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パスワード入力が必要と表示される長編はアルファポリス様限定公開ですので、ここでは閲覧できません。お手数ですが、アルファポリス様(無料)をご利用ください。予約投稿中の作品もあり。詳細は下記。
【アルファポリス様限定公開】  長編作品紹介
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-256.html
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↓↓【第307夜】 グッドバイ  ジャンル:歴史 ↓↓
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人間として生まれたはずなのに、どうして私は人間としてきちんと生きられないのだろう。

女として生まれたはずなのに、どうして私は女としてきちんと生きられないのだろう。

幼い頃、病気のせいで右足が麻痺して動かなくなった。

学生の頃、乗っていたバスが事故にあい、腹部に重傷を負って子宮が使いものにならなくなった。

人間として生まれたはずなのに、どうして私は人間としてきちんと生きられないのだろう。

女として生まれたはずなのに、どうして私は女としてきちんと生きられないのだろう。

ねえ、どうして。

どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして…。

『どうして?』

私の人生は常に自分の決して答えが出ることのない『どうして』と向き合って行く日々だった。

家族は、こう言ってくれた。

『フリーダ、愛しているよ。それを忘れないで』

最初の絵を描いた。

キャンバスの前では素直になれた。

私は自分の運命を呪うことができた。

激しく、痛ましく。

それが私、フリーダ・カーロの画家としての個性になった。

絵は人々に高く評価され、私は賞賛された。

でも、それでいったいどうなったというのだろう。私は何を手に入れられたというのだろう。

自分が足りないものが堂々と明るみに、世間に、おもてに、出ただけだ。

人間として、女として、足りないものが―。

私は知っていた。

描く絵も、人の愛情も、決して私を救うことはできない。

私は私という深淵をのぞくことしかできないのだから。

本当の私はどこにいるのだろう。

人間としての私は?女としての私は?

いったいどこにいるのだろう。どうして、ここにいないのだろう。

どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして…。

『どうして?』

やがて壊死した右足を切断しなければならなくなった。

この苦痛はいったいどこまで続くのだろう。

私はどうして苦痛に耐え続けなければいけないのだろう。

描く絵は決して私を救うことができないはずなのに、どうして私は描き続けるのだろう。

人の愛情は決して私を救うことができないはずなのに、どうして私は求め続けるのだろう。

私は私という深淵をのぞくことしかできないのに―。

どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして…。

『どうして?』

それが人間という生き物だから?それが女という生き物だから?

…ああ、そうか。

たとえ、きちんとしていなくても私は人間なのだ。女なのだ。

新しい家族は、こう言ってくれた。

『フリーダ、愛しているよ。君自身もきっとね』

最後の絵を描いた。

キャンバスの前では素直になれた。

私は自分の運命を許すことができた。

優しく、愛おしく。

さようなら。

『人間として生まれたはずなのに、どうして私は人間としてきちんと生きられないのだろう』

そう問い続けた自分に。

さようなら。

『女として生まれたはずなのに、どうして私は女としてきちんと生きられないのだろう』

そう問い続けた自分に。

さようなら。

最後の絵に、思いを込める。

『 ViVA LA ViDA (生命万歳)』





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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★サカナクション『グッドバイpiano arr.』×フリーダ・カーロ『 ViVA LA ViDA (生命万歳)』★ 

これがおそらく今年最後のUPだと思います。他にも書きたいものがありましたが…。今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。

たぶん一般の方だと思うんですけど、サカナクション『グッドバイ』をピアノアレンジしていて 、それをたまたま聞いたところ、ガツンとやられまして。このピアノにあうような物語を書きたいと強く思ったんです。実際、書けたかは謎ですが。 なんでフリーダ・カーロが出てきたのかもよくわかりませんが…。

① サカナクション『グッドバイ piano arr. 』
https://www.youtube.com/watch?v=lXAJABHC_ds
原曲よりもこっちのピアノVer.の方が私は好き気かも。なんかドラマチックで。いや、原曲もいいんですけどね。
ちなみに原曲はこちら。サカナクション『グッドバイ 』
https://www.youtube.com/watch?v=kt5-Al0CMuk

② フリーダ・カーロ『 ViVA LA ViDA (生命万歳)』
画家フリーダ・カーロの遺作。それまで狂気じみた痛々しいものが多かったのに、最後の最後にこれとかなんてカッコいいんだ、フリーダ!これもギャップ萌えというのでしょうか。だてに眉毛くっついてないですよ、フリーダ。 私が彼女を知ったのは本上まなみさんが芸術家を紹介するテレビ番組でした。毎回、取り上げる人物とナビする女優さんが違っていて面白かったんですよね、あの番組。好きだったんだけどなあ。タイトル名、なんだったけ。もう一度、見たい!


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↓↓【第301夜】 嵐を呼ぶ女  ジャンル:歴史 2016/01/31 23:30UP↓↓
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私は嵐を呼ぶ女だ。

    *

電話のベルが鳴り響く。またかと思った。耳障りな事をこの上ない。いい加減、家の電話線を抜いてしまおうかとも考えたが、そうもいかない。担当編集者とのやりとりもある。

「ノガミさん、お願い!」

声を張り上げて、秘書の名前を呼んだ。次に、またかと思ったのはきっとノガミさんの方だろう。彼女は大きな溜息を吐きながら受話器を取った。電話越しの相手に自分の姿が見えるわけない。それなのに、ノガミさんはひたすら頭を下げている。その様子は会社の上司の尻拭いをする羽目になった憐れな部下のようだ。

「先生、私はいつまで謝り続ければいいんでしょうか?」

同じ電話主の苦情を何度も聞かされ、ノガミさんはうんざりとした面持ちで受話器を置いた。

「…今、書いてる小説が終わる迄(まで)…かしら…?」

優秀な秘書は私が今、何処まで書き上げているか進行具合も充分に把握している。私は苦い笑いを漏らした。彼女の溜息も大きくなる一方だ。

「ねえ、ノガミさん。別に電話主にはっきり云ってくれてもいいのよ?『こっちはあんたの伝記を書いてるんじゃない。小説を書いてるんだ!』って」
「先生は、火に油を注ぐ気ですか!?」
「あはは、そうねえ。火事になりそう。さすが私、嵐だけに止まらず、火事まで引き起こすか」
「何、わけがわからない事を云ってるんです。私、電話主…Nさんの云い分もわかるんですよ。ただでさえ、先生の書く小説は徹底した取材で有名なんですから。先生の書いたものを鵜呑みにする読者だって大勢いるんです。良い意味でも悪い意味でも、先生の作品って影響力が大きいんですよね」
「…そう云われても」

一応フィクションの明記はしている。それに、小説の感じ方は読者の自由だ。

「登場人物のモデルになっているNさん本人にしてみれば、文句の一つも云いたくなりますよ」

私が今、書いている小説はある文芸誌で月刊連載をしている。内容は戦後、沖縄の本土復帰。領土返還の際にあったとされる日米間の密約。それを追う新聞記者の物語だ。モデルとなった新聞記者は外務省の女性事務官と関係を持ち、密約の証拠となる機密文書を手に入れた。その二人の関係を赤裸々に描写したので、新聞記者のモデルとなった人物にしてみれば面白くないのだろう。怒りが収まらず、毎日のように抗議の電話をしてくるのだ。ノガミさんは頭を抱えていた。

「先生はさっき『こっちはあんたの伝記を書いてるんじゃない』とか色々云ってましたが…」
「え?」
「それ…云うなら自分の口でNさんに伝えて下さいね!」

これ以上、巻き込まれるのはご免だと云いたげに彼女は私を睨みつけた。私の目が泳いだ。

「…まさか、先生…」

ノガミさんの顔が、さっと青くなる。私は頭をかいて白状した。

「その、まさか。もう、とっくに云っちゃたのよねえ」
「えー、本当に云っちゃったんですか!?」

小説を書いている時は内にエネルギーを根こそぎとられるから、外で闘う気力があまりない。今ここで余計な力をとられたくない。さっさと逃げるが吉だ。私は彼女の前で手を合わせた。

「ごめん、ノガミさん。でも、云っちゃたものは…仕方ないわよねえ?」

唖然とする彼女を残して、私は「さて」と気持ちを切り換え、執筆に戻る事にした。

「もう、先生は嵐を起こすだけ起こして!」

最初は清楚で大人しかった彼女も今ではしっかり私に物云う秘書になってくれた。随分と逞しくなったものだ。私に向かって「嵐の後の掃除って、大変なんですからね!」と嫌味まじりの台詞も平気で吐けるようになった。なんというか、可愛い気がなくなってしまった。

「あら、体力と根性がついていいじゃないの?」

去り際、彼女の台詞を一笑に付す。そんな私も可愛い気がない事この上ない。

「やれやれ」

私が小説家になって、四十年近く経とうとしていた。


    *


『 私は凪よりも嵐を呼ぶ女だ。真正面から偽りなく彼とぶつかりたい。これほど迄に彼を愛しているのに、それを信じて貰えないほど恐ろしい苦しい事はない 』


私の青春時代は思い出しても、戦争と云う悍ましい色であっさり塗り潰されてしまう。敵機来襲の警報、逃げ惑う人々、飛び込んだ防空壕は息苦しく、湧き上がる敵愾心に何度も唇を噛んだ。煙の燻った焦土からは人間の焼けた嫌な匂いがした。

「…僕の処(ところ)にも赤紙が来たよ」

それでも愛する人がいた私は幸せだったのだろうか。涙を堪えながら彼を見送り、その後、二度と会う事ができなかったとしても。あの夏の暑い日、終戦を告げる玉音放送を聞いて、私はただ呆然としていた。「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」と云われても、これ以上一体どう耐えろと云うのだろう。どう忍べばいいと云うのだろう、と。

あの戦争は、一体何だったのだろうか?

私が小説家になったのは戦争の無残さや惨状、絶対いけないものだという事を命を懸けて伝えたかったからではないだろうか。人類の不幸は戦争から始まるという事を後世にきちんと残さなくてはならない。その使命感に燃える事で、終戦後、無気力になっていた自分を奮い立たせた。

…でも、本当の処はよくわからない。

もしかしたら、私は戦争を生き延びた者の後ろめたさから小説家になったのかもしれない。たまたま新聞社という処にいて、目の前に身を守れるペンがあった。それを握り、反戦を叫ぶ事で、己の生きる意味や価値を見出し、ただ自分の生(せい)を正当化したかったのではないか―。


    *


「最初、先生にこの小説のタイトルを聞いた時は驚きました。今迄にないロマンティックなものでしたから」

沖縄の話は、ずっと書きたいと思っていた。でも、書けずにいた。本土の者として、戦中から戦後にかけて沖縄の犠牲は恥と悔いしかない。一体どれほどの日本人が沖縄の終戦日を云うことができるのだろうか。

「私にだって可愛げがあるの」

私がそう云うと、ノガミさんは吹き出した。失礼な事この上ない。ひとしきり笑うと、彼女は息を整え、私に向き直った。

「でも、小説を読んでみてわかりました。先生のこれ迄の作品と同じで、私たちに問いかけるタイトルなんだなって」
「そう?」

私は人々に問いかけて来れたのだろうか。老体を鞭打って絞り出した声は、小説という形となって人々の心に届いたのだろうか。

「三流小説以下だなんて云って悪かった」

N氏の最後の電話は抗議ではなく、賞賛だった。最終的には「権力・社会・人間の相関関係を抉り出す姿は作家の真骨頂であり、常に崇高な問題を提起して、大衆に浸透させる。それは至芸だ」と褒めてくれた。でも、私が本当に嬉しかったのはその言葉ではなかった。一番嬉しかったのは彼が再び沖縄と向き合い、ペンを握ろうとしている事だった。

日米間の密約を暴いたN氏は国家権力に対峙し、社会的生命を失う。新聞社を辞め、地元に帰り、実家の青果店で静かに暮らすことを望んだ。でも、沖縄への強い思い、記者魂を捨て去ることはできなかったのだろう。私の小説が彼の心にどのように響いたのか、本当の処はよくわからない。私はただ小説のラストに自分の思い描く理想を託しただけだ。

誰もが自分らしく、人間らしく、生きられるように―。


    *


「…全く、とんだ嵐でしたよ」

無事に小説を書き終える事ができてほっとしていると、ノガミさんがお茶を淹れてくれた。どうやらカフェイン抜きの物を選んでくれたようだ。その事に少し彼女の優しさを感じる。

「あなたも可愛いげがあるじゃない」

一人こっそり呟いて微笑んだ。

「え、何か云いました?」

私は首を横に振った。共にお茶を飲みながら、穏やかな時間を過ごす。私が小説を書くのも、体力的に考えて今回の沖縄の話で最後だと思っていた。

「嵐がようやく終わったのね。そろそろ青空を見たいわ」

ゆっくり休む時間が欲しい。自分にも、そういう事が許されても良いのではないだろうか。度々、全身が原因不明の痺れに襲われるようになっていた。歩けなくなる事よりも、書けなくなる事の方が恐いと思うのは物書きの性(さが)だろうか。

「何を云ってるんですか!?」

ノガミさんがテーブルを強く叩いた。

「先生はちゃんと嵐の後にいつも青空を見せてくれるじゃないですか、小説のラストで!」
「え?」
「それに、すぐ次の嵐を呼ぶくせに!私、もう肝を据えたんですよ!先生、どうせ嵐を呼ぶなら、その後は前よりも、もっと凄い青空をお願いします。次は、もっともっと凄い青空を。その次はもっともっともっと凄いものを。一緒に沢山見ましょう。約束して下さい!」
「ノ、ノガミさん…?」
「ねえ、先生なら小説でそれができるでしょう?」

彼女の気迫に押され、私はうっかり頷いてしまった。ノガミさんはにんまりと笑っている。

「やれやれ」

自分の事がよくわからなかった私だが、目の前にそんな私を私以上にわかってくれている人がいる。それだけで、またペンを握る事ができるような気がした。私は単純で、とても幸せな人間なのかもしれない。

「…実は気になっている事があるのよ。太平洋戦争で最初の捕虜になった日本人なんだけど、彼は真珠湾攻撃で…」

私が小説の構想を打ち明けると、彼女は大きな溜息を吐いた。

「ほら、次の嵐が待ってたんじゃないですか。もう出し惜しみして、私に恥ずかしいことを言わせて人が悪い。先生ってやっぱり可愛げがないんだから!」

私たちは声を上げ、笑い合った。新たな嵐はすぐ其処(そこ)にある。私は覚悟を決め、約束の待つ大海に舟を出した。




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引用文献(文中)
・山崎豊子「二十一歳の日記」
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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 「NHKスペシャル作家 山崎豊子~戦争と人間を見つめて~」
★ 「クローズアップ現代 小説に命を刻んだ 〜山崎豊子 最期の日々〜」
★ 「BS世界のドキュメンタリー 沖縄返還と密約」
★ Cocco「ニライカナイ 琉球國祭り太鼓振り付け全編バージョン」

2016年、初めて書いた物語になります。「書きたい」という気持ちだけで空回った感が否めませんが、今年もよろしくお願いいたします。ショートショートや短編は久しぶりでしたね。長距離走より短距離走が好きな私には長編よりこちらの方がやっぱり性に合っているのかもしれません。さくっと終われるしな。

物語の主人公のモデルは作家の山崎豊子さん。彼女の小説「運命の人」から遺作になってしまった「約束の海」までの話。でも、登場人物たちの言動、性格などは虚構です。私の物語は半分フィクション感覚で楽しんで下さると嬉しいです。


① 「NHKスペシャル作家 山崎豊子~戦争と人間を見つめて~」
http://www.dailymotion.com/video/x37x1s2
読者に影響を与える作家は多いかもしれませんが、作中の登場人物、そのモデルとなった人にまで影響を与え、生き方を変えた作家はそうはいないんじゃないでしょうか。初めてドキュメンタリーを見て泣きました。これをみて今回、山崎さんの物語を書きたいと思いました。

② 「クローズアップ現代 小説に命を刻んだ 〜山崎豊子 最期の日々〜」
http://www.dailymotion.com/video/x17fneh_%E5%B1%B1%E5%B4%8E%E8%B1%8A%E5%AD%90-%E6%9C%80%E6%9C%9F%E3%81%AE%E6%97%A5%E3%80%85_creation
他にも山崎さんの特集していた番組はないか探しました。NHKスペシャルが仲代達矢さん、クローズアップが上川隆也さんが語り手。「大地の子」コンビはズルい!涙腺がヤバいです。それはさておき、山崎さんの担当秘書さんや編集さんのお話も聞けて良かった。

③ 「BS世界のドキュメンタリー 沖縄返還と密約」
https://www.youtube.com/watch?v=ArKC_kla2A8
沖縄密約について私はきちんと知らなくて「勉強しなくちゃ今回の物語を書いちゃいけないよね」と思い、調べて出会った番組。そのわりには密約に関してあまり物語で掘り下げることができなかったので、別の機会で書けたらと思います。日本国憲法草案や沖縄密約に関わった策略家リチャード・フィンさんについて書きたいです、いつか!

④ Cocco「ニライカナイ 琉球國祭り太鼓振り付け全編バージョン」
https://www.youtube.com/watch?v=PFqxf8xsjcc
「運命の人」は沖縄の話。なので、沖縄出身のシンガーの歌を聞きながら物語を書こうと思いました。すると、沖縄を思って歌うCoccoに出会いました。PVの琉球國祭り太鼓、はじめてみました。あら、ヤダ。カッコいい!


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敗戦後、日本に降り立った占領軍最高司令官ダグラス・マッカーサーの残した謎の言葉がある。

『ジェネラル・イシイはどこにいるか?』

   *

アキモトが東大医学部血清学教室から勤務先を満州の研究施設に変えたのは、ただ家族と離れたくなかったからだ。

戦時中は誰もが「お国のために」と命をかけて戦っていた。男子は赤紙がきたら兵士として戦地にいくのは当然だったし、女子や子どもは兵器や航空機の工場などで厳しい労働を強いられた。これまで軍役を免れていた医学者たちも「科学者の戦争動員令」の発令により、例外ではなくなってしまった。

アキモトには妻と小さい子どもがいた。彼らを残して戦地に向かうことはなるべく避けたかった。だから満州行きの話が来た時、飛びついたのかもしれない。日本を離れることになるが、家族も同行することができる。生活環境も申し分ない。しかも研究も続けられるというではないか。断る理由などなかった。

しかし、満州に訪れた彼が巨大な研究施設を前に絶望したのはなぜろう。

『お前は何も知らずに来たんだな』

先に赴任していた友人の暗い表情のせいか、

『今日、俺はマルタを三本倒したよ』

嬉々とした様子で自分の仕事を語っていた同僚のせいか、

『よく来たね、アキモト君』

身の毛がよだつほどの恐怖を覚えた、ある人物に出会ったせいか-。

   *

巨大な研究施設だった。ロの字型に立てられた研究棟を中心に近くには鉄道、二十以上もある官舎、大講堂、プール、庭園、浴場、運動場、神社などもあり、そこに医学者や軍人が三千人ほど働いていた。生活環境においては申し分なく、これなら妻も安心するだろうとアキモトは思った。そこはまるで築きあげられた一大都市のようだった。

研究施設の表向きの仕事は防疫給水を行うというものだった。兵士の感染症予防のための衛生的な給水体制の研究。感染症対策ならば、アキモトのこれまでの研究がおおいに生かせるに違いない。自分の研究は人々を救うものだと彼は信じて疑わなかった。

施設にまだ慣れないアキモトがふと研究棟の廊下の窓から内庭を見下ろすと、ベンチに座っているロシア人女性に目がいった。彼女は子どもを大事そうに抱えている。

なぜこんなところに彼らはいるのだろう?捕虜だろうか?

「もしかして、アキモトじゃないか?」

友人と再会したのはそんな時だ。しかし、アキモトは一瞬彼が誰だかわからなかった。高校時代の同級生は昔の面影をなくし、生気をそいだ顔をしていた。

「アキモト、お前もとんでもないところに来てしまったな」
「とんでもないところ?」
「…知らないのか?そうか。お前は何も知らずに来たんだな」

アキモトは少し怪訝な顔をしたが、友人は何も言わない。アキモトは気まずい雰囲気に話題を変えようと、窓の外を指差した。

「なあ、あそこにいるのはロシア人の母子(おやこ)だろう?どうしてこんなところにいるんだ?」

その質問にも友人はなぜか答えなかった。黙り込み、よりいっそう暗い表情になる。

その時、数人の医学者たちが彼らの横を通り過ぎて行った。

「なあ、今日はマルタを何本倒した?」
「今日、俺はマルタを三本倒したよ」
「俺の負けか。俺は二本だった」

彼らの奇妙な会話にアキモトは首をかしげた。マルタとは一体何だ。彼らは木を倒す作業でもしていたのだろうか?これだけ大きい研究施設だ。アキモトの知らない仕事があるのかもしれない。

そんなアキモトの様子を察したのか、友人は重い口をようやく開いた。

「アキモト、本当にお前は何も知らずに来たんだな」

次の言葉にアキモトは耳を疑った。

「マルタとは、人体実験用の捕虜のことだ」

   *

マッカーサーの探している男の行方は依然としてつかめなかった。

満州に存在していたと言われる謎の極秘部隊。敗戦色濃厚だった当時の日本は国際法に背くことで戦争を続けようとしていた。細菌やウイルス、それらが作り出す毒素で人間を戦闘不能にし、死に追いやる生物化学兵器の研究、実践。捕虜を人体実験の道具とし、大きな成果をあげた。

 “ 731部隊 ” 

マッカーサーは、その部隊を作った男を探していた。

   *

「よく来たね、アキモト君」

声がして振り返ると、そこには日本人らしかぬ背の高い男が立っていた。

「…イシイ軍医中将」
「アキモト君、ここにはもう慣れたかね?」

アキモトは何も答えなかった。イシイ軍医中将は口の端だけで笑った。

「医学者は自尊心が高い。私もだがね」

アキモトは視線を窓の外に戻し、語りだした。

「…少し前、ここから見える内庭のベンチに、ロシア人の母子が座っていたんです。イシイ中将はご存知ですか?」
「いや、知らないな」
「姿がないということは、彼らはおそらくこの世にはいないのでしょう」
「…君は何を言いたいのかな?」

アキモトはイシイ軍医中将を見つめた。

「言いたいことも、言えることも、何もありませんよ。もう人を救う医学者でない私に」

イシイ軍医中将は声を上げて笑った。

「私に物言うとはたいした度胸だ。面白い。そんな君に一つ教えてやろう。この戦争、日本は負けるだろうね」

イシイ軍医中将の意外な発言にアキモトは驚いた。この男こそ日本の勝利を信じ、「お国のため」と真っ先に叫ぶような人物だと思っていた。

「負ければ、他国の支配を受けるだろう。他人に虐げられること。私はそれが心底、嫌でね。だからその時がきたら、うまくやろうと思っているんだ」
「…どういうことですか?」
「国際法が禁止している研究だ。本当のところ、喉から手が出るほど、その研究資料を欲しがる輩(やから)がいる」

アキモトは言葉を失った。この男は何を言っているのだろう?

「私を悪と呼ぶなら、そいつらは一体何だろうね?」

   *

その男は研究資料を手にGHQ本部を訪れると、口の端だけで笑った。

…731部隊の者は、戦犯に問われることはなかったという。医学者たちはその後、日本医学界の第一線に復帰、能力を買われ渡米した者もいた。日米間でどのような密約があったのか…知る者は限られている。

<米軍調査官ヒルのレポート (抜粋)>
…このような情報は人体実験につきまとう良心の咎めに阻まれて我々の実験室では得られないものである。731部隊員の戦犯免責と交換に、こんな貴重なデータが手に入るなら安いものだ…。

『 私を悪と呼ぶなら、そいつらは一体何だろうね?』

   *

アキモトは研究棟の廊下の窓から内庭を見下ろしていた。母子の姿がなくなっても、そこを眺めるのが彼の日課になっていた。

研究意欲に燃えていた頃の自分が懐かしい。ただ純粋に人を救うためにと研究に没頭していた頃の自分が…。

自分は、もう医学者ではない。もしかしたら、人間ですらないのかもしれない。

自責の念にかられていると、やがて、視界の先におぼつかない足取りの子どもが入ってきた。
母親の姿はなく、その子は一人ベンチに座り、ぼんやりとしている。

…まさか、あの子どもは…。

「生きていたのか…」

それを見たアキモトは悲痛な声を漏らし、泣き崩れた。
床に落ちる涙は、彼がまだ人間であることをなんとか伝えようとしていた。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ 知ってるつもり『731部隊と医学者たち』 × noisycell 『innocence』 ★

石井四郎軍医中将、秋元寿恵夫さん、マルタと呼ばれた人々、単に戦争の悲劇を書きたかったのか、自分でもよくわかりません。影響を受けた歴史番組の内容をそのまま文章におこしただけという気もするしなあ。ちなみにイシイ中将とアキモトのやりとりは私が勝手に作った話。半分フィクション感覚でお読み下さると嬉しいです。

① 知ってるつもり『731部隊と医学者たち』
数ある歴史番組の中で、これを越えるものにまだ出会ってません。小さい頃、歴史好きの父と見ていました。今思うと、編集が凄くうまかったのかな。BD出てるなら、買うのに…。この『731部隊~』は衝撃的で、最初から死体の写真はバンバンでるわ。とにかく容赦なくて。恐くて震えた記憶が。今回、再度視聴できるとは!
http://www.dailymotion.com/video/x1uldp5_%E7%9F%A5%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%82%8B%E3%81%A4%E3%82%82%E3%82%8A-731%E9%83%A8%E9%9A%8A%E3%81%A8%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%9F%E3%81%A1_tech

② noisycell 『innocence』
https://www.youtube.com/watch?v=kHCTl5V-zV4
ちょっと前にヨシノサツキさんの「ばらかもん」にハマってたんですが、そこで使われてた音楽が凄く良かったんです。そのままの流れで、ちょうど今回のを書いてるときに聞いてたのがこれでした。私の物語とはあってないかもですが。もう一つの音楽である「らしさ」は以前他の物語としてUP済なので、そちらも良ければ。
【第143夜】 らしさ 
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-171.html

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今でも思い出すと、胸がしめつけられる。

もう亡くなってしまった私たちの国。私たちの故郷。そこには私たちの一生分の幸せがつまっていた。

大地を駆けまわる子供たち。それを見守る大人たち。人々は笑顔で、明日は希望の光に満ちていた。

家族は血縁だけではなく、この未開の新天地にやってきた者すべてがそうだった。ともに喜びや悲しみを分かち合い、力を合わせて暮らしてきたのだ。

『 日本という故郷を捨てたのですか? 』

そう言えば誰かに聞かれたことが、…いや、言われたことがある。

思わず、私は笑った。何を言ってるの、と。

『 私たちが日本に捨てられたのだ 』

皮肉ではない。事実だ。

昭和11年、貧しい小作の長女だった私はたくさんいる兄弟のために、身売りしなければならなかった。そんなときに『大陸の花嫁』の話を聞いた。

中国の東北地方にある満州国、日本の領土になったその地に移民として渡った日本人、満蒙開拓団に女手が必要だという。つまり花嫁を探しているとのことだった。

海を渡って満州へ行き、花嫁にならないか…?

それは私にとって悪くない話のように思えた。お腹いっぱい食べることができるなら。それで充分だ。ひもじい思いをすることさえなければ。土地を取られた中国人が反発しているときいたが、それは関東軍が取り締まってくれる。恐れることはない。…中国人と言っても同じ人間だろう。

…花嫁…。

何よりここではないどこかへ行きたかった。毎日、その日の食べ物を気にしながら生きていく暮らしに嫌気がさしていた。いつ言われるかわからない身売り先に怯えるより、ずっといいかもしれない。見たこともない場所、もしかしたら希望さえあるかもしれない新たな故郷…。私は初めて夢を見た。

そして、『大陸の花嫁』になった。

海を渡った花嫁たちは私のような小作の出が多かった。満州に向かう船の中で白いご飯が出た時はみんなで手を取り合って喜んだ。そういう時代だった。

やがて迫りくる不穏な気配に誰も気づきもしなかった。気づいていても、もうどうすることもできなかったのかもしれない。

『 …時代のせいにしてはいませんか? 』

そう言えば、誰かに言われたことがある。

思わず、私は笑った。何を言ってるの、と。

『 じゃあ、私たちの生きた時代を人々は何て呼んでるの? 』

皮肉ではない。事実だ。

生まれて初めて粗末ではない着物に袖を通し、今は亡きあの国で私は花嫁になった。

やがて娘ができた。息子も生まれた。家族は増えたが、豊かで実りの多い土地に作物はどんどん育ち、昔の貧しい生活を忘れさせてくれた。忘れることができるというのはなんと幸福だろう。

私は夢をつかみ、叶え、この幸せは一生続くものだと思っていた。
でも、それは今は亡きあの国の花嫁たちの夢の終わりだった。

戦争が始まり、開拓団は免除とされていたはずの兵役に夫をとられ、家や子供、年寄りは残された女が守らなければならなかった。

中国人とソ連軍の侵攻から逃れるため土地を手放し、荷物を抱え駅に向かったが、線路は関東軍によりすでに爆破されていた。

私たちは、見捨てられた。

中国人が襲撃してきて、武器を持って戦ったあの娘、ソ連軍が女をあさりに来て必死に抵抗したあの娘、逃げ場がなく集団自決したあの娘、何日も歩きどおし、途中で食べ物がなくなってしまい、中国人の民家に子供を置き去りにしたあの娘、命からがらようやく日本人避難所に辿りついた時、腕に抱える我が子の死に気づいたあの娘…。

私たちは、生きたかった。ただ、それだけだった。

日本行きのひきあげ船に乗り、懐かしいはずの生まれた土地に戻っても、もはや居場所はなく、開拓団で集結して新天地を探した。みんな気持ちは同じだった。日本内で根をはやし、土地を耕し、そこで女は夫の帰りを待ち続けた。

私は夫の死の知らせを聞くまで、彼がシベリアで捕虜となり、過酷な労働を強いられていたことを知らなかった。

どうしてか涙は出なかった。きっとそれは今は亡きあの国においてきてしまったのだろう。
ただ残された子供たちを彼の唯一の形見だと思い、必死に懸命に育てることしかできなかった。

私が泣くことができたのは、やがて娘が嫁ぐことになり、その花嫁衣装を見た時だ。

もう亡くなってしまった私たちの国。私たちの故郷。そこには私たちの一生分の幸せがつまっていた。

人々は笑顔で、明日は希望の光に満ちていた。

今でも思い出すと、胸がしめつけられる。



=====================================



=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ ドラマ「開拓者たち」 ★

NHKの戦争を描いたドラマは胸が苦しくなりますが、凄味のある大作ばかりです。山崎豊子さん原作「大地の子」はご存知の方も多いと思いますが、この満島ひかりさん主演の「開拓者たち」もいいです!あと、長谷川京子さんが日本人女性役を演じ、韓国人男性と恋に落ちる「海峡」は後編を見るのを逃してしまい、未だに続きが気になっています。

ドラマ「開拓者たち」
http://www.amazon.co.jp/%E9%96%8B%E6%8B%93%E8%80%85%E3%81%9F%E3%81%A1-Blu-ray-%E6%BA%80%E5%B3%B6%E3%81%B2%E3%81%8B%E3%82%8A/dp/B007IPPQ22/ref=sr_1_2?s=dvd&ie=UTF8&qid=1438329750&sr=1-2&keywords=%E9%96%8B%E6%8B%93%E8%80%85%E3%81%9F%E3%81%A1
http://7tv7dorama.blog.fc2.com/blog-entry-1516.html
主人公だけでなく、その兄弟たちにもスポットが当たって色々な人間ドラマあります。家族がバラバラになりながら、それぞれ必死に生きている姿に涙し、胸を打たれます。みなさん演技がうまくてやばかったのですが、特に新井浩文さんに驚きました。今まで悪役のイメージだったんです。口数少ない優しい夫役にぴったりでした。

ドラマ「大地の子」
これは衝撃でした、本当に。
https://www.nhk-ondemand.jp/program/P200800007100000/
http://www.youtube.com/watch?v=Zck6Uey-760

ドラマ「海峡」
韓国人男性役、日本の方だったんですね!「大地の子」の上川さんといい、いいキャスティングするなあ。
http://www.amazon.co.jp/%E6%B5%B7%E5%B3%A1-DVD-BOX-%E9%95%B7%E8%B0%B7%E5%B7%9D%E4%BA%AC%E5%AD%90/dp/B0012PGMTK
http://www.free-douga.jp/drama.php?num=163

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前回UPした【第67夜】知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)には、もう一つ違った結末がありました。せっかくなので、UPを。もし、興味のある方がいたらどうぞ~。

↓もう一つの結末ver.です(ラストだけ少し違います。*が目印です)↓


=====================================

「おや、ムハンマド。また来たのかい?」

ムハンマドと呼ばれた少年は、豊かな髭をたくわえた男に大きな声で挨拶をした。

「こんにちは、館長さん!今日も物語を聞きに来ました」

館長と呼ばれた男は笑顔で少年を迎えた。

「お入り、ムハンマド。ようこそ、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』へ」

ここは今から約1100年前のイラク、バグダッド。

当時、この地はユーラシア最大の都市として栄えていた。カリフ(※王または指導者の称号)と呼ばれるイスラム最高権威者のもと大きな争いもなく、人々は明るく豊かに暮らしていた。

チグリス・ユーフラテス両河が生んだ肥沃な土地は陸路・水路ともに他民族との交易を盛んにし、北東はイラン、北西はシリア、南西はメッカの方向、南東はチグリス川へと繋がり、その中心であるバグダッドは莫大な富を手に入れ、大いに繁栄した。この地が「世界の十字路」または「平和の都(マディーナト・アッサラーム)」と呼ばれるゆえんである。

交易が運ぶのは何も金や名声、食料や物だけではなかった。知識や文化も運んきた。

時のカリフはそこに目を付け、国の知識・文化レベルを上げるため、古今東西の文献をイスラムの言語であるアラビア語に翻訳することを国家事業とした。

その担い手となった場所が、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』である。
世界の知識の宝庫として、世界の大図書館として、何十万という蔵書が収蔵された。

そこに毎日のように通いつめる少年がいた。先ほどの少年、ムハンマドである。

「妹はすっかりシンドバッドの虜なんです。いっぱい笑うようになって、これも館長さんのおかげです」

ムハンマドはある日、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の扉を叩いた。

館長が事情をきくと、病で伏せている妹のために面白い物語を聞かせてやりたいと言う。自分が覚えた昔話や童話は底をつき、途方に暮れてしまった。そこで『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の噂を聞いた。

なんでも『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の住人たちに知らないものなどないらしい。彼らに聞けば、面白い物語を教えてくれるにちがいない。そう信じて、ムハンマドはここにやって来たのだ。

「さて、昨日はどこまで話したかな?」

館長は翻訳作業部屋にムハンマドを案内すると、腰を下ろした。ムハンマドもそれにならう。

「シンドバッドが深い谷底に落ちたところです」

作業部屋では『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の住人たちがそれぞれの翻訳作業に没頭していた。最初は彼らの邪魔になるのではないかとおそれたムハンマドだったが、自分など眼中にないことをすぐに知ることとなった。彼らの集中力は高く、こちらが息をのむほどの凄まじい速さで筆を走らせていた。もしかしたら、自分の存在すら気づいてないのかもしれない。

「おお、そうだったな。航海に出たシンドバッドは、上陸した無人島に置き去りにされてしまった。島には巨大な鳥がいて、その足に自分自身を結びつけて脱出するが、ついた先はダイアモンド鉱石で構成された峻険な山に囲まれた谷間だった…ここまでだったかな?」
「はい。とても気になるところで終わってしまって、妹に続きをせがまれて大変でした。僕もまだ続きを知らないんですから、話すことなんてできませんし…」

館長はふっと笑った。

「それは少し気の毒なことをしたね。でも、物語は昔から気になるところで終わり、次回に続くものなんだよ。その方が、より楽しみが増すだろう?」
「そうか、それもそうですね」

ムハンマドはにっこりした。しかし、その目は妹に負けないくらい輝いている。兄妹そろって好奇心旺盛なのだろう。館長は立派な髭を軽く整えると、口を開けた。

「さあ、続きを話そう。シンドバッドの落ちた谷底には大蛇がうようよしていた」

それを聞いてムハンマドの顔は青くなった。

「…大蛇って、蛇のことですか?」
「そうだよ。巨大な蛇だ。とても怖いだろう?だから、シンドバッドは逃げ場を探したんだ。すると、骨付き肉が落ちていた」
「骨付き肉?」
「…ムハンマドは骨付き肉を知らないのかい?」

頷くムハンマドに館長は咳払いをして訂正した。

「骨付き肉ではないな。確か…あれはそう、切り落とされた羊の生肉だったな」

ムハンマドの納得した様子に安心して館長は続けた。

「それは、こういう険しい場所でダイアモンドを採取するための仕掛けだったんだよ。付近の住人は羊の生肉を崖から落として鉱石を肉に食い込ませ、それを巨大な鳥たちが運び上げるのを待って奪い、肉からダイアモンドを取り出したんだ」
「頭がいいなあ。ダイヤモンドってきれいな石ですよね?」
「そうだよ。もっとも固い鉱石と言われている」

妹に見せてやりたい、ムハンマドは自分も見たことのない石に思いを馳せているのかもしれない。

「話を戻そう。シンドバッドは落ちているダイアモンドを掻き集めると、肉に自分自身を縛りつけた」
「え?まさかシンドバッドは…」
「そう、巨大な鳥がその肉を、取りにくるのを待ったんだね。やがて鳥が飛んできた…」

館長の絶妙の間に、ムハンマドの鼓動は高鳴った。ごくりと息をのむ音がはっきりと聞こえてくる。

「でも、恐怖は一瞬だった。気づけば、シンドバッドは宙に浮いていたんだ。彼は崖にいた住人たちの手を借りて、鳥の手を逃れ、こうして脱出を果たしたんだ。もちろん、住人たちにお礼としてダイヤモンドを渡したよ。でも、自分の分もちゃっかりポケットにしまっていただろうね」

手に汗を握っていたムハンマドは大きく息を吐いた。それから、拍手をして感動を伝えた。

「シンドバッドは、すごいなあ!いつも絶体絶命の危機を乗り越えて、笑っているんだから!!」

その感想に、館長は満足げに微笑んだ。

「さあ、今日はここまでだよ。家に帰って妹に聞かせてやるといい。続きはまた来た時にしよう」

ムハンマドはまた大きな声で挨拶をすると、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』を元気よく後にした。

ムハンマドを見送った館長が作業部屋に戻ると、翻訳に没頭していた住人たちが急に筆を止め、顔を上げた。

「帰ったな」
「帰りましたね」
「行ったようだな」
「行っちゃいましたね」

そして住人たちは同時に、安堵のため息をもらした。

「だから、言ったじゃないですか!骨付き肉なんて、最近の若い子は知らないって!」

住人の中でも一番年の若い男が声をあげた。

「何を言うんだ!若いたって、お前は30代だろう?肉っていったら、骨付き肉!あれは、先祖代々わしらのロマンだったんじゃ!」

一番年長者である老人も負けじと声を張り上げ、反論した。

「何がロマンだ!イスラムは肉がほとんど禁止じゃないか。とっさに館長が僕らのよく食べる羊の肉にかえてくれたけど、超不自然でしたね!僕はムハンマドにあやしまれないか、ヒヤヒヤしっぱなしでしたよ…」

老人もそこは素直に反省をしているようで、小さい体をより小さくさせた。そこをとりなすのが館長の役目だった。

「まあまあ、スリリングなのは面白い物語の醍醐味だろう?」
「語り部がスリリングで、どうするんですかっ!?」

30代男の容赦ないつっこみに、館長も他の翻訳者たちも、愉快そうに笑った。

「いいじゃないか。ムハンマドのおかげで、こうして私たちも笑顔になれるんだから」

本当は物語なんて、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』には、まだ存在しない。彼らは膨大な数の文献、主に哲学や医学、天文学などと格闘していたのである。

しかし、思いつめた少年が訪れたあの日、その事情をきいた住人たちは、とっさに頷いてしまった。「面白い物語が、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』にある」と。

「私はよく覚えているよ。私がムハンマドの事情をここできいていると、みんな鼻をすすったり、目頭をおさえたり、無言の圧力をかけてきてくれたことを…」

恥ずかしそうに頭を下げる住人たちに、館長は面白がって笑顔で続けた。

「それに、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の住人たちに知らないものはないと言われたら、期待にこたえないわけにはいかない。そうだろう?」

館長の絶妙の間は、ここでも健在だった。

「さあ、心優しい少年のために物語の続きを一緒に考えてくれ。みんな一緒なら、より素敵な物語ができるだろう」

住人たちは観念したように笑った。
今夜も残業になるな。まあ、それも悪くないか、と思いながら…。


   *


ムハンマドと呼ばれていた少年は、街一番活気のあるバザール(市場)を目指して走っていた。

「あ、いたいた!王子、どこに行かれてたんですか?」

王子と呼ばれ、少年は馴染み深い顔に手を振った。

「悪い。ちょっとまた近くを散歩していた」
「バザールの中を探してもいないから、焦りましたよ」

少年は優雅に笑った。平民の装いをしていても、どこか品の良さが香る。声をかけた男はあきれた。

「毎日、王宮を抜け出して…全く!少しは私の身にもなって下さいよ」
「すまんすまん、実は面白い場所を見つけてな」
「…面白い場所?」
「ああ。知恵者が住むというから、どんなところか気になって訪ねてみたのだ。すると、これが中々面白くてな。…私がカリフになったら、王宮に招いてやってもいい。その前に私の正体に気づけばの話だが…」

思い出し笑いをする王子に、世話係の男は肩をすくめた。

「はいはい。よくわかりませんが、ハールーン王子が楽しかったことだけはわかりましたよ。さあ、早く妹君のお土産を買って帰りましょう」
「アッバーサは物語があれば充分だろう」
「は?」
「いやいや、早く元気になるよう精のつくものを買っていくか」

王子は少し思案してから、手を叩いた。

「そうだ!骨付き肉とやらはどうだろう?」

著者不明の『アラビアンナイト(千一夜物語)』はここバクダッドで生まれ、長く語り継がれることになる。その物語の中で一人、実在の人物がいた。度々王宮を抜け出して、街に繰り出す風流な王…。

彼の名は、ハールーン・アッ=ラシード。アッバース朝全盛期のカリフである。

もしかしたら、『アラビアンナイト(千一夜物語)』は、彼と『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の住人たちとの出会いが生んた物語だったのかもしれない。

=====================================

=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ NHKスペシャル『文明の道⑥バグダッド大いなる知恵の都』×the guitar plus me『highway through desert』★

私が書く物語は、半分フィクション感覚でお読みになって下さると嬉しいです^^

① NHKスペシャル『文明の道⑥バグダッド大いなる知恵の都』
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2003/1012/
【第63夜】往復書簡と今回ので、初めて世界史に挑戦しましたが、どうだったでしょうか?私は知らない歴史だったんですけど、世界史の授業ではふれるところだったのかな?ちょっとふざけすぎたかも。

② the guitar plus me『highway through desert』
http://www.youtube.com/watch?v=a93AVCDfqn0
前にUPした【第63夜】往復書簡 も彼らを聞いていたのですが、なんとなく今回もこれを聞いてました。優しい物語を書きたくなる音楽なのかな?

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「おや、ムハンマド。また来たのかい?」

ムハンマドと呼ばれた少年は、豊かな髭をたくわえた男に大きな声で挨拶をした。

「こんにちは、館長さん!今日も物語を聞きに来ました」

館長と呼ばれた男は笑顔で少年を迎えた。

「お入り、ムハンマド。ようこそ、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』へ」

ここは今から約1100年前のイラク、バグダッド。

当時、この地はユーラシア最大の都市として栄えていた。カリフ(※王または指導者の称号)と呼ばれるイスラム最高権威者のもと大きな争いもなく、人々は明るく豊かに暮らしていた。

チグリス・ユーフラテス両河が生んだ肥沃な土地は陸路・水路ともに他民族との交易を盛んにし、北東はイラン、北西はシリア、南西はメッカの方向、南東はチグリス川へと繋がり、その中心であるバグダッドは莫大な富を手に入れ、大いに繁栄した。この地が「世界の十字路」または「平和の都(マディーナト・アッサラーム)」と呼ばれるゆえんである。

交易が運ぶのは何も金や名声、食料や物だけではなかった。知識や文化も運んきた。

時のカリフはそこに目を付け、国の知識・文化レベルを上げるため、古今東西の文献をイスラムの言語であるアラビア語に翻訳することを国家事業とした。

その担い手となった場所が、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』である。
世界の知識の宝庫として、世界の大図書館として、何十万という蔵書が収蔵された。

そこに毎日のように通いつめる少年がいた。先ほどの少年、ムハンマドである。

「妹はすっかりシンドバッドの虜なんです。いっぱい笑うようになって、これも館長さんのおかげです」

ムハンマドはある日、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の扉を叩いた。

館長が事情をきくと、病で伏せている妹のために面白い物語を聞かせてやりたいと言う。自分が覚えた昔話や童話は底をつき、途方に暮れてしまった。そこで『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の噂を聞いた。

なんでも『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の住人たちに知らないものなどないらしい。彼らに聞けば、面白い物語を教えてくれるにちがいない。そう信じて、ムハンマドはここにやって来たのだ。

「さて、昨日はどこまで話したかな?」

館長は翻訳作業部屋にムハンマドを案内すると、腰を下ろした。ムハンマドもそれにならう。

「シンドバッドが深い谷底に落ちたところです」

作業部屋では『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の住人たちがそれぞれの翻訳作業に没頭していた。最初は彼らの邪魔になるのではないかとおそれたムハンマドだったが、自分など眼中にないことをすぐに知ることとなった。彼らの集中力は高く、こちらが息をのむほどの凄まじい速さで筆を走らせていた。もしかしたら、自分の存在すら気づいてないのかもしれない。

「おお、そうだったな。航海に出たシンドバッドは、上陸した無人島に置き去りにされてしまった。島には巨大な鳥がいて、その足に自分自身を結びつけて脱出するが、ついた先はダイアモンド鉱石で構成された峻険な山に囲まれた谷間だった…ここまでだったかな?」
「はい。とても気になるところで終わってしまって、妹に続きをせがまれて大変でした。僕もまだ続きを知らないんですから、話すことなんてできませんし…」

館長はふっと笑った。

「それは少し気の毒なことをしたね。でも、物語は昔から気になるところで終わり、次回に続くものなんだよ。その方が、より楽しみが増すだろう?」
「そうか、それもそうですね」

ムハンマドはにっこりした。しかし、その目は妹に負けないくらい輝いている。兄妹そろって好奇心旺盛なのだろう。館長は立派な髭を軽く整えると、口を開けた。

「さあ、続きを話そう。シンドバッドの落ちた谷底には大蛇がうようよしていた」

それを聞いてムハンマドの顔は青くなった。

「…大蛇って、蛇のことですか?」
「そうだよ。巨大な蛇だ。とても怖いだろう?だから、シンドバッドは逃げ場を探したんだ。すると、骨付き肉が落ちていた」
「骨付き肉?」
「…ムハンマドは骨付き肉を知らないのかい?」

頷くムハンマドに館長は咳払いをして訂正した。

「骨付き肉ではないな。確か…あれはそう、切り落とされた羊の生肉だったな」

ムハンマドの納得した様子に安心して館長は続けた。

「それは、こういう険しい場所でダイアモンドを採取するための仕掛けだったんだよ。付近の住人は羊の生肉を崖から落として鉱石を肉に食い込ませ、それを巨大な鳥たちが運び上げるのを待って奪い、肉からダイアモンドを取り出したんだ」
「頭がいいなあ。ダイヤモンドってきれいな石ですよね?」
「そうだよ。もっとも固い鉱石と言われている」

妹に見せてやりたい、ムハンマドは自分も見たことのない石に思いを馳せた。

「話を戻そう。シンドバッドは落ちているダイアモンドを掻き集めると、肉に自分自身を縛りつけた」
「え?まさかシンドバッドは…」
「そう、巨大な鳥がその肉を、取りにくるのを待ったんだね。やがて鳥が飛んできた…」

館長の絶妙の間に、ムハンマドの鼓動は高鳴った。ごくりと息をのむ音がはっきりと聞こえてくる。

「でも、恐怖は一瞬だった。気づけば、シンドバッドは宙に浮いていたんだ。彼は崖にいた住人たちの手を借りて、鳥の手を逃れ、こうして脱出を果たしたんだ。もちろん、住人たちにお礼としてダイヤモンドを渡したよ。でも、自分の分もちゃっかりポケットにしまっていただろうね」

手に汗を握っていたムハンマドは大きく息を吐いた。それから、拍手をして感動を伝えた。

「シンドバッドは、すごいなあ!いつも絶体絶命の危機を乗り越えて、笑っているんだから!!」

その感想に、館長は満足げに微笑んだ。

「さあ、今日はここまでだよ。家に帰って妹に聞かせてやるといい。続きはまた来た時にしよう」

ムハンマドはまた大きな声で挨拶をすると、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』を元気よく後にした。

ムハンマドを見送った館長が作業部屋に戻ると、翻訳に没頭していた住人たちが急に筆を止め、顔を上げた。

「帰ったな」
「帰りましたね」
「行ったようだな」
「行っちゃいましたね」

そして住人たちは同時に、安堵のため息をもらした。

「だから、言ったじゃないですか!骨付き肉なんて、最近の若い子は知らないって!」

住人の中でも一番年の若い男が声をあげた。

「何を言うんだ!若いたって、お前は30代だろう?肉っていったら、骨付き肉!あれは、先祖代々わしらのロマンだったんじゃ!」

一番年長者である老人も負けじと声を張り上げ、反論した。

「何がロマンだ!イスラムは肉がほとんど禁止じゃないか。とっさに館長が僕らのよく食べる羊の肉にかえてくれたけど、超不自然でしたね!僕はムハンマドにあやしまれないか、ヒヤヒヤしっぱなしでしたよ…」

老人もそこは素直に反省をしているようで、小さい体をより小さくさせた。そこをとりなすのが館長の役目だった。

「まあまあ、スリリングなのは面白い物語の醍醐味だろう?」
「語り部がスリリングで、どうするんですかっ!?」

30代男の容赦ないつっこみに、館長も他の翻訳者たちも、愉快そうに笑った。

「いいじゃないか。ムハンマドのおかげで、こうして私たちも笑顔になれるんだから」

本当は物語なんて、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』には、まだ存在しない。彼らは膨大な数の文献、主に哲学や医学、天文学などと格闘していたのである。

しかし、思いつめた少年が訪れたあの日、その事情をきいた住人たちは、とっさに頷いてしまった。「面白い物語が、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』にある」と。

「私はよく覚えているよ。私がムハンマドの事情をここできいていると、みんな鼻をすすったり、目頭をおさえたり、無言の圧力をかけてきてくれたことを…」

恥ずかしそうに頭を下げる住人たちに、館長は面白がって笑顔で続けた。

「それに、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の住人たちに知らないものはないと言われたら、期待にこたえないわけにはいかない。そうだろう?」

館長の絶妙の間は、ここでも健在だった。

「さあ、心優しい少年のために物語の続きを一緒に考えてくれ。みんな一緒なら、より素敵な物語ができるだろう」

住人たちは観念したように笑った。
今夜も残業になるな。まあ、それも悪くないか、と思いながら…。

長く語り継がれる『アラビアンナイト(千一夜物語)』はここバクダッドで生まれたが、著者は不明である。

もしかしたら、それは『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』の住人たちが、一人の少年のために創り上げた物語だったのかもしれない。

少年は明日もきっと、住人たちに笑顔で迎えられるだろう。

「ようこそ、『知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)』へ」、と―。


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ NHKスペシャル『文明の道⑥バグダッド大いなる知恵の都』×the guitar plus me『highway through desert』★

私が書く物語は、半分フィクション感覚でお読みになって下さると嬉しいです^^「知恵の館」を書きたくて書けなくて今週悶々としていました。本当はもう一つ結末があったんですけど、それはまた今度書き直すか、新しい物語にできたらと思います。円城都市についても書きたかったしなあ。

けいさんリクエストの友情モノを目指したつもりですが、微妙にそれたような気もしなくもないです…大丈夫かな?

① NHKスペシャル『文明の道⑥バグダッド大いなる知恵の都』
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2003/1012/
【第63夜】往復書簡と今回ので、初めて世界史に挑戦しましたが、どうだったでしょうか?私は知らない歴史だったんですけど、世界史の授業ではふれるところだったのかな?ちょっとふざけすぎたかも。

② the guitar plus me『highway through desert』
http://www.youtube.com/watch?v=a93AVCDfqn0
前にUPした【第63夜】往復書簡 も彼らを聞いていたのですが、なんとなく今回もこれを聞いてました。優しい物語を書きたくなる音楽なのかな?

良ければ、こちらもよろしくお願いします。ラストが少し違います。
【第68夜】 知恵の館(バイト・アル=ヒクマ) もう一つの結末
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-74.html

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アルへ。

書簡、ありがとう。

まさかこんなにも君と気が合うなんて思わなかったよ。

国も人種も違う僕らだけど、共通の趣味があって嬉しいな。

ちなみに今、僕も天体観測にハマってる。

星はいいよね~!男のロマンだよね~!

僕の故郷、シチリアは星が結構よく見えるんだ。そちらはどうだい?

何気にロマンチストだったフリッツより。

  *

フリッツへ。

書簡をありがとう!

まさか君が僕らの言語、アラビア語で返事をしてくれるなんて思わなかったよ。

語学が堪能なんて中々やってくれるじゃん!と正直おじさんは驚いた。

最近の若者は~!と色々説教してやるつもりだったのに調子が狂っちまったぜ。

そんな君に敬意を表して、いいものをプレゼントしてやろうじゃないか。

さあ、受け取れ!このロマンチスト!

星なんてこっちは降るほどあるわ!がはは!

ただ、老眼が始まって遠くの星がよく見えてるだけかもしれないアルより。

  *

アルへ。

書簡、ありがとう!っていうか、プレゼントがまじヤバいんだけど!!

だって、これ天体観測儀じゃん!!

星好きっていったのが、まさかの展開!こんな嬉しい仕打ちが待ってたなんて…。

おっさん、すげー。やってくれるぜ!

息子の次に超大事にします!ありがとうございます!

ちなみに語学はね、そこそこできるよ。でも、個人的にアラビア語はしっかりやったつもり。

だって今のところ、一番学問の知識が豊富なのはイスラムじゃん。

医学も科学もそっちが抜きんでてる。すげーよ、星の知識も含めてさ。

いつかアルのいるイスラムにも行けるといいな。

でも、お互い立場が微妙だからね…。夢の話か。

でも、アルとこうして書簡のやりとりをしてると、

夢が実現しそうというか、叶いそうな気がするんだよね。

変だよね。星の見過ぎかな?

目の疲れにはブルーベリーが良いって聞いたフリッツより。

  *

フリッツへ。

書簡をありがとう!プレゼント、気に入ってくれて何より。

っていうか、息子の次にかよ!って思ったけどな。

まあ、子供は宝だ。当然だ。大事にしろ。

なんせ世界に誇る大図書館があるからな、こちとら。学問知識ハンパないね。

今日もきっとそこに世界の知識が届いてる。イスラムの自慢さ。

フリッツの息子が喜びそうな面白い物語だってある。

確か名前はそう「アラビアンナイト(千一夜物語)」っていったかな。

まだ読んでないから、内容は知らん。

お互い立場が微妙だからね…ってフリッツ、真正面から切り込むとかさ。

どんだけ向こう見ずなの??ってなったわ!まだまだ青いぞ。

でも、友よ。

俺はそんな君が嫌いじゃない。

だから、あのことをどうにかできないかと日々考えてる。

シチリアや君に興味津々なアルより。

  *

アルへ。

書簡、ありがとう!

イスラムや君にこちらが興味津々。

大図書館の話には、胸が躍ったね。息子にもその物語を聞かせたいものだよ。

アルは学問のよき導き手だな。いい王だと思う。僕なんて比べものにならないほど。

哀しい知らせをしなくちゃいけない。

もたもたしている僕に、ついにローマ法王がキレまして

十字軍を引き連れてそちらに出兵することになった。

キリストとイスラムの聖地の取り合いって、永遠に続くのかな。

血のたくさん流れている場所が本当に僕らの、君らの、聖地なのかな?

最近さっぱりわからない。

だから、出兵すると見せかけて仮病になって早々と帰国する予定。

やっぱり青いかもしれないフリッツより。

  *

フリッツへ。

書簡をありがとう!

君はとんだ役者だな。仮病ってチフスかよ。たまげたわ!

一応、不安だから俺の薬剤師アルバイタールに頼んで、薬を作ったので送ります。

噂じゃ、法王が出兵失敗に激怒し、君はキリスト教から破門されたと聞いたよ…。

本当に仮病だよな?大丈夫だよな?ちょっと心配。いや、かなり心配なアルより。

  *

アルへ。

書簡、ありがとう。僕は元気になりました。君の薬のおかげだね。

仮病とか言ってた矢先、本当にチフスになるんだもんな。びっくりしたぜ。

まあ、破門は予想外だけど、これで堂々と君と本題に入れるんじゃないかな?

僕が今の立場を守れるのも、時間の問題だ。

だから、言おう。

アル・カーミル、僕の友よ。イスラムの王よ。

エルサレムは僕らキリスト教、君らイスラム教の聖地がある。

武力で互いを支配するのではなく、互いの手をとろう。

よく理解している僕らなら、きっとそれができるはずだ。

ここに和平を申し出る。

きっとまわりから強い反発もあるだろう。

でも、君となら一緒に戦えると信じている。

友よ。

寛大なる者よ。

誠実なる者よ。

知恵に富める者よ。

一緒に悪役になってはくれないか?

僕の眺める星空が、君の空と繋がっていることを願う。

神聖ローマ帝国皇帝 フリードリッヒ2世

  *

フリッツへ。

奇跡の和平締結、お互いお疲れ様。

君の夢もようやく叶ったな。

本当に俺らの聖地『神殿の丘』に足を運んでくれるとは思わなかった。

しかも、礼拝の時を告げる祈りの声、アザーンを聞きたいと言うんだからね。

たまげたわ!でも、本当に嬉しかったよ。

反発は相変わらず、今日も俺たちを苦しめている。

でも、友よ。

ロマンチストよ。

俺はそんな君との悪役が嫌いじゃない。

今宵眺める星空も、君の空と繋がっていることを誇りに思うアルより。

  *


神聖ローマ帝国皇帝フリードリッヒ2世とアイユーブ朝(イスラム系の王朝)アル・カーミルは書簡の交流を続け、1229年2月11日にヤッファ条約を締結、聖地エルサレムに平和をもたらした。それはアル・カーミルが亡くなるまでの、およそ10年間続いた。

彼の死から12年後フリードリッヒもこの世を去る。棺の中で眠るフリードリッヒはイスラム風の衣装を身にまとい、シャツの袖にはアラビア文字の刺繍が施されていたという。それはアル・カーミルからの贈り物だった。

友よ。

寛大なる者よ。

誠実なる者よ。

知恵に富める者よ。

勝利者よ!

いつかフリードリッヒがアル・カーミルに送った書簡の言葉。それに対する彼の返事だったのかもしれない。


2013年現在、聖地エルサレムでは未だ平和的解決は進まず、殺伐とした混乱が続いている。




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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ NHKスペシャル『文明の道⑦エルサレム若き皇帝の決断』×the guitar plus me『New Year』★

私の書く歴史物語は、半分フィクション感覚で読んで下さると嬉しいです^^学生時代は日本史選択だったので、世界史に憧れてました。今回初めて世界史の物語に挑みましたが、何から手をつければいいかわからなかったので、会社の図書室にあったNHKスペシャル文明シリーズより。当時の再現VTRがリアルで面白い。この回の2人の条約内容は実は凄いことになってるんです。私の筆力ではそこの交渉は無理そうだから、交流重視でやらせてもらいました。

① NHKスペシャル『文明の道⑦エルサレム若き皇帝の決断』
http://www.nhk.or.jp/special/detail/2003/1116/
このシリーズのおかげで初めてアラビアンナイト(千一夜物語)がバクダッド生まれと知りました。いつかきちんと物語の舞台にしてみたいです。たぶん近々書くと思います。「知恵の館」と呼ばれた大図書館の話はぜひやりたい。

② the guitar plus me『New Year』
http://www.youtube.com/watch?v=1naArtxVVBc
聞いてた音楽です。全然時代とあってませんが…どこかしっくりきたのかな。

余談ですが、ある作品をみてからずっと男子ふたりの固い友情モノを書きたいと思っていて。なので今回書けて良かったです。まあ、私のはかなりふざけてますけど…。ちなみにある作品とはこれ。
青い文学シリーズ「走れメロス」
http://www.youtube.com/watch?v=KulqQ7Wui5E(前編)
http://www.youtube.com/watch?v=pFggSOgrH0c(後編)
『青い文学シリーズ』は俳優の堺雅人さんをナビゲーターと声優にむかえ、日本の文学作品を期待の新人アニメクリエーターたちが少しアレンジしてお届けするというもの。他作品は個人的に「?」だったのですが、この「走れメロス」は感動しまして。お話作った人、凄い!と思って。このアレンジはいい!おかげで、友情モノを書きたくなりました。

物語になりました。
【第67夜】 知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-73.html
【第68夜】 知恵の館(バイト・アル=ヒクマ) もう一つの結末
http://short2story.blog.fc2.com/blog-entry-74.html

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私には見ていられないものが三つある。

一つは宝の持ち腐れ。例えば、そう…目の前にいるお仙(せん)姉さんとかね。
お仙姉さんといえば、ここ江戸谷中(やなか※現在の東京都台東区あたり)の笠森稲荷門前(かさもりいなりもんぜん※笠森稲荷神社前)の水茶屋(みずちゃや※休憩所)鍵屋(かぎや)の娘で、それはもうたいそうな美人なのに、なぜか色恋沙汰には無縁ときている。しかも、水茶屋もそこまで繁盛していない。

おかしい!これは絶対におかしいわ!だって、美人がいれば、それ目当ての客とかでいっぱいになりそうなものよ。お店の売り上げだって、その分、跳ね上がるはずだわ。でも、ここ最近の水茶屋「鍵屋」の閑古鳥はなんだというの。お仙姉さんのおじいさんが作るお茶もお団子も普通においしいのに。これはおかしい!絶対おかしい!水茶屋「鍵屋」には疫病神でも住み着いているのかしら?

「おつうちゃん、何をまた一人でぶつぶつ言ってるの?」

お仙姉さんは今日も笑顔で私に声をかけてくれた。美人が笑うと、どうしてこうも幸せで得したような気分になるのだろう。だからこそ、思うのよ。

「宝の持ち腐れだわ…」

お仙姉さんは聞き取れなかった私の言葉に、「また一人の世界に入っちゃったのね」とくすくす笑った。違う!違うわ、姉さん!…まあ、ちょっとだけそうだけど、そうじゃないのよ!私はあなたを憂いているのよ。

「私はおつうちゃんがそうしてると、なぜか見ていられなくなるのよね。初めて会った時もそうだったからかしら?ほら、お団子でも食べて。こっちに帰ってきなさい」

姉さんは優しい。でも、もったいない。美人で気立ても良いのに、姉さんはなんか本来いるべき場所にいないという気がする。姉さん自身はそのへんのところ、いったいどう思ってるんだろう?せっかくだから、さりげなく本人の意見もきいてみないと。

「あら、お団子食べたら、すぐ戻ってきたのね。安心したわ。え?私?私は今のままの静かな茶屋でもいいんだけど…。そうねえ、たぶん最近ここに人が来なくなったのはあの人のせいじゃないかしらね」

そういって、向こうの方を指さした。私は顔をそちらに向けた。すると、鳥居の影から変な男がこちらを見ている。

「誰あれ??」

見るからにあやしい一人の男。

「さあ、誰なのかしらね。私も知らないの」

古汚い着物に乱れた長い髪。そのせいで顔の半分が隠れ、とても不気味だった。男は月代(さかやき)をして髷(まげ)結いをする今の江戸のご時世にあの姿はあやしい!あやしすぎるわ!

「ここ最近ずっとあそこからこちらを眺めているのよ」

疫病神はお前かー!!

「私が話をつけてくるわ!」
「おつうちゃん、やめて。いいの。ほっとけばいいのよ。何かあったら、言ってくるわよ」
「姉さん、のん気すぎるわ!何かがあってからじゃ遅いのよ!」
「え?…あら、やだ。考えてみれば、それもそうねえ」

姉さんはくすくすとまた笑った。「あら、やだ」じゃないわよ。もう!姉さんはこれだから!!私は自分の決心が鈍らないうちに、男に勇ましく、向かっていった。

「ちょっとあんた!そこで何してるの!?」

仁王立ちの私の剣幕に男は驚き、後ずさった。

「…別に」
「別にじゃないわよ。営業妨害よ。あんたのおかげで最近そこの水茶屋に全然客が入らないじゃない!」
「俺はただ…」
「ただ、何よ?」
「ただ…絵を描いていただけで」
「絵?」

よく見ると、男は絵筆と紙を大事そうに抱えていた。

「ちょっと見せなさいよ!」

本当に絵なんて描いていたのか気になって、私は男から紙を奪い取った。

「…うわ!何するんだよ!返せよ!」

男はとりかえそうと向かってくる。でも、私はそれを無視。というか本当は、ただ絵を見て驚いていただけなんだけど…。

「…あんた絵師なの?」
「…まあ、そんなとこ」

それは見事な墨絵だった。お仙姉さんの笑顔が品よく、穏やかに描かれていた。姉さんの美しさはこんなふうに、本当はもっと気高いんだって思わせてくれるような…。

「あんた…」
「なんだよ?」
「お仙姉さんに惚れてるの?」

長い髪のせいでよくはわからなかったけど、男は半分見える頬を真っ赤にして、固まっている。どうやら図星らしい。意外とうぶなのね。…ん?ちょっと待って…。……この絵は、使えるんじゃないの…?この時、私は閃いてしまった。

「…いける!…いけるかもしれないわ!」
「は?」
「ねえ、私がその恋、協力してあげてもいいわよ?」
「え?」
「あんた、お仙姉さんをもっと描きたいんでしょう?仲良くなりたいんでしょう?」

男は私を不思議そうに眺めていた。考えあぐねていたのだろう。それから、ついに観念したようだった。

「…そうだけど」

よし、きた!

「あんた、錦絵(にしきえ※浮世絵)はできるの?」
「は?」
「最近、江戸に出回っている錦絵!…確か版画だったはず。それはできるの?」
「…できるけど…」
「じゃあ、お仙姉さんの錦絵を作ってちょうだい!もう江戸中の誰もが手にとるくらいすごいのを。引き受けてくれたら、私の古い知り合いってことでお仙姉さんにあんたを紹介するわ」
「…本当か??」
「ええ。でも、その機会を生かすのはあんた次第よ!頑張ってね!」

私はにっこりした。私の提案に男は何度も頷いた。よし、交渉成立ね。

「そう言えば、まだ名前を聞いていなかったわ。私は、つう。あんたは?」
「穂積(ほづみ)だ」
「よろしくね、穂積」

その時、穂積のお腹が大きな音をたてた。穂積はさらに顔を赤くする。私はつい笑ってしまった。

「あんた、何も食べてないの?しょうがないわね。私、ひもじい思いをしている人も見てられないものの一つなの。私のお団子、わけてあげるわ」

そう言って、私は水茶屋「鍵屋」に穂積を招き、彼にお仙姉さんを紹介したのだった。

錦絵は最近ここ江戸で少しずつ流行り出した版画だった。まず絵師が下絵を描き、下絵のとおりに彫り師が版木を彫る。その後、摺り師が絵の具をつけて紙に摺る。この三工程。

だから、一概に絵師の力量だけが問われるわけじゃない。彫り師や摺り師の職人技術が大きくものをいう。錦絵ができるのか穂積に聞いたとき、頷いたのは少し驚きだった。彫り師や摺り師との伝手や繋がりがあるということだから。

「いつもお仙さんの絵をこっそり描いて、知り合いの彫り師や摺り師の奴らに見せてたんだ。みんな凄く喜ぶんだよね。お仙さん、俺たちのあいだで超アイドルだから!」

どうも穂積とよく似た仲間らしい。…っていうか、超アイドルって何??新語かしら?

「本格的に描くことになったって聞いたら、みんな驚くだろうな」

とにかく錦絵作りに関しては、穂積に任せれば大丈夫そうだ。私は下絵作りが順調にできるようお仙姉さんと穂積の仲をとり持って、絵が出来上がった後のことを考えればいい。版画だったら、同じ絵が何枚も速く摺れる、つまり大量生産可能!それを江戸中に配りまくって、「この美人はどこにいる!?」と世間の注目をかっさらい、水茶屋に客が殺到する…!

「これぞ水茶屋鍵屋、復活のシナリオよ!」
「…人のこと言えないけど、シナリオって何だよ??新語?…まあ、いいけど」

穂積がぼそっと隣りで呟いた。私はそれをきいて、はっと我に返った。

「何、言ってるの?ほら、穂積、ちゃんと描いて。お仙姉さんの働いてる姿を!もっと激しく美しく!」
「…へいへい、わかってますよ。しっかり描いてますよ。っていうか、激しく美しくって意味わからん」

そんな私たちをお仙姉さんは笑いながら、時たま優しく声をかけてくれる。

「もう、おつうちゃんはまた穂積さんをせかして。穂積さん。ずっと集中して描いていたら、疲れるでしょう?お茶、飲まれます?」
「…え、いや。…だ、大丈夫…です…」

穂積はお仙姉さんに声をかけられると、真っ赤になって俯いた。そうとう惚れてるのね。惚れると、みんなこうなるものなのかしら?

「私も誰かに絵を描いてもらうなんて初めてだから、緊張しちゃうわ。ちゃんと、できてるかしら?」
「…な、何を言ってるんですかっ!もうバッチリですよっっ!!」

穂積がすかさずそうこたえると、お仙姉さんはほっとしたようだった。

「なら、良かったわ。穂積さん、無理せず、休憩しながらやって下さいね」

そう言うと、お仙姉さんは稲荷神社の参拝帰りの客の注文を取りに行った。

「お仙さんは、人柄もいいんだなあ」

穂積の言葉に、私も深く頷いた。

「そうなのよ。私ね、お仙姉さんのおかげで、ここにおいてもらってるんだ」
「へえ。そうなんだ…」
「あ、政之助さんだ!」

私はのれんをくぐる見慣れた顔に嬉しくなって立ち上がった。水茶屋をご贔屓にしてくれる常連客。ここ一帯の土地主である旗本(はたもと※武士)倉地家のご嫡男、倉地政之助(くらちまさのすけ)様だ。

「やあ、おつうちゃん。今日の鍵屋はちょっと混んでるね」
「はい!疫病神を追っ払ったというか、うまく丸め込みましたから!」

「は?お前、何言っちゃってるの?…っていうか、俺、丸め込まれてたの…?」と言う穂積を無視して、私は政之助さんのもとへ駆け寄った。

「疫病神を?ははは!おつうちゃんのやることは相変わらず豪快で面白いなあ」

政之助さんはとても人がいい好青年だ。私たち町人にも分け隔てなく、接してくれる。士農工商という身分が確立したこのご時世に貴重な方かもしれない。

「政之助さん、こちらがその疫病神だった絵師の穂積さんよ。政之助さんはいつものお茶とお団子ですよね?」

私は政之助さんの分のお茶とお団子を取りにいった。

「…初めまして。もと疫病神だったらしい穂積です」
「初めまして、倉地政之助です。君も人がいいなあ、穂積さん。おつうちゃんの話に合わせてくれて。彼女はあれでも人見知りで、出会ったころは誰とも口を聞かなかったんだよ」
「へえ、全然そんなふうには見えませんけどね。いつも威勢がいいというか…」
「今はね。男が惚れ惚れするくらい、たくましくなっちゃったけど。ちょっと前に家が火事にあってね。大変だったんだ。一人逃げのびて、ここの前で倒れていたところを私とお仙さんが見つけてね」
「…そうだったんですか」
「ずっと、ぶつぶつひとり言ばかりでね。町医者に預けた方がいいんじゃないかってみんな心配してたんだけど、お仙さんが大丈夫よ。一人の時間が必要なだけよって笑って止めてね。そしたら、しばらくしてようやく人と話ができるようになったんだ」

私がお茶とお団子の準備をしていると、政之助さんが笑顔でこっちに手を振っていた。私も手を振りかえす。

「…知りませんでした。そんなことがあったなんて」
「女のほうがずっと男らしいかもしれないなあ。いざって時に男は怯んでだめだね。お仙さんを見てて、私はそう思ったんだ」
「……それって…」
「政之助さん、お待たせしました!」

私はお茶とお団子を政之助さんに渡すと、隣に座らせてもらった。

「ねえ、政之助さんはもう見た?穂積の描いた絵」
「あ、まだ見てないね。私も見せてもらおうかな?いいかな、穂積さん?」

穂積がなぜか少しむすっとしていた。でも、催促されて、しぶしぶ紙を渡す。

「これは美しい。働いているお仙さんだね?」
「そうよ!これを錦絵にして江戸中に配るの!ここの水茶屋が繁盛するように!政之助さん、いい案でしょう?」

政之助さんは少し顔を曇らせた。

「う~ん、ちょっと嫌な予感がするなあ」
「え?」
「いや、なんでもない。何事もやってみないことにはね。杞憂かもしれないし。お仙さんがいいのなら、私がとやかく言うのも…」
「どうもお仙さんはおつうの言うことだったら、なんでも叶えてやりたいって感じなんですよね。おつうの案は悪くないと思うけど、そんなにうまく行くもんかねえ…」

集中して肩が凝っていたのか、穂積が伸びをしながら口をはさんだ。みんなして何よ。そんなこと、ないわよ!姉さんだって、今の状況を憂いでいたのよ。私は勢いよく、啖呵を切った。

「もうみんな心配性なんだから。私はいい予感しかしないわ!大丈夫よ!きっとうまく行く。私に任せて」

ところが、事態は思わぬ展開を見せることになる。なんと、三人みんなの予感が的中してしまったのだ。

穂積が作った錦絵は大評判となり、江戸中に急速に広まって、『笠森お仙』は一躍、時の人となった。有名な看板娘に一目会おうと、あちこちから江戸谷中の笠森稲荷神社に人が殺到し、その前にある水茶屋鍵屋は大繁盛となった。

「すげー。本当に繁盛してる」

長蛇の列になっている鍵屋を目の当たりにして、驚きを隠せないでいる穂積。私は鼻高々だった。ついでに、手に腰をあてて言ってやった。

「ほら、ごらんなさい!私の言った通りでしょう?ふふん!」
「…まあ、実際は俺と仲間の渾身の力作のおかげなんだけどな」

そのとおりだけど、啖呵を切った分くらいは、ほめてもらいたかったのに…。でも、完成した錦絵を見て驚いたことがある。

「錦絵ってあんなに派手な版画だったのね!三色くらいしか色がないと思ってたから、もっと地味なのかと思ってた」
「そこが俺たちの渾身の力作だぜ。おつうの言うとおり、今までは三色しかない紅摺絵(べにずりえ)ってやつが主流だったんだけど、俺たちのお仙さんは三色なんかじゃおさまらねえ!と俺の仲間たちが本気を出してくれてな。で、この通り、もっと何色も足して激しくも美しい出来栄えになったというわけ」
「なるほどね。あ、それと気になったんだけど、ここに書いてある『春信』って何?」
「ああ、これね。これは俺の名前」
「名前って、穂積じゃないの?」
「穂積は本姓。名前は春信。ちなみに絵師名だと鈴木春信ね」

鈴木春信…?どこかできいたことがあるような、ないような…。

「まあ、これで俺の役目も果たしたかな」

満足げに立ち去ろうとする穂積に「ちょっと待った!」と私は声をかける。

「何、言ってるの?まだ始まったばかりよ。ここからが稼ぎ時なの!あの長蛇の列、暇そうにしてるじゃない?あれを狙わなきゃ」
「え?」
「お仙姉さんのグッズを売るにはうってつけね!手ぬぐいや絵草紙、双六でしょう。姉さんの絵が入った物をとにかく売ってしまうの。来た人の記念になるような、また来たいなあって思えるような物をね!」
「嘘だろ…?」
「稀代の絵師、鈴木春信様にはまだまだお仕事が待ってます!頑張って頂かないと!」

私は片目をつむってみせた。「もしかして、俺、本当に丸め込まれてた…?っていうか、グッズって何?また新語??」と青くなる穂積を無視して、私は次の新作を何にするか思案していたのだった。


新作も大当たりで向かうところ敵なしかと思っていた。

でも、いつの時代もそうなのかもしれないけど、一つ流行れば、二番煎じというものが必ず出てくる。この看板娘もそうで、浅草寺奥山の楊枝屋「柳屋」の看板娘柳屋お藤(やなぎや おふじ)、また二十軒茶屋の水茶屋「蔦屋」の看板娘蔦屋およし(つたや およし)など、多くの娘たちが登場し始めていた。そして、これがちょっとした騒動に発展してしまうことになる。

「江戸看板娘決定戦…?何だ、それは?」

胡散臭そうな顔をしてたずねる穂積に私は説明した。

「だから、江戸で一番人気の看板娘を決めるんですって。最近ごろごろ似たような看板娘が出てきたから、これはもう一番を決めるしかないだろうって」
「どっかの時代の総選挙かよ?ばからしい!」
「そう?町人のちょっとした娯楽じゃない?私は別にいいと思うけど。物が売れれば…」
「お前もちょっと調子のりすぎじゃないか?金の亡者になりつつあるぞ?」
「失礼ね!稼がないと、お給金が払えないでしょう?私は穂積やその仲間たちに、ちゃんと払いたいだけよ!」
「…お前、そんなことを考えてたのか…」
「何よ!」
「はいはい!ふたりとも、そこまでにして。今日は水茶屋がお休みだから、静かに休ませてね」

顔色の悪いお仙姉さんが、私たちの止めに入る。

「姉さん、具合が悪いの?」
「大丈夫よ。一日休めば、すぐ元気になるわ。お店も繁盛、おつうちゃんも笑顔、私は幸せよ」

姉さんは儚げに笑った。働きすぎだ。聞かないでも、本当はわかってるのに…。

少し前、人手が足りない水茶屋の手伝いをしようとしたら、私の顔を見た客は騙されたと変に騒ぎ始め、ゴタゴタしたことがあった。それ以来、私は水茶屋の外でお仙姉さんの関連物品の販売に専念している。だから、水茶屋の接客は全部姉さんが引き受けていた。毎日、あの長蛇の列だ。疲れるに決まっている。

「おつうの言い分はわかった。俺や仲間のことは気にしなくていい。好きでやってるんだ。でも、お前はこのままだと大事なものを失うかもしれないぞ。それは肝に銘じとけ」

わかってる。本当は潮時なのかもしれない。だから、穂積の言葉が鋭く突き刺さった。

「もう穂積さんったら、大げさに言いすぎよ。私は大丈夫。おつうちゃん、そんな顔をしないで。私はおつうちゃんには笑っててもらいたいのよ」

私も姉さんには笑っててもらいたいのに…。

「大丈夫。私はわかってるわ」

言葉にできない思いをなぜか姉さんはいつも汲み取ってくれる。出会ったころから、そうだった。私が頷くと、姉さんが安心したように、奥の自分の部屋に戻っていく。その時だった。

「お仙、覚悟!!」

茶屋の扉が勢いよく開いて、誰かが駆け込んでくる。頭巾をかぶった小柄な人物が、合口(あいくち※短刀)を持ってお仙姉さんを狙っていた。背中を向けている姉さんは、反応が遅れてしまった。

「姉さん、危ない!」

私は姉さんを守ろうと前に飛び出した。刃の掠れる音がして、私はおそるおそる閉じていた目を開いた。

「間に合ってよかった!」

私の前には大きな背中があった。政之助さんだった。自分の刀で応戦している。それから、いとも簡単に合口を飛ばし、相手の喉元に剣先を向けた。格が違いすぎた。相手はへなへなと腰をおとした。

「こんなことになるんじゃないかと思ってだんだ。さて、誰の差し金だ?」

すると、頭巾をとった相手はきっとこちらを睨んだ。

「誰の差し金でもないわ!私はここに自分の意志で来たのよ!」

頭巾の下はきれいな娘だった。年はお仙姉さんと同じくらいだろうか。お仙姉さんにおとりはするけど、この子もまた美人の部類だった。

「お仙!あんたが邪魔だったのよ!あんたがいると江戸看板娘決定戦で優勝できない!」

…そんなことで、姉さんの命を狙ったの…?

「優勝しないと、私、私…好きな人と結婚ができない…!」

そう言って泣き崩れた。呆然とする私たちの中で、一人冷静だった政之助さんが間に入る。

「この娘さんにも何か事情があったみたいだね。お仙さん、どうします?奉行所に引き渡します?」

お仙姉さんは、首を振った。

「…あら、何かあったの?私、熱で朦朧としていたから何も覚えてないわ」

…姉さん。

「どこのどなたか知らないけど、安心して。私は江戸看板娘決定戦には出ないわ。私、嫁ぐことにしたのよ」
「え?」
「相手はこの方、倉地政之助さん。政之助さん、求婚の返事が今になってしまって申し訳ないですけど、私をもらってくれますか?」
「え?いや、はい!もちろんですよ!」
「ふつつかものですが、これからよろしくお願いします」

思いがけない展開に、私たちは言葉が出なかった。政之助さんだけは、とても嬉しそうに笑っている。そう政之助さんは、ずっと前からお仙姉さんを思い続けていたのだ。私はそれを知っていたし、もしかしたら、お仙姉さんもそうなんじゃないかと思っていた。

「決定戦に出られなくてごめんね、おつうちゃん」

最後まで私に優しいお仙姉さんに、私は怒るなんてとてもできなかった。だからこそ、潮時だった。

「ほら、あなたも泣いていないで立ち上がって。良かったら、お茶でも飲んでってよ。ここのお茶とお団子は中々なのよ」


  *


具合の悪いお仙姉さんを政之助さんにお願いして、私と穂積は泣き止んだ美人を途中まで見送りにいくことにした。その帰り道、穂積がしゅんとしてる私の背中を軽くたたいた。

「何、しょぼくれてんのさ。当初の望みは叶ったわけだろう?」
「え?」
「人をだしにしておいて、本当はお仙さんと政之助さんをくっつけたかったんだろう?違うのか?」

私は、息を吐いた。ばれてたんじゃしょうがない。

「でも、別にだしにしたわけじゃないわ。最初に言ったでしょう?『あなた次第』って。政之助さんの気持ちは知ってたけど、お仙姉さんまではちょっとわからなかったの。だから、男が一人絡めば、何かしら動くかな?とは思ったけど」
「なるほどね」
「旗本と町人の結婚も難しいじゃない?身分があるから。ある程度、評判の高い娘ってなれば、倉地のお家も認めてくれるかなって」
「で、お前はうまいこと、やったわけだな」
「結果的にね。でも、姉さんが命を狙われるとまでは思わなかった。…誤算というか、痛恨の極みよね…」
「なんか言ってることが、武士っぽいなあ」

笑う穂積に、私は続けた。

「私ね、自分の中で見ていられないものが三つあるの。一つがひもじい思いをしてる人、一つが宝の持ち腐れ。だから、あんたの絵を見たとき、この人もそうだと思ったわ。せっかくの絵の才を生かしきれてないんだって。で、閃いたの。お仙姉さんの美貌と水茶屋の繁盛とあなたの絵の評判で、一石三鳥できないかしら?って。ごめんね。私、強欲なのよ」

穂積はふっと笑った。確かに強欲すぎる。でも、自分はそっちのけで、すべて他人のことばかりだった。

「で、最後の一つはね。大切な人が、幸せをつかみそこなっていること」

そう言って涙ぐむ私に、穂積は言ってくれた。

「強がってないで、認めればいいんだ。自分だって政之助さんに惚れてたんだろう?」
「ううう…、そんなの気づかなかったわよ」
「…まさか、ふたりがうまくいった後で気づいたクチ??うわ、面倒くせー!」
「しょうがないじゃない…ううう…」

穂積はため息をつきながらも、私に優しく言ってくれた。

「俺さ、ずっと美しさって外から見えるものとばかり思ってたんだけど、おつうを見ていたら、考えが少し変わった」
「え?」
「今のお前は美しいと思う。とびっきりの美人だってね。絵師が言うんだから、間違いない!」

一七七〇年(明和七年)、一人の娘が江戸で起こした珍騒動がこうして幕を閉じた。おつうという彼女の名は後世にはもちろん残されていない。

「…ううう…、そんなうまいこと言ったって、あんたなんかに惚れないわよー!」
「誰も頼んでねーわ、そんなことっ!!」

しかし、錦絵改め浮世絵の創始者・鈴木春信が『笠森お仙』という美女を描き、一世を風靡したのは紛れもない歴史的事実である。



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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★ タイムスクープハンターseason5 第8回「誕生!水茶屋アイドル」 ★

書いててあれですが、浮世絵など今回初めて調べました。本当は文献をあさってきちんとやりたかったんですけど、働いてる私にはちょっと難しかった。参考にした番組とネット知識なので、全て正しい情報と言えません。おつうは私が作ったキャラですが、鈴木春信と笠森お仙、その相手の倉地政之助(名前が違うかも)は本当にいたようです。春信さんはもしかしたら、お仙を描いたころは、ご高齢だったかもしれないのですが、私の中では若者になってます。タイムスクープハンターで笠森お仙を知って、その裏で何があったのかを考えていたら、一人の女の子が騒ぎ出して、みんなの人生をまとめて変えていく物語が生まれました。

タイムスクープハンター
http://www.nhk.or.jp/timescoop/
最近ハマっている歴史番組。時空ジャーナリストの沢嶋雄一(要潤さん)がその時代をドキュメンタリータッチでお届けするというもの。面白いのが有名な歴史人物ではなく、名もなき人々にスポットを当てているところ。毎回ちゃんとそのドラマに見せ場があって、ちょっとグッとくるんです。これを見てると、色んな歴史モノを書きたくなります。闘茶、忍者なども書きたい。みんなが知らないような歴史の裏側を書いてみたいなあって。古代史なら秦氏とか。学生時代は日本史選択だったから、世界史もやってみたいなあ。歴女ではないので、一から調べなきゃですが。ちょっと難しそうなものを興味が持てるように、簡単に面白く書かけるのが理想かな。書きたいものと書けるものは違うかもしれませんが…。


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曹騰(そうとう)は最近頻繁に自分の元へ訪れる孫を面白そうに眺めていた。

少し前までこの孫は、祖父が生殖能力を喪失した男性である宦官(かんがん)ということから、まわりに侮蔑の目で見られ、曹騰やその養子になった父に深い憤りをあらわにしていたものだ。しかし、今ではそれが落ち着き、明るい顔をするようになった。

「俺は征西(せいせい)将軍になって、西にいる異民族を倒し、名をはせるんだ」

なるほど夢を見つけたのか、と曹騰は思った。

曹騰は宦官であるが、高官である。思慮深く、学問にも優れ、何より人の才を見抜く目にたけていた。彼の推薦により、様々な人物が高官や将軍になっている。今日も彼の元には多くの者が集まっていた。征西将軍なども、もちろん顔を出している。

彼らに会いたくて、孫は祖父の元へ訪れたのだろう。征西将軍とは西にいる異民族を征伐にいく隊の将である。この時代の中国においては花形職であり、憧れるものが数多くいた。

「俺、思ったんだ。出自がどうであれ、最終的には能力のあるやつが生き延びるに決まっている」

世を悟ったような孫の物言いに、曹騰は笑った。しかし、その目は節穴ではない。今、王朝は静かに腐敗し始めている。それは官たちの間で賄賂が横行していることが大きい。曹騰の目には王朝が傾くのも時間の問題に見えた。

「俺は自分の能力でそれを証明してみせるんだ」

孫の目には迷いがない。吹っ切れたなと曹騰は思った。この少年はまっすぐ自分の運命を見据え、それをばねとし、これからおおいに羽ばたいていくだろう。

「そんなことより、じいさん。喉が渇いた。茶が飲みたい」

しかし、我がままで生意気な性格はまだ直っていないと見える。

「自分でやれ!」

曹騰は孫の頭を叩いた。この時、曹騰はふと孫はもしかしたら王の器かもしれないと思った。しかし、すぐにその考えを振り払う。自分の目もついに曇ったか…。

「クソじじい!早く、くたばれ!!」

孫は暴言を吐きながらも、おとなしく茶を淹れに行った。

「やれやれ」

そんな孫を曹騰は面白そうに眺めていた。

……しかし、曹騰の目はまだ曇ってもいなければ、節穴でもなかった。

この孫は後に、三国時代の王朝『 魏(ぎ) 』の基礎を作ることになる。

少年の名は曹操(そうそう)。字(あざな)は孟徳(もうとく)。

古代中国史に多大な影響を及ぼし、名をはせることになる。

彼らはもちろんそれをまだ知らない。


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=影響を受けた作品のご紹介=
ここでは上の拙い物語がたぶん影響を受けたんじゃないかと思われる作品をご紹介します。 お時間や興味のある方はどうぞ~。

★NHK『BS歴史館~「三国志」時代を超えた男の魅力 』★

他の物語を書いていた時、なんとなくBGMがわりに流していた歴史番組。「三国志の曹操の幼少期は?」みたいな話があって。2分くらいの解説者の解説だったんですが、妙に心に残り、そこだけ巻き戻して何度も見ました。曹操って悪人のように描かれているけど、子供時代は案外知られていませんよね。ふつうの少年像を書きたかったのかな。半分フィクション感覚で楽しんで下さると嬉しいです。

NHK『BS歴史館』
いつの間にか番組、終了していたんですね。
https://www.nhk-ondemand.jp/program/P201100075800000/
NHK『BS歴史館「三国志」時代を超えた男の魅力 』
解説は40分頃かな。興味のある方がいたら。
http://www.pideo.net/video/youku/6035cfce1bdcae9b/
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