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【アルファポリス様限定公開】  長編作品紹介
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-256.html
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↓↓【第305夜】 喪服にレモン、少女にはショートケーキを。 ジャンル:友情 ↓↓
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お葬式をしよう、私たちのお葬式を―。


    *


喪服に袖を通す。鏡にうつる見慣れない自分の姿に一瞬立ち尽くした。
目の前にいるのは未だ少女の面影を残す、大人になりきれない自分だ―。

黒は女性を一番美しく見せると教えてくれた友人を思い出す。 

「誰かの受け売りだけどね」

そう笑って付け足したのは確か香澄(かすみ)だ。校則で決められた制服のスカート丈をいつも気にする、お洒落や流行に敏感な子だった。

「へー、それが本当なら喪服が一番女性を輝かせるのね」

シニカルな理子(りこ)がそう返すと、香澄はふくれた。

「なんでそうなるのよ。喪服なんていかにも不幸全開じゃない!」
「そう?私はある意味、素敵だと思うけど。人に助けを求めたり、情に訴えるにはもってこいというか…」
「理子はひねくれてる。そう思うでしょう、えっちゃん?」

香澄と理子が言い合いになると、いつも私の出番だった。

「う~ん。喪服だけじゃ暗いから何か持たせればいいんじゃない、アイテムとか?」

仲裁に入ると言うよりも、話題を微妙にをそらし、問題をうやむやにするのだ。

「は?アイテム!?…でも、喪服に赤いリボンのついたカチューシャでもすれば可愛くなるかな?」
「空飛ぶ魔女にでもなる気?『落ち込んだりもするけれど、私は元気です』って」

頷きかける香澄に、静かにつっこむ理子がおかしかった。私は笑って言った。

「でも、なんかの小説にあったよ。お葬式に喪服を着て、お供えの花がわりにレモンを持っていくの。そんな感じを目指せば?」
「喪服にレモンねえ…」
「確かに黒と黄色のコントラストがいいね!なかなかセンスあるじゃない、それ書いた人!」

自分が誉められたようで、なんだか少しこそばゆかった。

「―ったく、あいかわらず上から発言全開だなあ、香澄は」
「理子に言われたくないんですけど!」
「はあ!?」
「なによ!?」
「まあまあ、香澄も理子もおさえておさえて。あ、そうだ。そういえば、最近みた再放送のドラマで喪服を着たままショートケーキを食べてたのがあったな。死んだのが双子のお姉ちゃんの方で、お葬式と自分たちの誕生日が重なっちゃったから、妹が家族に隠れてこっそり泣きながらショートケーキを食べてた」

ふたりがしんみりとする。

「それ切ないな」
「うん、切ないね」

何気に心が優しい。彼女たちのそういうところも私は好きだった。不意に香澄が言った。

「こうなったら、やるっきゃないわ!」
「何を?」
「決まってるじゃない、お葬式よ、お葬式!」

突然の彼女の提案に、私と理子はぽかんとした。しばらくしてから、理子が眉を寄せた。

「…えっちゃん、最近私たちのまわりで誰か死んだっけ?」
「ううん。たぶん誰も死んでないから大丈夫だよ、理子。うちは曾おじいちゃんも未だ健在だし」
「それはよかった。…いや、よくないよ!あ、よくないのは曾おじいちゃんがご健在のことじゃなくて、目の前にいる香澄のトンデモ発言なんだけど…香澄、もしかして誰か殺したいのかな?」
「…え、まさか私たちに殺人の片棒を担がせようと…?」
「何、言ってるの、ふたりとも?私は誰も殺さないし、殺させないわよ!そういうことじゃなくて、私はね、お洒落にお葬式をしたいって言ってるの!」

私と理子は顔を見合わせた。…お洒落にお葬式…?

「わかるでしょう?」
「「いや、もっとわからないよ!!」」

私たちは声を合わせた。香澄は腕を組む。

「人が死ぬとかじゃなくて、理由はなんでもいいのよ。…そうね。例えば、そろそろ高校も卒業だし、私たちが少女でいられる時間にさようならをする…そのためのお葬式とか、どう?」
「少女でいられる時間にさようなら?なら、処女でも喪失してくれば?あっけなく少女を終了できるよ」
「普通に高校の卒業式じゃダメなのかな?」

理子と私の意見に香澄は首を横に振った。どうも処女喪失も学校の一大行事も彼女の美的センスにはそぐわないらしい。

「ダメ、全然お洒落じゃない!!喪服を着てレモンをそなえたいの!で、最後はショートケーキで献杯!!」
「…ショートケーキで献杯って」
「少女でいられた無垢な時間にみんなで別れを告げるの。高校を卒業したら、みんなバラバラになるんだし…何か思い出にできる、絶対に忘れないようなことをしておきたいじゃない」

最後の方が尻すぼみになる香澄の言葉に胸がちくりと痛んだ。高校を卒業したら、私は地元を離れて京都にある文系の大学へ進む予定だ。理子と香澄は地元に残るけど、理系の大学とファッション系の専門学校で進路が違う。

「もうしょうがないなあ。どうする、えっちゃん?」
「この流れはやるしかないんじゃない、理子?」

香澄の顔がぱっと輝いた。

「じゃあ、決定ね!いつにしようか?やっぱり卒業式の後かな?こっそり学校にお洒落アイテム持ち込まないとね!って、ちょっと聞いてるの?」
「「キイテル、キイテル(棒読み)」」
「喪服にレモン、少女にはショートケーキを。お葬式をしよう、私たちのお葬式を―」


    *


喪服に袖を通す。鏡にうつる見慣れない自分の姿に一瞬立ち尽くした。
目の前にいるのは未だ少女の面影を残す、大人になりきれない自分だ―。

「まさか一人で喪服を着ることになるとはね」

黒は女性を一番美しく見せると教えてくれた友人を思い出す。
でも、彼女たちはもういない。あの頃の少女たちはもうどこにもいないのだ。

「地震のせいで、きちんと卒業式もできなかったしな」

私は大学に通えるアパートを探すため、あの日たまたま京都に来ていた。地元で大きな地震や津波があり、彼女たちが巻き込まれ、亡くなったことを後で知ったのだ。処女喪失でも卒業式でもない、私の少女時代は彼女たちの死によって終わりを告げたように思う。

「さて、そろそろ行かなくちゃ。お葬式をしよう、私たちのお葬式を―」

あの時間は二度と戻ってこないから。あの時間が二度と戻ってこないなら。

お葬式をしよう、私たちのお葬式を―。
喪服にレモン、少女にはショートケーキを。

あのふたりなら、きっと「切ないね」って笑ってくれるだろう。






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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ チャットモンチー『世界が終わる夜に』
★ 氷室冴子『恋する女たち』
★ ドラマ『すいか』
★ 峰浪りょう『ヒメゴト~十九歳の制服~』

チャットモンチー『世界が終わる夜に』を聞いて生まれた物語です。久しぶりに聞いたら、色々な作品の喪服女子(?)を思い出し、こんな物語になってくれました。

① チャットモンチー『世界が終わる夜に』
https://www.youtube.com/watch?v=G59XstT19K8
チャットモンチーはこの歌が一番好きかも。あ、他にも『ハナノユメ』のオーディエンスがノリノリになってしまう感じや『恋愛スピリッツ』の切なさ全開で始まる楽器の入りも好き。過去にフェスで生で聞けてよかったな。っていうか、これ作曲したの10代だったんだ!
チャットモンチー 『「ハナノユメ」Live 』
https://www.youtube.com/watch?v=7atUby6fpdE&list=PLtQ5pz_Dlq3zyCAjBjganYI_yazBkqduu&index=2
チャットモンチー 『「恋愛スピリッツ」Music Video』
https://www.youtube.com/watch?v=w4rUnPYXReE&list=PLtQ5pz_Dlq3zyCAjBjganYI_yazBkqduu

② 氷室冴子『恋する女たち』
https://www.amazon.co.jp/%E6%81%8B%E3%81%99%E3%82%8B%E5%A5%B3%E3%81%9F%E3%81%A1-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E3%82%B3%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E6%96%87%E5%BA%AB-%E6%B0%B7%E5%AE%A4%E5%86%B4%E5%AD%90-ebook/dp/B00I4H1M9E/ref=sr_1_fkmr0_1?s=books&ie=UTF8&qid=1482600541&sr=1-1-fkmr0&keywords=%E5%AE%A4%E5%86%B4%E5%AD%90%E3%80%8E%E6%81%8B%E3%81%99%E3%82%8B%E5%A5%B3%E3%81%9F%E3%81%A1
絶版のため、本をなかなか手に入れられず、読めたときは嬉しかったー。でも、もう内容うろ覚えですが。たしか物語の中で友人のお葬式に献花がわりにレモンを持っていくというエピソードあって、それがとても素敵だなって。氷室さん本人のお葬式にも、レモンを持っていかれた読者さんが多かったそう。

③ ドラマ『すいか』
https://www.amazon.co.jp/%E3%81%99%E3%81%84%E3%81%8B-DVD-BOX-4%E6%9E%9A%E7%B5%84-%E5%B0%8F%E6%9E%97%E8%81%A1%E7%BE%8E/dp/B0000TXORW/ref=sr_1_cc_1?s=aps&ie=UTF8&qid=1482600697&sr=1-1-catcorr&keywords=%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E%E3%80%8E%E3%81%99%E3%81%84%E3%81%8B
ドラマの中で売れない漫画家が双子の姉を偲んで、家の屋根裏で喪服を着たままショートケーキを食べるシーンがあったんです。フォークを使わずに手づかみでがぶりと食べる姿がなんだか切なくて。ちなみに、この時の喪服が魔女の宅急便のキキみたいなかんじで可愛いかった。


④ 峰浪りょう『ヒメゴト~十九歳の制服~』
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%92%E3%83%A1%E3%82%B4%E3%83%88%E3%80%9C%E5%8D%81%E4%B9%9D%E6%AD%B3%E3%81%AE%E5%88%B6%E6%9C%8D%E3%80%9C-1-%E3%83%93%E3%83%83%E3%82%B0%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E5%B3%B0%E6%B5%AA-%E3%82%8A%E3%82%87%E3%81%86/dp/4091837778
衝撃的な作品。自分の性に思い悩む19歳の若者たち。痛くてヒリヒリするけど、最後は笑顔が待っています。成人式に着物は着物でも振袖ではなく、喪服を着ていく女の子がいて世間に中指たてるシーンがあるのですが、そこがお気にいり。



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↓↓【第303夜】 リバーフィッシュ  ジャンル:友情 ↓↓
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ボクは幸せが何かを知っているよ。君は知らないのかい?


    *


水の流れる音がする。
その流れに身を任せながら、僕はある場所へ向かうんだ。

「やあ、君はまた川の流れに乗って、ここに来てくれたのかい?」

のんびりやのそいつはいつも川で魚釣りをしながら僕を迎えてくれる。そこを大きな蓮の葉にのった僕が流れ行くんだ。

「魚が釣れなくて、とても退屈をしていたんだ。君が来てくれて良かったよ、フィッシュ」
「僕はまた釣れない魚の代わりなのかい?君が僕に付けてくれた名前はイカしてると思うけど、意味が魚ってどうなんだろう」
「どうしたんだい、フィッシュ?」

こいつには、僕の不満が聞こえなかったらしい。無垢な目を向けられ、僕は困ったように笑った。

「なんでもないよ。久しぶり、リバー。本物の魚じゃなくて悪いけど、また僕の蓮の葉を君の竿で釣ってくれるかい?」

僕が手を振ると、リバーは朗らかに笑った。

「いいだろう。こいつは大物だ!」

彼はリバー、向こう岸に住まう者。僕はフィッシュ、川を流れ行く旅人だ。


    *


彼のルアーが僕の蓮の葉をとらえると、僕をのせていたそれはようやくとまった。

「またしばらくここにいられるんだろう?君の旅の話を聞かせてくれないかい、フィッシュ?」
「出たな、ねだりやリバーめ!」

彼は僕の旅の話を小さな子供のようにせがむんだ。

「いいじゃないか、フィッシュ。ボクは君の話が好きなんだ。君の話は実に面白いよ」

そんなことを言われてノーとは言えない。僕はのせられやすいタチなんだ。

「いいだろう。今回は実に危険な旅だったんだ。驚くなよ、リバー?」

僕は彼に聞かせてやった。世界がどぎつい紫色に染まっていったこと。あちこちに火の手があがり、あたりをごうごうと焼きつくしていったこと。人々は罵り合い、殺し合い、僕は見ていて、とてもつらくなったことを―。

「きっと、あれが戦争というやつだったんだろうな」

そして、ついにおかしな閃光が放たれたこと。それから、大きな大きなきのこ雲を見たこと。僕は泣きたくても泣けなくなったこと…。

「フィッシュ、君は巻き込まれなかったのかい?」
「巻き込まれたよ。でも気づいたら、またこの川を蓮の葉にのって流れていた。きっと川辺のどこかにいて、蓮の葉に守られたんだろうな」

僕がそう言うと、リバーが少し哀しげに微笑んだ。

「そうか。それはとても危険な旅だったな。ここで少し休むといい。ボクがいっぱい魚を釣ろうじゃないか。なに、おいしいからって驚くなよ、フィッシュ?」
「それはいい!…でも、君は僕の蓮の葉をとめているせいで、竿もルアーも使えないぞ?」

僕らは顔を見合わせた。

「…そうだった」
「これだからな、リバーは。ぬけてて、実に面白い!」

僕らは笑った。会えなかった時間を埋めるように、たくさんたくさん笑った。


    *


僕はしばらくこの川で過ごした。

向こう岸にいるリバー。川の中を大きな蓮の葉にのっている僕。不思議なことに、僕はそこから動くことができなかった。そこから出ることができなかった。どうしても向こう岸にいくことができなかったんだ。僕は彼の姿を見ることはできても、触れることはできない。声をきくことができても、隣りで囁き合うことはできない。なぜだろうといつも思う。でも、こういうものなんだろうともいつも思う。

「きっとリバーと僕では、住む世界が違うんだね」
「そうだね、フィッシュ。でも、ボクはこの状況をそんなに悪く思ってないよ。こうして君と、ときどき会えるじゃないか?」
「そうだけど…」

君と過ごすこの川の時間はとても心地いいんだ。僕は君と離れたくないんだよ。君は 違うの?

「フィッシュ、ボクは幸せが何かを知っているよ。君は知らないのかい?」

僕がさびしそうな顔をしていたんだろう。リバーが朗らかに笑った。

「何も誰かとずっと一緒にいることが幸せじゃない。たとえ遠く離れていても、誰かをずっと想えることがボクの幸せなんだよ、フィッシュ」

僕は目をこすった。目が真っ赤になるまで強くこすった。

「……僕もそうだよ、リバー」
「ボクはここで一人で暮らしているけど、さびしくないよ。君がときどき会いにきてくれるからね!」

リバーが竿に手を伸ばした。

「行っておいで、フィッシュ。ボクは待っているから。川を流れて、またここに遊びにおいで。君の旅の話をボクに聞かせてくれないか?」

ルアーが離れ、蓮の葉がゆっくりと動き出した。

「リバー、僕はまたここに来るよ!絶対絶対、君に会いに来るよ!」

僕は彼が見えなくなるまで、大きく大きく手を振った。

「「また会おう!」」


   *


水の流れる音がする。
その流れに身を任せながら、僕はある場所へ向かうんだ。忘れられない君に会いに行くんだ。

「大物がきたな!」

僕が手を振ると、リバーは朗らかに笑った。



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★ 白鳥マイカ『線』 × 誰かが作った「ムーミン」MAD 

いつか書こうと思って忘れられていた物語。この音楽を聞いて思い出しました。この物語のタイトルは最初『線』(まんまでした)だったのですが、私は『~フィッシュ』ってタイトル作品がけっこう好きで、(吉田秋生『BANANA FISH』とか洋画『BigFish』『ソードフィッシュ』とか)それらにあやかって(?)こんなタイトルになりました。あと、全然関係ないかもしれないけど、リバー・フェニックスも好きだし。

① 白鳥マイカ『線』 × 誰かが作った「ムーミン」MAD 
http://nicotter.net/watch/sm8936337
ムーミンにハマっていた時に出会ったMADです。音楽も映像もいい感じで、この物語が生まれました。このMADも素敵ですが、音楽にあう映像をのせてPVやMADつくる人って本当すごいなあ。そのセンス、どうなってんの!?私は物語が書けるとかより、こういうのがデキるようになりたかったなあ。あと、映画の予告編つくりとか!


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★2015/6/16
物語ブログ『1001夜ショートショート』開設・祝2周年となりました。これも応援して下さったみなさまのおかげです。本当にありがとうございます。マイペース更新ですが、これからも『1001夜ショートショート』をよろしくお願いいたします^^

最終更新(2015/06/22)
予約投稿の関係でアルファポリス様の方が若干更新が早くなっています(一日ほど)。お急ぎの方はアルファポリス様をチェックしてみて下さいね。申し訳ありません。
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【第245夜】 亡き王女のためのパヴァーヌ  ジャンル:友情/ショートショート 
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― ねえ、私の“美しい”はあなたにどう響く? ―

   *

放課後、誰もいない音楽室でピアノを弾いていると、一人の少女が私に声をかけてきた。

「あなた、絵のモデルになってくれない?」

確か隣のクラスの子だ…。顔は覚えているのに、名前が思い出せなかった。

「…私のこと、知らない?カセイよ。カセイジュンコ。美術部なの」

眉の上で切りそろえた前髪が似合う整った顔立ち。自らがモデルと名乗ってもいいような美少女。それがカセイジュンコだった。

「どうして私なんかをモデルに…?」

そんな彼女に比べ、私は麗しい美貌には程遠い。戸惑う私を見て、目の前の美少女はおかしそうに笑った。

「あなた、とても素敵よ」

そんなことを言われたのは初めてだった。つい顔が赤くなる。

「あなたのピアノ、素敵だったわ」
「…なんだ、ピアノか…」

勘違いした自分が恥ずかしくて、赤くなった頬を両手で隠そうとすると、彼女のひんやりした手がそれをとめた。

「そう。あなたのピアノが素敵。…こう言えば安心する?」

人を試すような表情。聡明さを感じさせる瞳。先に美しさにとらわれたのはどっちだったのだろう…?

「今度コンクールで弾く曲なの。ありがとう、誉めてくれて。えーっと、カセイ…さんだっけ?」
「ジュンコでいいわ、ミナガワさん。私もヒデコって呼ばせてもらうから」
「…どうして、私の名前を知っているの…?」

私の指に彼女は自分の指をからめた。

「あなた、自分の魅力に全然気づいてないのね」
「え?」

そして、静かに微笑んだ。パッと、からめた指を離す。

「じゃあ、明日またここで会いましょう」

少し強引で神秘的な少女。彼女はまだ自分に自信のなかった私を見つけてくれた。

「よろしくね、モデルさん」

   *

カセイ ジュンコ。

その名を学校で知らない者はいなかった。

翌日、同じクラスの美術部の子に彼女のことをたずねると、唾を飛ばすような勢いで彼女のことを力説された。史上最年少で美術展に入選した少女画家だということ。彼女の絵は人物や風景を描きながらも現実を越えた表現力があること。凄味のある色彩感覚に圧倒されること。高校の美術部に籍を置いてはいるが、自分の作品作りのため、ほとんど参加することはできず、幽霊部員に近いこと。でも、顧問も部員も彼女をとがめることはないこと。それはみんな彼女の才能にほれているからだということ…。

北国で花開いた孤高の芸術家。時の人。天才画家という名の美少女。結局、放課後の音楽室で私が彼女のモデルを引き受けることにしたのは、そんな彼女が自分に興味を持った理由を知りたかったからかもしれない。

「ジュンコって凄い人だったのね…」

私が呟くと、カセイジュンコは笑った。

「でも、そんな私をヒデコはよく知らなかったじゃない?」
「…ごめんなさい」
「いいのよ、知らなくて。名声なんてうっとうしいだけよ」

ジュンコはどこか客観的で冷めたところがあった。

「そういうものなの?」
「そういうものよ。私は絵を自由に描ければいいの。こんなふうに、誰かさんをモデルにしたりしてね」

いったい私の何が彼女をひきつけたのだろうか…?照れくさくなって、私はジュンコに話題を戻した。

「学校に飾ってあるジュンコの絵を見たの。とても感動したわ」
「そう?ありがとう」
「あれって自画像なの?」
「そうよ、私なの」
「目が離せなくて…なんて言えばいいのかしら?…ただもう、美しかった」

その感想にジュンコは笑った。私は恥ずかしくなった。

「…いやね。“美しい”なんて感想。私が使うと、その言葉はなんとも陳腐な響きになってしまうわ」
「ヒデコ?」
「きっと、私自身が陳腐なせいね。ごめんなさい」

自分で言ってて情けなくなる。それを聞いたジュンコはデッサンする手をとめた。スケッチブックを閉じ、私に優しく訴えた。

「ねえ、ヒデコ。私、音楽なんてこれまで全然興味がなかったの。特にクラシック。古くさくて、かたっくるしくてね。でも、ヒデコのピアノをきいて好きになったわ」
「え?」
「ヒデコのおかげで気づいたの。クラシックは演奏する人を選ぶのね。人によって音の響きが全然違う。生み出す世界が違うのよ。私はあなたのピアノ演奏をとても美しいと思った。そんなヒデコは陳腐なのかしら?ねえ、私の“美しい”はあなたにどう響く?」

人を試すような表情。聡明さを感じさせる瞳。先に美しさにとらわれたのはどっちだったのだろう…?

「…こう言えば安心する?」

私だったのだろうか?ジュンコだったのだろうか?

「あなたのピアノをきかせて、ヒデコ。私たちが初めて出会った時に弾いていた曲がいいな」

放課後の音楽室に西日がさしこんでいた。その光りが眩しくて、瞬きを繰り返す。

「もしかして、ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ 』?」
「うん。それ!」
「しょうがないなあ。じゃあ、私の王女様のために一曲、弾きましょうか!」
「…ちょっと、私は死んでないわよ!」

ふたりで笑った。あふれる涙を振り払うように、私は彼女に語り出した。

「ラヴェルはね。晩年、記憶障害になってしまうの。かつて自分で作曲した『亡き王女のためのパヴァーヌ 』を聞いて、こう言ったらしいわ。『とても美しい曲ですね。どなたが作ったんですか?』って。彼は自分が作曲したことを忘れてしまったけど、美しいと感じたことは忘れなかったのよ」

自分のピアノ演奏にのせて、好きなラヴェルのエピソードを語る。それが彼女のくれた言葉に対する返事になればいいと思った。感謝の言葉になってくれるといい、と。彼女はそれをどう受けとめてくれたのだろうか?

― ねえ、私の“美しい”はあなたにどう響く? ―

「もしかしたらこの世で一番美しいのは、誰かの記憶に“美しい”と残せることかもしれないわね」

そう言ったジュンコが忘れられなかった。

   *

カセイジュンコが湖畔のホテルで消息を絶ち、阿寒で凍死体となって発見されたのは、それからしばらくたってからだ。

自殺の可能性が高いと聞き、私はショックからかピアノが弾けなくなってしまった。あの音楽室に近づくこともできなくなった。彼女の死は謎に包まれたまま月日は流れ、ようやく忘れかけた頃、彼女のお姉さんが私の元に訪れた。実家を整理していたら、ジュンコの描いた一枚の絵が見つかったという。それをわざわざ持ってきてくれたのだ。

「妹はあなたをモデルに絵を描いてたみたいなんですよ」

スケッチブックにデッサンをしていたことは覚えている。でも、きちんと絵に仕上げていたとは知らなかった。お姉さんが見せてくれたジュンコの絵に私は息をのんだ。そこには、ピアノ演奏をするあの頃の私の姿が描かれていた。

― あなたのピアノをきかせて ―

音楽室にさしこむ西日が眩しい。

自分に自信のなかった私をジュンコはみつけてくれた。優しくしてくれた。彼女と過ごした時間はとても短かったが、輝かしいものだった。…ねえ、ジュンコ。あなたもそう思ってくれていたの…?

「ヒデコさん?」

お姉さんが心配そうに私を見つめていた。

「すみません。いろいろ思い出してしまって…」

あふれる涙を振り払うように、私はお姉さんに語り出した。

「ジュンコさん、私のピアノをとても気に入ってくれてたんですよ。良ければお姉さん、私のピアノを聞いてくれませんか?あの頃みたいに弾けるかわかりませんが…」

お姉さんは静かに微笑んだ。それに勇気づけられるように、私はずっと弾いていなかったピアノの前に座った。調律は大丈夫のようだ。

― こう言えば安心する? ―

人を試すような表情。聡明さを感じさせる瞳。私の弾くラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ 』が好きだと言ってくれた。記憶の中の美しい王女様に私は語りかける。

― ねえ、私の“美しい”はあなたにどう響く? ―


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ドキュメンタリー『もう一つの阿寒に果つ』×ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』★

ちょっと前に女優の宝生舞さんの行方がわからないと言ったニュースが流れていて、それで思い出したのが昔見た加清純子(画家)のドキュメンタリー。阿寒で謎の死を遂げた少女画家を宝生舞さんが演じていました。その動画を発見。もう一度見たいと思ってたから嬉しかったな。私が実在の人物を描く場合は(歴史モノも含め)勝手な虚飾がいっぱい。半分フィクション感覚でお読み下さると嬉しいです。(というわけで作中の登場人物名は片仮名表記。主人公はドキュメンタリーに出ていたご友人ふたりの名前から)

① ドキュメンタリー『もう一つの阿寒に果つ』
宝生舞さんが加清純子を演じ、雪の中を歩く姿がとても印象的でした。企画考えた人、ナイスキャスティング!
前編http://www.nicozon.net/watch/sm11818123
後編http://www.nicozon.net/watch/sm11818227

② ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』
クラシックは私の中でラヴェルかな。
ピアノ版http://nicotter.net/watch/sm3792526
管弦楽版https://www.youtube.com/watch?v=IcVTq4FnSVc

良ければ、こちらもどうぞ。ラヴェルは『水の戯れ』が一番好き。
辻井伸行/水の戯れ(ラヴェル)
http://nicotter.net/watch/nm8385632

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図書館から寄宿舎に戻った涼子(りょうこ)が自分の部屋に行くと、来客がいた。同じクラスの遥(はるか)だった。

「秋吉さんにお願いして、部屋に入れてもらったの」

秋吉さんとは、涼子のルームメート秋吉美和(あきよし みわ)のことである。冬休みを実家で過ごした美和は、三学期の始業式前日である今日、寄宿舎に戻ってきた。涼子は遥をみて微笑んだ。

「一番乗りなんて、遥の鼻は相変わらずね」

実家が有名洋菓子店の美和は、美味しいお菓子をたくさんお土産に持って帰ってくる。美和は今みんなにお茶会の召集をかけているのだろう。部屋にはいなかった。

「そう。私の鼻はとてもいいの。甘いものなんて、特に目がないんだから」

遥は涼子のベッドから腰を上げると、意味ありげに笑った。

彼女たちの通う女子高は長期休みに入ると、寄宿舎暮らしの生徒は帰省組と居残り組にわかれる。美和のように実家に帰るものもいれば、涼子や遥のように帰らない居残り組もいる。

「居残り組って響きが嫌よね。なんだか取り残された感があって。涼子もそう思わない?」
「そうね」
「しかも、影で『わけあり組』って言われてるのを知ってる?実家に帰らないのは、きっと何か帰れない事情があるからだ!って」
「知ってるわ。でもだからって、帰省組を『ホームシック気味』って影で呼ぶのも僻みっぽくて抵抗があるのよね」

涼子の言葉に、遥はくすくすと笑った。

「涼子は一見優等生にみえるけど、実はそうでもないのかしら?」
「あら、遥ったら意地悪ね」

図書館で借りた本を自分の机の上に置いた涼子はコートを脱いだ。降っていた雪のせいで、コートは冷たく濡れてしまっていた。

「意地悪なんてひどいわ。私は涼子のことが大好きなのに」
「もう、そんなこと言って。また、みんなに嫉妬されちゃうわ」

自分の部屋に戻って来たのに心が休まらないのはなぜだろう。相部屋の相方である美和が今日戻ってきたからだろうか。話好きの遥がこの部屋にいるからだろうか。一人になれないもどかしさに、涼子は少し息がつまった。

「私は涼子に嫉妬してもらいたいのにな」

涼子と遥はクラスメートだが、特別仲がいいわけではない。美人の遥はクラスの人気者で、憧れる者も多かった。それに比べ、涼子は特に目立たない真面目な優等生である。それなのに、最近なぜか遥は涼子によく声をかけ、かまうから不思議だ。

「私ね、本当はこの冬休み、涼子と話したくて残っていたのよ。気づかなかった?」

遥の問いかけは、涼子を戸惑わせるものだった。

「私はいつも涼子を見ていたのに。これじゃ片思いね」
「…片思い?」
「そう、片思い。誰かさんと同じ」

遥は涼子のそばに近寄ると、机の上に置いたあった本を手に取った。

「吉屋信子の本、私も好きよ。『花物語』なんて特にね」

涼子は観念し、自分の椅子に深く座った。

「甘いものには目がない、か…」

涼子はそう呟き、無意識に足を組んでいた。遥はこちらがうっとりするような微笑をみせる。

「ごめんなさい、涼子。あの日の放課後、私もいたの。理科準備室に」

涼子は肩をすくめた。

「…見られていたのね」
「言ったでしょう?私、とても鼻がいいの」

鼻がいい、か…。確かにそうかもしれない。成績はあまりよくない遥だが、勘が人一倍冴える。その鼻で甘い香りをかぎつけ、涼子の隠していた思いを一瞬で見抜いてしまった。

「白衣の似合う人はいいなあって私も思うもの」

冬休みに入る少し前、ある放課後のことだ。涼子は理科室に忘れものを取りに行った。ふと人の気配がして、隣の準備室をのぞいたが、そこには誰もいなかった。あるのは化学教師に忘れられた白衣だけだった。涼子は無意識にそれに手を伸ばしていた。

「変よね。どうしてあんなことをしたのか自分でもよくわからないの」

あの時、手を伸ばしたのはなぜだろうか。触れたのはなぜだろう。抱きしめていたのはなぜだろう。物音がして慌てて放し、その場を逃げ出した。

「変じゃないわ。その気持ちはきっと素敵なものよ」

遥にそう言われるとは思わなかったので、涼子は面食らった。遥の目はとても優しかった。

あの日の放課後、夕焼けに染まった理科準備室。そこにいた涼子はとても美しかった。控えめで大人しい雰囲気の少女だったが、内に秘めた熱を垣間見せ、見たことのない表情をしていた。穏やかで甘い。ひた向きで微笑ましい。それはずっと見ていたいと思わせるほど…。

「とても素敵なものだわ」

繰り返される遥の言葉に、涼子はなぜか涙ぐんでいた。それを隠すために彼女は急いで立ち上がった。

「お茶をいれるわね」

涼子の言葉を聞いて、遥もいつもの調子に戻る。

「う~ん、この香りだとお土産はフィナンシェね」
「え?」
「涼子、紅茶はダージリンとか後味のさっぱりするものでお願い」
「遥って、本当に鼻がいいのね」

ふたりは顔を見合わせると、同じように可愛らしく微笑んだ。


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=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ Matt Pond PA 『So Much Trouble』× 氷室冴子『白い少女たち』★

年明け初更新です。今年もどうぞ『1001夜ショートショート』をよろしくお願いします!

昔の少女小説っぽいものを一度書いてみたいと思ってました。できれば、寄宿舎?寮?生活を舞台にしたもの。そこにいる少女たちの姿を。ちなみに書いててなんですが、作中の吉屋信子『花物語』は未読です。少女小説の元祖と呼ばれる方の著作なので、ちょっと読んでみたい。読んだら、またこのジャンルに挑戦してみようと思います。

① Matt Pond PA 『So Much Trouble』
http://www.youtube.com/watch?v=VTbeGDhQlxU&index=1&list=RDVTbeGDhQlxU
最近洋楽ばかりですが、こちらも美メロです。少女たちが主人公の物語でこちらの音楽を使いたかったので叶って良かった。アーティスト情報があまりないので、マイスぺ貼っておきます。
Matt Pond PA  myspace
https://myspace.com/mattpondpa

② 氷室冴子『白い少女たち』
http://www.amazon.co.jp/%E7%99%BD%E3%81%84%E5%B0%91%E5%A5%B3%E3%81%9F%E3%81%A1-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB%E2%80%95%E3%82%B3%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-52A-%E6%B0%B7%E5%AE%A4-%E5%86%B4%E5%AD%90/dp/4086102358
ずっと探していた本をようやく入手。寄宿舎を舞台にした思春期の少女たちの物語です。氷室さんが20歳くらいの時に書いたものと聞き、驚きました。話は重くシリアスなのに目が離せなくて。未完の『碧の迷宮』もそうですが、彼女のこんな物語をもっと読みたかったなあ。何より私世代じゃ氷室冴子作品は、ほぼ絶版なのが悲しいです。いっそのことまとめて全集とか出してくれないかな。

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二十歳の誕生日が来て、まず始めにやったことは、涙を流して泣いたことだった。

午前0時。
日付が自分の誕生日に重なると、二十年間今まで生きてきて事が、断片的だけれど、鮮やかにあっという間に駆け抜けていった。
私は呆然とこれが死ぬ間際に見るあれか、と別に死ぬわけでもないのに、考えてしまった。

次に思ったことが、ああ、私はこんなに生きてしまったんだなという思いで、そうなるとなぜか苦しくなってしまい、涙がこぼれてしまった。そういうわけだ。

まだ夜中だったから、一応朝まで眠ることにした。夢は何もみなかった。

目覚めると、携帯に一通のメールが届いていた。

それは仲のいい友達からで、私の誕生日を一緒に祝おう、というものだった。

覚えている人がいるのは、とても嬉しい。思わず顔がほころんでしまった。

誕生日だから、二十歳だからと、どこか特別に意識が変わるものではないだろう。
服も細身のジーンズにパーカー。その上にマフラーをぐるぐると巻きつけるという定番の格好。

鍵を閉めて、外に出る。振り向いたときに当たる冷たい風が、どこか穏やかで甘い。澄み切った空に目を細める。

変わらない、変わらない。

でも、私の中の何かが変わるんだ、変わっていくんだ、と誰かが叫ぶ。

駅前の本屋で友達と待ち合わせ。おいしいと評判のお店でケーキを食べてお茶を飲む。

ああだ、こうだと繰り返す、似たような話。終わることの知らないような他愛もない話を、私たちは何が面白くて、繰り返し、繰り返し、話し続けるのだろう。
考えると不思議なことだけれど、その時間が後でとても愛しくなることを、私はこの二十年で学んだのだ。

今日は一緒に夕飯も食べよう、と一人暮らしの私を気遣ってくれる友達。そんな彼女のお勧めのお店に行くことにした。

すっかりあたりは暗くなっていて、太陽の変わりにいくつもの星が点々と顔を出し、きらきらと瞬いている。

今日は星がよく見えるね。私たちは空を見上げながら、夜道を急いだ。

着いたところは、アメリカンダイニングバーだった。堂々とお酒が飲める年齢になったんだとふと気づく。オールドアメリカンを意識した店内は古いハリウッド映画の世界に迷い込んだかのようだった。

でも、そこは私たちと同じ大学であろうたくさんの学生であふれていた。ほろ酔い加減のせいか、みんなのテンションは高く、ノリもいい。通りすがりの知らない人に、いきなり頭を撫でられる始末だ。そんな熱気に押されながら、友達の後をついていく。照明も程よくおとしてあったので、まわりに気を配りながら階段を上っていった。

席に案内されると、おかしなことに目の前には、見覚えのある顔ぶれが並んでいた。

思わず彼らに声をかけようとすると、先に歩いていた友達が笑顔で振り向き、「せーの!」と言った。
すると、目の前に並ぶみんなが「誕生日おめでとう!」と声をそろえて、向かえてくれたのだった。

私はすぐには理解できず、戸惑い、後ずさってから友達の顔を見、やっと自分がはめられたことに気がついた。

そのときの恥ずかしさ、悔しさ、嬉しさ―なんだろう…そういう類の感情の波が一気に押し寄せてきて、なぜか泣きそうになったけれど、なんとかこらえて見せた。

その食事の席は楽しさにあふれていて、お酒もたっぷり飲んでしまった。人一倍の幸福感もプラスされて、酔いのまわりも速かったから、少し変になっていたと思う。

帰り道。

「みんなで手をつないで帰ろう」と騒ぎ、そうして帰ってもらった。ほてった頬に夜風が心地よかった。なんとなくどこまでも歩いていける気がした。それは一人ではなくて、このみんなと。どこまでも、どこまでも歩いて行けるさ、という感じで。

家に戻り、そろそろ自分の誕生日の終わりが近づいてきたのを知る。

今日一日を振り返ってみた。
実にいい誕生日で、いい二十歳を迎えられたなと思う。

誰に感謝していいのかわからなくて、祝ってくれたみんな、私を生んで育ててくれた両親や家族、最後にここまで生きてきた自分に感謝した。

そして、ついにこらえきれなくなって、また一気に涙がこぼれ落ちた。でも、最初に流したものとは全然違う。

私は涙の重みを知っている―。

今までの二十年、これからの二十年、二十年後よりも、ずっとずっと先のすべての私に伝えたい、とこのとき心から思った。

『今の私は、確かに幸せだよ』

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きっと僕は何度も言い続けるだろう。

僕の夏を心から愛でるために。きっと何度も言い続けるだろう。
僕ら男4人の夏を心から愛でるために。そうさ、何度も何度も言い続けてやるさ。

「お前ら、いったい何しに俺んちに来たんだ!?」

ってね。それでもケイゴとスガッチは、仲良く僕を無視し続けていた。

「うわー、またやられたよ」
「スガッチ、本当ゲーム弱いよね。後は俺に任せろ、ヒーローの出番どす!」

ケイゴに肩をぽんと叩かれたメガネ男子のスガッチは、自分のゲーム機を僕のベッドに放り投げた。そして、ふと思いついたように言った。

「シュウちゃん、悪い。俺さ、喉、乾いちゃった」

それに、自称ヒーローのケイゴも賛同する。

「俺も俺も、なんか飲みたい!ラムネ希望」

ちゃっかり注文してんじゃねー。しかも、ヒーローはラムネ限定かよ?本当お前ら人の話、聞いてねーな!と僕は怒鳴りつけたい気持ちをなんとか抑えた。

「わかった。飲み物、ラムネでもなんでも持ってくるからさー、いい加減に帰ってくれない?」
「えー」
「今、まじでいいところなんだけど…」
「何度も言ってるんだけど、ここ、俺の部屋なんだよね」
「知ってる知ってる」
「わかってるよ、そんなこと。だから、遊びに来てるんじゃん」
「いやいや、そうじゃなくて。来なくていいから!っていうか、誘ってないのに、何でお前ら、うちにいるの?」

僕の疑問に二人は顔を見合わせた。

「え、なんでって…?」
「…なんとなく、だよな?」

フィーリングかよ!

「いいじゃん、シュウちゃんはどうせ部屋に引きこもりだろ?だから、俺らが遊びにきたわけ」
「そうそう」
「いや、別に引きこもりじゃないし。一人で読書したいだけなんだけど…」

夏休みが来たら、一気に読みたいと思っていた小説があったのに…。好きな作家の新作『ハードボイルド少年』を。それが夏休みに入り、三日たった今になっても、まだ読めていない。それは全てこいつらのせいだ。…ってあれ?

「そう言えば、ハルは?今日も一緒じゃないの?」
「知らん!あいつ、声かけても最近挙動不審で、すぐどっかいなくなるし…」

ケイゴは急にぶすっとした。…まあ、ハルの落ち着きのなさはいつものことだけど、ケイゴの親友への固執、仲間意識の強さも相変わらずだ。ふうん。毎年、夏休みになると、真っ先にこの部屋に飛び込んで来るのはハルだったから、確かに変かも。…なんかあったのかな?

「あれ、ふたりとも知らなかったんだ?」

情報通のスガッチは立ち上がり、棚から漫画『MASTER(マスター)キートン』を抜き出して開いた。

「ハルはね、恋をしちゃったんだよ」

今度、顔を見合わせたのは僕とケイゴの番だった。

「は??」
「何ですと??」

ちょうど、その時だった。

「助けてくれーっ!」

と、ハルが慌てた様子でこの部屋に飛び込んできたのは!

ケイゴとスガッチはニヤニヤしていたけど、僕はなんとなく嫌な予感がした。14歳の不穏な夏がここで決定的に始まってしまったような…。僕もフィーリングで申し訳ない。でも、こういう勘って、よくあたるのはなぜだろう…。僕は未だ読めない小説のことを思い、深いため息をついたのだった。


汗をかいたラムネの瓶が、テーブルに並んでいる。

目の前にあるのに、みんな手を付けていない。…ぬるくなるんじゃねえ?と誰もが思っていただろうに、そんな素振りも見せず、みんなこれまでにないほど真剣な面持ちだ。視線はラムネではなく、一人に向けられていた。ハルだ。

「頼みがあるんだ」

ようやく口を開いた。真顔で僕らに迫る親友。

「協力してほしいんだ」

僕らは、息をのんだ。

「一生のお願いになるかもしれない」

ごくり。

「…みんなでSF小説を書こう!」

それぞれの頭の上に一瞬クエスチョンマークが浮かんだような気がした。でも、ハルの表情は崩れない。

…えーっと、えーっと、………えー?

「とりあえず、そうだな…」

場の空気を読んだスガッチが、みんなを仕切り直した。

「まずはラムネ、飲まね?」


ハルの話はこうだった。

ハルが好きになった女子はどうも僕らと同じ中学で図書委員の子らしい。彼女は夏休み中、図書室で資料の貸出など委員の仕事をしているそうだ。お近づきになりたいハルは、図書室に通い始めた。そこで、彼女と話す機会を狙っていた。で、やっとその機会が訪れた。

「あれか!実は貸出カードの名前でお互い意識しちゃってた、とか?」と、ケイゴ。
「それ、ジ○リ映画の天沢○司くんじゃん?」と、僕。
「まさか『コンクリートロードはやめた方がいいと思うぜ?』『何よ!』的な展開が…?」と、スガッチ。

ハルはうんうんと深く頷いて言った。

「…地球屋に行った帰りにふたりは再会するんだよな。俺、おの店のじいさんが好き!『お嬢さんはドワーフを知ってる人なんだね』って登場からカッコ良すぎでしょ!…ってみんなどんだけ『耳を○ませば』好きなの??そうじゃなくて!!…確かにその子とは、本を借りる時、貸出カードをきっかけに話せたんだけど…俺、別に読書好きじゃないじゃんか?」

そら、そうだ。ハルが小説を読んでるところなんて、見たことがない。本と言えば、漫画だろうな。特に『ONEPIECE(ワンピース)』とか。

「テキトーに選んで持って行ったわけ、カウンターに。そしたら、その中に彼女の好きな小説が入っていたらしいんだ」

…なるほど、読めてきた。

「それがSF小説だったわけだな?」
「そそそ。さすが、シュウちゃん。ちなみに本の名前は『夏への扉』です」
「うわ、ベタだなあ~。ジンジャーエールを飲む猫が出てくるやつだ」
「そんなの俺、知らないじゃん?それで…」
「テキトーに話を合わせて、うまいこと自分を印象づけたくて、お前は言っちゃったわけだな?」

僕のセリフにハルは苦笑しながら頷いた。ケイゴとスガッチが口を挟む。

「え、ジンジャーエール?猫?」
「つまり、どういうこと?」

ハルは僕に「シュウちゃ~ん」と助けを求めてきたが、僕は知らないふりをした。しょうがなく、ハルは自分から切り出した。

「…嘘をついちゃったんだよね。俺、実は小説を書いてるんだって。それも君の好きなSF小説をって。そしたら、今度見せてくれない?って話になっちゃって。で、またつい言っちゃったんだ」
「…まさか」
「いいよーって」

僕らはラムネで乾杯しあった。

「ハル、ガンバレ☆」
「応援だけはしてる!」
「書き終わったら、『耳を○ませば』みたいに鍋焼きうどんを食おうぜ。俺、じいさん役!」
「じゃあ俺、バ○ン!」
「えー、なに俺が、○司くん?しょうがないな、ここでもヒーローっていうね…」

ハルは潔く、頭を下げた。

「みんな、お願いします!」

僕ら三人はどうする?と、顔を見合わせた。とりあえず、僕は気になることを聞いてみた。

「そもそも、好きな子って誰なんだ?」

すると、ハルは少し顔を赤くした。純情ボーイめ。

「同じクラスのトキカケさん」

トキカケさん?

「誰それ?」
「え、シュウちゃん、まだクラスメートの名前、覚えてないの??トキカケナツミだよ」

思い出せない。トキカケナツミ…なんていたかな?そんな舌をかみそうな名前の子。

「俺、知らん」
「ケイゴと俺はクラス違うからな。でも、俺は知ってる。カワイイ子だよね。綾瀬はるかっぽい感じ」

ケイゴはさておき、さすが全校女子データが脳内に完全インプットされてるスガッチは違うなあ。へー、ハルはあーいう子が好きだったんだな。ハルの恋愛相談なんて初だもんなーって…え?

「初恋??」

ハルは恥ずかしそうに、頭をかいた。

「なるほど『夏への扉』でなく、どうやらそれは『ハルへの扉』?いやいや、『春への扉』、だったというわけですな。ふふふ」

うまいこと言ったと思って気味悪く笑うケイゴ。せっかく○司くん役もハマるイケメンなのに、どうしてこう中身が残念なんだ、こいつは。そんな彼にハルを預けて、僕とスガッチはこそこそと話し込んだ。

「綾瀬はるか似ってことは、モテる子なんじゃないの?ハルに勝算あるのかな?」
「トキカケさんって性格は割とおとなしい感じだから、恋愛の派手な噂はきかないなあ。まだフリーで、誰が狙ってるってわけでもないんじゃないかな。ハルはパッと見、カワイイ系男子で通ってるから、外見は大丈夫だろう。問題はきっと中身だ。天然というかアホというか…。本好きな子って、そこそこ頭もいいんじゃないの?」
「本好きは頭がいいかと聞かれると、そういうわけでもないと俺は思う。ただ、そういう子ってたぶん男に夢を持ってそう。王子様とまでは言わないけどさ…」

僕とスガッチは「う~ん」と唸って同時に腕を組んだ。ケイゴとハルは「ヤバイ!俺らジンジャーエール飲まなきゃじゃね?」とかなんとか叫んでいた。わかったわかった、勝手に飲んでろよ、お前らは。ついでに猫も探してこい!

僕とスガッチは持っていたラムネで、もう一度乾杯した。

結局、僕らは親友のためにひと肌脱ぐことになるのだろう。なんだかんだ言って、運命共同体なんだろうな。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ スタジオジブリ「耳をすませば」× Supercar「Summer Tune」 ★

最近UPする過去物語がシリアスor暗めが多く、ちょっとコメディタッチも欲しいかなと現在書き途中の長編SFを切り取って短編リメイク?してみました。一部の人しか笑えないかもですが。ちなみに作中に出て来る作品は、「ハードボイルド少年」だけ私ので、後は浦沢直樹「MASTER(マスター)キートン」、尾田栄一郎「ONEPIECE(ワンピース)」、ロバート・A. ハインライン「夏への扉」です。

① スタジオジブリ「耳をすませば」
http://www.amazon.co.jp/%E8%80%B3%E3%82%92%E3%81%99%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%81%B0-DVD-%E8%BF%91%E8%97%A4%E5%96%9C%E6%96%87/dp/B00005R5J9
私はジブリといえば「ラピュタ」派なのですが、コレも好き。あと恋愛系なら「海がきこえる」も。マイナーかもですが、名作だと思う!そう言えば昔ジブリ美術館に行った時、バロンの物語の背景画を担当した井上直久さんが丁度作業してらして、生イラスト&サインをもらいました。お話もしてくれて、本当にいい方でした。そんな井上直久さんの作品も紹介を。

井上直久「『バロンのくれた物語』の物語」
http://www.amazon.co.jp/%E3%80%8C%E3%83%90%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%81%8F%E3%82%8C%E3%81%9F%E7%89%A9%E8%AA%9E%E3%80%8D%E3%81%AE%E7%89%A9%E8%AA%9E%E2%80%95%E6%98%A0%E7%94%BB%E3%80%8E%E8%80%B3%E3%82%92%E3%81%99%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%81%B0%E3%80%8F%E3%82%88%E3%82%8A-%E3%82%B8%E3%83%96%E3%83%AA-THE-ART%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E5%AE%AE%E5%B4%8E/dp/4198603170/ref=sr_1_15?s=books&ie=UTF8&qid=1376200289&sr=1-15&keywords=%E4%BA%95%E4%B8%8A%E7%9B%B4%E4%B9%85

② Supercar「Summer Tune」
http://www.youtube.com/watch?v=FJD4TwU7V9g
彼らの夏曲!テンションが一気に上がります。途中で一瞬音がパッと消えるところがあって、そこがなぜか好きなんです。同じ歌詞をずっと繰り返してるだけらしく、そこもまた面白いです。夏フェスできいて見たかったなあ…。

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いつから声を出さずになくことを覚えたのだろう。

私は居場所というものを探していたのかもしれない。自分にはどこにも居場所がないとバカみたく思っていたのかもしれない。

『海はみんなの故郷です』

それをきいた時、強く心をひかれたのはそう思っていたせいだろうか。遅い夕飯を食べていた私は思わず、手を止めた。

『私たちは昔、海に住んでいて、いつしか陸を見つけて土を踏み、人となったのです』

海のドキュメンタリーと銘打って放送していた番組。今までテレビをぼーっと眺めていただけなのに、いつの間にかひきつけられていた。

…海か。

テレビに流れる映像はエメラルドグリーンの日本ではあまり考えられないようなきれいな海。なーんて、日本の海を全部見てきたわけじゃないから何とも言えないけど。

――おいで。

あれは幻聴だったのだろうか?確かにそう聞こえたような気がする。誰もいない食卓にその声は無邪気に響いた。

――待ってるから。

それっきりその声は聞こえなくなって、私はまた一人になった。いくら大きくて広い家でも、誰もいないかったら、すぐに淋しさで埋め尽くされてしまう。ぽつんと私だけ取り残された気がする。

いたたまれなくなって、私は鍵と財布をつかんで家を飛び出した。


   *


昼のうだるような真夏の暑さと打って変わって、夜は過ごしやすい涼やかな風が吹いていた。どこかの家の風鈴がちりんちりんと鳴っている。それに耳を澄ませ、心を落ちつかせようとつとめた。

夜は真っ暗な闇で全てをのみこんでくれるからいい。あの家も、私自身も、もちろんみんなも、簡単にのみこんでくれる。それはどこかホッとすることができた。結局みんなちっぽけでなんの力もないことを教えてくれる。

なんか疲れたな、と思った。不意に何もかもが嫌になった。時々こんな感情に襲われる。そんな自分も嫌だ。

私をとりまく環境も私自身も、もう、うんざりだった。手を伸ばしても誰にも気づかれない。もがいてもがいて、ただ沈んでいくのを静かに待つことしかできないのだ。

重いため息と同時に涙が出る。いつから声を出さずに泣くことを覚えたのだろう。自分の中の生きる活力みたいなものが日に日に衰えているのがわかる。

……全然ダメだ。

その時だった。突然泣き叫ぶ女の人の声が聞こえてきた。

あまりにも突然すぎて自分の嗚咽かと思い、思わず手で口を押えたほどだ。一体どこからだと思って、あたりを見渡すと、少し先の電柱の下で、うずくまっている人影があった。

引き返そうかと思った。変なことに巻き込まれるなんてまっぴらだ。でも、彼女は私の存在に気付いたのか、急に泣き止み、食い入るような、すがるような瞳で、

「……ねえ」

と、声をかけてきた。しわがれた低い声にもかかわらず、闇の中で不思議とはっきりそれは聞こえた。私は動けず、次に続く言葉を待った。

「赤の他人に…いきなりものを頼んでなんだけど…」

さっきまで大声を出して泣いていた人には思えない。なぜか冷静さも感じられる声。

「…私を海に連れてってくれない?」


   *


彼女は水魚(すいぎょ)と名乗った。本当は『水魚』と書いて、『みお』と読むらしいけど、まわりから、なぜか『すいぎょ』と呼ばれているそうだ。年は二十五で平凡なOLをしているという。「そんな名前だから海に行くの?」そうたずねる私に彼女は幸薄そうな口元で小さく笑った。

とりあえず、私は彼女を家に連れて行くことにした。

主だけではない誰かを久しぶりに招いた家はどこかあたたかだった。玄関の明かりをつけて振り返って彼女を見る。うさぎのような真っ赤な目が痛々しい。黒いワンピースの上に真珠のネックレスをしているのを見て、葬式帰りだとわかった。

とにかく少しでも気分をすっきりしてもらいたくて、シャワーをすすめた。

彼女は大人しく従って、タオルと着替えを受け取る。そして、未だ抜け切れない夜の闇の色を含んだ声で「ありがとう」と言った。

彼女がシャワーを浴びている間、私は深夜のバラエティ番組を意味もなく、眺めていた。

「シャワー、どうもありがとう」

バスルームからリビングにやってきた水魚は、まだ目は赤いもののどこか生気を取り戻したようだった。

「何か食べる?それともお茶?」

私の問いに水魚はお茶といった。冷蔵庫から麦茶をさぐる間、彼女は面白くもないバラエティを私の代わりに引き継いでくれた。

「西澤さんは学生?」
「え?そうですけど…」

水魚がいきなり聞いてきて、戸惑った。なんで私の名前を知っているのだろう?彼女は考えを呼んだのか、

「家の表札、西澤って書いてあった」

私はそうかと軽く笑い、「高校生です」と告げた。私は彼女に氷の入った麦茶を渡した。

「私も数年前は学生してた。今は夏休み?」
「…はい」

愛おしそうな目を向ける水魚が私の心をとらえた。湯上りの女の人はすごくきれいだと思う。濡れそぼった髪が顔に軽く張り付く感じが、どこか艶っぽくて甘い。そして、どこか憂いさが見え隠れする彼女に、私は見とれてしまうのだ。

……大人の女の人。水魚は突如あらわれた『女性』だった。

「今日ね、すごく仲の良かった友人のお葬式だったの」

髪を軽くかきあげ、優しく語る。私はテレビのボリュームを少しだけ下げた。

「親友って言える子の」

水魚はどこか遠い目をして語りだした。

「本当にいい子で、良く笑ってね。お日様みたいだった。まわりから愛される子で、私は彼女が大好きだった」

私は静かに彼女の話に耳を傾けていた。

「大学の時はふたりしてバカばっかりやってたの。それがムチャクチャ楽しかった。夜通しお酒飲んで語り合ったり、同じ男を取り合ったり、授業サボって遊んだり…。そんなことを繰り返してたわ」

水魚はいつの間にか涙を流していたけど、構わず、続けた。

「卒業してから、全然会ってなかった。事故だって。車とぶつかって即死。あっけなく死んじゃったわ」

水魚はけらけら笑ってから、麦茶を飲んだ。そして、目を伏せた。

大切な人の死。彼女はそれを受け止めるのに必死だった。沈黙が重い。ただ、テレビの音だけがむなしく流れる。私は口を開けた。

「…でも、どうして海?」

彼女は顔を上げて、その問いにこう答えた。

「夢。夢を見たの。大学の時、海に行ってね。確かどっちかが失恋して励ますためにいったと思うんだけど。その子が『海に帰る』っていったことがあったの。『私が死んだら、海に帰るから』って。ずっと忘れてたんだけど、夢を見て思い出した」

私はさっきのドキュメンタリーを思い出した。

『海はみんなの故郷です』

――おいで。

もしかしたら、幻聴ではなかったのかもしれない。

――待ってるから。

「帰りましょうか?」
「え?」

水魚は私の言葉の意図をつかめないらしく、眉を寄せた。

「私たちも帰りましょう」

私はにっこりと微笑んだ。

「海へ」


   *

 
 いつからあの家は誰もいなくなってしまったのだろう。

ちょっと前まで私には『家族』というものが存在していたはずなのに。

私には弟がいた。九つ離れたかわいい男の子が。でも、彼は病弱でいつも顔は青白く、痩せっぽちだった。それはまるで隅っこで大人しく咲こうとする儚げな花みたいだった。

父や母、そして私は、弟がいつ医者から死の宣告を受けるかをびくびくしながら暮らしていた。でも、うちは明るかった。弟の前で暗い顔をするわけにはいかないと、暗黙の了解のように私たちはみんな笑っていたのだ。でも、いつからかどこか家にまとわりつく死の匂いが私たちの気を滅入らせていたのも事実だ。父も母もいつも死と隣り合わせでいる弟から、あの家から、本当は離れたくて仕方がなかったのだ。

そして、唯一私たち家族を繋ぎ止めていた弟がこの世を去ると、途端に私たちはダメになってしまった。父は他の女の人のところへ。母はどこかの新興宗教に走りそうになったけど、どうにか踏みとどまって、今は気を紛らわせようと友達と旅行に行っている。

もちろん母は私も誘ってくれた。でも、私は断ったのだ。予備校の夏期補習を理由に。でも、そんなの行く気なんてなかった。私はただ、あの家を誰もいない状態にしたくなかったのだ。弟を一人にしたくなかった。いくらこの世からいなくなっても、彼は私の弟で、帰るところは、きっとあそこしかないのだから…。


   *

 
 水魚が免許を持っていてくれて良かった。

うちにある車で深夜の高速を駆け抜け、夜明け前には小さな海岸に着いた。

「共鳴しあっちゃったのかしらね、私たち」

水魚が車から出て鍵を閉めた。

「見つけてくれてありがとう」

水魚がそう言ったので、私は笑った。

「声をかけてくれてありがとう」

私も彼女にそう言った。彼女も笑った。

私たちは浜辺をゆっくりと歩きだした。夏なのに、夜明け前の海岸は肌寒かった。私たちは寄り添うようにぴったりとくっついて歩いた。人のぬくもりは生きている証拠だと私は胸を撫で下ろした。水魚もそう感じていたのかもしれない。

海は穏やかな波音に包まれながら、夜明けを迎えようとしていた。私たちもやがて視界に入ってきた防波堤から夜明けを迎えることにした。きっとあそこからなら朝日が良く見える。

防波堤に上り、海を見渡した。私たちの故郷は、少しずつ夜明けの色に染まっていく。私は真っ直ぐ前をみすえた。目の前に広がるのは、今日という光。始まりも終わりも、そんなものをすべてを飛び越えてくれるような、神々しい光だった。

水魚がふと呟いた。

「…もしかして、これを見せたかったのかな?」
「え?」
「悔しいけど、失ってみて初めて気付くわ。色んなものの重みとか。自分にどれだけ影響を与えてくれていたのか。…どこかで私は履き違えていたのかもしれない。生きていることは、決して当たり前なんかじゃないんだわ」

水魚の言う意味がわかるような気がした。

生きていることは、決して当たり前なんかじゃない。生きて死んでいくことが、当たり前なのだ。

弟も水魚の友達も当たり前のことが起こったまでだ。それがただ、早すぎただけ。私たちはそこに戸惑ってしまったのだ。

私の家族はどうなってしまうのだろう…。

「別にそれに縛られる必要はないと思う。個人を見ればあなたはあなただもの。あなたの好きなようにすればいいと思うわ」
「そうかな?」
「そうよ」

それを聞いて、なぜか楽に息が吸えるようになった気がした。自分から息苦しくする必要はないんだよ。

「ただ、投げやりになってはダメ。私はよくなるけどね」

水魚は腰に手をあてて自慢げに言った。私たちは笑いあった。その笑い声は朝日と同じくらい明るい色をしている。

私は大きく深呼吸をした。体内に一気に血液が駆け巡るのがわかる。やっと私の心と体は正常に戻ったのかもしれない。

「大丈夫?」

水魚が私に声をかける。もう彼女の瞳に暗い影はさしていなかった。きっと私もそうなのだろう。

「うん。お腹すいた」

水魚が笑った。

「じゃあ、朝食にしましょう」
「確か近くにファミレスがあったよね?そこで食べようよ」

人間はたくましいと思う。どんなに辛くても、泣くだけ泣いても、お腹はすくし、笑うことができる。

父と母もばらばらでもいい。笑うことができるなら。どこかでそうしているなら、私はいい。それでいいと思う。

「ほら、行こう」

水魚が私を呼ぶ。呼んでくれる人がいる。居場所なんて本当はどこにでもあったのだ。なかったのは、そこにあるはずの心。私自身の心だ―。

それから水魚とこれでもかというくらいファミレスで食べまくり、家に戻って爆睡した。目覚めた時、もう彼女はいなくなっていたけど、リビングのテーブルの上に彼女らしい書置きがあった。そこにはこう記されていた。

『また、来ます。ご馳走を作りに』―と。

私はまだ一人であの家にいるけど、彼女の訪問を心から楽しみにしている。




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=影響を受けた作品のご紹介=

ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★よしもとばなな「白河夜船/サンクチュアリ」×白鳥マイカ「red clover/Shelter」★

高校時代に授業中に手書きでノートに書いていた物語を発見!今回PCに急いで打ち込んだので、誤字脱字、古臭い言い回しなどあるかもしれません(後で訂正しますので)。良ければ、雰囲気だけでもお先にどうぞ。当時、どうも私はやたら海・涙・人魚・故郷っていう題材で物語を書いていたようです。(なぜ?)それにしても、手書きってアルバムを見ているようなこそばゆい気分だ。しばらく手書きの物語をPC入力・保存という若干手間な作業をすることになりそう。そのため時間がかかり、UPする頻度が落ちるかもしれません。良ければ、気長にお付き合い下さい。

① よしもとばなな
「白河夜船」
http://www.amazon.co.jp/%E7%99%BD%E6%B2%B3%E5%A4%9C%E8%88%B9-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%90%89%E6%9C%AC-%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%AA/dp/4101359172
「サンクチュアリ」
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%86%E3%81%9F%E3%81%8B%E3%81%9F-%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%A5%E3%82%A2%E3%83%AA-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%90%89%E6%9C%AC-%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%AA/dp/4101359164
学生時代、ばなな作品にハマり、影響を受けて書いた物語だと思います。なんか水魚という名前とかそのような気がする。普段の私は割と普通の名前が好きみたいだし。最近のものより、私は初期作品の方が読んでいるかもしれません。「キッチン(私は同時収録の「ムーンライト・シャドウ」も好き)」、「哀しい予感」とか。あと、ばなな作品は、出てくる食べ物がやたらとおいしそうなんですよね。それもなんかいいなあと思います。

②  白鳥マイカ
「red clover」
http://nicotter.net/watch/sm8933851
「Shelter」
http://www.youtube.com/watch?v=Oz0by-lAtQM
「Someday」
http://www.dailymotion.com/video/x3b0we_someday-%E7%99%BD%E9%B3%A5%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AB_music
「線」
http://nicotter.net/watch/sm8936337
書いていた頃に聞いていた音楽を忘れたので、今回入力作業をしながら聞いてた音楽を。最初はNorah Jonesを聞いていたんです(「マイ・ブルーベリー・ナイツ」みたいなロードムービー的な物語になるかと思って。でも、そういうわけでもなかった…)。個人的に気になる日本人アーティストさんを。白鳥マイカさんは「ラヴァーズ・キス」(吉田秋生さん原作漫画)という映画で出会いました。その映画で流れていた音楽です。なんかきれいな歌声が心地よくて、BGMに最適だったんです。


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