_DPD9s
UPしたのは映画予告と名場面。主人公が意地悪されて音響を止められますが、本領を発揮させてみんなの度肝を抜くところ。それと劇中Cherが誰もいないクラブで一人歌う場面もどうぞ。貫録充分でカッコいいです。

② Christina Aguilera 『I am a good girl』
劇中たくさんの歌や踊りを披露してた彼女ですが、中でもこれが個人的にお気に入り。思わず、リピート再生して書き始めてましたよ、物語を。
http://www.youtube.com/watch?v=YDPR5EoYqOs

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「何でこんなことになったんだ!?」

大みそか、天野(アマノ)家は不測の事態に陥っていた。

「もとはと言えば、マサル兄(にい)がいけなかったんだよ…」
「えー、俺のせい??」

三男スグルの発言に、次男マサルは素っ頓狂な声を上げた。え、何で俺のせいなの!?

「カオルの髪をあんなに笑うからさ」
「髪?」

天野家兄弟を取り仕切る長兄、タケルは変な風に首をひねった。

大学受験を控えた自分が予備校から帰ると、何やら我が家の兄弟が騒がしい。どうしたのか問いただすと、どうも妹のカオルが自分の部屋の押し入れにこもったまま、出てこなくなってしまったという。ちなみにカオルは今年で13歳になる天野家5人兄弟、末の妹である。

「カオルは今日、初めて美容院デビューして髪を切ったんだよ。そしたら、それが…」
「大失敗してんの!マジ、ウケル!もうあれだよ、あれ。ワカメさん!」

思い出したのか、空気の読めないマサルは腹を抱えた。タケルはわけがわからない。
ワカメさん?ワカメさんってなんだ??

「たぶんマサル兄はサ○エさんのワカメちゃんって言いたかったんだと思うよ。カオルはそんなふうに言われて傷ついちゃったんだ」

全てを理解しているスグルが、フォローに入ってくれた。なるほど、某国民的人気アニメのあれか!

「どうやら、それが原因っぽいな」

タケルはため息を漏らした。何もワカメさん…いや、ワカメちゃんはないだろう。(長谷川○子先生、ごめんなさい!)ワカメちゃんは、確かにかわいいが、今流行りの髪型ではない。

「カオルはおかっぱ…いや、カワイイボブに切りたかったのよ。それを女心のわかってないマサルが…」

長女のミチルも、話に加わわる。

「えー、俺だけのせいなの?下手くそな美容院を教えたミチル姉(ねえ)も、悪くね?」
「何よ、私のせいだって言うの?」
「はいはい。そこ、喧嘩しない!今はカオルを押し入れから出すことが先決ね!」

タケルは睨み合う姉と弟の仲裁に入った。頼むから余計な問題をこれ以上、増やさないでくれ。
すでに、3時間以上が経過していた。押し入れで引きこもる妹のカオルはいっこうに出てこなかった。

「そのうち腹減ったとかトイレ行きたくなったとかで、大人しく出てくるんじゃないの?みんな、騒ぎ過ぎだって」

全然反省してないマサルに、みんな唖然とした。元はと言えば、お前のせいだ!

「でも、すでに3時間も経過してるのよ?カオルは本気なのよ!せめてマサル、あんたは謝んな!」

ミチルは女子代表としても、マサルの行いを見過ごすわけにはいかない。というか、教えた美容院の美容師は彼女の年上の恋人だという事情もあるから、なおのこと非難したマサルが許せない。

「そうだね。せめてかたちだけでも、誠意を見せた方がいいよ。マサル兄」

スグルは腕を組みながら言った。それをきいて、タケルは呻った。

「かたちだけでもって…スグル、お前…」

…人としてそれどうよ?
どうも弟のスグルはクールすぎて、人間的な感情がやや欠けているところがある。

「はいはい、わかりましたよ。俺が行きゃいいんでしょう」

マサルは文句をたれながら、カオルの部屋に入ると大きな声で彼女に言った。

「カオル!ワカメさんもよく見りゃ、カワイイゾ☆」

…マサル、それじゃ逆効果だ!

押し入れから、耐え難い泣き声が聞こえてきて、みんないっせいに耳をふさぐはめになった。


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★古事記『天の岩戸』× ドラマ『リーガルハイ』★
★長谷川町子『サザエさん』× うすた京介『すごいよ!!マサルさん』★

古事記の岩戸隠れの話は舞台と設定を置き変えて物語ができそうだな。「ワカメちゃんの友達は中島君じゃなくて堀川君です!」っていう『リーガルハイ』のガッキーかわいいな。『すごいよ!マサル』さんのマサルさんってなんであんなに空気読めない人だったんだろう。うわ!髪、切りすぎた!…というあちこちの思いがMIXされたようです。

①古事記『天の岩戸』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E5%B2%A9%E6%88%B8
②ドラマ『リーガルハイ』
http://www.fujitv.co.jp/legal-high/index.html
③長谷川町子『サザエさん』
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B5%E3%82%B6%E3%82%A8%E3%81%95%E3%82%93-1-%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D-%E7%94%BA%E5%AD%90/dp/4022609516/ref=sr_1_5?s=books&ie=UTF8&qid=1389548490&sr=1-5&keywords=%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D%E7%94%BA%E5%AD%90%E3%80%80%E3%82%B5%E3%82%B6%E3%82%A8%E3%81%95%E3%82%93
④うすた京介『すごいよ!!マサルさん』
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%99%E3%81%94%E3%81%84%E3%82%88-%E3%83%9E%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%81%95%E3%82%93-1-%E3%82%BB%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC%E5%A4%96%E4%BC%9D-%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/dp/408872271X
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今年最後の更新になります!

『ユリ』の物語が哀しげだったので、なんだか明るく終わらせたくて、こんなのを書いてみました。

パッと思いついたヘンテココメディ?の物語ですが気に入って下さると嬉しいです。

※PC環境から離れるので、しばらくコメント等の返信ができないかと思います。すみません。

今年は本当にお世話になりました!

それでは、みなさまよいお正月をお迎えください~^^



妻は、パンが大好きだ。

朝食はトーストだし。弁当を頼むと、もちろんサンドウィッチ。ちょっとしたおやつにも菓子パンはお約束。

好きな家電製品は、ホームベーカリー。家には常に小麦粉(強力粉ってやつらしい)が常備されている。

晩飯も度々パンが登場する。シチューと一緒に…とか。でも、さすがにカレーと一緒にパンが出てきた時は驚いた。そこはライス(もしくはナン)だろう!とツッコミたくなった。…っていうか、ならいっそのことカレーパンで良かったんじゃないか、とも。

彼女はきっと、パンを愛しているのだ。

もう常人の僕が想像できないほどに。もしかしたら、旦那である僕への愛情以上に。

僕は、彼女がそこまでパンにハマる理由がよくわからなかった。

「なんでそんなにパンが好きなの?」

だからある日、何気なく聞いてみた。すると妻は微笑んで、こう教えてくれた。

「焼きたてのパンの香りが好きなの。あれはきっと幸せの香り」

なるほど。それはなんかわかる。だから、僕らの食卓は幸せに満ちているのか、とも。


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中三の一学期の終業式を終え、通知表をもらって家に帰ると、兄が帰省していた。

「おかえりー、弟よ。今回も5段階評価オール4のつまらん通知表だったかい?」

兄のトウジはこの春に名の知れた東京の国立大に合格し、大学近くのアパートで一人暮らしを始めた。海だけしかないこの田舎町より、兄には断然東京の方があっているという気がする。生き方のペースがなじむのだろう。移り気で流行に敏感。口のうまさや弁のたつさまは人をひきつけた。

「兄ちゃん、ミゾグチさんから連絡があったよ。新作の目途はついたかって」

居間のソファーで寝転んでいた兄は、読んでいた新聞に目を戻した。

「弟よ、うまく言っといてくれたんだろう?」
「まあ、適当に…」

兄は新聞越しに、ちらっと僕を見てほくそ笑む。僕は肩を落とした。

「兄ちゃん、いい加減にさー」
「ん?」
「ミゾグチさん、かわいそうじゃん。永遠と待ってるんだよ?」
「何が?」
「何がって…誰かさんの新作だよ」
「誰かさんの新作…ね」

意味ありげに兄は笑うと、新聞を綴じ、すっと腰を上げた。冷蔵庫に向かい、何かを取り出す。

「まあ、食おうぜ」

帰省土産は東京の新宿にある某有名デパートで買ったフルーツゼリーらしい。

「腹が減っては、新作ができぬでござる」
「それを聞いたら武士が泣くわ!」

兄はにやりとした。

「泣いてるのは、ミゾグチさん。だろ?」

兄はずるい。昔からそうだ。何をするにも共犯めかして人を巻き込む。ついでだから、言ってやった。

「それと、ミカさんからも連絡があったよ」
「弟よ、君には一番人気のゼリーをあげよう」
「はいはい、どうも」

ミカさんは兄の高校時代の彼女だ。もしかしたらもう元彼女…かもしれないけど。

「まあ、立派に生きろとは言わないけどさ。せめて人にはもっと誠意をもって…」
「今の言い方、母さんにそっくり!」
「兄ちゃん!」
「こら、トウジ!」

大きな声が重なった。驚いて振り向くと、腰に手をあてた母親が居間の入り口に立っていた。

「あんた、帰ってきたんならまず挨拶でしょう?母さん、店にいるの知ってて、どうしてここで優雅にくつろいでんの?」
「お帰りなさいませ、お母様」
「何が、お帰りなさいませ、お母様よ!しかも言う挨拶が逆でしょう!本当にあんたはー」

母にガミガミ言われながらも、兄は楽しそうだった。母もたぶんそうなのだろう。数か月ぶりの変わらない家族のやりとり。うちはいつもそうだった。何かと派手な兄に僕と母は振り回される。感動の再会とはいえなくとも、これが我が家の団らん風景にはなるのだろうか。

「お母様、すみません。僕、お腹が減りました」

僕は二人に申し訳ないと思いつつ、小さく片手をあげ、自分の意見を述べた。生理現象には勝てないし、ゼリーだけじゃ身がもたん。

「あ、カレー作っといたわ。残ったら、小分けして冷凍保存しておいて。ヒロ、あんたも私を素通りしてるんじゃないわよ。きちんと通知表を見せなさいね!」
「…はい」
「それと、トウジ。ミゾグチさんから何度も連絡があったわよ。あんた、いい加減に腹を決めなさい。高校生の新人作家なんて華々しくデビューしといて、その後、何も書く気なしって何様よ!どっちつかずで迷惑をかけるのが一番よくないわ。いい?よく考えなさいよ!」

母は言うだけいうと、店に戻っていった。僕はちらりと兄を見た。

「だってさ」
「…って俺に言われてもなあ。薬局屋ってのも忙しくて大変そうだねえ」

やれやれと兄はつぶやいた。僕は台所に立って、カレーをあたためる。

「母さんが薬剤師のおかげで、僕も兄ちゃんも、こうして平和にカレーが食えるんじゃん」
「女手一つでよくぞここまでってね。本当に感謝してるよ。大学も行けたしな」
「薬学部じゃないけどね」
「絡むなー、今日のヒロは」
「だって、家を継ぐ気なんて全然ないだろう?兄ちゃんは」
「まあね。だって俺に向いてると思うか?」
「う~ん、そこそこ?」
「うわ、微妙!しかも疑問形だし」
「口はうまいから客商売はそこそこいけそうな気はするけど、信用がないからなあ」
「お前は本当によく人を見てるよ!皮肉かつ的確にな」

してやったり。

「はいはいはいはい。ヒロはいい子だな。鼻につくぐらい」
「おかげさまで」

兄の分のカレーをよそってテーブルに置くと僕は言った。

「薬学部には僕が行くよ。理数系科目、嫌いじゃないし」

兄は二人分のスプーンを用意して、鼻歌を歌いながら、指揮者のようにきれいにそれを振った。

「お前はそれを本気で良しとしてるのがなー。いい子すぎて、俺は時々お前が嫌になるよ。まあ、自分に対してもだけどさ」
「何それ?」

いきなり兄はスプーンを、僕の目の前にふりかざした。反射的に目をつむる。

「お前は、ダメなくらい欲がなさすぎ!」
「え?」
「それでいいかもしれんが、面白味にかけるっていうか…つまらん!」

僕はため息をついた。

「兄ちゃんはいつもそれだ。つまらん!つまらん!ばっか。僕からしてみれば、つまらないって、言ってるやつが一番つまらないね」

兄は吹き出した。にやにやしながら、持っていたスプーンで僕の顎を持ち上げた。

「きっと、それはお前のせいだな」
「へ?」

兄はじっと僕を見つめた。

「なんで、お前が自己満足で書いてた小説を、俺がこっそり持ち出して自分の名前で新人賞に応募したと思う?」

僕もまた兄をじっと見つめた。それは僕もずっと聞きたかった。

「お前の怒る顔が見たかったからだよ」

本気とも冗談ともつかない口調と同じに、兄の目もまた多くを語ろうとはしない。すると、いきなり兄は表情を変えた。人を食ったようないつもの笑顔になる。

「なーんてな。さあ、カレーを食おうぜ。弟よ」

何も言い返せないでいる僕を無視して、兄は楽しそうにカレーを食べ始めた。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ BEAT CRUSADERS 「希望の轍cover」× 未完成のSF小説 ★

書き途中の長編SFより抜き出しました。登場人物名など少し変更してUP。(以前UPした物語の登場人物や設定とかぶってしまうので…)

① BEAT CRUSADERS 「希望の轍cover」
http://www.nicozon.net/watch/sm1071862
原曲はSouthern All Star。そのカバー。友人が海に向かう途中に聞いていたもの。それから夏になると聞きたくなる曲に。出てくるお兄ちゃんが、海のある故郷に向かうとき、聞くならどんな曲だろう?と思ってたら、これが浮かびました。実は原曲を聞いたことがないんですが。

② 未完成のSF小説
前にUPした【第35夜】「SF小説を書こう!」もそうですが、書き途中の長編SFより。抜き出せそうなのは、また近々また使わせてもらおうと思います。1001までまだまだあるので。

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